双星の雫   作:千両花火

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Act.119 「次なるステージへ」

『警告。近接格闘モード持続限界時間、残り四十五秒デス』

「ちぃッ……! 残り時間十秒を残して解除だ! それまで出来る限り落とすぞ!」

『了解。サブアーム展開、ガトリング砲、及ビマイクロミサイル、スタンドバイ』

「けちるな! すべて使え!」

『フルバースト』

 

 決して多くはない、白兎馬に搭載されていた遠距離用の火器全てを発射する。これまでの戦闘で一夏だけで実に三十九機もの無人機を撃破しているが、それでもまだ敵戦力は底を見せていない。当初の予測ではこの艦隊戦力は予備戦力かと思われたが、どうやら逆だ。こちらが、主力だ。

 IS学園を占拠してセプテントリオンを釣り出すまでは予想通りだが、狙いは挟撃ではなく包囲殲滅だったのだろう。結果として鈴やラウラがいるIS学園では周辺被害を抑えるという制約を課せられ、一夏やシャルロットたちのいる海上では圧倒的な物量を相手に防衛ラインの死守という、どちらも高難易度の戦場と化している。そして二面作戦ゆえに援護は望めない。ナターシャというイレギュラーの援軍があったが、あくまで単機だ。戦力差を覆すほどではない。

 今はどちらも拮抗しているが、現状で援軍の見込めないセプテントリオンのほうが明らかに不利だ。大きく戦況を変えるにはやはりなにかしらのアクション、贅沢を言うなら強力な援軍が欲しい。

 アイズとセシリア、そして束という部隊最強のカードが残っているが、この三人が間に合うかどうかは不明。救出した楯無をはじめとしたIS学園側の戦力は期待できるが、こちらもまず学園に残されている生徒や職員たちの安全確保が最優先のために前線へ来ることは難しいかもしれない。となれば、やはり現戦力でなんとかするしかない。消耗戦を強いられているこの状況では長期戦になるほど不利になる。

 

「くそっ、せめてやつらの艦をひとつでも潰せば……!」

 

 一夏の最大の奥の手、白兎馬そのものを剣とするファイナリティモードの使用エネルギーを残して白兎馬が限界へと至る。近接格闘モードから高機動モードへと強制変形。出力が低下しつつも、無理をしない程度の速度での攪乱へと移行する。絶対的な攻撃力と防御力を失うがそれでもなお無人機を歯牙にもかけない速度を維持する。

 

「白兎馬、周辺索敵」

『敵だらけデス』

「優先順位を決めてマークしろ! 囮の役目は変わらないんだ、派手に暴れて敵機を引くぞ!」

 

 しかし、それも焼け石に水だろうということもわかっていた。今の一夏にはある程度の戦略眼も備わっている。自己鍛錬を深く、そして広く行ってきた成果だが、それゆえにこの行動もただの対処療法程度でしかないとわかってしまう。

 

「白兎馬、現状を打破できる方法を献策できるか!?」

『現状ノ戦力では友軍にも多大な被害が出る恐れがありマス。増援の要請を提案』

「そんな余裕がないのはわかってるだろ!」

『ならバ、一夏の根性次第デス』

 

 小さく舌打ちしつつ、一夏は自身の限界ギリギリの速度を維持して戦場を攪乱する。近接格闘モードが使えなくても高機動モードを維持できることが白兎馬の優れた性能のひとつだろう。だからこそ、ジリ貧とはいえ未だなんとか戦えているのだから。白兎馬のサポートがない、近接特化タイプの白式のままであったなら今頃集中砲火を浴びて海の底だっただろう。もともと短期決戦型の白式がここまでの継戦能力は存在しなかった。しかし、欲張りだとしても今必要なのは数の不利を覆すほどの圧倒的な力だった。それに成りうる白兎馬の行使ももう限界が見えている。

 

『警告』

「今度はなんだ!?」

『上空に反応。……データ照合より、敵軍と認定』

「なに!?」

 

 その警告とほぼ同時に上空からレーザーが雨のように降ってくる。一夏は慌てて回避運動に移行するが、一夏の周囲にいた無人機が少なくない被弾をしている。出力はそれほどでもないが、それでもレーザーを受ければ損傷は軽微とはいかない。ジェットコースターのようなアクロバットな旋回軌道でレーザーの放射エリアから逃れるとあらためて攻撃してきた機体を視界に捉えた。

 月光をバックにしているために細部までは肉眼で確認できないが、それは一夏の記憶にある形状をしていた。

 手に携えるのは長大なスナイパーライフル。そしてその周囲にはビットが浮遊している。

 

「あれは……ブルーティアーズ? いや、……違う、あいつは!」

 

 一瞬、セシリアが来たのかとも思ったが、そうではない。もしそうなら無人機もろとも一夏にも当たるような射撃なんて無粋極まる真似はしない。あれはブルーティアーズのデータを基に造られた二号機、サイレントゼフィルスだ。どちらも独自の改良、進化をしているためにもはや別物といっていい機体だが、それでも装備やフォルムなどセシリアのブルーティアーズtype-Ⅲとの類似点が多く見られる。

 セプテントリオンでは同型のベースから造られたアイズのレッドティアーズが近いだろうが、今一夏が見ている機体は明らかに違う。そんな機体はひとつしか知らない。

 

 一夏にとって、おそらくは因縁の深い相手である女の操るIS――サイレントゼフィルス。そして案の定、その機体を纏っている操縦者が一夏を睨みつけるような視線を送ってきた。

 互いに険のある視線が交差する。一夏にとっては何度見ても違和感と親近感を同時に覚えてしまう顔立ち。姉の千冬をわずかに幼くしたかのような顔立ちをした少女。

 

「マドカ……!」

「呼び捨てを許した覚えはないぞ」

 

 互いが敵意の込められた視線をさらに強くする。一夏は完全にマドカを敵視していたし、マドカもはっきりとその銃口を向けている。

 これまでならとっくに銃弾と刃を交えているはずの二人だが、しかし奇妙な沈黙に支配されている。一夏は少しの困惑が見られるし、マドカも舌打ちしてなにかを我慢しているかのような態度だ。

 一夏の困惑は簡単だ。なぜなら、マドカは敵対しているはずなのに、無人機たちにも敵対行動を取っているのだ。つまり、マドカの所属する亡国機業とこの襲撃は無関係なのか、と考えていた。亡国機業内でも内紛のような争いがある可能性というのもチラッと聞いたからこその推論だが、あながち間違いでもないようだ。

 

「おまえはあとだ」

「なんだと?」

「射線に入ってもためらいなく撃つ。せいぜい背中に気をつけることだ」

 

 そう言うとマドカはまるで一夏を無視するようにその照準を無人機へと向けた。そのままビットと併用してのレーザーによる弾幕を形成しつつ範囲射撃。周囲に展開している六機のビットがレーザーで牽制し、そしてライフルによる狙撃で確実に命中させている。同じ戦闘スタイルのセシリアと比べればさすがに見劣りはするが、それでも十分に上級者といえる腕前だ。それに機体のほうも過去の戦闘よりも幾分か発展しているように見える。

 だが、そんなことよりも一夏にとって重要なのは、なぜ敵対関係のマドカが無人機へと攻撃を仕掛けているのか、ということだった。マドカ本人にそんなつもりはなくても、結果としてこれは一夏たちへと援護と同義となる。無人機は亡国機業が作ったもの。それは確実だ。ならなぜその無人機を幹部であるマドカが破壊しているのか、一夏にはその答えはわからない。そして思案している一夏めがけてレーザーが飛んできた。吃驚する間もなくその極光がわずかに装甲をかすめて背後にいた無人機を貫いた。

 

「気にしないと言っただろう? いつまで呆けているつもりだ、目障りだ」

「っ……、ああ、そうかい!」

 

 積極的に敵対はしないようだが、射線に入っても気にしないというのは本当なのだろう。今もたまたま射線がずれていただけで、もし直撃コースにいたとしても躊躇いなく撃ち抜こうとしたはずだ。無人機と敵対しているということは優先して戦う必要はないが、それでも味方ではない。一夏はマドカを視界から外さないように留意しつつ、再び高速機動による攪乱に移った。

 

「ふん……」

 

 対するマドカも一夏に意味ありげな視線を向けるが、それ以上はなにも言わずにただ機械的に無人機を狙い打つ。はじめは対応が遅れていた無人機もマドカを敵性認定をしたのか、反撃へと転じている。ブルーティアーズと類似したコンセプトらしく対多数戦もそれなりにできるようであるが、それでも的の数は未だに圧倒的だ。なにしろ、ここは最も被弾率の高い最前線だ。ただ無謀に攻めるだけではダメだということは一夏も、そしてマドカも理解しているのだろう。

 

「おい」

「なんだ」

「お前は俺が目的なんだろう?」

「それが?」

「望み通りにしてやる。決着をつけよう」

「ほう……?」

 

 たしかにそれはマドカの望むところだった。一夏は知らないであろうが、マドカにとって織斑一夏とは自身の手で優劣をつけなければならない相手だ。たとえマリアベルの命令でも、これだけは譲れない。その理由を一夏に教えるつもりもないが、それでも一夏が決闘にのってくれるというのなら思う存分に戦える。

 しかし、いくらなんでも一夏からそう提案してくるとは予想外だった。

 

「だから、ここは手を組め」

「なに?」

「ここは邪魔が多すぎる。おまえも積極的に俺たちを狙うわけじゃねぇんだろ? 俺たちもお前も、今一番邪魔なのはこいつらってことだろ」

 

 無人機をすれ違いざまに切り裂きながら一夏が強い口調で言う。アレッタがなにか言いたげな視線を向けていることもわかったが、一夏が構わずに続けた。

 

「だから手伝え。いや、俺が手伝ってやる。こいつらをみんなまとめて破壊して――――お前がこだわる、決着をつけてやるよ」

「――――――よくぞ言った。いいだろう、援護してやる。貴様の温い腕前をせいぜい発揮するがいい」

「へっ、信頼はしねぇが今だけは信用してやる」

「だが忘れるな。この木偶の次は、―――貴様の番だ」

 

 その言葉を最後にマドカは口を閉じ、一夏のやや後方で高度を取りつつ追随する。前衛を務める一夏への援護射撃に最適なポジションであり、同時に一夏を狙い打つこともこれ以上ない位置関係だ。白兎馬が警告を発してくるが、一夏はそれを容認するように指示を出す。無論、一夏とてマドカを完全に信じたわけじゃない。常にマドカの警戒を解かないようにしつつ、襲い来る無人機たちの、その先―――バカバカしいほどの無人機を搭載していた艦隊の旗艦と思しき艦を見据えた。

 

「手をかせ。あれを狙う」

「ほう、貴様にしてはいい狙いだ。艦橋を潰せば撤退に追い込めるだろう」

「……人を殺すつもりはない」

「甘いな。その甘さが貴様を、仲間を殺すぞ」

 

 嘲笑を含ませたマドカの言葉にも動じずに、一夏は振り返らずに返答する。

 

「ここで俺たちが人を殺めるわけにはいかない。そうなったら、宇宙への道がまた遠くなる。アイズたちの夢が遠のいてしまう」

 

 当然一夏も人を殺すことを忌避しているし、そんな覚悟もない。

 それに加え、この作戦では事前に対人戦闘においてやむを得ない場合を除き殺めることは禁則と指示されている。この先、軌道エレベーターの建造という最大の難所にして最後の試練が残されている。今は順調に情勢が追い風となるように調停しているが、軍と真っ向からやりあって兵を殺めたとなれば情報操作次第ではカレイドマテリアル社が追い込まれる事も有り得る。最悪の場合は宇宙開拓の強制停止という可能性もゼロではない。だが、一方的に条約違反を犯し侵攻した“反逆軍”からIS学園を防衛した、ということならいくらでも情報操作ができる。

 未だ年若い人間で構成されたセプテントリオンに人殺しなどという禁忌を犯させるわけにはいかないという情の理由もある。そして同時に最終目的のための障害を作らない利の理由もある。

 束からしてみれば、ISを人殺しのために使って欲しくないという至極真っ当な理由がある。それぞれが、最も納得のいく理由を持っているだろうが、セプテントリオンは創意として人を殺めることは絶対の禁忌としている。それは、セプテントリオンが軍隊ではなくあくまでカレイドマテリアル社の最終目的のための抑止力として在るためだ。破壊するためではなく、生み出すために力を振るう。それがセプテントリオンの戦士たちの戦う意味だった。

 

「どいつもこいつも甘すぎる。やはり我々と貴様たちは相容れないな」

「勝手に言っていろ。俺たちは、俺たちのために戦うだけだ。今回はたまたま敵が一緒だから背中を預けるだけだ」

「警戒しているくせに、よく言う。まぁいいさ、貴様と決着をつけられるのなら、どうなろうとな!」

 

 一夏はなぜマドカが自身との決着にそれほどこだわっているのか知らない。それはあたかもシールがアイズに執着していることと同じようなものかもしれないが、そこにはなにかしらの因縁があることは違いないだろう。それが気にならないといえば嘘になる。むしろ知りたいとすら思う。しかし、ああまで憎悪に近いほどの敵意を向けられるほどの因縁など、ろくなものではないだろう。

 それでも、マドカとは決着をつけなければならないという奇妙な義務感のようなものが一夏にはあった。おそらく、それはそう遠くないうちにその時がくるだろう。

 揺れ動き、そして変革の鼓動が聞こえている中、一夏個人もまた自身に運命というものがあるのなら、それもまた終局に近づいていると感じていた。

 

 

 

 ***

 

 

 

「ぜぇっ、ぜぇッ……、はっ……!」

 

 呼吸が乱れて上手く力が練れない。足が重く、視界も霞んでいるように見える。かろうじて握りしめている拳も気を抜けばそのまま動かなくなってしまうんじゃないかというほど、今のコンディションは最悪に近かった。

 愛機であるIS甲龍からはいくつもの警告が操縦者である鈴に示されており、鈴も甲龍も撃破される寸前という有様だった。

 

「さすがに、単、機で……大型機五機の相、手は………無茶だったかな……?」

 

 鈴が立つのは胸部を陥没させ、内部機構をズタボロにされた一機の残骸の上だった。発勁を四発、さらに虎砲を二発。大型機に包囲されつつも一機を集中して狙い、真正面からの力押しで一機を破壊した鈴であったが、耐久力が自慢の鈴と甲龍も長い戦闘時間で既に余力はない。今残っているものはただの“ど根性”だけだった。甲龍の装甲も既に全損してもおかしくないほど損傷している。幾度となく大質量の殴打を捌き、そして鈴を守ってきた堅牢な装甲も既に見る影もない。

 大破寸前……いや、既に大破判定を受けるほどのダメージを受けていながら、甲龍は未だに起動している。普通なら不可解な現象としかみられないそれも、鈴が感じているはただ同じ相棒の根性だけだ。

 

「……ラウラの援護は間に合わない、か。あと大型四機、……これ以上は一撃でも受ければさすがに沈むわね……、どんなハードなボスラッシュよ」

 

 笑うしかない状況とはこういうことだろうか。こんな数の大型機を用意していたとはさすがに想定外だった。発勁という未知の技術を持った鈴を脅威と思っているのか、たった一機のISに大型機五機で襲いかかるその根性には敬服する思いだ。

 

「はーっはぁっ……ふーっ」

 

 呼吸を正す。いつまでも乱れたままでは動くこともままならない。こういう時真っ先に正すべきは呼吸だと叩き込まれている鈴はほとんど反射で身体の沈静化を図る。そうしている間にもまるで目の前からは大型機が地震でも起こすように地面を震わせて突進してくる。

 鈴は冷静にそれを見据えながら、ゆっくりとそれを悟った。

 

 

 

 

「あー……足が動かないわ。終わったかな、あたし……」

 

 

 

 

 それはまさに巨像が蟻を踏み潰すかのようだった。

 

 放物線を描きながら人型がボールのように宙を舞った。大質量の激突によって跳ね飛ばされ、重力に引かれて地面へと落ちていく。数回地面との反発でバウンドし、それでも止まらずにその勢いのままかつての無人機による侵攻の際に破壊されたアリーナ跡地へと突っ込んだ。

 瓦礫の山を抉りながらようやく止まったときには、既にそこに動いているものなど存在しなかった。

 

【ERROR,ERROR,ERROR,ERROR】

 

 ただ警告音だけが響いていた。その音の発する場所には瓦礫の山から、まるで墓標のように鋼鉄の腕が力なく生えていた。

 

『鈴音……!? 鈴音、応答! 返事して!』

 

 通信機から珍しく焦ったような火凛の声が響く。それでも甲龍は瓦礫に埋もれたまま動かず、それを纏っている鈴からも一切反応はない。かろうじて上半身のわずかだけが瓦礫に埋もれずにいるが、そこから垣間見える鈴の横顔も生気がないほど白くなっている。ほんの少しだけ意識があるのか、瞼がわずかに揺れ動くがそれだけだ。あとは時折小さく苦悶の声を上げるだけだ。

 

【ERROR,ERROR,ERROR,ERROR】

 

 しかし、そんな鈴に近づく影があった。救援なんていうのは都合が良すぎる話だ。容赦も慈悲もない機械の破壊者が迫っていた。

 

【ERROR,ERROR,ERROR,ERROR】

 

 エラー音だけがその緊急性を示すように鳴り響く。それでも鈴は反応できない。そこまでの余裕はもはやない。

 動けない鈴のすぐそばにまで無人機が近づいてくる。それを遮る存在もない。

 

【ERROR,ERROR,ERROR,ERROR】

 

 ゆっくりと大型機が鈴にトドメをさそうとやってくる。既に鈴は満身創痍。甲龍もボロボロだ。そして、なにより……。

 

 

『甲龍のシールドエネルギーはエンプティ……なのにどうして絶対防御が発動しないの!?』

 

 通信から火凛の驚愕する声が響く。それでも鈴はその声を認識できないほど弱っていた。

 

「あ、………ぐぅ………ぇん、ろん………」

 

 鈴が朦朧とする意識で相棒の名を呼ぶ。力の入らないはずの拳を握る。それに応えるように凰鈴音という存在を映すISが鋼鉄の腕を動かす。既に各部のフレームが歪んでいるためか、ギギギと鉄が磨り合う音を鳴らしながら鋼の拳を形作る。

 

【ERROR,ERROR,ERROR,ERROR】

 

「ええ、………今なら、あなたの………声が、はっきり、……わかる」

 

【ERROR,ERROR,ERROR,ERROR】

 

「まだ、戦える、わね……? あたしも、よ……!」

 

【ERROR,ERROR,ERROR,ERROR】

 

「ああ、………あなたを感じる、……これが、アイズの、……セシリアの、いる世界……」

 

【ERROR,ERROR,ERROR,ERROR】

 

「聞こえた、あなたの声。――――見えた、あなたの、姿……!!」

 

【ERROR,ERROR,ERROR,ERROR,ERROR,ERROR,ERROR,ERROR,ERROR,ERROR,ERROR,ERROR,ERROR,ERROR,ERROR,ERROR,ERROR,ERROR………………Compl――.】

 

 

 

 

 

 ―――――その直後、甲龍と鈴が瓦礫の山ごと炎によって焼き払われた。

 

 その光景はまさに煉獄と呼ぶに相応しい有様だった。大型機に搭載されていた都市破壊に使われることを想定していたと思しき原始的ともいえる火炎放射器が鈴のいた辺り一面を焼き尽くすように放たれた。オレンジ色に燃える炎が鈴と甲龍もろともに焼滅させていく。

 その炎の中に、ひときわ激しく燃えるなにかがあった。

 

 それは傷口から吹き出す血のように、破損した装甲から炎を噴出して燃える一機のIS、甲龍であった。甲龍は自らが燃えるように全身を炎に包まれながら次第にボロボロだった装甲を融解させていった。最悪の事態すら考えられる惨状にありながら、それを纏う鈴は明らかに不可思議な殻のようなものに包まれて生死すら不明という有様だった。

 しかし、それでも甲龍はなおも機能停止に陥ってはいなかった。信じられないことだが、シールドエネルギーは間違いなくエンプティなのに未だに動き続けている。だからだろう、大型機も未だ撃墜していないと判断し、追撃を仕掛ける動きを見せている。

 

 いくら機能停止していないとはいえ、今の甲龍はとても迎撃できるとは思えない。そんな燃え続ける甲龍をめがけ、大型機がその巨腕を打ち出して――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

「オラ、そこまでだ、粗大ゴミども」

 

 

 

 

 

 

 突如としてガガガガンッ!! となにが連続して撃ち込まれるような音が響いた。同時に鈴を潰そうとした大型機が突然動きを止め、何度か動作不良を起こしたようにバグのような挙動をとったかと思えば機能を停止させて完全に沈黙する。物言わぬ鉄塊となり果てたその機体の背後にはいつの間にか一機のISが佇んでいた。

 黒く、曲線を描く装甲。特徴的な多脚を持つ姿。これまで戦ったことのある鈴が「ゲテモノ機」と言うほど禍々しい姿をしたIS――アラクネ・イオス。脚というより触手のようなその手足には今し方仕様したと思われるステークがオイルを滴らせている。

 

「バカが、それを作ったのは私らのボスだぞ。弱点を知らねぇと思ってんのか?」

 

 そんな禍々しいISを駆るオータムが吐き捨てるようにこの無人機たちを操っている人間たちを嘲笑う。オータムの目には背中に五発のステークを打ち込まれただけで機能を停止させた機体がゆっくりと倒れていく様子が映し出されていた。

 人間でいえば正中線の急所を余さず破壊され、さらにアラクネ・イオスの特殊技能である腐食させ、かつ電子阻害を引き起こす“毒”を撃ち込まれたのだ。いくら巨体そのものが武器とはいえ、耐え切れるものではなかった。

 つまらなそうに倒れる大型機を見ていたオータムが、ふと視線を移す。

 

「さて、あいつは…………死んだか? ふん、援護をしろとは命令されてるが、救助しろなんて命令は受けてねぇ。てめぇの弱さを恨むんだな、小娘」

 

 炎に包まれる甲龍を見ても、その口から出るのは暴言だけであった。聞こえているわけがないとわかっていながら、オータムはなおも挑発するようにゲラゲラと笑った。

 

「はははっ、あれだけ大口叩いておいてその様か! こんな粗大ゴミ程度に負けるなんざ、所詮その程度だって話だ、小娘。なに、心配すんな。いなくなっても私はお前のことを忘れずにいてやるよ、大口叩いて死んだ負け犬ってなぁ! ひゃはははは!!」

 

 ピクリと、炎の中でなにかが動く。

 

「まぁ、よく働いてくれたぜ? あいつらはうちらにとっても邪魔になってたからな。あとはこっちで処理してやる。露払いご苦労だったな! はははっ!」

 

 轟ッ! と炎が激しさを増した。それはさながら火山の噴火のようだった。まるで塔のように天へと炎が伸びていき、その発生源では人型のなにかが動いていた。

 その人型が目視すらできないほどの炎の中で動く。周囲を蹂躙していた炎がまるで意思をもつかのようにその人型に収束していく。変化はそれだけではなかった。炎であるはずなのに、明らかに別種の輝きを放っていた。しかも、燃えるもののない空中でも炎となって存在し続けるという、明らかに自然現象を超越した現象すら見て取れた。妖のように蠢く炎が、そして、最後の変上を遂げる。

 

 

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■――――ッッッ!!!!」

 

 

 

 それは言葉ではとても言い表せない咆哮だった。人のような、獣のような、それでいてどこか機械音声のような響きさえ内包した咆哮が大気を震わせて放たれた。同時に、これまで紅蓮ともいうべき炎が一瞬でその色を変える。

 紅から蒼へ。青白い色となった炎が激しく燃え上がる。その青い炎は時折スパークしており、その炎自体が雷を発生させているかのようだった。

 

「―――――」

 

 オータムはじっとその光景を見ており、舌打ちしつつもどこか納得したように頷いている。

 

「好き勝手、言ってんじゃないわよ……!!」

 

 青い炎の中から声が発せられる。それは戦意と闘志があふれてしょうがないというような猛き声だった。

 

「何度も言ったはずよ。あたしと甲龍に、砕けないものなんか、ないッ!! それが、たとえあたしたちの限界でも!」

 

 限界という壁があるのなら、それすらも打ち砕く。この拳は立ちはだかる全ての敵を、障害となるすべての壁を、その一切すべてを砕くためにあるのだから――――。

 

「さぁ、甲龍! 待たせたわね! 思う存分にその暴威を振りまきなさい! そしてあたしを、あたしたちを! その記憶に、メモリーに、未来永劫刻みなさい!」

 

 人間とIS。完全な人機一体となった証。凰鈴音と甲龍が、世界で三機目となる第三形態へと到達した――――。

 

「このあたしたちこそが! 現代に蘇った“龍”の具現よ!」

 

 雷炎を纏い、新生した龍が戦場に再臨した。

 

 

 




あけましておめでとうございます。

新年最初はテンション上げるために鈴ちゃんのターンから。亡国機業との最初で最後の共闘もその裏側はまた次回以降に描いていきます。

鈴ちゃんのチート化が止まらない。その凶悪極まる能力は次回をお楽しみに。内容そのままにタイトルをつけるなら「真・鈴ちゃん無双猛将伝」となる予定です。

年明けしばらくはまだ多忙なスケジュールですので安定して更新できるのはもうちょっと先になりそうですがこつこつ進めて行こうと思います。

今年もまたよろしくお願いします。目標は今年こそ完結です!

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