双星の雫   作:千両花火

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Act.116 「Night Slasher」

 地獄絵図、とまではいかないまでも明らかな惨状がそこには広がっていた。

 綺麗に整理、清掃されていたその一室の床や壁はどす黒い血液が絵の具をぶちまけたように塗りたくられ、さらには人間そのものが押しつぶされているように壁や床を彩るオブジェと化している。そしてまたも一人がビリヤードのように床や天井を跳ねて転がり、しまいには動かなくなる。絶妙に手加減されていたのか、わずかに呼吸していることから生きてはいるようだが確実に再起不能なレベルでの負傷に身動き一つできずに沈黙する。

 そんな暴威を武器ひとつ使わずに振りまいていたその女性―――紅雨蘭はようやく静かになった室内を見渡しで面倒くさそうにコキコキと首を鳴らした。

 

「これで全部か。まったくもってつまらん。これなら鈴音一人でも事足りるな」

「お疲れ様です。見事な制圧です」

「こいつらが弱すぎる。鈴音が子猫ならこいつらはドブネズミだな。可愛げすらない」

「鈴さんは可愛いんですか?」

「そりゃ手塩にかけた弟子だから……って言わせんな」

「雨蘭さん、けっこう可愛いとこありますね、鈴さんがツンデレ脳筋とか言ってましたけど」

「あのガキ覚えてろ」

 

 イーリスから「意識があるのを二人ほど残してあとは殲滅」というオーダーを受けた雨蘭による中央コントロールルームの制圧という名の蹂躙劇は五分足らずで終了した。広い場所ならまだ対抗できたかもしれないが、狭い室内で格闘戦が本領の雨蘭を相手取るのは愚策だった。鈴の上位互換ともいえるスペックを持つ雨蘭はその強靭な脚力を活かして壁や天井を足場として跳ねながら瞬く間にその暴威そのものといっていい格闘能力で武装した軍人、十二人を沈黙させた。彼女の拳は身体に突き刺さればその骨を砕き、蹴りはたとえ両腕でガードしてもその腕を簡単にへし折った。

 その姿はまさに修羅の化身といえるだろう。

 

「おねえちゃん! 大丈夫……!?」

「あ、ああ、簪ちゃん。よかった。どこの悪魔がやってきたかと思ったわ」

 

 呆然としていた楯無に簪が声をかける。ようやく正気に戻った楯無が状況を察してホッと安堵の息を吐いた。突然中華風衣装を来た美人が突入してきたかと思ったらこの有様だ。その蹂躙劇をある意味舞台の上から見ていた楯無が恐怖を感じてもしかたないだろう。

 

「まぁ、あの鈴さんの師匠さんだし、雨蘭さん」

「雨蘭? ………紅雨蘭!? あの!?」

「どの?」

「裏で名の通っていた暗殺者【殺人熊《キリングベア》】をたった一発で倒したっていうあの羅刹嬢!?」

「え、なにその二つ名? かっこいい!」

「織斑先生が表で世界最強の女と言われるように、裏稼業をやってる連中の間では裏の世界最強の女と呼ばれている人物よ。私も見るのははじめてだけど……」

「別にそう名乗ったことはないがな。それに拳と蹴りの一発ずつだ。倒すのに二発使ってるよ」

 

 少々気恥かしそうにしながら雨蘭もやってくる。戦闘中はまさに修羅や羅刹の如きなのに、平時は至って普通のお姉さんのようだ。鈴の師匠ということだが、なるほど、どことなく似ている感じがする、と楯無も妙に納得する。まぁ、雨蘭の言うように鈴が子猫だとすれば雨蘭本人は虎といったところだろうか。

 

「それに私がいなくてもなんとかなったんじゃないか? なぁ、織斑千冬?」

「紅雨蘭か……私はお前ほど格闘戦ができるわけじゃない」

「謙遜を。私に一撃入れたのはお前くらいのもんだ」

「え? 知り合いなんですか?」

 

 繋がれていた拘束を“自力で引きちぎりながら”立ち上がった千冬がやれやれと肩をすくめてみせる。楯無も簪に介抱されつつも身体の調子を確かめつつを立ち上がる。

 

「昔、一戦やりあっただけさ。勘違いで」

「そうだな、ちょっとした小競り合いだ。勘違いのな」

「なにがあったの!? そ、それで結果は?」

「あれは引き分け……か?」

「そうだな、引き分け……なんだろうな」

「な、なにがあったの……?」

 

 聞きたいような、聞きたくないような。そんな気持ちにさせられながらも、それでもこの二人の対決というのは興味がある。共に規格外の女傑。片や一夏の姉、片や鈴の師匠。この二人が並んでいるだけでもとてつもない威圧感がある。

 そんな二人を苦笑しつつイーリスが佇んでいるが、楯無にはこのイーリスも恐るべき存在だとわかってしまう。むしろ裏関係のことに通じている分、工作員としてのイーリスのその技量と容赦のなさを見てその脅威を嫌でも感じてしまう。おそらくは楯無でもイーリスには敵うまい。千冬や雨蘭と同じく超人とカテゴライズされる女性だ。楯無とて鍛えてはいるがおそらくこの三人と比べれば大人と子供ほどの差があるだろう。

 

 

 

―――――あれ、もしかしてこの三人って“世界最強の女”上位の五指に入るんじゃ……?

 

 

 

 楯無はまるで嵐のど真ん中にいるかのような恐怖感を気のせいだとわかっていながらも感じずにはいられない。セシリアや鈴といった規格外の同年代の少女を知っていながら、それよりもさらに才能と経験が積まれているであろうこの三人を見て知らずに冷や汗を流してしまう。

 そうしているとイーリスが楯無のほうへと顔を向け、ゆっくりと近づいてきた。味方だとわかっているのに背筋が寒くなったのは仕方のないことだろう。しかしイーリスは柔らかい笑顔を向けて口を開いた。

 

「失礼。カレイドマテリアル社所属のイーリス・メイです」

「あ、はい。やっぱりカレイド社でしたか。救援、感謝します」

「水面下で協定を結んでいますから。見捨てるようなことはありませんよ。社長としてもこの時期にここを失いたくはないでしょう」

「そこまでわかりやすいと清々しいです。それで、状況は?」

 

 とにかくとして、今は現状把握が最優先だ。わずかに残っている動揺を無理矢理押し込め、楯無が意識を切り替える。

 そうして楯無とイーリスが情報交換を行い、さらにたった今この制御室を占拠していた人間を“ちょっと”脅して仕入れた情報を交えて今後の方針を決定していく。

 

「さっきから連中が慌てて指示を出してたので大体は把握していますが……思った以上に敵戦力は多いようですね」

「セプテントリオンで学園制圧と敵艦隊の制圧、二面作戦を行っています。最善、ではありませんが、こちらの現在の戦力を考えればベターと言えます」

「どういうこと?」

「おねえちゃん、今のセプテントリオンにはアイズとセシリアさんがいないの」

 

 この二人がいればもっと効率的な作戦が取れたが、言ってもしょうがないことだ。アイズはともかく、セシリアのコンディションは最悪に近い。この作戦には間に合わなかったとしても誰も責めないだろう。

 楯無は簪から取り上げられていたIS【ミステリアス・レイディ】の待機状態である菱形状のストラップが付けられた愛用の扇子を受け取りながら頭の中で素早く今後の優先事項を決定していく。

 

「そっか……。まぁいつも甘えてばかりはいられないわ。生徒の避難の進捗は?」

「出来うる限り迅速にしていますが、場所が不慣れのため確実とは言えません」

「なら、私と簪ちゃんで敵機を駆逐しつつ、学園内を捜索するわ。いいわね?」

「もちろん」

 

 簪もむしろはじめからそのつもりだった。イーリスが率いているカレイドマテリアル社の諜報部だけでは学園内の敷地の隅から隅まで把握するのは難しいだろう。学園内の地理を知り尽くしている楯無と簪なら見落としがちな場所も探せるし、なによりその戦闘力も無人機とは比較にならない。

 

「諜報部の人間が作業にあたっています。話はしておきますので彼らも上手く使ってください」

「感謝します」

「なら私は校舎内を見て回る。外は任せたぞ」

「わかりました。織斑先生もお気を付けて。……行くわよ、簪ちゃん」

「わかった」

 

 時間もないためにすぐに行動に移す更織姉妹を見送りつつ、同じように千冬も動こうとしたところで雨蘭が声をかけた。

 

「おい」

「……なんだ」

「中は私が見てやる。おまえは外の物騒なやつらをどうにかしてこい」

「お前では校舎内の地理はわからないだろう」

「だから途中までは同行してやる。手早くチェックすべき場所を教えろ。そのあとはこっちでどうにかしてやる。避難もそうだが、危険性を考えればとにかく敵を駆逐するべきだ」

 

 避難場所としている地下シェルターとて、集中砲火を浴びれば耐えられるほどの耐久度はない。無人機とはいえ、並のIS以上の性能とそれ以上の火力を持つのだ。戦う手段がない生徒たちが遭遇してしまったときの危険性は計り知れない。そしてそんな無人機が数えるのも馬鹿らしいほどこの学園内に拡散しているのだ。避難も並行して行うとして、それ以上にこのリスクを早々に排除したかった。

 

「馬鹿弟子たちが頑張っているが、数が多い。世界最強と呼ばれるくらいだ、おまえなら単機でも余裕だろう?」

「確かにIS戦が専門だが、今の私には機体がない」

「はい、そこでこれをどうぞ」

 

 イーリスがすっと投げてきたそれを反射的に千冬が受け取る。それは一夏の白式の待機状態と同型のブレスレット。それを手にした瞬間、千冬にはこれがとてつもないものだと悟ってしまう。

 そんな千冬の反応に満足したようにイーリスが微笑んで説明する。

 

「形こそ量産機であるフォクシィギアですが、中身は別物です。かつての貴方の機体【暮桜】のデータを基に博士が造り上げたIS―――個体名称は【朧桜】。貴方の専用機です」

「……、あいつめ」

「伝言です。【みんなを頼むね、ちーちゃん】……博士も、心配してましたよ?」

 

 千冬は数秒の間を眼を閉じて沈黙していたが、すぐに雨蘭も身震いするほどの闘気を発しながら顔を上げた。その威圧感は世界最強の女“ブリュンヒルデ”と呼ばれるに相応しい苛烈なものだった。

 

「行くぞ。子供たちばかりに押し付けるわけにもいくまい」

「おう」

「では大人も頑張りましょう。バックアップは私が行いますので、お二人は邪魔者の排除を優先してお願いします」

「ふん。これもそちらの予定通り、か?」

 

 織斑千冬を戦力として使うことも作戦のうちかと問うも、イーリスは微笑むだけだった。しかし、たとえそうだとしても千冬には確かに今、この時に戦う力は必要としていた。ここまでの事態になった以上、既に話し合いや交渉でどうにかできることはありえない。ならば、相手の暴力以上の暴威をもって振り払うしかない。

 親友が作ってくれた新たな愛機となったISを手に、千冬は教師から戦士へとその表情を変える。

 

「まぁいい。確かにありがたい。使わせてもらうぞ」

「ふふ、ブリュンヒルデの復活ですか。期待していますよ」

 

 冗談なのか本気なのかわからないイーリスの言葉に、しかし千冬は戦意を滾らせながら頷いた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 ここまで狙いをつけなくてもいい的当てはそうはないだろうな、と思いながらシャルロットはトリガーを引き続ける。絶えず貫通力を高めた徹甲レーザーガトリングカノンが唸りを上げながらその暴威を吐き出していく。それはとにかく前方へと撃てばなにかしらに命中するという、ある意味で奇異な光景に爆炎でさらなる彩りを添えていく。

 呆れるほどの数を揃えた無人機であるが、その性能は既にシャルロットたちセプテントリオンにとっては負けるはずのないスペック差が存在していた。

 単純にフォクシィギアと無人機を比べてもフォクシィギアがそのほとんどの性能で優っているし、無人機が優れているのは機械ゆえの反応速度くらいだろう。そうしたソフト面はともかくとして、ハード面においては完全に上回る性能を持つ上にセプテントリオンの機体はそのすべてが隊員たち一人一人に最適化するよう調整された実質的な専用機だ。

 さらにシャルロットのように一部の専用機とは比べることすら烏滸がましいほどの差が存在する。

 新型コアの拡散前なら量産機である打鉄やラファール・リヴァイブよりやや上程度といったところだろうが、こうした無人機の脅威に対抗することも織り込み済みで開発されたフォクシィギアの敵ではない。

 

 しかし――――。

 

「くっ……さすがに多い!!」

 

 四門のレーザーガトリングカノンを乱射しつつ、同時にミサイルユニットを展開。とにかく敵機を寄せ付けないように重火器を惜しまずに叩き込む。それらは暗黒の夜の海を爆炎が蹂躙し、その破壊的な炎の光が海面で反射してあたり一面を照らしている。

 いったいどれほどの数を用意しているのか、無尽蔵とも思えるほどに湧き出てくる無人機の大群を相手にシャルロットたちはギリギリで防衛戦を死守していた。

 一機一機は大したことはない。脅威ではあるが十分に対処が可能な程度だ。しかし、数は力。圧倒的な物量にセプテントリオンはじわじわと後退を余儀なくされていた。少なからず小破している機体もある。物量という壁はやはり脅威だった。

 

「予想よりもまずい。前線のアレッタたちの負担も大きい。このままだと通してしまうかも……シトリー!」

「ん、もう少し巻き込みたかったけど、仕方ない。……全機に通達! カノープスを起動させる! 範囲外へ退避して!」

 

 シトリーの号令を受けてセプテントリオン全機が一斉に防衛ラインを下げる。それを追撃するように無人機たちが前線を押し上げていくが、その前に突如として小型の球体が出現する。ふわふわと浮遊しているそれは音もなく無人機たちの前方へ躍り出る。

 邪魔なそれを排除しようとするが、その直前にシトリーがそれを起動させた。

 

「チェックメイト」

 

 そしてそれが弾けた。

 

 強烈なスパークと共にその球体を中心に周囲そのものを侵食するかのように大爆発を起こす。しかも複数同時に起爆したことで一時的にセプテントリオンと無人機たちの間にまるで壁のように出現する。

 だが、それは爆弾ではなく、恐ろしく強力な電磁パルスだ。機械である無人機の回路そのものを焼き切るほどの威力を持ったそれに巻き込まれた機体が瞬く間に機能を停止して海へと落下し、その限りない暗黒へと続く底へと沈んでいく。

 

「Yeah! 実戦じゃ初だったけど、うまくいった!」

 

 その戦果を見てシトリーが珍しくガッツポーズをして喜びを示す。

 これがシトリーの持つ、彼女だけの専用装備。電磁パルスによって周囲の半導体を一瞬で焼き切ることができるEMP領域――パルススフィア――の発生装置。それを任意で操作し、起爆させる独立誘導式電磁機雷。別名“ビットマイン”とも呼ばれる特殊兵装、それが【カノープス】だ。

 使い捨てであるが、一度起動させれば範囲内の敵機をすべて無力化させる電磁フィールドを数秒間展開する極めて強力な兵器だ。さらに限定範囲に収束させることでより戦略的な運用を可能としている。もともとHANEと呼ばれる高高度核爆発――High Altitude Nuclear Explosion――による電磁パルスからISを防護するための研究から偶然出来上がった代物であり、当然核爆発ではなく特殊コンデンサを利用して意図的に周囲に電磁パルスを発生させ、それを攻撃手段とするというアイディアを最終的に束をはじめとした開発部が生み出したEMPボムだ。それを独立誘導、つまりビットとして利用している。セシリアのブルーティアーズと違い砲台としての運用とは違い、最終的に使い捨ての爆弾扱いなのでセシリアのように規格外の操作技術を要求されるわけではないが、戦場で有効活用させるにはやはり標準を遥かに上回るビット兵器の適正が必須となる。

 それに適合したのがシトリーだった。本当ならばシトリーもビットを装備するプランがあったが、この特殊兵装が発明されたことで晴れてその担い手となった。

 

「全機! レーザー弾幕!」

 

 それだけでは終わらない。カノープスによって崩壊した敵陣にレーザー兵器を撃ち込む。そのレーザーはカノープスが展開したパルススフィアへと接触するとそのレーザーを弾き、拡散させる。強力な電磁場がレーザーを屈折させ、反射する。弾幕の密度が数倍に跳ね上がって敵陣に雨のように降りかかる。殺傷力は落ちるが、回避不可能なほどの弾幕を形成するカノープスの特性を利用した部隊戦術のひとつだ。少数精鋭の部隊のため、こうした一時的に数の不利を覆せる戦術はいくつも用意されており、これもそのうちのひとつだった。

 

「カノープス、機能停止………残数は十五! 残りは私の判断で適宜使用するよ」

「了解。前線は崩れた。各員、攻撃を続行! ………一夏、行って!」

「待っていたぜッ!!」

 

 後方で待機していた一夏が動く。

 バイクのような高機動形態の白兎馬に跨り、その両手に実体剣を握りしめながら敵陣中央の突破を試みる。まともに迎撃もできずに、暴力的な速度で突っ込んでいく一夏を止められるものなど存在しない。すれ違いざまに三機ほど切り捨てながら一夏はやすやすと敵陣中央へと潜り込むとそこで白兎馬を高機動形態から近接格闘形態へと変形させる。馬から鎧へ。機動力に特化したサポート機となっていた白兎馬が変形し、第二の鎧となって白式を覆う。近接攻撃力と防御力に特化した白兎馬の本領の形態へと変わる。

 

『イチカ、指示ヲ』

「決まってる! 全部落とすぞ!」

『了解。私ト一夏ナラ余裕デス』

 

 白兎馬に備えられている人工知能が電子音声でオーダーを要求する。そして一夏はシンプルにそれに応える。周囲すべてが敵、ならばそのすべてを薙ぎ払うまで。それができるほどのポテンシャルがある。

 白兎馬に内蔵された世界でただ一つの特殊機関である零落白夜ドライブが稼働。白式の代名詞、唯一無二の能力“零落白夜”そのものを増幅、運用させる規格外のシステムが搭載された白兎馬が主人である一夏と白式に超常ともいえる力を注いでいく。

 触れたもののエネルギーを消滅させる零落白夜によって両腕から巨大な刀身として顕現させる。さらに外部からの攻撃に反応して零落白夜そのものを纏う究極のリアクティブアーマー“朧”を展開。短時間しかその力を発揮できないという欠点はあれど、この形態となった一夏を落とすことはあのセシリアや鈴でさえ分が悪いと言うほどのパワーを持つまさに切り札である。

 

「うおおおぁらぁっ!!」

 

 対艦クラスの大きさとなった剣を振り回す。その剣に触れただけで無人機は内包するエネルギーを喰われ、さらに物理破壊を伴って一瞬で瓦礫と化す。

 ビームやレーザーが単発で撃ち込まれるが、展開した“朧”によってその悉くが消滅する。攻防一体、まさに無敵といえる力を発揮する一夏と白式の猛攻にもともと崩壊しかけていた前線が瞬く間に蹂躙される。

 そんな一夏を相手取ることを不利と悟ったのか、複数の無人機が一夏をやり過ごそうとするがそれを許す一夏ではなかった。

 白兎馬からの声に従い逃げるように離れていく機体を確認した一夏はその巨大なブレードにさらに力を込めて一気に振り抜いた。

 

「くらえッ!!」

『アタックプログラム“飛燕”発動』

 

 振り抜いた剣閃がそのまま形となり、逃げようとする敵機を背後から飲み込んだ。零落白夜の変化技の中でも重宝している遠距離技、斬撃をそのまま飛ばすという“飛燕の型”。それを白兎馬を通することで増幅して行っただけだが、その規模、威力は共に白式のときのそれよりも段違いに強化されている。

 

『続ケテ“蛇咬”発動』

 

 そして今度はブレードそのものをしならせ、まるでムチのように形状を変化させて周囲を薙ぎ払う。この零落白夜の形状変化、出力変化は一夏の編み出した固有スキルのために白式や白兎馬では規格外に相当する技であるが、イギリスに赴き束の調整を受けたことでこの白兎馬との合体形態のときでも使用可能となり、ただでさえ手がつけられなかった白兎馬の力をさらに跳ね上げた。

 白兎馬のAIに一夏の技を正確にフォローするように追加プログラムを搭載したことでよりスムーズに形状を変化させることができる。間合いも形状も変幻自在。触れただけで倒せるという反則の域の能力がさらに凶悪に進化している。

 

 誇張も贔屓もなく、今の一夏は間違いなくこの戦場において“最強”と呼ぶにふさわしかった。

 

「ここから先へは行かせない! これ以上学園を好き勝手にさせてたまるかよ!」

 

 まっすぐに熱く、一夏が叫ぶ。それは彼本来の気性であり、それゆえに鼓舞としても十二分の働きをする。他のセプテントリオンの隊員たちも、そんな一夏の戦う姿に触発されたように気合を入れて同じように果敢に攻め立てる。

 

「一夏は案外、隊長向きかもね、かっこいいなぁ」

 

 自分にはできないであろう鼓舞を行う一夏にシャルロットが嬉しそうに呟く。そんなシャルロットの横で少し嫉妬したようなシトリーがジト目で見つめていた。

 

「あーあ、やっぱ相棒より男か。しょうがないよね、シャルってけっこうそういうのだもんね」

「ちょ、なに言ってんのシトリー?」

「いやいやいいよ。私は別に気にしてないし?」

「そんなに拗ねないでよ、もうっ………あ、左前方」

「おっと、カノープス起爆」

 

 喋りながらもきっちりと仕事を行う。陣形を整えて反撃しようとしていた一団に向けて一機のカノープスを突撃させて起爆。同時にダメ押しにシャルロットがレーザーの集中砲火を浴びせて沈黙させる。

 

「カノープスの前に密集なんてするべきじゃないんだよ」

「そして散開すれば各個撃破の的ってね!」

 

 無人機の特性の集団戦を封じれば自ずと単機戦力で勝るセプテントリオンが有利になる。シトリーのカノープスと一夏の活躍で連携など取らせない戦術を選択した判断は間違いではない。

 

「ここまでは順調……でも、そろそろかな」

『全機に通達』

 

 シャルロットの呟きに応えるように回線からアレッタの声が響く。前線で指揮を取っていたアレッタは、あくまで冷静にそれを告げた。

 

『VTシステムを確認。各員、注意してください』

 

 そしてこれも予想通り。無人機にVTシステムを搭載していることは既に確認済みだ。集団戦には向かないそのシステムをこの状況で使うのは当然だろう。手間はかかるだろうが、それでも各個撃破をすることは変わらない。

 ここからが本番。シャルロットはレーザーガトリングカノンによる砲撃を行いつつ、スナイパーライフルを展開して狙撃援護へと移行する。

 

「なにをしてこようが、一夏の言うようにここから先へは行かせない」

 

 狙いをつけ、トリガーを引く。攻撃動作の硬直を狙ったそのレーザーが見事に一機の頭部を貫いた。

 

「退学しても、IS学園は僕たちの大事な場所…………おまえたちが壊していいものじゃないッ!!」

 

 

 

――――。

 

―――。

 

 

 一歩も通さない。そんな気迫を発しながら戦うシャルロットたち。そのほとんどが未だ十代の半ばほどだというのに、全員の戦いぶり、そして顔付きはもはや軍人にも引けを取らないだろう。自分たちの役目を、その重要性を理解し、それに応えるべく奮戦するその姿は見る者の心を激しく震わせる。

 

「………………」

 

 そんなシャルロットたちの戦う姿を見ていた“彼女”もまた、胸に宿った熱に急かされるように動き出した。

 

 

 




そろそろ序盤が終わって中盤戦へと向かう感じです。ここからどんどんいろんなキャラが参戦していきます。
最終的には大乱闘状態になるかも。さらにインフレが起きるかもしれません(汗)

ではまた次回に!

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