双星の雫   作:千両花火

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Act.114 「点睛胎動」

 薄暗い室内に十人ほどの人間が集まっていた。全員が高齢であり、皺の刻まれた顔に愉悦にも似た笑みを浮かべている。そのうちの一人が手に持ったタバコの火を消しながらかすれた笑い声を上げていた。

 

「やはり、出てきたようですな」

「ここで始末すれば、あの忌々しい暴君も黙るでしょう」

 

 この人間たちはIS委員会に属する者たちだった。表向き、ISに関わるルールを定め、裁定する最高権力者と言っていい立場であるが、その実体はマリアベルの傀儡だ。

 基本的に彼らの裁量で事を運んできたが、マリアベルからの命令がきた場合は絶対にそれに従わなければならない立場だった。かつて、銀の福音を暴走させ、アメリカ軍ではなくIS学園へ対処するように要請したのもマリアベルから指示された彼らが仕組んだことだ。

 本来、ただのテロリストの結社などに操られる組織ではないはずだが、従わなくてはならないほどにマリアベルは恐ろしく、そして彼らにとって有益な存在だった。

 かの篠ノ之束に匹敵すると思えるほどの、常軌を逸した頭脳からもたらされる技術はそれだけで金を雨のように降らせた。

 ISによって世界すべてを管理することさえ不可能ではなかった。

 しかし、その野望はそれをもたらしたはずの魔女によって遮られた。魔女は確かに彼らに莫大な金と権力をもたらしたが、彼らが支配することだけは許さなかった。ただただ女尊男卑となった世界を維持するかのようにISを管理するように求めた。

 始めの頃はそれに従っていた彼らだが、人間とは欲深いものだ。IS委員会という権力を使えばなにができるのか理解していた彼らは、やがて魔女に大きな不満を持ち始めた。

 いつまでも従っているだけでは、これ以上の栄達は望めない。世界征服などというバカみたいな野望すら手が届きそうだというのに、それを頑なに邪魔している魔女に隔意を持つのは当然の帰結だった。

 

 だから、彼らは裏切ったのだ。

 

 亡国機業が持つ戦力である無人機プラントを押さえ、その戦力を手にすればもはや亡国機業など簡単に潰せる。マリアベルは確かに恐ろしいが、彼女の持つ戦力を奪えば恐るに足りない。亡国機業さえ黙れば、あとは自分たちの思うがままになる。

 それが甘すぎる考えだったと痛感したのはすぐだった。

 

 亡国機業の幹部クラスを多く動員し、IS学園襲撃するという作戦の裏で委員会はそこへ介入してシールという最高戦力を確保、もしくは始末することを目論んだ。そのために委員会が独自に“製造”したシールを模倣した試作体を投入した。結果として取り逃すことになったが、試作体の機体に装備された電子戦兵装により無人機のシステムの奪取に成功。同時に進めていたプラントの制圧に成功した。

 この時点では委員会は自分たちの勝利を疑っていなかった。

 しかし、その直後にカレイドマテリアル社から特大級の爆弾が落とされることになった。

 

 不変数であり、世界を女尊男卑に陥れたIS。その在り様のすべてを変えてしまうように、イリーナが【製造可能な男女共用のISコア】を世界へと知らしめた。

 これには委員会も焦った。絶対数が定められた絶対的な力であったはずのISは、それゆえに軍事力として世界を支配していたはずのISが、委員会が管理できない数となって世界に拡散してしまう。事実、イリーナが新型コアを発表してわずか半年でISの数は倍以上へと跳ね上がり、そしてそれは現在進行で増え続けている。ISコアを委員会も製造できればまだ話は変わったが、新型コアの製造方法は完全にカレイドマテリアル社が独占していた。それも反発が起きる要因であるため世論を操りカレイドマテリアル社を非難しようと扇動もしたが、イリーナはこれまで無下に扱われてきた男性に活躍の場を与えたことで逆に支持を得てしまった。

 イリーナ・ルージュは謀略、そして交渉において委員会より遥かに格上の女傑であり、カレイドマテリアル社は見事に揺れ動く世界の中心に居座り、舵取りを行っていった。

 そしてイリーナの発表したバベルメイカー計画。軌道エレベーターの建造と、それに伴う宇宙開拓事業の推進。これまで世界を上から縛り付けてきたISを、今度は地球を飛び出し、その先を目指す手段としての形を示した。これまで多くのものを奪ってきたISが、その奪ったもの以上のものを与えるものとしての存在価値をイリーナは作り上げたのだ。

 そしてもともと委員会とカレイドマテリアル社は良好な関係とは言い難かった。

 防諜において高い価値を持ち、さらにISに搭載可能な量子通信技術。これを得ようと委員会が手を出したことが始まりだった。しかし、委員会が仕掛けた謀略以上の奸計でイリーナはその尽くを跳ね返し、隠そうともせずに委員会を敵視した。イリーナにとって委員会は個人的にも気に入らなかったというのもあるが、このバベルメイカー計画を推し進めていたイリーナにとってIS委員会は邪魔な存在になるとわかっていたことが大きかった。懐柔するメリットよりデメリットのほうが大きく、計画のために潰した方が手っ取り早いと判断したイリーナによって委員会はどんどん追い詰められていくことになる。

 既に委員会が管理するISコアに関わる条例など有名無実と化しており、委員会は亡国機業から奪い取った無人機を利用してなんとか新型コアの拡散の抑止を行っているだけだった。

 しかし、それもただの時間稼ぎにしかならない。時間が経てばそれだけ新型コアは増加し、そうなれば支持は無人機より新型コアへと傾いていくだろう。そうなればIS委員会など、存在する意味を喪失してせっかく得た金も権力もただのガラクタへと変わり果てるだろう。

 味をしめた委員会は、それを認められない。自分たちが作り上げたものではなく、そのほとんどは他者から奪い取ってきたものばかりだというのに、借り物で得た権力を手放すことが認められない。

 

 ISを生み出した束が激しく嫌悪しているのは、そうした欲深いというよりはもはや呆れの念すら覚えるほどの醜悪さだった。

 

 そして、委員会にとって最も危険視されている人間である亡国機業首領のマリアベルによって、真綿で首を絞められるかのように少しづつその命運は尽きようとしていた。

 ありえないことだが、邪魔さえしなければ関与する気のないイリーナと違い、マリアベルは確実に委員会を破滅へと追いやろうとしていた。マリアベルは裏切った委員会に対し報復もなにもしないと笑顔で告げておきながら――それは本音だったが――しかし、気まぐれのようにまたも笑って委員会が保持するヴォーダン・オージェの発現体を奪い去った。その際に、プラントをまるごと破壊し、そこにいた委員会に属する人間すべてを皆殺しにするという暴虐を振るった。恐るべきことに、それは本当にマリアベルにとっての気まぐれであり、魔女が好奇を貪った結果、ただそれだけだった。

 それ以降もなんの計画性もないように、ふと思い出したように委員会が押さえたプラントや委員会の協力国の重要拠点を襲撃。確実に力を削いでいった。

 

 結果的に現状として委員会は暴君と魔女の二人を同時に敵に回しているも同然だった。

 

 委員会は知らないことだが、この暴君イリーナと魔女マリアベルの二人は姉妹だけあってその嗜虐性や冷徹さ、容赦の無さはそっくりであり、嬲るかのように委員会を追い詰めていった。

 

「まったく忌々しい……! あの暴君も魔女も、我々の邪魔ばかりを……!」

「しかし、これでおとなしくなりましょう」

 

 追い詰められた委員会が選択したことはIS学園の襲撃だった。今のIS学園は揺れ動く世界の情勢に影響を受けて宙ぶらりんとなっているような状態だ。立場上は委員会の意向を無視できるような立場ではないが、一度委員会がIS学園を完全に支配下に置こうとしたことでその関係も複雑なものとなってしまった。戦時命令権という形でIS学園のISをそのまま戦力に組み込む策は、同時に発表された新型コアの影響で完全に潰されてしまった。結果として残ったのはIS学園側が委員会に不信感を持つというマイナスしかなかった。

 しかし、いくら不信感を持っても委員会の庇護がなければ運営すらできないために離反することはないとタカをくくっていた。だが、またもカレイドマテリアル社の介入によって大きく変わってしまう。いくら世界有数の技術を持つとはいえ、ただの企業であるカレイドマテリアル社がIS学園の運営を後押しするなど許されることではない。しかし、新型コアによってこれまでのISのあり方が破壊されたことで委員会の管理下にあることの必要性を無くした上でIS学園の存続のために運営資金や新型コアとその対応機まで提供すると明言した。

 平時であれば世界を敵に回しての乗っ取りにも等しい暴挙であるが、既にそれを追求する情勢ではなくなっていた。むしろそれが当然、そのほうがいいだろうという意見すら出てくるほど世界はカレイドマテリアル社に有利になるように動いていた。

 当然、それもイリーナの手腕によるものであり、そうなるように情勢をコントロールした結果だ。ある意味ではマッチポンプにも等しい行為だが、冷遇されていた男性層など救われた人間も多い。もちろん反発もあったが、それ以上の支持を得ていた。その流れを塞き止めることは、並大抵のことではできない。

 

そうして残された手段は、末期的なものしかなかった。それが、実力行使という蛮行だ。許されるような行為ではないし、そのために亡国機業から掠め取ったアメリカ軍の手駒を利用した。しかし、これでもカレイドマテリアル社を潰すことは難しいだろう。

 用心深いイリーナは本社とは別にもうひとつの拠点を持っている。島を丸ごと要塞化した上に、移動も可能というスケールの大きすぎる移動拠点アヴァロン。その存在は委員会も知ってはいたが、場所を特定するまでには至っていない。マリアベルならばもしかしたら把握しているかもしれないが、それは無意味な詮索だ。

 

 ならば、狙うのならばIS学園しかない。実際に手駒にしたアメリカ軍は捨て駒も同然だが、それでもIS学園を物理的に消滅させればカレイドマテリアル社の計画は一時的にストップするはずだ。その間に再びISの規制を行い、動きを封じれば委員会の権力は磐石なものとなる。

 

 だから、IS学園を餌にカレイドマテリアル社の保有する戦力をおびき寄せたのだ。委員会の目的はカレイドマテリアル社の実行部隊セプテントリオンと殲滅とIS学園の破壊だった。

 

「そのあとは我々の直属部隊を送ればいいでしょう」

「ふふふ……なにもできなかったカレイド社を尻目に、我々が出張ればそれで流れも変わるでしょう」

 

 厄介なことに情報戦という分野において委員会もそれなりに優秀だった。もともと表向きは世界に認められた機関であるゆえに情報の扱い方を心得ていた。だからこそ、ある程度のことはもみ消せると思っていたし、実行部隊が消えたカレイドマテリアル社を抑えることができると信じていた。

 

「うまくいけば、ここで暴君も終わりでしょう。あとはあの魔女をゆっくりと……」

 

 当然のことながら、誰も気がついていなかった。いや、その可能性をはじめから除外していた。無意識のうちに逃避していたといていい。

 

 自分たちのこの計画は成功すると疑っていない愚者たちは、その杜撰さも迂闊さもわからぬまま暴挙を起こしてしまう。

 

 

 

 

――――――くすくす……。

 

 

 

 

 それも、魔女の掌の上であることを知らないままに。

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

「う、おおおおおォォォ―――ッッッ!!!」

 

 咆哮を上げながら吶喊。放たれたビームは羽衣のように身体の全周を覆っている龍鱗帝釈布で受け流し、操縦者である鈴の素の身体能力に物を言わせて凄まじい踏み込みにより正面にいた機体に瞬時に肉薄する。

 密着状態となったことでわずかに周囲の敵機からの砲撃が止まるが、道連れでも上出来だと判断したのか、すぐさまビーム砲の照準を定める。

 密着状態から即座に頭だけを破壊して無力化した鈴は、その機体を力づくで掲げて即席の盾として放たれたビームを防ぐ。膨大な熱量に融解しかけている無人機の残骸を投げ捨て、その勢いのままに持っていた双天牙月を投擲する。専用機クラスのスペックからみても明らかに異常ともいえる力で投げられた青龍刀が純粋なその大型武器ゆえの質量によって命中した敵機を粉砕した。しかし、短時間で酷使された双天牙月もまた同じように折れて破損して失ってしまう。

 無手になった隙を突くように背後から迫り来る敵機には回し蹴りで迎撃。同時に足裏から発射される衝撃砲の虎砲を至近距離から放ち吹き飛ばした。

 油断なく周囲を警戒しつつ、鈴は素早く自身のコンディションをチェックする。

 

 シールドエネルギーは既に残り半分を切っている。武装は片方の双天牙月を喪失し、残った二本目もたった今砕け散った。竜胆三節棍は健在だが、集中砲火の盾として利用した背後のアンロックユニットを破損しており、龍砲が使用不可。スペックだけで判断するなら戦闘力が半減しているような状態だった。

 だが、ここで退くどころか、さらに戦意を滾らせるのが凰鈴音という人間である。

 

「まだまだよ!」

 

 拳が握れればそれだけで戦える。一度戦いとなるとその精神も獣のように闘争の火が点くのが鈴だ。四肢そのものが武器である鈴にとって身体が動くうちは戦うことは絶対だ。敗北までの悪あがきだとしても、抗う人間にこそ勝機が訪れると知っている。

 再び踏み込む隙を伺いながら襲いかかってくる砲火を空を蹴りつつ回避する。

 やはり単機で陽動など無謀だったかと思うが、それでも鈴はどんな劣勢でも戦い抜くことを自らに課していた。半年前、無人機に襲撃された際には戦いの半ばで気絶し、結局目が覚めたのはすべてが終わった後だった。後始末をセプテントリオンに押し付けてしまったことを鈴は悔いていたし、そうしてしまった自分自身に怒ってもいた。だからこそ、今度は最後まで戦い抜く。その覚悟で鈴は最も危険な戦場へ飛び込み、最も危険な役目を請け負った。

 それは慢心でも過信でもなく、凰鈴音が感じた己の為すべき使命だった。

 

「ほらほら、もっとかかってきなさい! そんなんじゃあたしの首は獲れないわよ!」

 

 自身を追ってくる機体の圧力を感じながら、前を見据えれば十機が一斉に巨大な大砲を向けている姿が視認できた。幾度となくくぐり抜けてきた集中砲火であるが、さすがにあの数は厳しい。だが背後からも鈴を追って迫る機体が多数いる。退路がないのならこの拳で粉砕するまで、と鈴は無謀にも見える特攻を決意する。

 回避は必要最低限。龍鱗帝釈布を右腕へと集約して対ビームの盾として振るう。しかしそれでも敵機の壁は厚い。死神が少し囁くだけで敗北どころか即死してもおかしくない窮地に、しかし鈴は獰猛な笑みを崩さない。

 

「ふははっ、人形風情が、龍を狩れると思うんじゃないわよ!」

 

 鈴は転がっている無人機の残骸を掴むとなんとそのまま振り回した挙句に投げ放った。単純な質量兵器となった鉄塊はそれだけで恐ろしい破壊力になり得る。機能停止した敵の残骸すら利用する鈴の戦い方は荒々しく、原始的なものだったが利用できるならなんでも使えという師の教えを忠実に守っただけだ。これは試合ではない、相手を倒すためならなんでもやって当たり前だ。ちょうど機能停止した無人機という使いやすい鉄の塊があるのだから武器を失っている鈴は当然のようにこれを利用した。

 そして再び無人機を盾代わりにして強行突破を図ろうとする鈴だが、踏み込もうとする直前になにかに反応して足を止めた。この土壇場で足を止めた鈴にすぐさま襲いかかろうとする無人機たちであるが、そのタイミングを待っていたかのように側面から無数の銃撃を浴びてなすすべもなく沈黙していく。その乱入は鈴にとっても不意打ちだったが、動揺することなくすぐさま討ち漏らしを掃討しながら通信から響いてきた声に返答した。

 

『まだ生きているな?』

「来たわね……! でも遅かったんじゃない?」

『お前が無茶をしているんだ! 単機で吶喊など、正気か!』

「そのおかげで狙いやすくなったんでしょうが! 感謝しなさい!」

『感謝してやる! 説教もしてやるがな!』

 

 通信から怒っているような声が響き、それに応えるように鈴が目を向けると海上から急速に接近してくる機影が見えた。夜なのではっきりと姿形はわからないが、その激しいバーニア炎が暗闇を切り裂くように走っている。その先頭にいるのは鈴もよく見慣れた機体だ。特徴的な、まるで蝶の羽のように広がる青白い炎を噴かしながら凄まじい早さで飛翔する黒い機体が、手にしたビームマシンガンを周囲の機体と共に一斉に発射する。それらは鈴が陽動によって引き寄せていた無数の無人機に雨のように降りかかった。

 やがてIS学園へと接近すると、先頭にいた機体が先行するようにさらに速度を上げて戦場へと飛び込んでいく。そのまま密集地帯へと乱入し、そのスピードを活かしての攪乱を行う。わずかに遅れて乱入してきた他の機体も背部に装備されたブースターをパージして、同じように突然の乱入に迎撃態勢も取れていない敵陣へと切り込んでいく。

 高機動からの強襲の手並みが鮮やかだ。その機体特性を活かして、さらに連携もまったく問題ない。センスというよりは経験を積んで洗練されたその部隊の運用に、個としてなら最強格でも部隊連携が下手な鈴は素直に感心して賞賛していた。

 

「さすが元特殊部隊ね」

「馬鹿め、私たちは今でも現役だ、素人め」

 

 鈴を包囲していた無人機を斥力で弾き返しながら乱入してきたラウラが援護に入る。もう無茶を押し通す必要がなくなったのか、鈴も対処に慎重さが見られるようになった。

 

「まぁ、おまえの無茶な陽動のおかげでやりやすくなったのは確かだ。説教はあとにして、今は感謝だけしておいてやろう」

「アイズ以外には可愛くないわね。ま、こちらも助かったわ。さすがにあと少し遅かったらやばかったし」

「お前は冷静なくせになぜそう無茶をするんだ。まぁいい、今はこいつらを駆除するほうが先だ!」

 

 ラウラが切り札の一つであるクレイモアを能力で威力を上乗せして乱れ飛ばす。鈴の陽動によって固まっていたことが仇となって打ち出されたクレイモアが多くの無人機を捉えてダメージを与えていく。装甲がひしゃげ、動けなくなった機体をラウラが丁寧にその頭部を切り飛ばして無力化していく。

 

「よっし、これで算段ができたわ! ラウラ、あたしと組みなさい!」

「どうする気だ!?」

「アレを落とす! 援護、任せたわよ!」

 

 言うやいなや、鈴はラウラの返事を待たずに飛翔する。鈴が向かう先にいるのは、とてもISとは思えない、バカバカしいほどの巨躯を持つ大型無人機。ゆっくりと稼働し、動き出すその巨人に向かって駆ける鈴のあとをすぐさまラウラが追走する。

 

「そういえばおまえは戦闘経験があるんだったな?」

「まぁね。強化されてるみたいだけど特性は同じか、派生版でしょ。被弾が前提なのか、装甲はアホみたいに硬いわ。その分関節部が狙い目よ。脚部を破壊して動けなくしたところを機能不全に追い込む!」

「完全な撃破でなくても、行動規制して無力化すればいい、か。……いいだろう、援護してやる! シュバルツェ・ハーゼは周囲の露払いをしろ!」

 

 大人と子供どころか、腕だけで通常のIS以上の大きさがありそうな大型機に向かっていく鈴とラウラに気づいたように、大型機の頭部がゆっくりと振り向く。それだけで凄まじい威圧感が二人を襲うが、そんなもので気圧されるような二人ではない。

 周囲の無人機はシュバルツェ・ハーゼ隊が迎撃し、まるで鈴とラウラの道を作るように果敢に攻めて邪魔な無人機を駆逐する。混戦の中で、無人機の残骸と炎によって彩られた道を二機のISが飛翔する。

 

「その大きさじゃいい的ね! すべてを砕いてパーツに戻してやるわ!」

「あんな無粋なもの、これからの世界には必要ない! 私たちがこの場で消してやる!」

 

 このIS学園を脅かすものすべてを破壊する。

 

 その目的のために、鈴とラウラは現状もっとも脅威度が高い都市制圧用と思われる非常識なサイズの大型無人機へと強襲をかける。あんな大きさの機体など、そこにあるだけでIS学園を破壊しかねない。

 サイズ差を考えればそれだけでスペック差が歴然であるが、そんなことは知ったことではないというように、鈴とラウラは猛々しい雄叫びを上げながら突撃していった。

 

 

 

 

 

「さぁ喰らいなさい! すべてを砕くこの一撃をッ…………って硬ぁッ!!?」

 

 

 

 

 

 

 そしてバカ正直に真正面から殴りかかった鈴がその堅牢な装甲によってあっさりと弾き返された。それはさながら壁にぶつかって跳ねるボールのように面白いように跳ね飛ばされた。

 

「馬鹿なのかお前は!? さっき自分で言ったことを忘れたのか馬鹿!? この……馬鹿が!」

 

 当然、ラウラがそんな鈴を罵倒する。装甲が厚いから間接を狙えと鈴自身がいったのに相手のもっとも警戒するべき特性にぶつかるなど正気ではないと本気で呆れていた。

 

「馬鹿馬鹿うるさいわね、一度は試すもんでしょーが!」

「この脳筋が!」

「それはお師匠よ! あたしは頭脳派なのよ!」

「そんな冗談を言う暇があったら腕のひとつでももぎ取ってこいこの馬鹿が!」

「やってやるわよ! 援護よろしく!」

「言っておくが、質量差がありすぎて私の天衣無縫の効きも悪い。攪乱はするが防御はおまえがなんとかしろ!」

 

 ラウラがビームマシンガン【アンタレス】を斉射しつつ大型機の周囲を飛び回る。まるでハエを払うように大型機がその腕を振るうが、最速のISであるオーバー・ザ・クラウドにとってそんな攻撃は止まっているも同然だ。しかし、機体の各部に備えてある銃器による対空砲火が激しく容易に接近を許してはくれそうにない。

 実弾系の攻撃は天衣無縫の前に無力と化すが、ビームやレーザーまではこの能力では防げない。忌々しいことにそうした系統の火器も多く搭載しており、ラウラ単機では攻め手に欠ける。

 やはり、アタッカーとして鈴になんとかしてもらうしかない。一応、初撃で相手の装甲強度を確かめたことも納得はできる。単純な単機の破壊力が規格外の鈴と甲龍を援護するためにラウラが大型機の行動規制を試みる。

 強力無比な引力斥力操作もその相手との質量差があれば効きも悪くなり、この大型機でいえばあまりにもサイズが違いすぎて斥力で弾き飛ばすことも、引力で引き寄せることもできない。しかし、それでも行動阻害くらいなら効果はあるだろう。

 ひとまず狙いは全身に搭載された火器。そこから関節部を狙い少しづつ手足をもぎ取ってダルマにすればいい。ラウラは攻略手順をあらかた決めると本格的な超高速機動へと移行する。

 ヴォーダン・オージェがなければ制御どころか認識することすら至難となる速度域へと突入したラウラが攻撃する機会を伺う鈴を援護するように大型機に陽動を兼ねた攻撃を仕掛ける。

 

「今度は上手くやれ!」

「任せなさい!」

 

 本当にわかっているのか疑問に思ってしまうほど鈴の返事は喜色に満ちていた。リタと並んでセプテントリオン内で戦闘狂と言われる鈴は、己の拳で一撃で砕けなかった敵を前にして獰猛な笑みを浮かべて再び襲いかかった。

 

「さぁ、おまえもあたしたちの糧となれ! どんなものだろうと、あたしと甲龍の前に立ち塞がるやつはすべてこの拳で打ち砕く! そうでしょう、甲龍!!」

 

 鈴のその声に応えるかのように、甲龍の出力が跳ね上がる。鈴の意思に呼応するかのようにそのパワーを発揮していく甲龍が、操縦者であり相棒の鈴の力となるべくさらなる潜在能力を開花しはじめる。コアがまるで心臓のように胎動し、その鼓動が鈴の闘志をさらに燃え上がらせる。

 

「ここでまたひとつ殻を破ろうじゃない、相棒。さぁ、あたしと一緒にどこまでも駆け上がれ!」

 

 その拳を誇示するように掲げる。

 

 これこそが、【力】の具現だというように。

 

「さぁ甲龍! この拳で、最強を……“龍”を具現しろ!!」

 

 

 

 




正直に言ってこのチャプターが何話で書ききれるかわかりません(汗)

まずは鈴ちゃんとラウラのターンから。もちろん簡単に勝利なんてことにはならないし、横槍や乱入がどんどん起きていきます。

はやいとこアイズやセシリアも参戦させたいですが、中盤以降になりそうです。まだ序盤というのが少し恐ろしいですけど。

あとちゃんとシールやオータム先輩といった亡国機業も参戦します。こっちも大活躍する予定です。

ではまた次回に!

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