ステルスモードのまま、IS学園からやや離れた上空で待機して観測していたスターゲイザーも鈴たちの戦闘をすぐに察知していた。鈴は単機で、そしてリタと箒が組んでそれぞれが学園内にいる無人機を誘引しつつ海上へと誘導しながら戦闘を行っているようだ。
「隊長、合図です。派手に戦闘行動をしているようです」
「来たか。十中八九、鈴だな」
「二方向に誘引しての陽動……片方は単機で二十機以上を陽動しています。……既に五機を撃破。なるほど、魔窟と呼ばれるだけはあります。あれほどの戦果を単機で上げるとは……!」
「あれは例外といえる規格外だがな。まぁいい……私たちも動くぞ」
鈴から潜入して見つかれば派手に陽動を起こすと聞いていたラウラはすぐさま突入を決断する。そして別地点で待機しているシャルロットたちも動くだろう。
シャルロットたちの役目は敵艦隊からの増援のシャットアウトと、可能な限りそれらの艦を制圧、もしくは機能不全に追い込むこと。はっきりいってこれはかなり難易度が高いので最優先は増援のシャットアウトだ。砲撃制圧に特化したシャルロットを中心に高い砲撃力を持った面子を集めている。逆を言えばこれらの機体はIS学園では百パーセントのパフォーマンスを発揮できない機体だ。装備もすでに破壊力が高すぎて周囲の被害を考えないものを揃えている。ゆえに学園内では使用できない。流れ弾ひとつで校舎を壊滅させる危険があるからだ。
しかし、だからこそ海上の戦闘にそれらのすべてをつぎ込んだ。数でいえば圧倒的に不利だが、火力ですべてを跳ね返す心算だった。
なにより、対多数戦の切り札といえるシャルロットとシトリーを組ませている。この二人がいればたとえ戦力差が倍だとしても最低限の時間稼ぎはしてくれるはずだ。
そして、ラウラたちの役目は、そうしてシャルロットたちが戦って奪い取った“時間”内にIS学園内の敵勢力を一掃すること。求められるのは迅速な殲滅。だからこそ、機動力と連携に優れるシュバルツェ・ハーゼにこの任務が与えられた。
「ラウラさん、先に出ます。こちらはリタたちの援護に向かいます」
「わかった。主力への強襲は任せろ」
京をはじめとしたセプテントリオン隊が先にスターゲイザーから発進する。京たちの役目は先行して攪乱している鈴やリタたちの加勢しての攪乱だ。そしてタイミングをずらしてラウラたちがIS学園に展開している敵主戦力へ強襲をかける手筈となっている。
「……さて」
ラウラが振り返ると既に隊員たちが勢ぞろいして命令を待っていた。皆、策謀から捨て駒にされて危地にいたところを救われた者たちだ。全員がカレイドマテリアル社、そして無理を通してラウラの願いを叶えようと尽力したアイズに多大な恩を受けている。
「シュバルツェ・ハーゼは、一度死んだ」
突然口を開いたラウラに、しかし全員が戸惑うことなく耳を傾ける。
「私はVTシステム搭載の責任を負わされ処罰されるはずだった。そして皆も、くだらない策謀に巻き込まれ、謂れのない反逆罪を押し付けられ処分されるはずだった。………私たちは、結局誰かに利用されるために作られた部隊だったのだろう」
隊員たちが悔しそうに唇を噛み締める。今になって冷静に振り返れば、そうとしか思えない待遇だったことにそれが真実だったのだろうと思い知らされる。シュバルツェ・ハーゼは全員がヴォーダン・オージェの移植を受けており、隊長を務めていたラウラはシールの劣化量産型という側面を持ち、他の隊員たちも強化体ではないケースの移植例でしかなかったのだろう。結果的に強化体のラウラが最も真のヴォーダン・オージェに近づき、隊員たちもスペックの底上げがなされている。しかし、それは完成系ともいえるシールには遠く及ばない。
シールという完成された存在を量産するためのテストケース。それがシュバルツェ・ハーゼの本当の存在価値だった。
そんな部隊が不要になったのかはわからないが、結果的に最後は切り捨てられ、生贄にされたというのが真実だろう。軍人であること、そして最新鋭のISを使う特殊部隊だったことの誇りなど木っ端微塵に砕け散った。あまりにも滑稽な様に笑うしかないとすら思えたほどだ。
「――――だが、今は違う」
そんな絶望するかのような事態に打ちのめされつつも、それでも立ち上がれる希望は残っていた。ラウラが、いや、シュバルツェの全員が姉として慕うアイズが、そんな全員を受け入れてくれた。絶望から這い上がってきた“経験者”であるアイズの存在は、苦しんでいた隊員たちの精神的な支えになれた。
なにより、アイズはシュバルツェ・ハーゼを尊敬すると言った。利用されながらも、全員が諦めることなかった。そしてラウラも絶対に助けようとした姿を見て、そんな不屈の心を持って抗った部隊を素直に賞賛した。それは掛け値なしのアイズの本音だ。そしてラウラのときと同様に、ほとんど無理矢理に姉と呼び慕うようになっても、それを受け入れて笑いかけてくれる。それが、シュバルツェ・ハーゼにとってどれだけの救いになったのか、アイズ本人は気づいていないだろう。
だが、それはラウラたちが一番よくわかっている。
だからこそ、ラウラは、シュバルツェ・ハーゼはアイズ・ファミリアという少女に多大な恩がある。
「私たちは、私たちの意思で戦うことを選ぶ。大恩あるカレイド社、そして我々を受け入れてくれた姉様のため――――ああ、そうだな。はっきり言おう。私は、姉様のため。ただそれだけで戦える」
恩もある。借りもある。そして拾ってくれたカレイドマテリアル社のために戦うという理由も確かにある。だが、ラウラにとってそんなものより遥かに重要なものがはっきりと存在している。
アイズのために、この力を使いたい。ただそれだけでラウラはどんな戦場でも最後まで戦い抜ける。
「お前たちはどうだ?」
「隊長、確認するまでもありません。我ら全員、隊長と同じ気持ちです」
副隊長であるクラリッサがはっきりとそう即答する。他の隊員たちも頷いている。
「すべてを失い、途方に暮れるしかなかった我らを受け入れてくださった義姉上様のため、我らもどこまでも戦い抜く所存です」
「そうか。…………だが、勘違いするな。姉様はお優しい。私たちの犠牲の上での幸せなど、受け入れないだろう。姉様の幸せを願うのならば、誰一人死ぬことは許さん。諦めることも、屈することも許さん。それは姉様への侮辱だ」
自己犠牲は誰も救わない。自分たちの命も、そして敬愛する姉の心も、なにも救わないのだ。だからどんな任務であれ、帰還することを諦めることを許さない。ラウラは、そう言った。
「だから―――――全員、必ず生還しろ! 私たちはすべての敵を討ち果たし、必ず姉様のもとへ帰るということを忘れるな! 半数は直上から主力部隊に強襲をかける。クラリッサ、任せるぞ!」
「Ja」
「もう半数は私と来い。側面の海上からクラリッサたちと併せて仕掛ける! 殲滅戦だ、すべての敵機を破壊しろ! 遠慮はいらん、躊躇もいらん! さぁ、私たちが選んだ戦いに往くぞ!」
ラウラの激励に部隊の士気も高まっていく。全員の瞳は、隠しきれない戦意が激って炎となって宿っているかのようにギラつている。
戦意が高揚しているラウラたちがISを起動させる。
最速の称号を欲しいままにするオーバー・ザ・クラウドを纏うラウラ。そしてクラリッサや他の隊員たちもカレイドマテリアル社から支給されたフォクシィギアのカスタム機を展開する。全機が黒を基調としたラウラのISと配色を揃えており、さらに左肩には【眼帯をした兎】を模したエンブレムがペイントされている。
さらにそれだけでなく、隊員たちのISには追加装備として背部に巨大な推進ユニットが接続されている。使い捨てであるが、一時的にラウラのオーバー・ザ・クラウドに追随できる推進力を得られる強襲用追加ブースターだ。
「さぁ、新生したシュバルツェ・ハーゼの初陣だ! 全機、出るぞ! 我々の真の力を見せつけろ!」
『Ja wohl!!』
***
銀閃が走り、同時に鋼鉄の頭や腕が切り飛ばされる。
間合いに入ったが最期、瞬く間という表現が正しいとわかるほど、それは一瞬で敵を屠る。単純な速度の話なら俊敏性も最高速度もラウラに劣るが、それでもある一芸において最速といえるのはラウラではなかった。
攻撃速度。その一点においての最速はリタである。
単純な武器を構えてから攻撃に移行するまでにタイムラグなど無いに等しい。リタがIS学園に一時的とはいえ在籍していたとき、同じ近接型の一夏と飽きるほど戦ったが、そんな一夏はリタの攻撃をこう評価している。
『気がついたら斬られている』
リタが剣を振っている姿を見た者は稀だ。一夏の言うように、気がついたら振り切られていて、気がついたら斬られている。慣れれば一夏でも勘や予測からなんとか受け止めることができるようにはなったが、それでも見えないほど疾い斬撃は脅威だ。
本気になったリタの抜刀を“目視”で見切ったのはアイズだけだ。あとは戦闘勘に優れる鈴や、付き合いが長く癖がわかっている京くらいが回避可能といったところだろう。あのセシリアでもリタの間合いには絶対に入ろうとしない。
射撃や戦略眼といったものが決定的に欠如しているリタであるが、そんな欠点を差し引いてもセプテントリオンの一員でいられるのはこの特化しすぎている接近戦の技量があればこそだ。
そして束が与えた切断力に優れた抜刀式ブレード【ムラマサ】がまさに鬼に金棒といえる性能を引き出している。
真正面からやりあえばアイズや鈴も手こずるレベルの一閃を機械程度が回避できる道理がなかった。
「柔らかい、柔らかいッ、柔らかいッ!!」
斬り甲斐がないと言わんばかりに次々と剣を振るう。まるで豆腐でも切っているように抵抗すら見せずに鋼鉄製の装甲を滑らかに両断していくリタの顔はまさに喜色満面といえる笑みを見せていた。
そしてまた一閃すると同時に側面から近づいてきた無人機を真っ二つに切断、その早さに反比例するようにゆっくりと納刀するリタは次の獲物を探すように視線を巡らせる。
しかし、そんな彼女の背後では片腕と片足を切り飛ばされながら未だに機能不全に陥らずに武器を構える機体がいた。リタは気づいているのかいないのか、まったく振り向こうとする素振りを見せない。そうしてビーム砲の砲身を動かそうとするが、それが発射される前に再び一太刀を受けて今度こそ沈黙する。
「荒っぽいぞリタ! 確実にトドメを刺せ!」
仕留めたのはリタの後方から追走していた箒だった。箒は斬撃を飛ばすことを可能とする中距離用のブレードである空裂を手にリタの援護に回っている。前衛を務めるリタを狙う無人機に対して空裂による斬撃を飛ばして牽制、そしてリタの討ち漏らしを確実に機能停止に追い込んでいく。リタのような派手さはないが、堅実な動きで撃破に貢献している。
「そういうのはホーキに任せるよ」
「まったく、お調子者め」
「もっと調子に乗らせてもらおっか。さぁホーキ、レッツ斬! 斬れば解決!」
「マイブームなのか、それはっ!?」
こんな状況でも相も変わらずにマイペースによくわからない言葉を口走るリタに呆れながらも箒は必至に剣を振るう。リタ達が学園に在籍していたときに無理を言って何度も模擬戦を繰り返していたために箒の経験も確実に積み重ねてきている。実戦らしい実戦は今回が初とはいえ、思った以上に善戦していると言っていいだろう。
ちなみに箒の模擬戦にもっとも付き合っていたのはリタであり、互いの癖や傾向もある程度知っているためにリタと箒という異色とも思えるタッグも予想以上に機能している。箒も他の面々と比べれば最弱は間違いないが、それでも束との和解以来努力してきただけあって標準以上の操縦技術を身につけている。修羅場に強いのか、実戦でも今までの訓練通りの動きができていたために多勢を相手にしながらもなんとか食らいついていた。
ひたすらに基本を繰り返していた箒には鈴やリタのようなド派手な接近戦はできないしセシリアやシャルロットのような後方援護もできない。しかし、堅実なその働きは前衛のリタの無茶な吶喊を支えている。
「しかし、いつもながらなんてむちゃくちゃな剣捌きだ……よくあれで戦えるものだ」
箒からすれば目の前で暴れているリタの剣技は曲芸のように見えてしまう。アイズの戦いも常識外れだったが、リタのそれは剣道をやっていた箒から見ても完全に邪道といえる剣だった。
基本戦術は抜刀術による一撃離脱。そもそも疾走しながら居合という時点で常識外なのだが、通常左から右へと振るう剣筋となる抜刀を自由自在に、どこからでも放つことができるのがリタだ。真上に抜刀したり逆手で行ったりと、剣に通じている者ほどその邪剣に驚くだろう。しかもISだからこそ可能な動きも多く、リタも鈴と同じくISであることを活かして戦う術を模索しながら作り上げた我流だろう。箒もはじめて戦ったときはその自由奔放過ぎる剣に一矢報いることすらできずに斬り捨てられたほどだ。
そうしているうちにリタが囲まれながらも脚部のローラーを使い回転しつつ抜刀による一閃で周囲を薙ぎ払う。その討ち漏らしを箒が追撃して確実に戦闘不能へと追い込む。
「さすがホーキ、安心して後始末を任せられるよ」
「間違っていないが、その言い方はやめろ! ……ッ!? リタ、下がれ!」
「おっとぉ」
戦場が正面入口前の広場へと移ったところで多方向からビーム砲による砲撃が放たれた。敵も馬鹿ではないようであらかじめここで待ち伏せしていたようだ。集中砲火を浴びれば戦闘不能になるどころか木っ端微塵になりそうなほどの大火力の砲撃を受けながらもリタは言われたとおりに箒の後ろへと下がる。
盾になるように前に出た箒は機体に備えてある防御機能を最大で発揮させる。全身の装甲が稼働展開し、そこから激しく光る粒子が放出される。その粒子が渦巻くように周囲へと散布される。急激に周囲にばらまかれた光の粒子は敵から放たれたビームを絡め取ると、ビームそのものに干渉して収束された荷電粒子を拡散させ、ビームを強制的に歪曲させる。
流動粒子装甲による熱量の拡散――――オーロラ・カーテンによるものだった。
「まったく、肝が冷えたぞ……!」
この機能が搭載されているとはいえ、さすがに集中砲火に身を晒すのは恐ろしい。ほとんど初の実戦といっていい箒は想定通りに効力を発揮できたことで安堵の息を吐いた。
「次は撃たせないっ!」
「っ!? また無用心に突撃を……!」
「ホーキの援護があればいける! 防ぐ暇があれば斬ったほうが早いッ!」
「それはおまえだけだ!」
そう言いつつも箒はしっかりと空裂でリタの突撃を援護する。そしてその援護を受けたリタが微塵も躊躇せずに敵機集団のど真ん中へと吶喊する。無謀ともいえる行動だが、リタの狙いはある意味正しい。ラウラたち学園制圧チームが来る前に出来る限りこうした大火力を持つ機体は減らしておきたい。そうすればその分ラウラたちの突入を援護できる。
もっとも、リタはそんな細かいことは考えてなどいなかった。ただ脅威度が高そうな機体を優先的に狙っていただけだ。
「まったく、セプテントリオンというのは規格外しかいないのかっ! 援護するのも一苦労だぞ!」
「信頼だよ、信頼。背中任せるよ?」
「ええい、こんなときだけそんな言葉をっ!」
基本に忠実な正道の剣ととにかく実戦向きに特化した邪道の剣のコンビは少しづつではあるが確実に無人機の数を減らしていた。
「次から次へと! まったく数が減らないな!」
「とことん斬る! 斬ることだけ考える!」
「頼もしいのか、心配なのかわからんが……行け! こうなれば最後まで付き合ってやる! 好きなだけ斬ってこい!」
「そんなこと言ってくれるのはホーキくらいだよ! 好きになりそう!」
「黙って斬れ! 敵は目の前だぞ!」
左方向から近づいてくる機体に対し、リタが剣を左手に、しかも逆手に持ち構える。鞘を背中へと回し、ISの可動範囲を最大限に活かしての背面からの抜刀を行う。今回は正確に真っ二つにしたために箒が援護する必要はなかったが、それでもあんな曲芸のような抜刀ばかり見せられて箒の精神もいろいろストレスが溜まりそうだった。しかし、同時に邪道でも魅せられる剣技に知らずに箒もその戦意を高揚させていた。
はじめは自身の実力不足を自覚し、堅実に動いていた箒も次第に積極的に剣を振るうようになる。実戦に勝る経験はないことを証明するように、訓練のとき以上に良い動きをする箒にリタも満足そうに賞賛する。
「やるじゃん。やっぱホーキ、けっこう強いね。これなら……」
しかし、個々の戦力の調子の善し悪しで戦況が変わるほど温い戦場ではない。徐々に蓄積されていくダメージを頭の隅に置きながら、それでも全力戦闘を継続する。確かに今は優勢といえるが、それでも少しづつ数に押されてきていることもわかっていた。
「やられる前に、それなりに戦力は削れそうかな」
そう呟き、剣を振るう。戦闘狂のリタでも数の暴力には勝てないということは理解している。だからラウラたちが来るまで耐えられればいいと半ば割り切ってあとのことなど考えずに全力で戦っている。
今は、それしかないのだと思いながら。
***
同時刻、鈴たちの戦闘行動と共に、海上で待機していた敵艦隊も動きを見せる。おそらくはラウラたち別働隊の動きも察知したのだろう。予備戦力と思しき戦力を次々と発進させていた。
有人機は見当たらないが、無人機だけでも通常型だけでなく特化した改造機と思しき機体も確認できる。
このままではラウラたちが突入しても今現在学園内にいる戦力と挟撃されてしまっていただろう。もしそうなればいくらラウラたちでも敗北は必至だった。
―――チャンバー内、圧力正常加圧。最終セーフティ解除――――――発射。
しかし、編隊を組みながら進撃するその無人機群を側面から放たれたビームがなぎ払った。
広範囲、かつ高密度に放たれたビームの掃射によって陣形は壊滅状態、無傷の機体などたまたま友軍機が盾となったなど運が良かった数体だけという有様だ。ほとんど全滅に近い様相となったそこへさらなる追撃が襲いかかる。同じく高火力のビームやレーザー、実弾による狙撃によって正確に機能停止していない機体を狙い撃ちにする。
そんな光景を見ながら、海岸沿いの崖上から砲撃を放ったシャルロットはゆっくりと赤熱して融解したミルキーウェイの砲身をパージして破棄する。フルドライブ状態だったウェポンジェネレーターをニュートラルへと戻し、即座に放熱を行いながら素早く乱戦に適した装備へと移行させる。
これでしばらくはカタストロフィ級兵装は使えないが、おそらくもう使うような隙すらないだろう。開戦の合図変わりに放ったミルキーウェイが最大効果を発揮したことに満足してシャルロットはほっと安堵する。
「まず初手の奇襲は完璧だね」
「本番はここからだよ。あの規模の艦隊戦力がこんなものじゃないだろうし」
観測手としてシャルロットの補佐をしていたシトリーが笑顔で告げてくる。確かに初手は完璧だ。唯一カタストロフィ級兵装を使える好機を活かせたのは大きいだろう。しかし、当然敵の持つ戦力があの程度であるはずがない。質はともかく、量は圧倒的に負けているのだから。
それがわかっているからこそ、全員の顔には油断も慢心もなかった。
「これでこちらにも気づかれましたね……。防衛線を展開しつつ、IS学園への増援をシャットアウトします。シャルロット、シトリーを中心に迎撃を。私は空の、レオンは海のフォローに回ります。イチカくんはとにかく暴れて攪乱をお願いします」
「了解」
「任せろ」
そしてここからは海上を戦場にしての乱戦となる。その危険もわかっている面々がアレッタの言葉を聞き表情を引き締めた。一夏も既に白式に支援ユニットである白兎馬を近接格闘形態にして纏っており、追加装甲とリアクティブアーマーによって防御力を上げている。時間制限付きであるが、この形態の一夏を止めることはどれほどの火力を叩きつけても難しいだろう。
しかし、そんな一夏も役目は前線の攪乱だ。多数を相手取れるとはいえ、広範囲に展開された無人機をすべて撃破することは難しい。しかし、それは一夏の役目ではない。
「シトリー、【カノープス】の使用を許可します。あなたとシャルロットがこの作戦の鍵です。頼みますよ」
「やっと私の出番だね」
シトリーが意気揚々と頷く。これまで使いどころが難しく温存していた専用装備の解禁となって気合も入っているようだ。そしてそれはシトリーだけでなく全員がこの役目の重要性を認識して戦意を高ぶらせている。
ここを突破されればラウラや鈴たちを窮地に陥れてしまう危険が高いが、逆にここを抑え、制圧できれば敵のほうを孤立させることができる。IS学園から距離を置いたこの海上での戦いこそが、IS学園解放作戦の要ともいえる。
この場の指揮を任されているアレッタの指示通りに、各々が最大戦力を展開しつつ戦闘行動へと移行していく。
「お嬢様たちが戻ってきたとき、醜態など晒せません。各自の健闘を期待します。……作戦開始!」
アレッタは先の倍以上の数を展開する無人機を確認しながら、少しも気後れすることなく砲撃と共にそう宣言した。
シャルロットとシトリーを基点として高火力兵装で固めた隊員たちが防衛網を展開する。オーダーは単純だ。この先に一機足りとも通さない。迫り来る自分たちを遥かに凌駕するその物量を見ながらも、全員が猛々しく、躊躇いなくトリガーを引いた。
「IS学園を好きなようにはさせない! さぁ、ここから先は通さないよ!」
重火器を多重展開して砲撃を放つシャルロットが叫ぶ。その隣ではシトリーもレールガンを放ちつつ、背部ユニットに備えてある専用装備の展開準備を行っている。
一夏も白兎馬を駆り、その高い防御力に物を言わせて勇猛果敢に吶喊を試みている。
そしてそれらセプテントリオンすべての戦力を飲み込むかのように空を埋めるほどの大群で襲いかかってくる無人機に対し、持てる限りの火力を叩き込んでいく。
当然、敵もやられるだけではない。お返しとばかりに同じ高威力のビームやミサイルが放たれ、夜の海上を爆炎によって照らしていく。そんな中で、最後方に位置した二機……シャルロットとシトリーがゆっくりと動き出した。
「そろそろかな」
「頼むよ、シトリー」
「お任せ。……カノープス展開開始」
シトリー専用フォクシィギアの背部に備えてあったコンテナから無数の球体状のものが放出される。それらひとつひとつがまるでビットのように単独で浮遊しており、それらはシトリーの意思の下に統率され、ゆっくりと広範囲に散布されていく。
それらがやがて戦闘区域を埋め尽くすほどに展開されたことを確認したシトリーはシャルロットに目線で合図を送る。それに頷いたシャルロットが全機に向けて通信を開いた。
「全機へ通達。迎撃シフト展開完了。誘爆に注意せよ。前衛の機体はうまく利用せよ」
通信から了解を告げる返答が響き、これですべての迎撃準備が整った。あとはひたすらに目の前の敵機を屠るだけだ。
ウェポンジェネレーターの出力を上げ、シャルロットも戦闘稼働のレベルをさらに上げる。
「やろうか、シトリー」
「カノープス、全機起動。準備オッケー」
シャルロットは展開していたレールガンを粒子変換してストレージへと戻し、代わりに徹甲レーザーガトリング砲【フレアⅡ】を四門同時に展開。レーザーによる弾幕に特化した装備へとシフトする。
「さぁ、火力特化のこの機体の真価を見せてあげる! ジェネレーター、フルドライブ! くらえェッ!!」
四つのガトリングが火を噴き、戦場をさらなる炎で彩っていく。
解放作戦は、互いの戦力が衝突する総力戦へと移行していった。
本格的に戦闘が開始されます。ここから幾度も乱入、介入が行われます。誰がいつ来るかは今後のお楽しみです。
最近はだんだん寒くなってきました。先日久しぶりに風邪で寝込みました。季節の変わり目は油断できませんね、皆様もお気を付けください。
それではまた次回に!