双星の雫   作:千両花火

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Act.96 「雫の暴威」

(専用機持ちが四人…………さすがに厳しいですね)

 

 四機のISに囲まれながらも、セシリアはあくまで冷静に思考を巡らせる。

 完全に包囲された今、撤退も難しい。それに仮に撤退しても好転するかと言われればそれも難しい。おそらくセシリアが逃げれば、この四機はセプテントリオンの保護対象であるシュバルツェ・ハーゼを殲滅しようとするだろう。そうなればたとえ戦術的に勝っても戦略的に敗北だ。だからここで退くことはできなかった。少なくとも、時間稼ぎは絶対に必要だ。

 そう判断したセシリアは即座に戦力分析を行う。敵はエース級が四人。これまでの交戦データから、あらかたの戦い方や機体特性は把握している。

 

 近距離の格闘戦に特化しているアラクネ・イオス。遠距離からの射撃戦を得意とし、偏向射撃とビットを持つサイレント・ゼフィルスⅡ。驚異的なステルス性能と光学迷彩で奇襲を仕掛けてくるトリック・ジョーカー。そして近・中距離において圧倒的な戦闘能力を誇るパール・ヴァルキュリア。

 小隊として見てもこの四機の相性もかなりいいとわかる。

 セプテントリオンで例えるなら、近接に鈴の甲龍、後方援護にセシリアのブルーティアーズtype-Ⅲ、質は違うが攪乱・牽制役にラウラのオーバー・ザ・クラウド。そしてどんな戦況にも即座に対応できるアイズのレッドティアーズtype-Ⅲ。この四人の小隊を相手にするようなものだろう。セシリアは自分で考えた仮想敵に目眩がするかと思った。それは間違いなくセプテントリオン最強の小隊だ。もしここにシャルロットのラファール・リヴァイブtype.R.C.のような砲撃制圧まで加わっていたらそれこそ手がつけられなかっただろう。

 

(とはいえ、…………突破口がないわけではありません)

 

 ここで狙われたのが自分でよかった、とセシリアは安堵する。他の誰でもない、セシリアなら、セシリアとブルーティアーズtype-Ⅲなら、他のどの機体と操縦者よりも対多数戦能力を備えている。全十機の独立誘導兵器、多種多彩な射撃、砲撃兵装、そして様々な戦術展開を可能とするビットの特殊機能。これらをすべて十全に使えば、まだ対抗策はある。

 

 そして、それはセシリア・オルコットが統べることでその潜在能力を完全に開放する。

 セシリアの戦意がまるで衰えないところを見たオータムが嘲笑するように口を出す。

 

 

「やる気かよ、この戦力差で?」

「諦める理由がありませんわ」

「無駄なことを。さっさと投降すればよいものを」

「………どうやら、過剰評価しているようですね」

 

 オータムとマドカの勧告をため息とともに一蹴する。そんな、やれやれと呆れたようなセシリアの態度を虚勢と思ったのか、威嚇するように武器を向ける。しかし、セシリアはただ冷たくそんな様子を見返すだけだ。

 

「確かに四機がかりなんて趣味じゃねぇが、こっちも仕事でな。悪いことは言わねぇ、諦めな」

「ふふっ」

「あ? なにがおかしいんだ?」

「いえ、そういう意味じゃありませんの。私を過剰評価しているのではなく、………あなたたちは、自分たちを過剰評価しているようですね」

「……なんだと?」

 

 不穏な空気となる中でも、セシリアは変わらずに絵画にでも描かれるような優雅な微笑みを携え、手に持つスターライトMkⅣを掲げながら言った。

 

「四機がかりなら私を倒せる程度には自分たちは強いと――――そう思っているのでしょう? 舐められたものです。そのように私を過小評価しているなんて」

 

 くすくすと優雅に、しかし明らかに四人を嘲笑う笑みを隠さずに見せるセシリアに、オータムとマドカが激昂する。

 

「貴様……ッ!」

「てめぇ、よほど死にたいらしいなぁッ!?」

 

 あっさりと挑発に乗った二人と違い、シールとクロエはまったく表情を変えていない。セシリアもはじめから期待はしていなかったが、やはりこのような方法では揺ぎもしないようだ。それでも二人を怒らせただけ儲けものだった。怒りは冷静な思考を奪い、そして数の有利があることは慢心に繋がる。ほんのわずかでもそれを引き出せれば、その分セシリアには有利に働く。

 

「あなたたちは口喧嘩でもしに来たのですか? ……さっさとかかってきてくださいよ、こちらも暇ではないんです」

 

 その言葉でマドカとオータムが弾かれたように飛び出す。あっさりと我慢の限界を超えたようだ。向かってくる二機を視認しつつ、セシリアも戦闘機動へと移行。即座に空へと飛翔すると同時にビットを四機パージする。

 

「相手をしてさしあげましょう」

「ほざけッ!!」

 

 オータムがビットのレーザー射撃を掻い潜ってセシリアに接近する。アラクネ・イオスの凶悪なステークがセシリアめがけて振るわれる。セシリアは回避しようとする素振りすら見せない。

 しかし、命中すると思われた矢先になにかがステークの前へ現れ、激しい音を立てながらもそれを完璧に受け止めてしまう。

 

「なにぃ!?」

 

 受け止めたのはシールドを展開した特殊ビット【イージスビット】であった。高い貫通力を持つステークですらあっさりと受け止められたことでオータムの動きが一瞬止まる。そしてその隙を逃すセシリアではない。

 左手に持っていた近接銃槍ベネトナシュを手の内で器用にクルリと回転させながら弾丸をリロード。硬直しているアラクネ・イオスへ向けてほぼ密着状態からショットガンを放った。

 

「ガあッッ……!?」

 

 たまらず吹き飛ばされるオータムに追撃をしようとライフルを向けるも、別方向から放たれたレーザーによって中断を余儀なくされる。次に攻撃を仕掛けてきたのはマドカのサイレントゼフィルスⅡだ。今度は一転して射撃戦を行うために両手でしっかりライフルを構えて狙撃体勢を取りながら距離を保つ。

 

「くらえっ!!」

 

 マドカがレーザーライフルを連射。そのうちの半数が偏向射撃だ。屈折してセシリアをオールレンジからレーザーが狙う。さらにブルーティアーズと同型機のため、当然搭載している四機のビットによるレーザーも追撃として放ってくる。偏向射撃とビットのオールレンジ射撃を併用する技術に素直に関心しつつも、それでもセシリアは余裕を崩さない。確実に当たるものはイージスビットで防ぎ、かすめる程度のものはすべて無視する。さすがに偏向射撃とビット射撃の併用は命中率がガクンと落ちているようだ。

 その程度の腕で落とせるほど、セシリアは甘くない。

 

「微温い。ビットとレーザーはこう使うのです」

 

 セシリアも同数の四機のビットとレーザーライフルによる応戦を行う。マドカが同型機による撃ち合いかと気を入れるも、次の瞬間にはその光景を見て驚愕に目を見開いた。

 

 四つのビットから放たれたレーザーすべてが、マドカの上下左右の四方向から多角的に襲いかかってくる。そのレーザーの一瞬の軌跡には、複数回屈折したとわかる軌道を描いていた。ビット射撃による複数同時偏向射撃<マルチフレキシブル>。しかもひとつひとつがすべて最適なタイミングと角度で屈折していることから、複数統合制御ではなく、複数同時制御によるマドカのものよりもひとつもふたつも格上のオールレンジ射撃だった。

 慌てて回避しようとするも、回避する方向へ曲がってくるレーザーを完全に躱せずに半数を被弾してしまう。そして動きの止まったその瞬間、本命の一射が待ち構えていた。

 

「もっとも、偏向射撃など私からすれば、ただの曲芸ですわ」

 

 射線が通れば即直撃が狙えるセシリアからしてみればわざわざ曲げて狙うよりそのまま撃ったほうが効率的ではあるが、同然この手の技術も嗜みとして習得している。このような技術に頼る必要などないが、それでもセシリアが使えばそれは容易に魔弾と化す。

 

「落ちなさい――――Trigger!」

 

 そして本命の極光の矢がマドカへと迫る。ビットによる偏向射撃に動揺しているマドカは回避することができない。タイミングも射線も完璧。間違いなく必中の一射だ。

 

 しかし。

 

 

「気を緩めすぎです、先輩方」

 

 あっさりとレーザー射線に割り込んだシールが左手のチャクラムシールドで必中だったはずのレーザーを軽く弾きマドカへの直撃を強制的に屈折させる。これにはさすがのセシリアもわずかに目を見開いて驚きを見せた。

 レーザー狙撃に割り込むということはセシリアがトリガーを引く前には既に射線を見切っていたということだ。そしてただ回避するのではなく、的確な対処を間に合わせる思考速度。ヴォーダン・オージェの脅威をまざまざと見せつけられた。

 

「オータム先輩も、いつまで頭に血が上っているのですか?」

「ってぇ…………くそが、まぁ、おかげで頭は冷えたよ」

 

 倒れていたオータムがムクリと起き上がる。アラクネ・イオスにはダメージが見られるが、思ったより損傷は低いようだ。その動きは対して鈍っていない。

 

 

(―――大した効果もナシ、ですか。できれば今ので一機は落としたかったですが……)

 

 

 以前に増して強化してあるのか、アラクネ・イオスの装甲強度も上がっているようだ。そして必中のはずの狙撃もシールによって妨害された。結果、初手では圧倒したものの、大した戦果は上げられていない。

 舌打ちでもしたくなるが、表面上はあくまで冷静に見せる。そんなセシリアをシールがじっと見つめていたが、やがて呟くように口を開いた。

 

「セシリア・オルコット――――さすがはサラブレッドといったところですか」

「……? なにを言っていますの?」

「こちらの話ですよ。わかっていたことですが、あの人の血筋が相手なら――――私も本気にならなければなりませんね」

「……!」

 

 本格的な戦闘態勢へ移行したシールにセシリアも警戒を強める。それだけでなく、オータムやマドカも先程と違い冷静になったようでしっかり間合い取りながら包囲している。そしてあと一人……高いステルス性能を持つクロエの姿がいつの間にか消えている。注意を逸らしたつもりはなかったが、シールの行動に気を取られた一瞬で消えられたようだ。

 

「アイズよりも強い。そのつもりで対処させていただきます」

「ッ……!」

 

 ウイングユニットを広げ、突撃してくるシールに対し、セシリアは全てのビットをパージして周囲に配置する。ビット全機を使った全力戦闘へ移行する。ヴォーダン・オージェを相手に狙撃は通用しない。それを理解しているセシリアは全ビットを使って速射レーザーによる弾幕を形成する。しかし、そのレーザーの雨ともいうべき中をシールはアクロバットな機動で潜り抜ける。

 

「あなたの主戦法はビットを使っての牽制の後、高火力の銃器で仕留めるものでしょう? 残念ですが、私には通用しません」

「それだけだと思われるのは心外ですわ!」

 

 四機のビットを直衛に、そして残り全てのビットを広域に展開。直衛にしたビットのうち二機は防御の要となるイージスビットである。既にシールド形態を維持しながらレーザー射撃は行わず、セシリアを守るように控えている。残る二機は左右に位置取りして掃射モードでレーザーを連射。たとえ当たらなくても牽制になればいいという割り切りでとにかく目の前に迫る機体に向けて撃ち続けている。

 距離を離してスナイプビットが狙撃の機会を伺い、広域に展開したジャミングビットによって敵機の電子装備を阻害する。さらにステルスビットがその姿を光学迷彩とステルス機能によって姿を消して虎視眈々と好機を伺いながら周囲を旋回している。

 本機であるセシリアも右手にスターライトMkⅣ、左手に近接銃槍ベネトナシュを構える。セシリアが持てる全力を発揮する武装を最大展開した姿だった。

 

「……………」

 

 シールは冷静にセシリアと展開されているビットを視界に収める。視界に入れるということは、それだけで分析する行為に直結する。

 頭を冷やしたオータムとマドカ、そして再び姿を消したクロエの三人が今度はちゃんと連携をしながら仕掛ける様子をシールはじっと観察する。

 

 セシリアの技量も高いが、展開されているビット群にも隙らしい隙がない。何度か攻め立ててみるも、近接レンジはイージスビットで防ぎつつ近距離からスピアとショットガンで狙い撃ち。距離を離せば容赦なくピンポイントで狙撃される。逆にこちらからの遠距離射撃はジャミングビットでサイティングが阻害されて命中率が低下させられている。強引に特攻しようとしても、姿を消しているステルスビットの存在がそれを躊躇わさせる。

 恐ろしいまでの戦闘能力だ。集団戦として高い能力を発揮しているのに、これらすべてが個の力によるものということが恐ろしい。

 

(しかし、こいつは―――!)

 

 誰よりも分析力のあるシールだからこそ、それに気付く。気づいてしまえば、その事実はシールでさえも驚愕を感じざるを得ない。

 ワンマンアーミーとも言える対多数戦に長けた機体を完璧に制御するセシリア。しかし、冷静に考えてみて欲しい。それぞれ各個が独立して思考制御されたビットが十機。それらすべてを操りつつ、本機であるセシリア自身も十全に動いている。これだけで少なくとも、十一ものマルチタスクを行っていることになる。それだけで人間とは思えない脳をしているが、シールが真に戦慄しているのは、本当はそれより遥かに多くの思考を行い、完全に並列思考を制御している精神だった。

 

「ぐっ、くそがっ……ッ!!」

「なぜ、なぜ当たらない……!!」

 

 マドカとオータムが悪態を吐きながら焦りを露にしている。そしてそれは姿を消して奇襲を繰り返しているクロエも同様だろう。

 接近戦も遠距離からの狙撃も、果ては奇襲さえもセシリアには通用していない。

 

「戦場で考え事ですか?」

 

 わずかに動きを止めていたシール目掛けて三方向からレーザーが狙ってくる。思考の隙を突かれた形となったが、シールは揺ぎもせずにその全てを回避する。絶対的ともいえるその反応速度はどんな状況でも後出しで対処を間に合わさせる。

 

「あまりにも遅いので、ついね」

 

 皮肉を返すシールに、セシリアも冷笑して応える。

 当たり前のことだが、反応速度はヴォーダン・オージェを持つシールのほうが圧倒的に速い。セシリアの反応速度はいいとこクロエと同等程度だろう。それでも十分に速いと言えるが、アイズと比べても格段に劣る。

 

 しかし――――。

 

 

 

(こいつは……いったい“いくつの思考を行っている”……!?)

 

 

 

 反応速度で劣るはずのセシリアがシールを含めたエース級四人を同時に相手にして互角に戦えている理由は、その思考能力に依るものだ。反応速度で追いつかない分、あらゆる可能性を考慮してその都度対処法を選別している。

 つまり、ある程度各機の行動パターンを予測し、それらすべてに対処法を用意している。そして状況によって用意していた対応を即座に行うことで反応速度と数の不利を補っているのだ。

 シールが見た限りでも、一機につき、四つから五つの行動パターンを予測し、さらに連携パターンを派生させて戦術予測を行っている。そうして十機のビットを最適に使役に、さらにセシリア自身も常に動きを止めずに戦闘行動を維持する。そうとしか思えないほどにセシリアの対処行動には澱みがない。おそらく並列思考をしている数は三十や四十に届くだろう。

 

 反応速度でおいつかないのなら予測の数でそれを覆す。

 

 どう考えても、まともな人間ができる芸当ではない。ナノマシンによって強化された脳を持つシールでさえ不可能な領域だ。

 

 

 

(化け物ですね―――――さすがはあの人の娘、ですか)

 

 

 

 その脅威をシールは認める。四人掛かりで襲え、という指示もわかる。

 しかし、それで負けるつもりはシールには一切なかった。

 

「クロエ」

「はい、姉さん」

 

 声をかけるとすぐにシールのそばへクロエが姿を現す。クロエの奇襲も全周警戒をしているセシリアの防御を抜けるまではいかなかった。邂逅時は不意を打ったから接近できたが、おそらくはクロエのステルスも完全ではなくてもある程度は把握しているだろう。

 

「私が前衛を務めます。クロエは――――を狙いなさい」

「はい」

 

 再び仮面を被り、溶けるように姿を消したクロエを見送ったあと、シールははじめて完全な戦闘態勢へとシフトする。それを察知したセシリアも鋭い視線を向けてシールを睨んでくる。

 ウイングユニットを開放、より鋭く、大きく広がる翼を羽ばたかせたシールがセシリアの敷く防衛ラインへ突入する。

 初手の四つのレーザーによる迎撃を細剣とチャクラムシールドで弾き落とす。しかし、背後から時間差で放たれたステルスビットが襲いかかる。距離を詰めた上でレーザーの連射を浴びせる。当然のように察知したシールは背後に向かってウイングユニット【スヴァンフヴィート】による高エネルギーを放出、それを盾にして屈折させる。

 

「落ちなさい」

 

 反撃とばかりに群体式ビット【ランドグリーズル】をパージ。無数の小型ビットがセシリア目掛けて猛スピードで襲いかかる。

 これにはセシリアもわずかに焦った表情を見せる。セシリアの防御は確かに鉄壁といえたが、正確な狙撃とピンポイントの防御で成立している防御網は、しかし無数の小型ビットを全て撃ち落とすことは不可能だ。

 

「ちぃっ……!」

 

 ビット全てを使ったレーザー射撃とショットガンを用いて迎撃する。しかし、それでも足りない。セシリアの迎撃を抜けたいくつがその獰猛な牙をブルーティアーズへと突き立てた。装甲が削り取られながらも、それでもセシリアは致命傷は避けて引き金を引き続ける。

 だが、今度はシールが正面から突貫してくる。その巨大な翼を盾としながら生半可な迎撃では揺ぎもせずにセシリアを近接レンジに捉える。そして即座に細剣がセシリア目掛けて振るわれた。

 

「くっ……」

 

 ベネトナシュで危なげながらにもそれを受け止める。セシリアとて近接戦の訓練を怠ったことはないが、それでもアイズや鈴と比べればその練度は格段に劣る。そしてそんなアイズとほぼ互角に戦うシールが相手ではこの密着した距離は不利でしかない。それでも最後まで崩れないセシリアは流石といえたが、それでもシールに押されていることには変わりない。

 

 だから、とうとう隙を見せてしまう。

 

「………ッ!?」

 

 セシリアは戦いながら、ビットのリンクが途絶えたことを感じた。破壊されたのはステルスビットとスナイプビットの二機だ。視線を向ける余裕もないセシリアはもう一機のスナイプビットの視界幇助機能を介して状況を確認する。

 破壊したのはクロエとマドカの二人だ。セシリアがシールと戦っているために生まれた思考の隙を突かれた。ビットに回避行動を取らせることすらできなかった。

 

「ステルス機を操る人間が、ステルス対策を持っていないと思っていたのですか?」

 

 その言葉を証明するように、クロエが二機目のステルスビットを切り裂いた。

 

「あなたは確かに脅威ですが、ビットを失えばその脅威度は格段に低下します」

「ッ……!」

「所詮はこの程度ですか。あなたは強いが、脆い。泥臭く足掻くあの子に比べれば、あなたは私の脅威足りえない」

「ぐ、くぅっ!!」

 

 翼を使った薙ぎ払いでセシリアを弾き飛ばす。かろうじて防御したようだが、主武装であるスターライトMkⅣは切り裂かれ、ベネトナシュもその手から弾き飛ばされる。まさに死に体を晒したセシリアにトドメを刺そうとオータムが追撃を仕掛けた。

 

「これで終わりだなァッ!」

 

 容赦のないオータムがステークを構える。ただでさえ単体防御力は低いブルーティアーズtype-Ⅲがステークをまともに受ければ全損の危険すらある。鈴の甲龍のように直撃に耐えるような防御力はないのだ。しかも今のセシリアは体勢すらまともに整えられていない。銃を構えることすら間に合わない。

 

 しかし―――。

 

「ッ、罠です! オータム先輩!」

「なにっ!?」

 

 シールの目が、冷笑を浮かべるセシリアの表情を視認すると同時に叫ぶ。だが、遅かった。残されたビットがオータムを捉える。しかし、今更ビット単機のレーザーで止められるものか。オータムはそう判断して特攻を継続した。だが、目の前の光景を見た瞬間、その判断が間違っていたことを悟る。

 

「アルキオネ遠隔展開」

「んなっ!?」

 

 突然ビットに巨大な砲身が量子変換されると共に装備される。しかも、既にチャージが完了している。オータムがマズイと思った瞬間にはその大型の重火器――歪曲誘導プラズマ砲【アルキオネ】が発射された。近距離から放たれた大出力のビームが直撃。アラクネ・イオスの腕が複数弾け飛んだ。

 

「ガァッ! クッソがァッ!!」

「それでも致命傷は避けましたか。鈴さんのようなしぶとさですね。ですが……」

 

 腕のほとんどを犠牲にしてなんとか撃墜を防いだオータムに向かい、セシリアは“二本目の”ベネトナシュを構えた。

 

「終わりです」

 

 腕を失ったアラクネ・イオスに対し真っ向から接近するとベネトナシュによる突きを叩きつける。しかし、その突きつけたベネトナシュはスピア部ではなく槍底部。そしてすぐさまに容赦も手加減もなく引き金を引く。

 密着状態から放たれたショットガンの直撃が今度こそオータムの意識を刈り取り、アラクネ・イオスの絶対防御を発動させて沈黙させる。

 ようやく一機を撃墜したが、少なくない代償を払う結果となってしまった。そしてアルキオネを装備させたビットが諸共にレーザーに貫かれて破壊される。さらにシールとクロエもそれぞれ一機づつビットを破壊。オータムの援護が間に合わないと判断して武装の排除を優先したらしい。

 これで残るビットはイージスビット二機とジャミングビット一機、そして搭載火器の遠隔展開を可能とする五つ目の特殊ビットであるリモートビットが一機。

 そして残る武装はベネトナシュと近接用のハンドガンである【ミーティア】が二つ。近接ブレード【インターセプター】がひとつ。そして最大威力を誇るビーム砲である【プロミネンス】。

 

「もうほとんど武装は残されてないようですね。さすがのあなたも使役できる武装がなければせっかくの並列思考も宝の持ち腐れですね」

 

 シール、マドカ、クロエが包囲する。オータムを落とせたのはいいが、それでもそれまでに武装を使いすぎた。ビットの能力も既にバレている。マドカやクロエはなんとかなるかもしれないが、それでもシールを倒すには武装が足りない。それにブルーティアーズも決して少なくないダメージを受けている。このままなら撃墜は必至だろう。

 冷静にそう判断するセシリアは、ふっと笑顔をシールへと向けた。その笑みの意味を図りかねたシールは訝しげにセシリアを見つめ返している。

 

「確かに……さすがに四機相手はきついですわ。このままなら私の敗北は確実でしょう」

 

 既に距離を詰められている以上、狙撃のチャンスももうないだろう。それ以前にもう満足に使える銃火器がない。なにもしなければ粘ってもせいぜい五分で落とされる。

 

 

 ―――――ここまでか。

 

 

 そんな思考に及び、セシリアは覚悟を決めた。もう、この手しか残されていない。こんなところで使うつもりはまったくなかったが、こうなった以上使うしかないだろう。

 決意したセシリアはすぐにそれを実行に移した。

 

「ブルーティアーズ………type-Ⅲのリミッターを解除」

「……! させません!」

 

 セシリアがやろうとしていることを察してシールが襲いかかる。アイズとレッドティアーズのtype-Ⅲの能力である【L.A.P.L.A.C.E.】の恐ろしさを知っているシールは、同等の能力であろうその力を発現させる前に倒そうとする。

 

「承認プロセスすべて省略、緊急起動。第三形態移行〈サードシフト〉開放、第二単一仕様能力〈セカンド・ワンオフアビリティー〉―――発動!」

 

 ブルーティアーズtype-Ⅲがその姿を変生させる。

 装甲が展開され、エネルギーラインが顕となる。そこから漏れるほどのエネルギーが機体を駆け巡り、機体そのものが光の雫となったように光のドレスを纏う。

 

 

 

 ―――さぁ、刮目するがいい。これが、世界で二機しか存在しない第三形態移行〈サードシフト〉したIS。光の雫と化した、――――ブルーティアーズtype-Ⅲの真の姿だ。

 

 

 

 

「これが、唯一無二の雫の輝きです!」

「戯言を!」

 

 明らかな変貌を遂げたセシリアとブルーティアーズtype-Ⅲに、しかしシールがそんなことに構いもせずに細剣を突き立てようと振り下ろす。

 

「沈め!」

「それはできません」

 

 そしてシールの細剣が真っ向から受け止められる。だが、シールはそれに驚愕した。受け止められた際の感触は、まるで空気にでも掴まれたかのように手応えがなかった。しかし、それはまるで硬い装甲のように細剣を弾き返した。

 それは武器でも装甲でもない。シールの攻撃を受け止めたのは、形容し難い光の塊だった。まるで光そのものが固まり、盾となったかのようだ。

 

「なっ、これは……!」

「落ちなさい」

「ちっ……!」

 

 攻撃するような動作を見せるセシリアから距離を取るように飛翔する。それを追うまでもなく、セシリアはただ腕を掲げるだけだ。しかし、たったそれだけの動作で周囲に異変が起きていた。

 さきほどの光の壁のように光が収束して機体の周囲に十以上にも及ぶ野球ボールほどの大きさのスフィアを作り出す。それ自体が意思を持っているかのようにセシリアの周囲をまるで衛星のように周回しつつ、徐々にその輝きを増していく。

 

 

 

 

 ――――なんだ、この能力は!?

 

 

 

 

 シールのヴォーダン・オージェをもってしても、そこにある事象は観測できてもいかなる力でそれを生み出しているのかまではわからない。光に関することは確かなようだが、その単一仕様能力の全容が把握できない。問いただしてもバカ正直に答えるはずもない。シールはただ目の前の現象への対処だけを考えて動こうとする。

 そうこうしているうちに形成されるスフィアの数はすでに三十を超えていた。

 

 

 

「落ちて消えなさい。――――雫のように……!」

 

 

 

 そしてセシリアが指を鳴らすと同時に、すべてのスフィアそのものがレーザーとなって発射された。まるで獲物を追いかける猟犬のようにすべてのスフィアが無数の光の矢となってシール達を追い詰めるように襲いかかった。

 

「ッ、ちぃ……!」

 

 三機はすぐさま空中へと離脱する。そしてすぐさまそんな三機を追うようにレーザーが歪曲して追撃する。その軌道は多種多様でありながら、すべてがシール達を標的に定めている。

 

「ホーミングレーザーだと!?」

 

 まるで先程見せた偏向射撃を嘲笑うかのように正確に目標へ向かって追尾するレーザーにマドカが驚愕する。“ただの曲芸”と言ったセシリアの言葉が嘘ではなかったように、合計三十を超えるレーザーが追尾する光景にただただ戦慄するしかない。通常より速度は落ちているが、それでも変幻自在の軌道で追ってくるレーザーの脅威は計り知れない。

 

 マドカはそれらを撃ち落とそうと試みるが、オールレンジから襲いかかってくるレーザーに為す術もなく追い詰められていく。地表付近ギリギリを飛翔し、地形の障害物を利用してなんとか回避しようとするも半数以上のレーザーを受けてしまいそのまま地面を転がるように墜落してしまう。かろうじてシールドエネルギーは残ったが、既に瀕死といっていい状態だった。

 

 そしてこれらの攻撃をすべて捌こうとするシールとクロエであるが、シールはともかくとしてクロエの瞳ではその処理が追いつかずに最後にはマドカと同じ道を辿ってしまう。ヴォーダン・オージェの解析能力を上回る数と変則軌道追尾レーザーによってあっさりとその魔眼を無力化されてしまう。シールはクロエが小さく悲鳴を上げながら撃墜される様を視認していたが、シール自身も救助に向かう余裕などないほどに追い詰められていた。

 

 あっさりと形成を逆転させたセシリアの冷徹な声が響く。

 

「アイズのパートナーである私が、ヴォーダン・オージェの対抗策を知らないと思っていたのですか?」

 

 盾にした翼が焼け爛れ、無残な姿を晒したシールが忌々しげにセシリアを睨む。回避は不可能と判断してすぐさま防御を選択したシールの行動は最適解であったが、しかしそれはセシリアのこの能力に対抗することができなかったことを意味していた。

 ヴォーダン・オージェの対抗策。それは嘘ではない。アイズとて、このセシリアの攻撃を完全に回避することは至難だ。ヴォーダン・オージェの特性を理解しているセシリアはその攻略法もしっかりと確立させていた。

 

「ヴォーダン・オージェの解析力は確かに脅威ですが、それでも限界はあります。パターン化していない変則軌道の高速レーザーを複数同時に解析するには、高速思考を用いても厳しいのでしょう?」

 

 もしレーザーがパターン化した軌道ならすぐに見破れる。もしもっと速度が遅ければ対処を間に合わさせる。もし数が少なければ集中して対処できる。

 だが、高速かつ思考制御された軌道の数多のレーザーを受けきることは、ヴォーダン・オージェでも不可能だ。オーバードライブ状態ならば対処できる可能性はあるが、それでも確実とはいえない。

 理屈は正しいが、それでもそれを平然と実行できる人間が果たしてこの世界にどれだけいるというのか。 

 

「……化け物ですね、あなた」

「化け物、ですか。私とて人間です。限界はあります。ですが――――あなたをここで倒すくらいはできるかもしれませんね」

「残念ですが、私に虚勢は通用しません」

「…………」

「どんな能力かは知りませんが、それほどの力をノーリスクで使えるはずがありません。隠しているつもりのようですが、心拍数はごまかせません。この瞳を甘くみないことです」

 

 セシリアはポーカーフェイスのまま内心で舌打ちをする。確かにシールの言うように、この能力は体力を使うし、なにより頭蓋の中が感電したような恐ろしいほどの頭痛が継続している。

 セシリアの状態が万全でなかったこともあるが、ただでさえこの能力は反動が大きい。しかも“場所”と“時”も悪い。今のコンディションでは本来の半分以下だ。

 

「そうだとしても、私が負ける理由にはなりませんわ」

「ふん、試せばわかります」

「……散りなさい!」

 

 再び膨大な量のスフィアを作り出すセシリアに、シールは前傾体勢のまま瞳の輝きを強くする。そして再びホーミングレーザーによる一斉射撃。シールは自身に殺到する光の矢を前に、瞳孔を見開きつつその全ての軌道を見切ろうとする。

 ヴォーダン・オージェ、そしてパール・ヴァルキュリアを共にフルドライブ状態へ。人間の限界を超えた領域へと昇華させる。

 

「この瞳に見えないものはない」

「それでも、私の弾丸はすべてを射抜きます」

 

 シールは四方八方どころか、視界すべてから同時に襲いかかってくるレーザーを見据える。ひとつひとつを分析するのではなく、全体を俯瞰するように空間把握による領域解析を試みる。このようなやり方は試したことがないが、それでも己の魔眼に絶対の自信を持つシールは疑いもせずに実行する。

 

 同じ眼を持つアイズをも上回る、人類の基準を遥かに超えた反応速度を誇るシールはそれらのレーザーをすべて“見てから”対処する。

 

「なっ……!」

「甘いと言ったはずです!」

 

 ありえない。

 セシリアはその光景を否定したかった。追尾させているために通常よりも速度は落ちているとはいえ、見てから回避できるような速度ではない。だが、シールは躱す。ほんの数ミリだけ動かして、翼の角度をわずかに変えて、そんな微々たる動作を連ねながら、流れるように光の網の隙間を抜けていく。セシリアとて、そんなシールの機動を先読みしつつレーザーを放っているが、それすらもシールはすり抜ける。

 いくらかは被弾もしているがそれらはどれも致命傷には程遠い。危険度の高いものだけを選別して確実に避けている。未来予知でもしなければ不可能といえる挙動をシールはその力で無理矢理に軌跡といえる現実を引き寄せる。明らかに先程よりも格段に反応速度と機体性能が上昇している。

 因果すら逆転させるかのようなシールの機動に、一瞬ではあるが我を忘れて畏怖の念を抱くほどに、そのシールは鮮烈だった。この力を使っているにも関わらずに、それに拮抗してくる。確かにアイズの宿命のライバルと言われるに相応しい実力だろう。

 

「だとしても!」

 

 迫るシールに向かって再び両手を掲げる。その手に先にどんどん光が収束していく。

 光の渦がひとつのスフィアに凝縮される。先ほどよりも遥かに大きく、青白く圧縮していくスフィア。禍々しい、または神々しいとでも形容したくなるような未知ともいえる光の圧縮によって形成されたそれは見ただけで畏怖すら感じるような代物だ。

 まるで爆発する直前のように暴れ狂うその光の球体を押さえ付けていたセシリアが、直前にまで迫ったシールを見据えながら、まるで場違いなほどの軽快な音とともにそれを開放した。

 

 パチン、と指が鳴る音が響いた。

 

「Discharge」

 

 開放。

 圧縮されたスフィアがシールに向かって内包していたエネルギーの全てを放出した。それは光の津波だった。視界のほとんど、どころではなく視界すべてを覆い尽くしても余りあるほどの巨大で膨大な光が物理的な破壊力を伴ってその暴威で呑み込もうとする。

 回避する、という選択肢すら存在しないその光の暴威にシールは回避を諦め、翼で機体を覆って自らその中へ吶喊するという選択を即座に選ぶ。

 

 暴虐的なまでの光の波濤が天使に降り注ぐ。

 

 ここでシールを倒せばセシリアの勝利。しかし、これを耐えられればセシリアには対抗手段はない。まともにこの攻撃を受けて耐えられるわけがないとは思うが、それでも相手は予測の上を行くシールだ。ここを突破されれば窮地に陥るとわかっているセシリアは全身全霊を込めるようにさらなる力を込める。

 

「消えなさい!」

 

 シールに向けてさらに光を密にして圧縮させる。もはや直視すらできないほどの光量が夜の闇の中でその破壊的な輝きでもって照らし、侵食する。

 光によって闇が蹂躙されていく様は恐怖すら感じるほどで、そして絶対的な力の象徴のようでもあった。

 

 そんな暴威を――――。

 

 

 

 

 

 

 

「うふふ」

 

 

 

 

 

 

 ―――――その魔女は、ただ笑みとともに消し去った。

 

「え?」

「な……」

 

 さきほどまで確かに存在していた破壊を宿した光の塊が霧散した。いや、まるではじめから存在しなかったかのように、一瞬でその場から切り取られたのだ。

 そのあまりにも非現実的な事象に、セシリアも、そしてシールさえも唖然として固まった。それは戦場であまりにも迂闊な行動だった。

 気がついたときには、セシリアは飛来した攻撃の直撃を受けてしまっていた。

 

「ぐ、ううっ!?」

 

 左腕の装甲に大きな裂傷が刻まれる。飛来したのはビット……しかもアイズのような近接特化型のブレードのような遠隔兵器だ。すぐさま反撃と防御に備えるが、襲撃者はそれ以上の追撃はせずにゆっくりとその姿を現した。

 その姿を確認したシールが、どこか困ったように口を開いた。

 

「プレジデント……」

「危なかったわねぇシール? 今のはさすがのあなたも落ちていたわね」

「……なんとでも、しますのに」

「強がっちゃって。可愛い」

 

 戦場であることを忘れるかのような気安い声だ。その人物は未知のISを纏い、いったいなんのつもりなのか、IS装備なのか疑問に思ってしまう“傘”を手に持ち、まるで遊ぶようにそれをくるくると回しながら近づいてくる。そんなふざけたような傘に隠れていた顔がゆっくりと顕になる。

 

 

 

「え、……っ、……あ……?」

 

 

 思考が、止まった。

 どうやって倒せばいいか、これからどう行動するべきか。そんな思考すら切り落とされ、ただセシリアの脳裏には目に映る光景だけが刻まれる。

 その人は笑っていた。懐かしいとすら思えるような笑顔だった。あの安心感を与えてくれるような笑顔を、知っていた。それはずっと羨望していた笑みだったから。

 

「久しぶりねぇ。何年ぶりかしら?」

「そ、んな……な、なぜあなたが……い、いえ、そんなはずがありませんわ。あなたは、あなたは誰です!?」

「やぁねぇ。私の顔を忘れたの? 名前はマリアベルに変えても顔は変えていないわよ?」

「違う……! あの人は死んだんです! こんなところに、いるはずが……!」

「ああ、葬式以来かしら。ふふ、あの時のあなたは気丈で立派だったわね。今まで、よくがんばったわね」

「ッ……! その口を閉じなさい!」

 

 動揺しながらも、セシリアはスフィアを展開して威嚇する。さらに片手にハンドガンである【ミーティア】を展開してその銃口を彼女へと向けた。しかし、その銃口は揺れて定まる気配を見せない。

 あれほど冷静だったセシリアだが、今はもうその面影すら見せないほど動揺していた。

 

「あなたは、もういないはずでしょう……!? あなたは、死んだはずなのに――!!」

「あら、銃なんか向けちゃって。でも………あなたに、私が撃てるの? ねぇ?」

 

 手を広げ、まるで包み込むような慈愛を見せながら彼女――――マリアベルは優しくセシリアに語りかけた。甘く、それでいて聴く者の心を溶かすような声だ。

 しかし、セシリアはまるで悪夢でも見ているかのように表情を痛ましく歪めた。

 

「あなたは、聡明で優しい子よ。だから忘れるはずがないわ」

 

 邪気のない、子供っぽさと大人の理知的な感性を混ぜ合わせたような笑み。それはセシリアの記憶の中にある笑顔と同じだった。その安心感も、柔らかい表情も、優しい言葉も、すべてが変わっていなかった。何年経とうとも、セシリアが最も尊敬していた笑顔そのものだった。

 

 だというのに。

 

 それは、悪夢が形となったものとしか思えないモノに変貌していた。

 

 

「母親である、私を忘れるような子じゃないでしょう? ねぇ、セシリア?」

 

 

 

 

 




難産でした(汗)

文字数も15,000字越え。分割しようかとも思いましたが、話の内容としては分けたくなかったので一気に書きました。

セシリア無双回、そしてとうとうマリアベルさんと邂逅です。マリアベルさんの横槍がなければセシリアは四機相手でもなんとかしてしまっていたかも。なのに能力としては半減状態の縛りがあったなど、ブルーティアーズの単一仕様能力はホントにやばいものに仕上がってしまった(苦笑)

そしてそれをあっさりと破るマリアベルがまさにラスボスの風格です。

結局セシリアとマリアベルの能力は? アイズはどうなったの? などの疑問は次回以降になります。


ご要望、感想等お待ちしております。それではまた次回に!

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