双星の雫   作:千両花火

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Act.90 「世界が変わるとき」

「お疲れ様、そして久しぶり」

 

 セシリアと鈴に近づいてきたのはスーツを着こなしたシャルロットだった。かつて男装してIS学園に来たときのように、一見すればまるで王子様のように似合いすぎる格好をしたシャルロットを見ながら鈴が手を振って応える。

 

「よっ、あんたも元気そうね」

「おかげさまで、ね。入隊したんだってね。ようこそ、セプテントリオンへ」

「これであたしも魔窟の仲間入りってね」

 

 くすくす笑うシャルロットはおかしそうにしているが、その佇まいに隙は一切感じられない。こういってはあれだが、鈴から見ても以前のシャルロットには常在戦場のような心構えは皆無だった。だから突発的な対処は弱そうだとすら思っていたし、それが一般的な普通だということもわかっていた。半年程度でこうも変わるものなのか。雨蘭に鍛えられてきた鈴はごく自然と身に付いた心構えであったが、シャルロットも今ではその域に到達しているようだ。

 IS学園でもそんな人間は多くない。例外は軍人だったラウラと、普段からまったく隙のないセシリアくらいか。アイズは天然でボケるくせにその超能力級の直感のおかげでむしろ隙があるのにないという評価に困るものだったが。

 

「やっぱりあんたもいたか。わざわざ“こんなとこ”まで、ご苦労ね。あたしも連れてこられてびっくりしたけど」

「いい経験だったのでは? アイズなんて何度来てもおおはしゃぎですよ?」

「あの子はそりゃそうでしょうよ」

「ふふ、でも僕もワクワクしたな。アイズの気持ちも、わかる気がするよ」

「ま、たしかにね。それにもともとそういうものだしね、ISって」

 

 少女三人が談笑する光景というのは微笑ましいものだが、三人は笑ってはいるが常に適度な緊張状態を維持している。この場の雰囲気がそうさせるということもあるし、このあととんでもないことが起きるとわかっているからか、まるで未知との遭遇を待つかのような心持ちでその時を待っていた。

 

「アイズとラウラは?」

「別任務で、今頃は月の付近じゃないでしょうか」

「また楽しそうな遠足ね。アイズがはしゃぐ姿が目に見えるわ」

「反対に落ち込んでる人もいるけど?」

 

 シャルロットが悪戯っぽい流し目でセシリアを見やる。その視線だけで察した鈴はニヤニヤ笑いながらセシリアをからかいだした。

 

「ああ、大好きなアイズといちゃつけないから欲求不満だって?」

「………そんなことはありませんわ」

「前にビタミンEが足りないって言っていたくせに」

「シャルロットさん」

「ほんとアイズ大好きねぇ。月から帰ってきたらたっぷりキスでもしてやればいいじゃない」

「それは確定事項です」

「……あんた、前より開き直ってない?」

「最近はずっとこんなだよ」

 

 そこで、壇上にイリーナが姿を現した。それを確認した三人は佇まいを正し、多くのカメラの前にたつ組織のトップの姿に注目する。

 

「………あたしはなにも聞かされてないんだけど、なにをする気なの?」

「お母さん……社長は、本格的に世界を変える気なんだよ」

「新型コアの散布で、その下準備は整いました。あとは引き金を引けば、世界は止まらない坂道を転がるように揺れ動くでしょう」

「………ひょっとして、今ってあたし、歴史の目撃者ってやつ?」

 

 鈴は思っていた以上に大事……それどころか、とんでもない激動の渦中にいるのだと遅まきながらに認識し始めた。

 

「見せてもらおうじゃない。この世界を揺るがす暴君ってやつを」

 

 

 そして、イリーナの演説が始まった。

 

 はじめから鈴の予想を遥かに超えることを平然と告げるイリーナに戦々恐々としながら、鈴自身もよくわからない衝動のようなものが身体の奥から湧き上がってくる感じを覚えた。

 イリーナの言葉は、まるでそんな衝動を刺激し、放出させるようにじわじわと、それでいて鷲掴みでもされているかのように抗えないと感じるほどに引き込まれていく。

 

 暴君の宣言。外野の御託など知ったことではないというような、横暴なまでの強制力でもって聞く人間の心を支配していった。

 

 

 

 

  ***

 

 

 

「1969年7月20日」

 

 イリーナの告げた日付がいったいなにがあったのか、それを知っている人間はどれだけいるだろうか。多くの人間はその偉業こそ知っていても、それが為された月日まで意識していないだろう。

 もちろん、このイリーナの演説を聞いていた束とアイズは揃って頷き、その昔に達成された人類の足跡に想いを馳せている。

 

「そう、人がはじめて月に降り立った日だ」

 

 アポロ計画。いくつもの映画や物語の題材にもされていることもあり、宇宙に興味のない人間でも聞いたことくらいはあるだろう。このアポロ計画もアポロ17まで続けられたが、それ以降の計画は中止され、これ以降、公式記録では人は誰一人として月面を歩いていない。

 

「今では、人が行くことさえ至難だ。その理由は様々だが、費用対効果が認められなかったという理由が大きい。月へ行くだけでも莫大なコストがかかり、アメリカでさえアポロ20まで予定されていた計画を頓挫させている。国の力であっても、月……さらにいえば、宇宙というフロンティアを開拓する力も技術も資金もなにもかもが足りていない。それが現実だった」

 

 しかし、それはもう違うと、そうイリーナは告げていた。

 再び手を掲げ、パチンと指を鳴らすと背後のスクリーンが別の映像を映し出す。そこに映されていたものを見て、全世界が驚愕する。

 見たこともない巨大な白い船。大きさは見ただけでは実感できないだろうが、同時に表示されているスペックデータには船体の全長は650メートル。最大高270メートルという信じられない数値が示されている。一般的にスペースシャトルが60メートル程度と考えれば、まさに破格の超弩級の宇宙船といえる。

 

「カレイドマテリアル社が建造した最新鋭の宇宙船。名をスターゲイザー。現在は月の周回軌道付近からこの映像を送っている」

 

 その意味に気付いたものは、イリーナがなぜアポロ計画の話を振ったのかを理解する。この映像が本当に月から送られているのだとすれば、それはすなわち、カレイドマテリアル社は独力で月へ到達することが可能ということにほかならない。

 さらに、この規模の宇宙船を建造していることから、ただ行くだけで終わることはない。月面への着陸は当然として、月面という未開の地に手をいれることすら可能ということだ。

 月は、全人類のための活動領域。誰も所有権を得られないかわりに、誰も月への干渉を禁止されていない。だからイリーナが月へ手を伸ばしても、それを真っ向から犯罪ということもできない。白かと言われれば灰色となる案件であるが、少なくとも黒ではない。

 

「スターゲイザーによって、宇宙空間での活動拠点が確保できる。宇宙は資源という宝の海だ。この船単体で長期間の航行も可能だ」

 

 スターゲイザーは太陽光によってエネルギーを生成している。少なくとも、地球から月の間であればほぼ補給なしで活動エネルギーのすべてを太陽光から確保できる。いざとなれば最低限のコアユニットのみでも活動可能だ。

 このコアユニットははじめてアイズたちが乗った際のものだ。現在のスターゲイザーは宇宙で必要となる居住区、エネルギー・資源生産区、隔離実験区など、さまざまなユニットを増設したために以前よりもかなりの大型化が成されている。そうでなければ、さすがに650メートル級の飛行母艦を大気圏内で運用させることは難しい。スターゲイザーはもともと外宇宙にまで航行可能な船であると同時に、宇宙での居住コロニーという拠点確保も念頭に置いて建造された船だ。宇宙空間でこそ、この船の能力は最大限に発揮される。

 

「さて。賢明な諸君らは疑問に思うだろう。何故、ここまでの船が必要なのか、と。無論、宇宙という場で活動するためだ。地球にはない未発見物質、太陽光発電、周辺天体の開拓、さらに宇宙コロニー建造、今世界が抱えている問題を解決するための要素が多く眠っている。……もっとも、これは以前から言われていたことだ。地球の資源を吸い付くし、人口増加も止まらない今、宇宙へと出ることにいったいなんの疑問がある?」

 

 イリーナの言葉には微塵も揺らぎがない。

 しかし、と誰もが思う。本当にそんなことが可能なのかと。まるでSF作家の物語を聞いているようだと感じている者も多かった。

 だが、イリーナはその疑問すら許さない。

 

「たしかに、今までの技術では不可能だっただろう。しかし、今、我々にはそれを可能とするカードがすべて揃った」

 

 わずかに口を釣り上げ、挑発的な笑みを見せる。

 

「我社が有している技術………量子通信、単独活動が可能な宇宙船、そして………本来のインフィニット・ストラトス」

 

 再度、映像が変わる。

 宇宙船の外へと飛び出し、船外活動を行う無数の影。それは世界の誰もが見たことのあるものを纏っていた。

 IS。宇宙空間ゆえに、全身装甲となっているが、そんなISを纏った者たちが自由自在に宇宙空間を飛んでいる。その動きにはいっさいの淀みがない。乗る者の意思通りに動いているとわかるほどその動きは滑らかで、むしろ重力という枷さえもない宇宙での活動に、ISはその未開の宙を縦横無尽に駆け巡る。

 

「今更言うまでもないことだが、ISにおける基礎知識をおさらいしよう。開発者である篠ノ之束が作り上げた宇宙での活動を目的としたパワードスーツ。それがISだ」

 

 それは今まさに世界に拡散し、生み出されているISを皮肉った言葉であった。どの国も空を、宇宙を目指すことなく、ただ兵器として生み出し、逆に空から下を押さえ付ける抑止力としか見ていない。教科書の序文にも乗るような大前提が、まったく考慮されていないのだ。

 だから、イリーナは言ったのだ。

 本来の、インフィニット・ストラトス。宇宙空間での活動を可能とするマルチフォームスーツ。人類が、その活動圏を宇宙へと広げるための翼である。この原点に、ようやくISは回帰したのだ。

 

「しかし、宇宙開拓を進めるためにはまだ準備が必要だ。まずは、人が空へと行くための道が必要……そのための軌道エレベーターの建設、そのためのバベルメイカー計画である」

 

 宇宙コロニーの建造、月の開拓、さらに宇宙空間におけるエネルギーの獲得。それらを得るために、まずは人が宇宙へと上がる必要がある。それを容易にさせる移動手段として、軌道エレベーターが選ばれた。

 莫大なコストがかかるが、それでも完成後の利益を考えれば決して無駄な投資ではない。逆にこの事業に乗り遅れれば、時代に取り残されるかもしれない。有識者や経営者は、冷静にそう判断するだろう。そして、なにより量子通信と新型コアの生産が可能であるカレイドマテリアル社ならばそれを完遂できるだろうと思わせる。あれほどの宇宙船を建造していることから、カレイドマテリアル社がどれほど本気なのかも十分に伝わっているだろう。

 

「軌道エレベーターの建造も至難とされてきたが、ISがそれを可能とした。高高度、さらには成層圏、宇宙空間に至るまで単独での行動が可能となる。いったいなぜこれほどのパワードスーツを持て余していたのか、遣る瀬無い思いだ」

 

 シールドエネルギーさえ確保すれば長時間でもどんな環境でも単独での活動を可能とする。イリーナから言わせれば、これまで兵器として使われてきたことがもったいなくて苛立つレベルだった。たしかに技術発展の最先端は兵器といえるかもしれない。しかし、それをまったく民間レベルに落とし込むことすらしなかったこれまでの世界に失望すら抱いていた。

 

「もっとも、本当に可能なのか、という疑問はあるだろう。ゆえに、さらにもうひとつ、これをご覧いただこう」

 

 そして背後のスクリーンの映像が一度消え、ゆっくりと上昇していく。上部に収納されたスクリーンの奥から現れたものに、またもや世界の人間が絶句する。それは月であった。地上からではない、地上から見たものよりも遥かに巨大、クレーターの影までがはっきりとわかるほど大きく映し出さている。

 

「今、私がいる場所は地上より遥か上空の衛星軌道上………軌道エレベーターとを繋ぐ塔の頂きとなる場所、オービットベースだ。我々が本気だと理解してもらうために、今回のためだけに宇宙へと上がっている」

 

 衛星軌道ステーション【オービットベース】。移動拠点となるスターゲイザーとは違い、宇宙を拓くための港となる衛星軌道上に作られた玄関口。拠点としての機能を重視しているために、スターゲイザーよりも高いレベルでの生活空間が作られており、もはや小規模な宇宙コロニーといっても過言ではない。

 

「人工重力と気圧制御で、地上とほぼ同等の環境を維持している。ゆえに、無重力空間の適合訓練も必要としない。もともとはかつて頓挫した宇宙開拓計画である宇宙ステーションを買取り、五年をかけて改修した」

 

 そう、今回の演説を行うにあたり、わざわざ宇宙にまで出向いたのだ。当然、秘密裏に移動したが、万が一があればすべてが泡と消えるために諜報部などは神経質になるほどに事前準備を入念に行っていた。

 そして今回急遽入隊した鈴も、セシリアとともにカレイドマテリアル社が保有するシャトルで宇宙へと上がり、先にステーションに来ていたシャルロットたちと合流したのだ。もちろん、鈴も驚きすぎて間抜け顔を晒したくらいだ。こんなものまで造っているなど、誰が想像できようか。

 

 しかし、鈴の驚きどころではないのが世界中の国であった。

 旧式の雛形があったとはいえ、これほどの施設を世界に気付かれずに建造していたという事実に世界中の諜報機関は大慌てになっているだろう。ISによる制空権の確保に躍起になっていた最中に、堂々とあんなものを造られていたのだ。あれ単体だけならばさしたる脅威にはならないが、宇宙船とISが揃うとなると話は別だ。自らの頭上を抑えられたに等しい事態であった。

 これまで、ISを利用して得てきた制空権の、さらにその上を抑えられた。

 下手を打てば、国防のためという理由で世界中の軍隊から狙われる危険すらある行為だ。

 

 だが、当然これもイリーナにとっては予定調和のひとつだった。

 

「反発する国も多いだろう。だが、あえて言わせていただく。――――そんなことは知ったことではない」

 

 イリーナは暴言とすら言えることを冷静に、正気のまま言い切った。その瞳は冷たく、ただただ世界に対して冷酷な宣告を続けるだけだった。

 

「我社はあくまで与えられている権利を行使しているだけである。宇宙開発において、宇宙は専有するものではなく、どの国にも、どの企業にも、どの人間にも与えられる権利である」

 

 だから邪魔をするな。暗にそう込められた言葉であった。そしてそのための利すらも、暴君は世界へと見せて反論の余地すら与えない。

 この計画のリスクすら、世界に餌を与えることで防波堤とする。まったく無駄のないシナリオがすでに出来上がっているのだ。たとえ軍を敵に回しても、人口の多くを占める市民を味方につけることが重要だと知っている。

 

「だからこそ、我社はこれより大規模な雇用を行う。主に軌道エレベーター開発のための技術者の他、警備のための人員も必要となる。高高度から衛星軌道までの作業となるため、当然ISを支給する。これまで我社が販売してきたフォクシィギアは本来、全領域での作業を可能とするためのISだ。素体フレームと換装フレームを分別したのはそのためだ。新規に雇用した者は、まず作業用装備のISの操縦研修を受けた後、軌道エレベーター建設に従事してもらう」

 

 換装式量産機フォクシィギア。それは本来、あらゆる環境下での作業を可能とする多彩な工作装備を有する技術者用ともいえるものだった。それを戦闘用にも転用できるようにしたのが現在のフォクシィギアである。過酷な環境下での活動を支援するための装備こそが本来の求められた姿だった。

 

「当然、我社のISは男女共用。ゆえに、男女で区別はしない」

 

 そう、そしてこれがイリーナの狙い。

 だからこそ、この計画を明かす前に半年をかけて男女共用という新型コアを世界に拡散させたのだ。女性主流になったとはいえ、技術職の大半は男性だ。女性だけしか扱えないという欠陥があったままでは、この計画すらままならなかっただろう。

 だから、まずは女尊男卑の世界を壊すところから始めたのだ。

 

「すでにいくつかの企業には声をかけさせていただいているが、まだまだ人材は必要だ。技術に誇りを持つ企業は、どんな小さな規模であれ、宇宙へ上がる塔を創る意思がある者は受け入れよう」

 

 その言葉に、世界が揺れる。

 これまで兵器として女性しか扱えなかったISではない。男でも使える。そして、なにかを壊す兵器としてではなく、新たに生み出すためのものとして扱える。それは、女尊男卑の世界を経験した多くの男性の心に甘い蜜のように溶け込んでいく。

 

「同時にこれだけのものを守るための警備隊も必要となる。そのための人材も合わせて募集する。とくに退役軍人や兵役経験者は特に優遇しよう」

 

 女性にとって変わられ、居場所をなくした元軍人たちが歓声を上げた。かつての戦闘機乗りが、久しく感じられなかった熱を感じて思うままに声を張り上げる。無用の長物と言われ、失意のままに除隊した戦艦の砲撃手が目を輝かせた。

 新型コアの登場である程度は男性でも軍の主体に成りうる役職へと復活してきたが、それでも未だに職を奪われた元軍人は多い。そんな貴重な経験者を遊ばせておくことなど、もったいない。

 ISがかつて壊し、溢れさせた負の遺産は、イリーナにとって利用価値の高い貴重な資源なのだ。

 

「ISは確かに多くのものを与えた。だが、同時に多くのものを奪った。しかし、忘れてはならない。ISは、人と在ってはじめてその存在意義が生まれるのだ。人次第で、薬にも毒にもなる。希望にも絶望にもなる」

 

 多くの人間が、そのイリーナの言葉に感化されたように思いを馳せる。

 セシリアは眼を閉じてこれまでの半生を振り返り、鈴も今の自分の境遇を鑑みて複雑そうに眉をひそめた。シャルロットは、ただじっと母となった人の姿をその瞳に焼き付けている。

 そして同じく宇宙から演説を聞いていたアイズは、自分を背中から抱きしめる束の腕に力が込められたことを感じながらアイズもまた、自らの運命を改めて思い知る。

 

「それは、人が決めるものだ。だからこそ、我社はISを使い、再び世界に希望と絶望を与えよう」

 

 多くの想いを束ねて、その中心にいる暴君ははっきりとその意思を示す。

 イリーナ・ルージュ。暴君と呼ばれる稀代の女傑は、真っ向から世界に喧嘩を売った。

 

「傍観者に変わる世界で希望を掴み取ることはできない。変わりゆく世界で希望を掴み取る者は、自らの意思で立ち上がるものだけだ。なにもしなければ、与えられるものは絶望しかないと知れ」

 

 だから、イリーナも立ち上がる。自らの願いを叶える。ただそれだけのために、世界すら動かすのだ。

 

「かつて、空に夢を見た者たち。人とISの可能性を信じる者たちすべてに告げる。我らは、諸君らを歓迎する。なによりも、その意思を尊重しよう」

 

 どこまでも横暴に、しかしそれゆえに聴く者たちの心にその言葉を焼き付けていく。

 

「今、ここに宣告する」

 

 誰もが、彼女を見つめる。同じ軌道ステーションから、スターゲイザーから、地球から、誰もが彼女の言葉を刻み付ける。

 

「希望を、夢を、欲望を、野心を、願いを掴み取ると思うのなら、自らの意思を示せッ! 自らの足でたちあがれッッ! その意思こそが、自らの世界を変える! ゆえに! 私は、私の意思で今の世界を否定する! そして誰も知ることのないフロンティアを切り拓こう!」

 

 多くの声が、まるで天に吠えるように響き渡る。その空を掴もうとするように力強くその拳を振り上げる。

 

「意思を宿す者たちよ。私は天へ届く塔を作りながら、諸君らを待っている」

 

 この日、この時が、歴史の転換点。そして変革者イリーナ・ルージュの名を歴史に永遠に刻むことになる。

 

「これより、世界の変革は始まる」

 

 イリーナが手を上げる。それが、まるで号令であるかのように、世界へ向けてはじまりを宣言する。

 

 

 

「世界は、今この時より再び生まれ変わる」

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 この演説の後、カレイドマテリアル社から世界各国にあるものが送られる。

 それは一見すればただの小さな金属プレートのようだったが、それを分析した各国は悲鳴と絶叫を上げた。

 今までのあらゆる金属、合金を凌駕する優れた未知のそのマテリアルは、材質、製造方法すらまったくわからないというまさにダークマターとすら言えるものであった。

 軽量でありながら強固。さらにとある特性を持つことが確認されたことで、このマテリアルはまるで伝説の金属のようだとして、仮称として【オリハルコン】と呼ばれた。

 最新鋭であるはずのISの装甲ですら霞む絶大な特性を宿したその金属片を各国は躍起になって解析、そしてその正体をカレイドマテリアル社に問い合わせたが、回答はすべて同じだった。

 

 

 宇宙開拓事業において発見した新材質、新製法による特殊合金。素材成分、製法はすべて企業秘密。

 

 

 ただそれだけを伝え、具体的な回答はいっさい行わなかった。しかし、それだけで十分であった。これほどのものが得られる宇宙開拓事業は、渋っていたいくつかの国や研究機関さえもその気にさせた。夢物語では決してない、まちがいなく実績と利益を生み出すという証として、その金属片に誘われるように多くの組織がプロジェクトへと参加を表明、カレイドマテリアル社と契約を結ぶこととなる。

 

 たったひとつの金属片で世界を動かしたイリーナは、世界すべてを巻き込みながら確実に変革を進めていった。

 

 のちに、イリーナの演説したその日が世界変革の転換点として、歴史家たちの共通認識となる。そして歴史に“変革者”イリーナ・ルージュという不朽の名を刻むことになる。

 

 

 

 

 

 




イリーナさんの演説回。そして進めていた計画が明かされました。

宇宙へ出る必要がある(イリーナの目的・未だ不明)⇒IS使えばいけるんじゃね?⇒宇宙船、そして宇宙ステーションが要る⇒束をゲットしたので技術分野が発展⇒計画が加速⇒軌道エレベーター建造に取り掛かる⇒多くの技術者が必要⇒その多くが男性なので作業用に男性にも使えるISが必須⇒新型コアを拡散・女尊男卑の世界を否定⇒ISによって生み出された多くの失業者や元軍人を人的資源として利用⇒宇宙開発の利益を示すことで反対意見を民衆を味方につけて封殺⇒今ここ

とりあえずこんな感じ。

未知の金属【オリハルコン】についてはまた次回以降。そしてまたそろそろ戦闘パートに移行します。セシリア無双が始まります。

物語も核心に迫ってきた感じです。ここからさらに盛り上げていきたいです。

ご要望、感想などお待ちしております。それではまた次回に!

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