双星の雫   作:千両花火

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Chapter10 プロジェクト・バベルメイカー編
Act.88 「激震へのカウントダウン」


「報告は以上となります」

 

 イーリスからの調査報告を聞き終えると咥えていた煙草を灰皿に押しやった。そうしてまた煙草を取り出して手馴れた手付きで火をつけ、煙を吸いながらしばしなにかを考えているように虚空を見つめていた。イーリスはそんなイリーナを見つめながら彼女の言葉を待っている。

 今回新たに得た情報としては、前々から推測されていた亡国機業内の勢力図の一部が明確になったことが大きい。マリアベルをトップとした様々な組織に根を張る秘密結社であるが、それは決して一枚岩ではない。組織というものは大きくなればなるほどに統制が難しくなるのでそれも必然ではあるが、マリアベルがその気になれば完璧な統率がなされた集団となっていたはずだ。なのに意図的にそれをしていない。

 むしろ反逆の芽をわざと放置していた節がある。判断に困るところだが、マリアベルの正体がレジーナ・オルコットだと知っているイリーナからすればそれは納得のいくところだった。

 なぜなら、彼女の知るレジーナ・オルコットは刹那主義であり、快楽主義。そして退屈を非常に嫌い自己中心的で強欲。優秀すぎるがゆえに、思い通りにならないことを愛でる。どこまでも傲慢に、そして傍若無人に突き進む魔性の女なのだ。

 イリーナにとってはよく知る姉だ。だが、おそらくは偽者だろうと思っていた。すなわち、実の姉のクローン、というのがおおよそ間違いないだろう。なぜなら、その狂気の方向性がイリーナの知るそれとは少しだけ違っているからだ。

 昔からイリーナの姉、レジーナ・オルコットは内心で他者を見下す傾向が強く、それに見合った才能を持っていた。自分こそが至高だと信じて疑わず、妹であるイリーナを含め、他者に求めるところは使えるか否か、それだけだった。

 そんな姉に愛想を尽かしたのはもうずいぶん昔になる。同じく才能豊かだったイリーナは姉に使われることを嫌い、わざとオルコット家そのものに反発して家名を捨てた。今にして思えば、そのときに一発顔を殴っておけばよかったと本気で思っていた。

 

「――――姉さん、あなたは生きていても死んでいても、結局迷惑しかかけないのか」

 

 自身の身内が最大の障害となっている現実に、イリーナは言葉では言い表せないほどの不快さを感じていた。

 昔から邪魔な存在だった。なにをしても許されるというなら、殺してしまいたいと思うほどに。

 

「だが、あなたの思うようにはさせないよ」

 

 マリアベルがレジーナだろうが、レジーナの亡霊だろうがやることは変わらない。イリーナは、イリーナの目的のために、その障害となるものはすべて排除すると決意している。その最たるものが、今の世界。そして亡国機業。あとはIS委員会や無人機派の国もそうだが、この程度なら世界情勢コントロールすればどうとでもなる。そのためのカードもこの十年で用意してきた。篠ノ之束と協力関係を構築し、IS産業において絶大な権力も手に入れた。

 すべては、イリーナの目的のために。そのために世界を壊した。自己中心的な理由で世界を揺るがすという点では、たしかに姉妹と納得できる暴虐さかもしれない。それを欠片も後悔していないこともそっくりだろう。

 イリーナは底冷えするような目をしながら、告げる。

 

「計画をフェイズ3に移す」

「……!」

「同時にフォクシィギアのC型装備を発表する。機体の供給量も増加させろ。準備はどのくらいで可能だ?」

「はい、二週間もあれば」

「ならば秘匿区画の規制解除の準備も進めろ。これを含め、三週間後に世界に明かす。また世界は揺れるだろうが、今更だな。馬鹿どもの見苦しい争いも見飽きたところだ。そろそろISの本来の価値を示さなければな」

 

 そう語るイリーナの目の前には、【Top secret】という印がなされ、厳重に保管されている秘匿資料のファイルが広げられていた。

 同じく、そのファイルに記されたタイトルは―――【Project Babel Maker】。

 

 

「プロジェクト・バベルメイカー………世界に反し、天へ至る道を創るとしよう」

 

 

 バベル。旧約聖書の「創世記」に記された、人が作ろうとした天まで届くほど巨大な塔。その名を冠したカレイドマテリアル社の最重要計画。すべてはこの計画のために準備してきた。この世界の混乱も、そのための布石でしかない。

 イリーナが見据えるのは、この混迷した世界ではない。この世界を律し、宇宙へと至るための道の先にあるものなのだ―――。

 

 

 

 ***

 

 

 

 IS学園、生徒会室。

 定例となった生徒会役員会議という名目で集まったのは実質的な中心となっている面々だ。会長である更織楯無。その補佐として布仏虚と本音。新たに生徒会へと入った織斑一夏と更織簪。そして生徒会と一般生徒のパイプ役として働いている篠ノ之箒。監督役として同席している織斑千冬。さらにカレイドマテリアル社より出向しているレオン、リタ、シトリー。

 その中でまとめ役の楯無が皆の顔を見渡しながら目の前にある資料に目を向けた。学園の近況から、世界情勢の推移まで。現在揺れ動いている世界を推察しようとするように、細かい数字にまで目を通していく。

 そうした中で垣間見えるのは、この世界をコントロールしているある人物の手腕だった。

 

 

「大したものね、イリーナ・ルージュという人は」

 

 しばらく資料を眺めていた楯無が感心したように呟いた。その言葉に、部屋にいる者たちも楯無に注目する。

 

「絶妙な按配で世界をコントロールしてるわ。男女共用の新型コアなんて爆弾、一気に拡散させれば各地で大規模な暴動や紛争の火種になる。かといって少数に制限すれば大国といった強大な権力を敵に回して、やっぱり火種になる。でも、そうならないギリギリのバランスでコアを配っている。しかも、供給に限界を見せていないことから、カレイドマテリアル社しか新型コアを造れない以上、この情勢そのものが社を守る防波堤にもなる」

「そっか、仮にカレイドマテリアル社を潰したら、新型コアが手に入らなくなるからだね~?」

「だから自然と敵となるのは新型コアの反対派……女尊主義者たちと無人機支持派ね。でも、たった十年で出来上がった女尊主義なんてメッキみたいなものよ。そうした派閥は遠からず勢いを失うでしょう」

 

 本音の相槌に楯無も大きく頷く。しかし、深謀なのはここからだ。

 

「でも、それでもやっぱり灰色な手段を使う組織は少なくないわ。推測だけど、カレイドマテリアル社を狙ったテロ行為も、おそらく十やそこらじゃないほど起きているでしょうね。そもそも、セプテントリオンという部隊そのものがそうしたことに対抗するために作られた抑止力《カウンターフォース》でしょう? 違うかしら?」

「ノーコメント」

「右に同じ」

「記憶にないです」

 

 楯無の問いかけにレオン、リタ、シトリーは曖昧に誤魔化している。それがむしろ答えであったが、楯無もそれ以上のことは追求しなかった。はじめから期待していなかったというのが正しい。この三人がこの場にいるのはあくまで外部からのアドバイザーという立場だ。情報提供の有無はカレイドマテリアル社の意向に沿うものだけが与えられる。それだけでも儲けものと思うべきだろう。

 楯無はため息をつくと傍に控える虚に向き直る。

 

「ちょっと濃いお茶をお願いできるかしら? どうも疲れる会議になりそうだから」

「わかりました」

「みんなも甘いものとか食べておいたほうがいいわよ。ちょっと頭を使いそうだから」

 

 楯無がそう告げる前からパクパクとお茶菓子を食べていたリタがさらにペースを上げる。マナーのなっていないリタの頭をシトリーが叩いている光景を見ながら、楯無はずずずと茶を飲む。

 

 今回のこの会議は今後のIS学園の運営方針を模索するためのものだ。もちろん、生徒会として決定権があるわけではないが、学園生活の運営に関わる以上、意見の集約は必須なことだ。楯無が生徒会長でいられる任期も残り少ない。そうした引き継ぎもあるために積極的にこうした話し合いの場を設けていた。

 

「さて、では次期生徒会長の一夏くん? あなたの意見から聞こうかしら」

「あー、それマジなんですかね? 俺はIS乗って一年足らずなんですが」

「謙遜しなくていいわ。むしろ一年でエース級になった実力を評価してるのよ。簪ちゃんたちは補佐向きだし、あなたが一番ふさわしいとおもうわよ? まぁ、生徒の信任を得てから、になるけど」

 

 それもまったく問題ないだろう。むしろ現在のIS学園における一夏の人気はかなり高い。はじめこそ客寄せパンダのようだったが、今のその実力は申し分なく、さらに先の無人機襲撃事件においても多大な戦果を上げていることも評価されている。そして相変わらずの朴念仁であるが、女生徒からの人気も変わらず高い。一種のアイドルのような扱いであった。

 女の子からきゃーきゃー言われることも多くなり、その度に近くにいる箒が睨みを効かせている。もっとも、今の一夏はストイックに現状改善に励んでいるために色恋などまったく頭にないだろう。

 

「生徒会長に一夏くん、補佐に簪ちゃんたちがいてくれれば安心ね」

「でも、男の俺が会長になると反発が起きませんか?」

「起きるでしょうね。でも、必要なことよ?」

「ISは、もう女だけのものじゃない。そういう証明になるから、ですね」

 

 微笑みながらシトリーが告げたことに、一夏は少しだけ嫌そうな顔をする。

 

「けっきょく客寄せってことですか?」

「象徴、というべきね。どうあっても、世界は変わっていくわ。そして、新しい世界を受け入れる、という意思表示になる。大事なことよ?」

「暗に新型コア派ってことを言うものだから無人機派から襲われるかもしれないけど……」

「リタッ!」

「あいたっ、ごめんなさい」

 

 空気を読まないリタを叱られる姿を見ながら、楯無はそのリタの発言も決して杞憂事ではないと気を引き締める。実際にもうこの学園は大規模な襲撃にさらされ、半壊したのだ。目の前の三人が所属するセプテントリオンの介入によってなんとか撃退できたが、もしこの援軍がなければ間違いなくIS学園は壊滅していた。そして、もしまたあのような襲撃があれば、今度はセプテントリオンの助力に期待することは難しい。セプテントリオンを有するカレイドマテリアル社は今や世界の混乱の中心だ。そんな組織がひとつに固執するような行動は組織としてマイナスになりかねない。カレイドマテリアル社の加護を受けている、とみなされれば、抑止力は得られてもそれはIS学園そのものとしてはマイナスのほうが大きい。もはや有名無実になりがちだが、どの国にも縛られないはずのIS学園がひとつの組織の傘下に収まっているかのような状況は、その存在意義に関わり、遠からず衰退していくだろうからだ。

 そしてIS学園が潰れては困るカレイドマテリアル社側も、表向きは中立を保ちながら裏から支援している。レオンたち三人とフォクシィギアを渡したことが最大限の支援とみるべきだろう。

 

「限界はあるけど、独自に防衛策を練る必要もあるわね。……まぁ、なるべくなら外交でどうにかするべき案件なんでしょうけど。そのへんはどうです? 織斑先生」

「難しいな」

 

 監督役としてこの場にいた千冬がそれこそ表情を厳しくして答える。

 

「どこもかしこも、それどころではない、というのが現状だな。いくつかの研究機関に探りを入れてみたが、新型コアと無人機という二つの玩具の取り合いに夢中になっている、というのが率直な感想だ」

「私たちとしては教育機関である以上、無人機に傾倒するなんてありえないけど、研究機関なら好き勝手にできるからね」

 

 どこか達観したような簪の意見に全員が頷いている。そもそもIS学園に関わる人間として、無人機という存在自体を嫌悪する感情が強い。それはIS操縦者としての意地でもあるし、なにより襲われたことによる抵抗からだ。そのため、無人機を推すIS委員会との溝は深まるばかりだ。

 このままなら、ヘタをすれば本当に委員会との前面衝突も有り得る。

 

「今は新型コアと無人機の拡散が続いているけど、いずれその流れも飽和するわ。そうなったときがタイムリミット、ね」

「タイムリミット?」

「立場を曖昧にはできないってことよ」

 

 今はまだ、世界が混乱に包まれているから微妙な立場を取れるだけだ。本来ならIS委員会の下で運営されるIS学園が、その意向を完全に違えることなどあってはならないのだ。さらにいえば、IS学園は国際的な特殊教育機関であり、アラスカ条約の協定国のすべてに属する。イギリス国籍のセシリアたちが退学したように、所属する国がこの協定参加国から脱退すれば、それはIS学園に所属することができなくなる。

 しかし、カレイドマテリアル社が落とした新型コアという爆弾によってこれらの規定そのものの意義が失われつつあった。

 イリーナ・ルージュの発言の通り、現状のIS関連の条約はすべてISコアの数が不変という大前提のもとで作られたものだ。有限だからこそ、ISから得られた技術を共有財産とすることで世界の技術バランスがとられていたのだ。

 だが、それももう終わりを迎えた。男女共用可能の新型ISコアの登場と拡散により、今までの条約が無意味となったのだ。さらに、そこに容易に数を揃えられる無人機までが広められたことで各国はその方針によって多くの戦力を確保しようとしている。そこに国際的なパワーバランスなど、考慮する国など存在しない。

 そんな幻のように消えてしまいそうな土台の上に、今のIS学園はあるのだ。

 

「なにもしなければ、おそらく数年で廃校でしょうね」

「そんな……」

「不変数のISの取り合いは終わった以上、自国の戦力となる操縦者を世界中から一箇所に集めて育成するメリットはないわ」

「全員が将来の仮想敵ってわけ、だね」

「だからといって、このまま黙って潰れるわけにはいかない。国の思惑はどうあれ、ISというものを学ぶ教育機関は絶対に必要よ」

「……矛盾してませんか?」

 

 少し理解が追いついていない一夏がふとそんな質問をぶつける。国際的パワーバランスなどといったことはまだよく理解しきれていない。しかし、ようはISの数が増えたことで取り合いとなったためにIS学園の設立時の意義が失われた、ということだけはなんとなくわかった。それなのに、IS学園が必要という理由がわからなかった。それは、もちろん一夏としてもIS学園の存続は願うところだが、楯無の言う世界情勢を背景とした理由付けがよくわからなかったためだ。

 

「いい質問ね。ではもしもIS学園がなくなったとしたら、どうなるかしら?」

「どうって……国ごとに操縦者を育成する、とか?」

「半分正解。正確には、“軍事的教育機関”となって各国で育成される、よ」

「……!!」

「今各国が新型コアと無人機の確保に躍起になっているのは、軍事力の確保のため、とほぼイコールよ。かつて、ISによって現存する軍事力が覆されたときと同じような混乱が生まれているはずよ」

 

 そしてなにより、男でも使えることになったために軍隊としての機能が増大する。かつて女性限定であったことから多くの軍人が職を失うことになったが、今度は反対に屈強な男性がISを使う兵士として集められるだろう。

 数に限度があるゆえにIS技術を共有財産としなければならない理由がなくなったのだ。だから今まで以上に各国で競争開発が進み、その技術を独占しようとする。だからIS学園という場は必要なくなるのだ。

 

「それじゃあ……!」

「今はまだいいわ。私たちも新型コアを手に入れたし、まだ戦力確保に夢中になっているうちはどうにかなる。でも、一年後、二年後は? 各国で研究、育成のシステムが構築されれば、IS学園は淘汰されるわ。そうなったら、ここの生徒たちが将来殺し合うために教育される未来もありえないわけじゃない」

 

 部屋が沈黙に支配される。一夏たち、IS学園に所属する人間たちは皆俯いて状況の悪さに歯噛みしている。

 

「……………それでも」

 

 そこで、ある人物がはじめて口を開いた。一番端に座り、新たに暫定として一般生徒だけで設立されたIS学園復興委員会の代表としてこの会議に特例として参加していた篠ノ之箒であった。

 箒は、現実を語る楯無を見つめながら、はっきりと己の意思を言葉にした。

 

「それでも、私はIS学園には存続して欲しい。私もただ成り行きでここに入学した身だ。だが、今の私には目的がある。姉さんが望んだものを、ISが、夢を与えるものだと、そう世界に示したい。それが本来のIS……決して、兵器として作られたわけじゃないのだから」

「箒……」

「無論、私も今の情勢は理解している。ISを戦力として見なければならないことも承知している。それでも、何年か先、皆が笑って空を飛べるような、そんな世界にしたい。そのためにも、IS学園はその学び舎としてあってほしい」

 

 素直な、そして真摯な言葉だった。それは姉と再会して以来、箒がずっと願ってきた気持ちだった。

 甘い意見だ。だが、それでもなによりも尊いと感じるものだった。

 

「まぁ、IS操縦者としては底辺にいるだろう私が言えたことではないかもしれないが」

 

 そう自嘲する箒だが、今では積極的にISの操縦技術を学んでいる。かつてまったく興味すら示そうとしなかったISと、今ではしっかりと向き合い、学んでいることをこの場にいる誰もが知っていた。確かに実力はこの場の誰よりも低い。しかし、そんな箒こそがIS学園に夢をもって入学してきた生徒たちの代弁者にふさわしかった。

 

「……アイズみたい」

「え?」

「言ってることがうちのアイズにそっくり。アイズは誰よりも努力して強くなってるけど、それは全部夢のためだって」

「ああ、そういやよく言ってたな」

「アイズらしいね」

 

 シトリーとレオンの言った言葉に、簪が嬉しそうに笑った。アイズそっくりだと言われた箒も、なぜかむず痒いような気持ちになり、少し恥ずかしげに俯いた。

 

「でも、言うとおりね。今言ったことは結局、いろんなお偉いさんが机に頬杖付きながら考えるような夢のないことよ。でも、実際にここにいる私たちは違う。いろいろな考えはあれど、みんな自分の将来の希望や夢を抱いてここに来た」

「なら、ここをなくすわけにはいかねぇな……」

「あなたの期待の高さがわかったかしら、一夏くん?」

「次期生徒会長…………えらく重いもんだってよくわかりましたよ」

 

 神妙な顔付きで答える一夏に、全員が笑う。それは、皆の気持ちが同じだという証左だった。

 

「さて、夢のために現実に話を戻すわよ? というわけでIS学園としてもなんらかの手を打たなければ数年後にはまずいことは理解してもらえたと思うわ」

「と、いうからにはなにか策が?」

「いえ、ないわ。むしろなにかしたら委員会に目をつけられてヤバイというのが夢もなにもない現実よ」

「ダメじゃないですか!」

 

 一夏が立ち上がって叫ぶ。ここまで前置きしておいて「なにもできない」というのはあんまりだ。一夏も必死に頭を働かせているというのに、現状なにもできないというのはあまりにも不遇だ。

 しかし、楯無はどこか余裕そうな顔で扇子を広げている。

 

「でも、アテはある」

「どういうことですか?」

「……おねえちゃ、いえ、会長。そのアテってもしかして」

「IS学園が潰れたら困る組織があるんじゃないかしら? ねぇ、わざわざ新型機と新型コア、そして教導役まで送ってくれたカレイドマテリアル社の皆様方?」

「そりゃそうだ。だってここがないと計画が五年は遅れ………」

「リタッ!!」

「あ、ごめん今のナシ」

 

 大仰に口を塞ぐリタに、両脇のレオンとシトリーは頭を抱えている。どうも性格的にリタを送ったのは間違いだと思われるが、実際交渉以外ではリタの貢献度は高いために評価に困るところだ。

 

「他力本願と言われても仕方ないけど、これまでの行動を見るに、イリーナ・ルージュはIS学園を存続させる手をなにか打つ気でいるんじゃないかしら。もちろん、こっちの気遣いなんて皆無で、あくまであちらの都合で、だろうけど」

「…………仕方ない。絶対にばらすなと言われてないからな」

 

 諦めたようにレオンが姿勢を正して楯無に視線を向ける。

 

「確かに、カレイドマテリアル社の進める計画にここの存続は必要です。詳細は言えませんが、あなたがたがなにもしなくても今しばらくは維持できるであろう情勢を作り出すでしょう」

「この状況をひっくり返せるカードを持っている、のね。正直、けっこう詰みに近いんだけど」

「暴君の通り名は伊達じゃありませんから。そう遠くないうちにわかると思いますよ」

「そう。なら、私たちはその後に備えるべきなのでしょうね。任せるようで心苦しいところはあるけど」

「うちとIS学園は、表向き協力しすぎるのはマズイので、あくまで存続できる情勢を作るだけです。その中でどうこうする気はありませんので、運営はやはりあなたたちによるところになるかと」

「施しみたい、というか、施しなのでしょうね」

「ギブアンドテイクです。うちも利用させてもらうことになりますからね。でも、悪いようにはしないと思いますよ。そうなったら怒る人がうちにもけっこういますから」

 

 腹の探り合い、というよりは本音のぶつけ合いに近かった。協力関係ではあるが、同時にそれはカレイドマテリアル社からの都合のいい利用場所だからこその助力だ。それでも、IS学園側としてもマイナスはなくプラス要素しかないために断ることなどありえない。少し面白くないという心情こそあれど、たしかにそれは嬉しい申し出だった。

 なんとか次の一夏に繋ぐ前に、もっと安定した土台を作らなければ、と決意を強くする。そうすれば、今後のことは一夏や簪、それに箒たちがうまく導いてくれるだろう。そこにしっかりと繋ぐこと、それが楯無の生徒会長としての最後の務めだと決心していた。

 そんな内心を悟られないよういつもの笑顔のポーカーフェイスを浮かべながら、答えてくれないと思いつつも最大の疑問を口にした。

 

「いったいあの暴君はなにをする気なの?」

「そうですね、今言えることは――――」

 

 

 世界は今も大きく揺れ動いている。新型コアという爆弾を落とされたがゆえに。

 

 しかし、それはまだ終わっていなかった。むしろ、それが始まりだった。

 

 

 イリーナの意思を代弁するように、レオンが不敵な笑みを浮かべながらそれを告げた。

 

 

 

「新型コアなんて、変革のための前準備に過ぎない、ということです」

 

 

 

 




新章開幕。この章でイリーナと束の計画がついに明かされます。

最近は仕事が追い込みとなって更新が遅れ気味になりそうです。なんとか一定ペースを確保したいですが、気長にお待ちいただけたらと思います。

この章と次章あたりでまた大きな山場を迎えそうです。最近は主人公の活躍より周りが目立ってますが、またちゃんとかっこいいアイズを描いていきたいです。


それではご要望、感想お待ちしております。ではまた次回に!

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