僕とウチと恋路っ!   作:mam

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1月15日(日)


僕とウチと看病part03

 

 僕が、精神(想像)と物理(美波の拳)の二重攻撃(ダブルアタック)で出た

 鼻血を止めている間に、美波が姉さんの下着だけ干し終わると……

 

「アキ?朝御飯は次のコースから選んでね?」

「う、うん……」

「赤色のAコース、黄色のBコース、どっちが良いのかしら?」

 

 そんな野菜風に色で言われても……

 

 その二つは、どう考えてもタバスコとカラシしか思いつかない。

 

「えっと……朝御飯抜きのCコースって言うのはダメかな?」

「ダメよ。朝御飯抜きなんて身体に悪いもの」

 赤や黄色一色の朝御飯を食べる方が身体に悪い気がするんだけどっ!?

 

 どちらを選んでも結果は一緒だと思うから

 どちらを選ばないか、僕が悩んでいると……

 

「判ったわ。じゃあ、コースは“ウチにお任せ”で良いわよね……アキっ!楽しみにしててね」

 

 美波、何が判ったのっ!?

 元々、今日の朝御飯は美波にお願いするつもりだったから

 “お任せ”で良いんだけど……食材も美波が買ってきてくれてるし。

 

 何故か、いきなり笑顔になった美波は嬉しそうにキッチンの方へ歩いていった。

 

 

☆   ☆   ☆

 

 

 僕が他の洗濯物を干し終わり、キッチンの方へ行くと……

 美波が忙しそうに動き回っている。

 

「美波。何か手伝おうか?」

「もうすぐ出来るから大丈夫よ。アキは座って待っててくれる?」

 

 美波は手を休めることなく返事をしてくれた。

 仕方ない。コーヒーでも淹れて待ってるかな。

 

「判ったよ。じゃあ、コーヒーでも淹れて待ってるね」

「うんっ」

 

 なんとなく、なんだけど……

 美波の機嫌が良くなっている気がする。

 

 すごく嬉しそうに料理をしているように見えたから……

 理由は判らないけれど、機嫌を直してくれたなら良いかな。

 

 テーブルの上に僕と美波の分のコーヒーを淹れて待っていると

 

 

「アキ、お待たせ」

 

 お盆の上にフレンチトーストが載ったお皿と

 ソーセージと半分に切ったゆで卵が載ったお皿と

 サラダの入ったカップを載せて美波が笑顔でやってきた。

 やっぱり機嫌を直してくれたのか。

 

 ……ん?

 

 テーブルの上に置かれたお皿は一つずつしか見当たらない。

 一つのお皿に載っている量は一人分にしては多いから

 きっと二人分を一つのお皿に載せてあるのだろう。

 

 それは良いんだけれど……

 

 

 ――フォークも一本しか見当たらない。

 

 

 今、テーブルの上に、二つある食器はコーヒーが入ったカップだけ。

 

 まさかとは思うけど……

 

 僕は手掴みで食べないといけないのだろうか。

 やっぱりまだ怒っているのかな?

 

 

 

 テーブルの上にお皿を並べ終わると、美波は僕の隣に座り

 

「朝御飯食べましょ」

「う、うん」

 

「「いただきまーす」」

 

 美波と二人揃って、朝御飯を食べるために手を合わせる。

 

 今日のフレンチトーストはフランスパンで作ってくれたみたいだ。

 美波はそれを一つ取ると

 

「あーん」

 

 笑顔で僕の口元に差し出してくれた。

 ここは素直に食べさせてもらおう。

 何より、美波が笑顔になってくれたんだから。

 

――パクッ、もぐもぐ……

 

 うん、美味しい。

 パンがいつもより厚めにカットされているからなのか

 外がカリッとしてるんだけど、中はしっとりとしている。

 蜂蜜が塗ってあるんだけど、パンが食べ応えがあるせいか

 甘さのバランスがちょうど良い。

 

 食べ終わると僕もパンを一つ手に取り、美波の口元へ。

 

「あーん」

 

 美波もパクッと食べて、嬉しそうに微笑んでいる。

 そして美波がパンを食べ終わるのを待って聞いてみる。

 

「ねぇ、美波?フォークが一本しかないんだけど……」

 

 すると美波は笑顔をさらに輝かせて

 

「うん。ウチとアキで一緒に使うのよ」

「そっか。さっきの事をまだ怒っていて僕は手で食べるのかと……って、ええっ!?」

 

 昨日、ケーキとパフェでたくさんやったのに今日もするのっ!?

 

 僕が驚いていると……

 僕の左手を両手で包むように握ってくる美波。

 

「さっきの事は忘れてあげるから……今日はずっとアキの傍に居させて?」

「姉さんも居るのにっ!?」

「もちろん、玲さんの看病はちゃんとするわよ。でも……」

 

 美波は頬を染めて大きな瞳を少し潤ませて僕を見上げると

 

「二人っきりの時だけで良いから、アキとこうしていたいの……ダメ?」

 

 何かを期待するような……

 何かに怯えているような……

 

 ――儚い感じがする美波の笑顔。

 

 

 そんな顔を見せられて僕が……

 

「うん。僕に出来る事なら何でも言ってね」

 

 ――ダメ、なんて言える訳が無かった。

 

 

「アキ、ありがと……はい、あーん」

 

 パッと花が咲いたように笑顔を輝かせて美波がソーセージを僕の口元へ。

 

 うん。やっぱり美波には、いつも笑っていて欲しい。

 そして、その笑顔を近くで見るのが僕の一番の願いなんだけど……

 

 

 ――今はちょっと恥ずかしくて床を転げ回りたいかも?

 

 

 なんて、ソーセージを食べさせてもらいながら思ってしまう。

 

 

 さっき、AコースかBコースを選んでいたら

 本当に転がり(のたうち)回っていたんだろうなぁ……

 

 

 

☆   ☆   ☆

 

 

 

 朝御飯を食べ終えて、美波と二人で食器を洗い

 リビングで……二人並んで座って一休み。

 

 

「アキ。この後、どうするの?」

「普段だと掃除機かけたりするんだけど……姉さんが寝てるかもしれないから静かにしてた方が良いかな」

「それもそうね……じゃあ、少しゆっくりさせてもらうわね」

 

 僕の背中から美波の声が聞こえてきて……

 『んー』と、美波が大きく伸びをしているみたいだ。

 

 

 美波たっての希望で、僕と美波は背中合わせで床に直に座っている。

 

「こんな座り方で良いの?」

 

 ソファに座った方がゆっくり出来るんじゃ……

 と、僕が思っていると美波は嬉しそうな声で

 

「うん。こうしてるとアキがウチを支えてくれてるんだって……すごく感じられるんだもの」

 

 そう言うと美波は、僕の背中に身体を預けるように寄りかかってくる。

 でも全然重く感じない。

 そのかけられてくる重みで、美波がすぐ傍に居てくれるんだって

 実感出来てすごく嬉しくなってくる。

 

「そっか」

 

 僕が美波の何を支えてあげているのかは判らないけれど……

 美波が僕を必要としてくれているのは判る。

 

 

 しばらく二人とも黙ったまま座っていると……

 

 ふっ、と背中が軽くなり……

 

 

「これくらいしても良いわよね」

 

 僕の耳元から美波の声が聞こえてくる。

 仄かに良い匂いがして……背中がすごく温かい。

 

 美波が後ろから、僕の首に手をまわして抱きしめてくれている。

 

「去年だったら……絶対にこんな事出来なかったわね」

 すごく嬉しそうに美波が僕の耳元に話しかけてくる。

 

 うん、僕もそう思う。

 去年の美波だったら、このまま僕の首を絞めているんじゃないかな?

 すると美波が……

 

「アキが今、何を考えているか当ててみましょうか?」

 

 ――なんて、いきなり言うから少しドキッとしてしまう。

 

「うん…………ひぁっ!?」

 

 僕が返事をすると……

 美波は、ふぅって僕の首筋に息を吹きかけて、くすくす笑っている。

 

「首がくすぐったい、って思ってるでしょ……アキって相変わらず首筋が弱いわね」

「いきなりそんなことされたら……」

「ふふっ、ごめんね……本当は――」

 

 美波はそう言うと……

 

 僕の首をさらに優しく抱きしめて

 息が掛かっているのが判るくらい、僕の耳に口を近づけて

 

「――ウチとずっと一緒に……傍に居たいって想ってくれてるでしょ?」

 

 優しく囁いているけど……確信しているであろうハッキリとした美波の声。

 

 さっきはちょっと変な事を考えていたけど……

 今は僕も美波とずっとこうして一緒に居たいと想っている。

 

 

 ――いや、今だけじゃない。

 

 美波が告白してくれた時から……

 美波に告白した時からずっと……

 

「うん。僕もずっとこうして――」

 

 僕が話しかけた時……

 

 

 

――カチャ

 

 

「アキくん、美波さん。お薬を飲みたいので御昼御飯をお願いしても……」

 

 ええっ!!

 姉さん、部屋で寝てるんじゃっ!?

 

 僕がビックリして動き出すよりも……

 

 ――座った状態の僕の首に腕をまわしたまま、美波が立ち上がったので

 

 

「くぺっ!?」

 

 

 ――不幸な事故で死にかけた。

 

 


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