僕とウチと恋路っ!   作:mam

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1月14日(土)→1月15日(日)


僕とウチと看病part01

――ガチャ

 

 

「ただいまー」

 

 ドアを開けて外の冷たい空気と共に玄関に入ると……

 

「おかえりなさい」

 

 姉さんがリビングからやってきてくれた。

 家の中とはいえ、廊下も寒いのにわざわざ出迎えてくれるなんて……

 

「外は寒かったでしょう?」

「うん。今日は何か温かい物でも作るね」

 僕が靴を脱いで、着替えの為に部屋に行こうとしたら

 

「あ、アキくん。姉さんはこれから――」

 

 ん?

 

 これから……なんだろう?

 何処かへ出かけるとでも言うのだろうか。

 もう外はだいぶ暗くなっているのに。

 

「アキくんが作った御飯を――」

 

 出かけるんじゃないのか。

 姉さんも一応年頃の女性なんだから夜に出かけるとか言われると

 弟としては少し心配になっちゃうよね。

 

 そして僕がいつものように夕御飯を作ろうと思っていたから、そのつもり――

 

 

「可愛く着飾ったアキくんに食べさせてもらおうと思っているのですが」

 

 

 ――なんて全然無いからねっ!?

 

 姉さんが頬を少し染めて……気のせいか、少し目が潤んでいる気がする。

 でも、ここは下手に姉さんに突っ込むと、力付くで着替えさせられそうだから

 姉さんの言った事は聞かなかった振りをしておこう。

 

「……姉さんは何か食べたい物はあるの?」

「アキくんが食べさせてくれるなら何でも良いですよ」

 にっこりと微笑みながら言う姉さん。

 さっき、美波も同じような事を言ってたな。

 そんなに僕に食べさせてもらうのって楽しいんだろうか。

 

 ……と、僕が考えていると

 

「――くしゅんっ」

 姉さんらしからぬ、可愛いくしゃみを一つ。

 

「今日は何故か、くしゃみが多いです」

 そう言って何か期待するような目で僕を見て

 

「きっとアキくんが姉さんの事ばかり考えていてくれたからですね」

「今日は寒いからだよ。僕が夕御飯作ってる間にお風呂でも入ってくれば?」

「アキくんが私の背中を流してくれるんですか?」

「僕は今、夕御飯作るって言ったよねっ!?」

「冗談です」

 

 ――風呂場に行く姉さんの顔は寂しそうだった。

 

 

 

☆   ☆   ☆

 

 

 

 姉さんがお風呂から上がる頃には、熱々の鍋焼きうどんも出来上がり

 冷めないうちにと思って、お風呂より先に僕も夕御飯を食べる事にする。

 

 姉さんが何かしてくると嫌だから、向かい合わせで座るように

 テーブルの上に鍋焼きうどんを置いておいた。

 姉さんは渋々といった感じだったけど、きちんと椅子に座って

 二人揃って手を合わせる。

 

「「いただきます」」

 

 少しの間、うどんを冷ます音と啜る音だけの食事が続く。

 そう言えば、明日は朝から美波が来るって言ってたっけ。

 

 それとなく姉さんの明日の予定を聞いてから美波が来る事を言うかな?

 ひょっとしたら朝早くから出かけてくれるかもしれないし。

 

 それなら……

 姉さんに聞く前に僕は手を組んで神様に祈りを捧げる。

 

 朝早くとか贅沢は言いませんから

 せめて姉さんが明日出かける用事がありますように……

 

「アキくん、いきなりどうしたんですか?」

 僕を見て、箸を止めて首を傾げながら質問をしてくる。

 

「姉さんの弟に生まれたことを神様に感謝しているのですか?」

「違うからねっ!?」

 

 どうして食事中にいきなりそんな事を感謝するのさ?

 むしろ姉さんの弟に生まれた事を恨めしく思っているくらいなのに。

 

 

 ――――もし、逆に僕がお兄ちゃんで姉さんが妹だったら……

 

 

☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆

 

 

 僕が小さい頃の姉さんから想像すると……

 

 身長は僕より少し低いくらいだろうか。

 この頃は、まだ胸がそんなに大きくなかったんだっけ。

 髪は今よりも少し長くて、確か肩くらいまで伸ばしていた気がする。

 

 

 ――そして何故か自分の制服を僕に突きつけている。

 

「兄くんっ!何でこの服を着てくれないんですかっ!?」

 

――ゴッゴッ…ガッガッ…

 

「痛っ、いたぁ……ちょっ、ちょっとっ、グーで往復ビンタはっ……やっ、やめっ……」

 

 

☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆

 

 

 …………今の生活と何処が違うのだろう?

 

 想像の中の僕に涙しつつ、とりあえず姉さんの予定を聞こう。

 

 

「姉さん。明日は何か予定があるの?」

「明日、ですか?」

「うん」

 お願いだから、あると言ってっ!!

 

「ありますよ」

「本当っ!?」

「はい」

 にこにこと笑顔で僕を見ている姉さん。

 僕も思わず顔が綻んでしまう。

 

「アキくんがそんなに喜んでくれるなんて……姉さんも嬉しいです」

 うんうん。明日、姉さんが何処かに行ってくれて

 美波と一緒に居るところを邪魔されないなら手を上げて喜びたいくらいだ。

 姉さんは明日何時から居ないんだろうか。

 

「じゃあ、アキくん。明日はよろしくお願いしますね」

「ふぇ?よろしくって何がさ?」

 僕が首を傾げて姉さんに質問をすると……

 

「明日はアキくんに可愛い格好をさせて姉さんに尽くしてもらおうかと」

 

 なんで姉さんの予定に、断りも無しに僕が組み込まれているのっ!?

 

 しかも可愛い格好って……

 どう考えてもフリフリしてヒラヒラした服(カチューシャ付き)しか思い浮かばない。

 メイド服(青)とか、メイド服(赤)とか、メイド服(黒)とか……

 男子高校生が嗜む服じゃないよね。

 

「ちょっと待ってよ。何で僕がそんな格好をして姉さんの相手をしないといけないのさっ!?」

「今日はあまり体調が良くないみたいなので……明日は一日家でゆっくりする予定なのです」

「それなら早く食べて、ゆっくり寝てよ」

「アキくんと一緒にですか?」

「一人に決まってるでしょっ!?」

 

 姉さんは、寂しそうな顔をしていたけど……

 姉さんが家でゆっくりするのは良いけれど

 何でそれに僕が巻き込まれないといけないのか。

 

 ここでいつまでも一緒に食べていると、姉さんがまた変な事を言い出しかねないので

 僕は少し慌て気味にうどんを啜り

 

「ごちそうさま。僕、お風呂に入ってくるね」

「いってらっしゃい」

「姉さんも無理しないで早く食べて寝てね」

「無理しないでって……アキくんを抱き締めようとするのを我慢しなくて良いって事ですか?」

「そこは一生無理しててよっ!?」

 

 姉さんは「えー」って顔をしていたけれど……

 とりあえず僕は逃げるように風呂場へ移動した。

 

 

☆   ☆   ☆

 

 

「まったく……姉さんにも困ったな」

 湯船に浸かりながら考える。

 

 去年までの僕なら――

 

 姉さんが心配して必要以上に僕を気にかけてくれるのは判る気がする。

 でも今の僕には美波が……僕には勿体無いくらいの立派な彼女も居るのに。

 

 姉さんも美波の事をすごく気に入ってくれてるみたいなんだけどなぁ。

 

 

 

 ……あ。

 

 美波が明日家に来ることを姉さんに言うのを忘れてたな。

 お風呂から上がったら言えば良いか。

 

 

 

――――

―――

――

 

 

 

「姉さん?」

 

 僕はお風呂から上がり、リビングへ向かって声をかけてみる。

 でも何の反応も無かった。

 

 やっぱり具合が悪いのかな?

 それだったら、わざわざ起こしてまで言うほどでもないだろう。

 美波が朝御飯を作ってくれるのは初めてじゃないし……

 

 夕御飯で使った鍋や食器を洗ってから僕も早めに寝る事にする。

 明日、折角美波が来てくれるのに

 玄関の前でいつまでも待たせる訳にいかないからね。

 

 

 

☆   ☆   ☆

 

 

 

――翌朝

 

 

 ――PiPiPiPiPiPi……

 

 電子音が鳴り響き、姉さんから体温計を受け取る。

 

「――37.3度」

 

 布団の中に居る真っ赤な顔をした姉さんに伝える。

 昨日具合が悪いって言っていたけど、本当に風邪を引くとは……

 でも普段から仕事で忙しそうだったし、だいぶ疲れていたんだろうな。

 良い機会だから、ゆっくり休んでもらおう。

 

「姉さん、何か『メイド服を着て看病』なんてしないからねっ!?」

 看病だけならしてあげたいけど、何でメイド服を着てしないといけないのさっ!?

 姉さんは少し潤ませた目で僕を見ながら

 

「(こほこほ)……じゃあ、ナース服でも良いです」

「なんで女装しないといけないのっ!?」

 姉さんは本当に風邪を引いて具合が悪いのだろうか?

 普段と変わらない気がするんだけど……

 

 あ……それより美波に電話しておかないと。

 

「姉さん、ごめんね。僕ちょっと電話してくる」

「誰にですか?」

「美波だよ。今日朝御飯作ってくれるって言ってたんだ」

 折角来てくれても姉さんがこんな調子だと美波にも迷惑かけちゃうし……

 

 

 僕は自分の部屋に行き、携帯を手に取り、美波の番号を選択して……と。

 

――Prrrr Prrrr Prrrr

 

「もしもし、美波?」

『アキ。ちょうど良かったわ』

「ふぇ?何が?」

『今、アキの家の近くのスーパーまで来たんだけど何か食べたい物があるかなって』

 

 時計を見ると7時半……美波は休みの日でも朝早いんだなぁ。

 

「その事なんだけど……実は姉さんが風邪を引いちゃって」

『ええっ!?玲さんが?』

「うん。だから悪いけど、今日は姉さんの看病しようと思ってるんだ」

 

 でも美波はうちの近くまで来ちゃってるのか。

 こんな朝早く来てくれたのに帰れって言うのも悪いな……と、思っていると

 

『判ったわ。それなら、ウチにも看病させてくれない?』

「ええっ!?そんな悪いよ」

 折角の休みの日を姉さんの看病なんかで潰させちゃうのは悪いよね。

 

『そんな事ないわよ。だってアキのお姉さんじゃない。それならウチの……』

 電話の向こうで美波が何か言ってるんだけど……声が小さ過ぎて聞こえない。

 

「本当に良いの?」

『もちろんよ。ウチにはアキの看病をした実績もあるんだからねっ』

 

 美波は本当に面倒見が良いなぁ。

 確かに去年僕が風邪を引いた時、美波に看病してもらって嬉しかったっけ。

 

 ――と言う事は、姉さんも僕に同じ事をしてもらいたいのかなぁ?

 

 あの時……

 美波はメイド服を着て看病してくれたり

 病院に付き添ってくれたりしたんだっけ。

 

 

 ……やっぱり僕も女装しないといけないのだろうか。

 

 

『ところで、アキ』

「ん?どうしたの?」

『何か欲しい物はある?要る物があるなら買って行くけど?』

 

 そう言えば、美波は今スーパーの近くに居るんだっけ。

 それなら……

 

「じゃあ、悪いけど卵と出汁取り用の昆布と……」

 僕は少なくなっていた物をいくつか美波にお願いする。

 

『おっけー。それじゃ、出来るだけ急いで行くわね』

「うん。よろしくお願いするね」

『また後でね』

 

 携帯を机の上に置き、また姉さんの部屋へ。

 

 

――コンコン

 

「姉さん、入るよ?」

 

 カチャ、とドアを開けて部屋の中へ入り

 姉さんが寝ているベッドの傍へ行くと……

 

「アキくん。お願いがあるのですが……」

 

 姉さんが布団の中から真っ赤な顔で真剣な表情になり、話しかけてきた。

 一体、何をお願いしたいのだろう?

 

 


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