僕とウチと恋路っ!   作:mam

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1月12日(木)


僕とみんなとある放課後

――放課後

 

 

「明久と島田は鉄人の補習は、もう終わったのか?」

「うん。昨日、終わったよ」

 

 僕が帰り支度をしていると雄二が話しかけてきた。

 何で雄二がこんな事を聞いてきたのかと言うと……

 

 一昨日と昨日の2日連続で鉄人の補習を、珍しく美波と一緒に受けていた。

 僕のせいで美波と二人、勝手に早退しちゃったから……

 

 美波に申し訳ない事をしちゃったなぁ。

 でも美波は……

 

「ウチはアキと一緒に勉強出来るからずっとやってても良かったのに」

 

 帰り支度を済ませた美波が僕の横に座って、そう答えた。

 僕も美波と二人きりなら良いけど、鉄人も居るからなぁ。

 

「美波、ごめんね。僕のせいで受けなくてもいい補習受けさせちゃって」

「アキは、まだ気にしてるの?」

「だって……」

 

 気にするな、と言う方が無理だと思う。

 僕が卓袱台の上に置いてあった教科書に手を載せたまま考えていると……

 

「アキが悪いと思うなら……今度の土曜にウチに付き合ってくれない?」

 僕の手の下にある教科書を取って、僕の鞄に入れてくれる美波。

 

「今度の土曜って明後日?」

「うん。駅前に新しいスイーツのお店がオープンしたんだって……一緒に行かない?」

 

 顔を輝かせて嬉しそうに話す美波。

 やっぱり女の子は甘い物が好きなんだなぁ。

 そんな嬉しそうな美波を見ていると僕まで嬉しくなってくる。

 

「うん。僕で良ければ付き合うよ」

 

 この間のお詫びと言う訳じゃないけど……

 僕に出来る事で美波が喜ぶなら何でもしてあげたい。

 すると……鞄に仕舞うため、ノートを持っている僕の手に美波が手を重ねてきて

 

「違うわよ、アキ」

 僕を大きな瞳でジッと見つめている。

 

「『僕で良ければ』って……ウチはアキだから良いのよ。忘れたの?」

 

 そう……だったよね。

 

 僕が想ってるように、美波も僕と一緒に居たいって……

 いつも想ってくれているんだよね。

 

「そうだよね。うん、すごく楽しみだよ」

 僕が笑顔でそう言うと

 

「ウチもすっごい楽しみ……アキにあーんしてあげたり、あーんしてもらったりするの」

 パッと花が咲いたように眩しい笑顔になる美波。

 やっぱり、あーん(それ)はしないといけないんだ。

 

 美波の嬉しそうな笑顔が見れて嬉しさ半分

 当日の事を考えて恥ずかしさ半分といった感じで

 僕が顔を赤くして笑顔を引きつらせていると

 

「なんだ、お前らも行くのか」

 雄二がいきなり僕らの会話に加わってきた。

 

「お前らもって……坂本も行くの?」

 美波が意外そうな顔で雄二を見ている。

 そりゃ、そうだろうなぁ……スイーツなんて顔してないし。

 

「ああ、翔子が行きたがっててな。俺は甘い物はあまり好きじゃないんだが」

「……でも、その代わり私の事が食べちゃいたいくらい好きだから」

 ポッと頬を染めて霧島さん登場。

 

「なっ……翔子、いきなり出てきて何を言ってるんだっ!?」

「……判った(チャラ)」

 そう言って手に鎖を持つ霧島さん。

 

「何でお前はそんな物騒なもんを持ってるんだっ!?」

 両手を前に突き出しながら距離を取ろうとする雄二に向かって

 霧島さんは不思議そうな顔をして頭をちょこんと傾げながら

 

「……私が雄二の傍に現れると驚くから……いつも雄二が私の傍に居れば良いかと思って」

「俺とお前はクラスも家も性別も考え方も何もかも違うじゃねぇかっ!」

「……判った(パサッ)」

 霧島さんの手にはいつの間にかメイド服が……

 

「何でそんなもん持ってるんだっ!?……さてはムッツリーニっ!貴様かっ!?」

 霧島さんから慌てて視線をムッツリーニに向ける雄二。

 そのムッツリーニは親指をグッと立てている。

 しかし、ムッツリーニはいつも教室にメイド服を隠し持っているのか。

 

「…………任せろ(キラーン)」

「任せろじゃねぇっ!それに翔子っ!なんでクラスや家や考え方よりも先に性別から変えようとしてるんだっ!?」

 雄二がメイド服を持って迫ってくる霧島さんを抑えながら質問をすると

 

「……雄二が女の子になったら一緒にお風呂に入っても恥ずかしくないだろうから(ポッ)」

「突っ込むところだらけだが……風呂入る時にメイド服脱いだら男に戻るだろうがっ!?」

「……私は雄二が男でも女でもどっちでも構わない(ポポポッ)」

「余計顔を赤くして迫ってくんなっ!!俺が構うんだよっ!!」

 

 真っ赤な顔をした雄二が、真っ赤な顔の霧島さんを抑えていると

 

 

――ガラッ

 

 教室の扉が開いて工藤さんが現れた。

 

「ムッツリーニ君、一緒に帰ろ……って代表、何でそんなに顔赤くしてるの?」

 工藤さんが頭を傾げて尋ねると……

 

「……今度の土曜に雄二と一緒に新しいスイーツのお店に行く話をしてる」

「えっと……それって坂本君にメイド服を着せて行くの?それとも代表が着て行くの?」

 

 確かに今、教室に入ってきてこの状況を見れば……

 メイド服を持った真っ赤な顔をした霧島さんが

 真っ赤な顔をした雄二に迫っていれば、どっちかが着て行くと思うよね。

 どちらかと言うと押されている雄二が無理矢理、着させられるように見えるけど。

 

「……違う。メイド服(これ)は雄二に着せて一緒にお風呂に入るの」

「ああ。坂本君が女装して一緒に女風呂に入るんだね」

 工藤さんは、ポンと手を打って、この状況を理解したみたいだ。

 その説明で理解出来るなんて色んな意味で工藤さんはすごいな。

 

「でもお風呂は服を着たまま入ったら大変だよ?」

 八重歯を見せながら可愛く微笑んでいる工藤さん。

 

「工藤っ!問題はそこじゃねぇっ!!」

 雄二が頬にメイド服を押し当てられながら突っ込みを入れている。

 しかし、あの雄二に力で勝っちゃうなんてさすが霧島さん。

 恋する乙女のパワーは何にも勝るんだね。

 

「ねぇねぇ、ムッツリーニ君。ボクも新しく出来たお店に行ってみたいんだけど……」

 ムッツリーニの袖を引っ張りながらお願いしている工藤さん。

 するとムッツリーニは首を横に振って

 

「…………土曜は機材の整理をする予定」

「ええ~っ」

 工藤さんはいきなりムッツリーニの腕を抱きしめて

 

「じゃあ、整理するのボクも手伝ってあげるから一緒に行こうよ」

 工藤さんは屈託のない笑顔でムッツリーニを見ているけど……

 ムッツリーニの方が限界を迎えたみたいだ。

 

――――ボタボタ……

 

「愛子ちゃん。土屋君の腕に胸が当たってますよ」

「ムッツリーニよ。一緒に行ってあげれば良いじゃろう」

 姫路さんと秀吉が二人に声をかけている。

 

「…………くっ。俺にも都合という物がある」

 鼻血を止めながらムッツリーニが言うと

 

「じゃあ、みんなで行きませんか?」

 姫路さんが両手を合わせながら提案してきた。

 

「みんなで?」

「はい。私も食べに行きたかったんですけど……一人だと恥ずかしくて」

 姫路さんが僕と美波の方をチラッと見て少し頬を染めながら言うと

 

「そうじゃのう。みんなで行くならムッツリーニも行くじゃろ?」

 秀吉があごに手を当てながら、そう言うと……

 

「…………仕方ない」

 流石にムッツリーニも、この場の空気を壊したくなかったんだろう。

 渋々といった感じで返事をする。

 

「ホントっ!?ありがとう、ムッツリーニ君っ」

 工藤さんが嬉しさのあまり、ムッツリーニに抱きつくと

 

――――プッシャァァァ

 

 鼻血を止めていたティッシュが勢いよく飛び出して

 ムッツリーニの足元に再び血溜まりが出来ている。

 

 

 そして……

 

 横を見ると、美波が口を少し尖らせて……僕の鞄を丸めていた。

 

 教科書やノートを丸めるなら僕にも出来るけど

 さすがに鞄ごと丸める人はそうそう居ないだろう。

 何か、あったのかな?

 

「美波、どうしたの?」

 僕が美波の方を向いて聞くと小声で

 

(せっかく、アキと二人っきりでお出かけ出来ると思ったのにっ)

 そう言うと、頬を少し膨らませる美波。

 

(仕方ないよ。ムッツリーニは、きっと二人っきりだと恥ずかしいだろうし)

(それはそうなんだろうけど……)

 

 美波は釈然としないのか、まだ僕の鞄を丸めている。

 そろそろ返してもらわないと僕の鞄が捻じ切られそうだ。

 

(じゃあさ、日曜に僕が美波のお昼御飯を作るってのじゃダメかな?)

(アキが……作ってくれるの?)

(うん。この間のお詫びも兼ねてさ)

 

 僕に出来る事って料理くらいしか思いつかないからなぁ。

 それに今、美波が一番望んでいる事は、きっと……

 

 すると美波は何かを探るような顔で僕を見て

 

(それって……ウチだけよね?)

(もちろん、美波だけだよ)

 僕が頷くと、美波は嬉しそうに微笑むと

 

(……ありがと、アキ)

 と、囁いた。

 

 良かった。美波が笑顔になってくれて……と、思っていたら

 

 

「んじゃ、土曜は駅前の広場に12時に集合な」

 

 ふいに雄二がそんな事を言い出した。

 

「ん?土曜ってなんかあるの?」

 雄二は、何で学校が休みの日に集まるつもりなんだろう?

 

 すると秀吉が呆れ顔で

 

「明久よ。お主たちが最初に言い出したんじゃろう」

「僕、何か言ったっけ?」

 僕が頭に『?』を浮かべていると……

 

「お前らが駅前にスイーツ食べに行くって言い出したんだろうがっ(ボゴッ)」

「痛ぁっ」

「ちょっと、坂本っ!アキがこれ以上バカになったらどうするのよっ!?」

 

 僕が涙目になっていると、温かくて良い匂いがして僕の頭に柔らかい感触が……

 美波が僕の頭を(かば)う様に抱きかかえている。

 

「安心しろ。それ以上、明久がバカになるとは思えん」

「何よっ!そんなのやってみないと判らないじゃないっ!?」

 

 ―――ちょっと、美波っ!何をやるつもりなのっ!?

 

 僕は震えながら美波に抱きかかえられていた。

 

 

 

☆   ☆   ☆

 

 

 

――帰り道

 

 

 僕の隣を美波が嬉しそうに歩いている。

 

 その横顔が夕日に照らされて……すごく眩しく見える。

 

「どうしたの、アキ?ジッとウチを見て」

 美波が、ちょこんと首を傾げて僕を見上げている。

 

 その仕草が可愛くて……

 笑顔が夕日に照らされて眩しく見えるのも相まってドキッとしてしまう。

 

「すごく……嬉しそうだなって」

 僕はドキドキしてるのを美波に悟られないように……

 出来るだけ平静を装っているけど、バレてないかな。

 

「毎日、学校で一緒に居られて……週末にもずっと(学校がなくても)一緒に居られるんだもの」

 そう言うと僕の手と指を絡めるように繋いできて……

 僕を見ている笑顔がいっそう輝きを増した気がする。

 そして僕の顔をジッと見て……

 

「ひょっとして……アキも照れてるの?」

「そっ、そんな事は無いよ。たぶん…きっと…そのはず…だと思うんだけど……」

 

 僕が返事に困って、立ち止まると美波は……

 

「ウチはこんなにドキドキしてるのに……本当なのかしら?」

 

 仄かに香るシャンプーの良い匂い。

 僕の目の前でリボンで纏められた美波の綺麗な髪が陽の光を流すように揺れて輝いている。

 

 ――美波は僕の胸に耳を当てていた。

 

「アキの嘘つき……こんなにドキドキしてるじゃない」

 

 制服やコートの上からでも心臓の鼓動が判るくらい……

 繋いでいる手が汗ばんでいるんじゃないかと思うくらい……

 夕日のせいじゃなくて、僕の顔が赤くなっているのが判る。

 

 僕が一番大切だと想うひとが……

 僕が一番望んでいることを……

 僕が一番見たかったものを見せてくれてる……

 

 

「だって……美波が僕の傍で笑っていてくれるから」

 

 


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