僕とウチと恋路っ!   作:mam

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1月9日(月)


僕とウチと横恋慕part04

 目の前には……

 

 綺麗な髪を束ねた黄色いリボンとポニーテールが揺れていて仄かに良い匂いがする。

 僕の左頬に触れている柔らかい感触が心地好い。

 

 

「アキ……忘れ物、思い出してくれた?」

 

 美波が僕の耳元で優しく囁いてくれるから……

 少し、くすぐったかった。

 

 今の僕には、そのくすぐったさが……

 美波が傍に居てくれるって実感出来るのが嬉しい。

 

 僕の頬に触れている美波の頬はすごく……熱いと言っても良いくらい温かかった。

 きっと美波の顔は真っ赤なんだろうな。

 僕も頭が少しぼうっとしてるから……たぶん顔は赤いと思う。

 

 美波は前に、唇に触れさせるようなキスは簡単にしないと言っていた。

 でも、つい今しがた美波は……僕にキスをしてくれた。

 そして美波は僕に、こう言った。

 

『アキが忘れたのは……ウチがどれだけアキを好きなのかって事よ』

 

 

 この場所で美波は僕に好きだって言ってくれた。

 

 ずっと僕の傍で笑っていたいって言ってくれた。

 

 

 僕は、そう言ってくれた美波を信じてあげられなくて

 

 ……逃げ出してしまった。

 

 

 美波にすごく申し訳ない気持ちが込み上げてきて

 美波を信じてあげられなかった僕自身がすごく情けなくて

 僕のちっぽけな心はすぐいっぱいになってしまい……

 

「――――っ!!」

 

 僕は美波に謝りたいという気持ちと今の自分の情けなさが

 小さな形となって目から溢れ、頬を伝ってしまうのを

 ……堪える事が出来なかった。

 

「アキ、どうしたの?ウチ、何か変な事言った?」

 

 美波は僕から顔を離して……

 真っ赤な顔で心配そうに僕を見ると

 ポケットからハンカチを取り出して優しく頬を拭いてくれる。

 

 こんなに優しくて、いつも僕の事を気にかけてくれる美波を信じてあげられなくて……

 僕は美波に謝ろうと思ってハンカチを持っている手に触ると

 

 美波の手……こんなに冷たい。

 この寒い中、ずっと握り締めてここに来てくれたんだろうな。

 僕が忘れようとしていたマフラーを届けるために……

 僕が忘れかけていた大切な事を伝えるために……

 

「美波、心の底からごめんなさい……信じてあげられなくて……こんなになるまで気が付いてあげられなくて……」

 

 僕は触っていた美波の手を……

 いつものように温かくなってくれるように

 息をかけて祈るように両手で包んだ。

 

 こんな事じゃ全然罪滅ぼしにはならないけど

 美波のこんなに冷たくなった手に何もせずには、いられなかった。

 

「アキ……」

 美波は真っ赤な顔のまま、すごく嬉しそうに微笑むと

 

「アキ、指きりしよ……絶対守る約束」

「うん……」

 僕が右手の小指を差し出すと……

 美波は左手を差し出してきた。

 

「違うわよ……アキも左手の薬指を出して」

「ふぇ?薬指?」

「そうよ……ウチはこの約束を必ず守る。だからアキも約束して?」

「うん」

「普通の指きりじゃないの……すごく特別な指きりなんだからね」

 

 お互いに薬指同士を絡めて……

 確かに小指みたいにすぐ解けそうに無い。

 これだけしっかりと指同士が合わさっていると

 約束も簡単に破れないだろうって気になるな。

 

「ここでウチがアキに告白した時……アキはずっと傍に居て下さいってお願いしてくれるって言ってくれた」

 

 美波は幸せそうな笑顔で繋いでいる指を見ながら

 

 

「ウチはアキがその言葉を言ってくれるまでずっと……アキの事を好きでいます」

 

 

 ふっと顔を上げて僕の方を見た美波の笑顔は……

 

 僕に告白してくれた(  あ   の  )時に見た、心の底から幸せそうな綺麗で眩しい笑顔だった。

 

 

「そしてアキがその言葉を言ってくれたらウチは……きっとアキの事をもっと好きになります」

 

 

 僕が美波の笑顔に見蕩れていると

 

 

「だからアキも……約束、してくれる?」

 

 大きな瞳を潤ませながら僕を見つめている美波に……

 

「僕は……美波の想いを絶対に忘れない。美波の気持ちを絶対に疑わない」

 

 繋いでる手に、美波がそっと右手を添えてきたので僕も右手を添えて

 

「いつか必ず……美波にずっと傍に居て下さいってお願いするよ」

 

 僕がそう言うと美波が笑顔のまま僕を見つめてきて……

 その笑顔を見ていると僕も何故か顔が綻んできて……

 

 

「僕は絶対嘘なんかつかないし」

「ウチが嘘なんか絶対つかせないわ」

 

「「ゆーび、きーったっ!」」

 

 

 そして指と指が離れて……何気なく美波を見ると、美波も僕の方を見て

 

「あはは」

「ふふっ」

 

 何が可笑しかったのか判らないけど、二人とも笑い出していると……

 

 

「こほん……館内ではお静かに願います」

 いつの間にか、司書さん再登場。

 

「「ごめんなさい」」

 美波と二人揃って慌てて頭を下げる。

 

「まったく貴方たちは……泣いたり笑ったり、楽しそうで良いわね」

「いやぁ、それほどでも……」

 僕が照れながら頬を掻いていると

 

「別に褒めている訳じゃないのですが」

 はぁっと言うため息が聞こえてきそうな、少しアンニュイな表情を見せる司書さん。

 

「すいません。アキがバカなんで……」

 美波はそう言うと僕の後頭部を抑えて、自分が頭を下げるのと一緒に

 僕の頭もグイッと下げさせてきた。

 

 いきなりだったから腰がちょっとゴキッて鳴ったような気がするけど……

 

「まぁ良いでしょう。言語(ここ)はそんなに利用する人も多くありませんし」

 司書さんは、そう言って微笑むと

 

「次来る時は、ちゃんと本も利用してくださいね」

 さっきと同じ様に片手をひらひらさせて行ってしまった。

 

 

 チラッと時計を見ると、そろそろ6時間目が終わる頃か。

 美波も時計を見て時間を確認すると……

 

「いけない。そう言えば今日の放課後、平賀と約束してたんだっけ」

「何の約束をしてるの?」

「うーん……平賀には恥ずかしいから誰にも言わないでくれって口止めされてるのよね」

 

 美波は少し困った顔で携帯を取り出している。

 ムッツリーニのおかげで美波と平賀君の会話を聞いちゃったけど……

 

 美波は平賀君……ではなくて、たぶん用事に付き合うんだろう。

 さっき司書さんが言っていた、何通りもある意味の一つなんだよね。

 僕がキチンと意味を知ろうとしていれば

 美波まで午後の授業をサボらなくて済んだのに……悪い事しちゃったな。

 

 明日の鉄人の補習の事を考えて僕が項垂(うなだ)れている横で

 美波は、なにやら携帯を操作している。

 誰かにメールでも送っているのかな?

 

「……送信完了っと」

 美波が携帯を仕舞っているのを見ながら

「誰にメールを送ったの?」

「瑞希に平賀が教室に来たら駅前の広場で待ってるって伝えてくれるよう、お願いしたのよ」

 

 美波はそう言うと、にこっと微笑んで

 

「もちろんアキも一緒に来てくれるわよね?」

「僕も行って良いの?」

「平賀は話さないでくれって言っただけでアキに付いてきちゃダメって言ってないわよ」

 でも付いていったら僕にも判っちゃうんじゃ……

 

 僕がそんな事を考えていると

 美波は僕の首にマフラーを巻いてくれて

 

「これで良しっと……アキ?二度と忘れちゃダメよ?」

 美波は片目を瞑って僕のおでこに人差し指を当てている。

 

「うん」

 絶対に忘れない。

 美波がどれだけ僕の事を大切に想ってくれているか……好きなのかって事を。

 

「うん、よろしい」

 美波はそう言って左手を少し上げると……

 

 いつもの……見ているだけで僕も元気になるような笑顔で

 

「ウチ……アキがこの指にプレゼントをくれるのを楽しみに待ってるからねっ」

 

 




今回のお話は一話ずつが少し短かったかもしれません。
珍しく起承転結を少し考えながら書いていたもので……あんまりそんな感じがしませんけど。
さらに今話は今までちょっと溜め込んでいた色々な物を噴出させてしまいました。

たまには、こんな感じのもアリって事で……

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