僕とウチと恋路っ!   作:mam

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1月9日(月)


僕とウチと横恋慕part02

 

 

―― 明久side ――

 

 

 思わず飛び出てきちゃったけど……

 

 お昼過ぎだって言うのに、只今絶賛真冬中だからなのか、すごく寒い。

 

 

 そう言えば…………

 

 去年の11月あたりから、学校から帰る時はいつも美波が隣に居てくれた。

 僕の横で嬉しそうに笑ったり、泣きそうになったり……怒ったりもしていたな。

 

 12月に入ったくらいだったかな?

 珍しく美波が眠そうにしていた時があったなぁ。

 

 あの時は確か……

 僕へのクリスマスプレゼントのために一生懸命マフラーを編んでくれていたんだっけ。

 

 

 …………やけに首元が寒いと思ったら美波が編んでくれたマフラーを忘れてきちゃった。

 

 

 今の僕の心の中だと、忘れてきたというより“置いてきた”という方が正しいのかもしれない。

 あのマフラーをしていると本当に暖かくて優しい匂いに包まれるから

 美波が傍に居て僕に向かって笑ってくれているような気がして……

 

 でも今教室に戻って先生に怒られるよりも、美波と顔を合わせる方が辛いな。

 

 もし美波から『平賀君と付き合う』って直接言われたら……

 

 

 あれ、おかしいな……

 

 いつもなら美波の事を考えるとすごく楽しくて温かい気持ちになれるのに……

 

 

 どうしてなんだろう……

 

 今は美波の事を考えるとすごく不安で……

 胸が押し潰されそうになって、ジッとしていられない。

 

 そんな気持ちに耐えられなくなって教室を飛び出てしまったんだけど……

 

 

☆   ☆   ☆

 

 

 学校の前の長い坂道を下ってから、しばらく歩いていると

 

 

――チリンチリン……チリンチリン……

 

 後ろから自転車が来たみたいだけど、この歩道は結構道幅が広くて

 僕の横は大きく空いてるんだから大丈夫だよね。

 そう思ってそのまま歩いていると……

 

 自転車のおばさんが僕を追い抜く時に

『何でこんなところを歩いてるのよっ』

 ……口には出していなかったけど、そんな顔で僕を睨んで通り過ぎていった。

 

 僕は普通に歩道を歩いているだけなのに何であんなに怖い顔をしていたんだろう?

 

 よく見ると……歩道は真ん中から車道側が赤く塗られていて

 ところどころに白色で簡単な自転車の絵が描かれていた。

 

 もしかすると僕が歩いている側は自転車用の道なのだろうか。

 それでおばさんは邪魔そうな顔で僕を見ていたのか。

 

 これだけ道が空いてるんだから僕が何処を歩いていても問題は無いはず。

 ……だと思うんだけど、やっぱり悪いのは僕なんだろうか。

 

 

 ひょっとしたら僕は今みたいに……

 

 気が付かないうちに美波に対して何か嫌な事をしていたのかもしれない。

 美波の優しさに甘えてて自分勝手で嫌な奴だったのかもしれない。

 

 

 

 

 ……なんでだろう。

 

 美波が傍に居なくても……

 美波に会うのが怖くて学校から出てきたのに……

 美波の事を考えるともやもやとした何かに胸が締め付けられて苦しいのに……

 

 

 

 いつも美波と一緒に帰っているように…………

 

 見慣れた道を通って美波の家の方へ歩いてきていた。

 

 

「……本当に僕はバカだな」

 

 何気なく呟いた自分の言葉に……当ても無く彷徨っている僕自身が情けなかった。

 こんなところまで来て、僕は何をしたかったんだろう。

 

 いくら近くまで来たからって美波はまだ学校だし……

 一緒じゃないのに美波の家に行く理由なんてある訳が無い……どうしようかな。

 

 その時、ふっと思い出す。

 

 普段なら静か過ぎて苦手なんだけど……

 今の僕にはちょうど良い場所かもしれない。

 そして学校の知り合いなら僕がそんな所に居るなんて絶対思わないし。

 

 

 …………美波以外。

 

 

 まだ、何かを期待している自分が嫌になってしまうけど……

 

 外に居ても寒いだけだから……

 

 僕は歩き出した。

 

 

 

☆   ☆   ☆

 

 

 

―― 美波side ――

 

 

――ガラッ

 

 

「うー、寒かった……ただいま」

「おかえりなさい、美波ちゃん」

 

 まったく、平賀も平賀よ。

 屋上であんなに長い時間話をするなら、一言言ってくれれば上着くらい持っていったのに。

 美春じゃないけど、熱い紅茶を用意しておくくらいの気持ち、無いのかしら。

 

 でも、こんなに手が(かじか)んでいると缶だと上手く開けられないかもね。

 せっかくだから、この冷たい手をアキの首筋にくっ付けて遊ぼうかな?

 

 こういう時のアキの反応って面白かったり可愛かったり……

 本当に見てて飽きないのよね。

 

 それに……

 アキってすごく優しいからウチの手がこんなになってたら

 両手で包んで温めてくれるかもしれないわね。

 出来れば、そっちの方がウチは嬉しいんだけどなぁ……

 

 

「あれ……アキは何処に行ったの?」

 

 アキの首筋に手を押し付けるだけじゃなくて

 今日は用事が出来たから一緒に帰れそうにないってことを伝えないといけないのに。

 ウチが両手を握ったり開いたりしながらアキを探していると……

 

「明久なら死にそうな顔をして出て行ったぞ」

「ワシの演技でもあそこまでは出来ん」

 坂本と木下がウチに目を合わさないように答えてくれた。

 なんか怪しいわね……何か隠しているのかしら?

 

「死にそうな顔って、どういう……」

 ウチが坂本に問い(ただ)そうと身体の向きを変えると

 

「あの……美波ちゃん?怒らないで聞いてくださいね?」

 瑞希がおずおずと片手を上げてウチに話しかけてきた。

 怒るかどうかは内容によるわね。

 

「どうしたのよ?」

「えっと、その…ですね……」

 瑞希が言い難そうにもじもじしていると坂本が

 

「島田。お前、さっき屋上で平賀に付き合うとか言っていただろ?」

「うん。言ったけど、それが……」

 

 …………ちょっと待ってよっ!?

 

 さっき屋上にはウチと平賀しか居なかったわよね?

 なんでウチらの会話を知ってるのっ!?

 

「“たまたま、偶然”なんだが、明久がそれを聞いて血相を変えて飛び出していったんだ」

「明久君、この世の全てに絶望したような顔をして……」

「ワシが演劇で見た、死に化粧よりも真っ白い顔をしておったのじゃ」

 

 何が“たまたま、偶然”よっ!

 ウチがその“偶然”の仕掛け人の方を睨むと……

 

 ウチと目が合うとその仕掛け人であろう土屋が首を横にして

 あからさまにウチの方から目を逸らしたわね。

 

 教室の奥の方では須川たちが【平】って書いた紙を張った卓袱台に

 カッターやコンパスを投げているわ。

 何をやっているのかしらね?

 

「ウチと平賀の話は全部聞いたの?」

「いや、平賀が『付き合って欲しい』って言うところからだ」

 

 それだと……

 平賀が恥ずかしくてみんなには内緒にしておきたい部分は聞かれてないみたい。

 

「それでお前は『付き合う』って答えたよな?」

 坂本が念を押すようにウチに聞いてくる。

 この後の事はきっと全部聞かれているに違いないわね。

 

「ええ、言ったわよ」

「美波ちゃん……この後の事はどうするつもりなんですか?」

「この後って……今日はアキと一緒に帰れないだけよ」

 

 ウチがそう言うと……瑞希はちょっと驚いた顔をして

 

「今日だけ、ですか?」

「そうよ。明日からはいつも通りのつもりだけど」

 

 そう言ってからアキの鞄や上着の置いてあった場所を見てみると……

 ウチのあげたマフラーだけ置いてあった。

 鞄や上着が無いってことは……

 

「ひょっとしてアキ、帰っちゃったの?」

 

 ウチに一言も無く帰っちゃうなんて……そんなに具合が急に悪くなったのかな。

 一緒にお弁当を食べてる時はそんな風に見えなかったんだけど……

 

 やっぱり無理矢理にでもアキも一緒に連れて行けば良かったかな?

 でも、屋上なんて寒いところに居たら

 具合が悪くなっちゃうアキなら倒れちゃったかもしれないわね。

 

 携帯をかけてみても繋がらなかった。きっと電源を切っているんだろうな。

 ウチがどうやってアキに連絡をしようか考えていると

 

「島田よ。一つ確認したいのじゃが……」

「何よ、木下。そんなに改まって?」

「お主、よもや明久と平賀の二股をかけるつもりではあるまいな?」

「なっ……何言ってんのよっ!?」

 

 木下が珍しく真剣な顔で何を聞いてくるのかと思ったら……

 それに続けて坂本も

 

「明久がおかしくなったのは、お前が平賀に付き合うって言ってからなんだ」

 もっとも明久がおかしいのは昔からだけどな、と付け加えていたけど。

 

 何よ、それ?

 じゃあ、ひょっとして、まさかとは思うけど、アキの事だからたぶん……

 

「美波ちゃんと平賀君が付き合うって言っていたから、きっと明久君、自分が振られたんだって……」

 

 瑞希が胸の前で片手を握り締めながらウチの事を見ている。

 たぶん、今の瑞希はアキの気持ちが痛いほど判っちゃうんだろうな。

 ウチは瑞希の視線に耐え切れずに目を逸らすと……白いマフラーが目に入った。

 

 

 ウチがアキにクリスマスプレゼントであげたヤツだ。

 初めてマフラーなんて編んだから、とにかく一生懸命だった。

 ウチが寝不足で具合が悪くなって、アキに心配と迷惑を掛けちゃったんだっけ。

 

 でもアキは優しいから……そんなウチを見かねて手伝いを申し出てくれた。

 葉月の面倒を見てくれたり、ウチの家の夕御飯を作ってくれたり……

 

 ウチが頑張れる様にって、おまじないもしてくれた。

 それがすごく嬉しくて……あげた時のアキの嬉しそうな顔を想いながら編む事が出来た。

 

 そしてクリスマスイヴにアキにマフラーを渡すことが出来て嬉しかった。

 ウチはアキの喜んでいる顔が見れるだけで良かったのに……

 

 アキはウチに可愛いネックレスをプレゼントしてくれた。

 それはずっと肌身離さず……今も身に着けている。

 

 ウチは制服の上から手を当ててネックレスを確認して……

 

 うん、やっぱりこんなところでジッとしてるなんて……ウチには無理よねっ!

 

 上着を着て鞄を手に取ると木下が

 

「島田よ。午後の授業はもうすぐ始まると言うのに何処へ行くつもりじゃ?」

「ウチは授業よりもアキの方が大切だもの。誤解されたままなんて我慢出来る訳無いじゃない」

 

 ウチがそう言うと……

 今度は須川たち、【吉】って書いた紙を張った卓袱台に卓袱台を投げているわ。

 まったくバカのすることは判らないわね。

 

 

「土屋っ!アキが今何処に居るのか判る?」

「…………(コクコク)」

 いきなりウチに呼ばれてビックリしたのか

 土屋は首を縦に振ると慌てて卓袱台の上のノートパソコンをいじりだした。

 

 そして少ししてから

 

「…………明久は移動中」

 と言って、ノートパソコンの画面をこちらへ向けて見せてくれた。

 

 画面には地図が映っていて、その上を小さい丸が動いている。

 その地図を見て……

 スーパーの名前とか近くにある橋の名称とかでウチの家の方に向かっているのが判る。

 

「島田。それで明久が何処に向かっているのか判るのか?」

「ええ。その方向だとウチの家……」

 

 でもウチは今ここに居るんだから、家に行くはずがない。

 そうすると……アキは苦手だって言っていたけど

 たぶん、あそこよね。

 

「美波ちゃん?一体、何をするつもりなんですか?」

 瑞希が首を傾げて心配そうな顔で質問をしてきた。

 

「決まってるじゃない」

 ウチはアキにあげたマフラーを掴んで

 

「アキに忘れ物を届けてくる」

「忘れ物って、そのマフラーか?」

「違うわ」

 

 ウチは……

 

 アキのために編んだマフラーを手に、アキへの想いを胸に教室を後にした。

 

 

 ウチがどれだけアキの事を……

 あのバカに思い出させてあげるんだからっ!

 

 


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