僕とウチと恋路っ!   作:mam

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1月9日(月)


僕とウチと横恋慕part01

 

『……俺と付き合って欲しいんだ』

 

 

 ――――っ!?

 

 

 えっと……これって、ひょっとして、まさかと思うけど、僕の気のせいじゃなければ

 単なる勘違いで、有り得ない事なのに、この状況だと、間違いなく……

 

「平賀のヤツ……まさか島田に告白しているのか」

 

――ブンッ

 

「うぉっ!?危ねぇっ!……何しやがるっ!?」

 

 僕の渾身の左フックを間一髪で避ける雄二。

 ちぃっ……良い勘してやがる。

 

 そんな事(こくはく)は僕は認めたくない。

 まったく雄二にも困ったもんだ。

 起きたまま、寝言を言うなんて……

 

「あはは。雄二、何言ってるのさ。寝言を言えない様に目を覚まさせてやろうと思ったのに」

「明久よ。少し落ち着いたらどうじゃ……声だけで顔が全然笑っておらぬぞ」

「やだなぁ、秀吉まで……」

 

 当たり前じゃないか。

 この状況で笑ったり、落ち着いていられるほど

 僕は大きい人間じゃない事を良く判っているつもりだ。

 

 そして平賀君と美波の会話は続いて……

 

『それって今日の放課後って事よね』

『ああ。今日の放課後に俺と付き合って欲しい』

『一応確認するけど、美春は帰っちゃったのよね』

『うん。今日は遅刻してきて、具合が悪いらしくてそのまま早退したんだ』

 

 今朝会った時、震えていたからなぁ……

 今年一番の寒さの中で待っていたのは、よほど寒かったんだろうな。

 

 清水さんは風邪を引いて早退したのに

 一緒に居たはずの福村君たちは元気一杯動き回ってるよ。

 

 さっきから何の練習なのか、二つの卓袱台にそれぞれ【吉】と【坂】と書いた紙を張って

 カッターやコンパスなど文房具を投げている。

 時々僕と雄二に向ける視線が妙に怖いんだけど……

 

「なるほど。清水が居なくて邪魔されない時を狙って島田にアプローチをかけたって事か」

「平賀は曲がりなりにもクラス代表じゃからな。実質仕切っているのは清水かもしれんが」

「その代表が清水の想い人である島田と付き合うとか言ったら、Dクラスはガタガタだな」

 

 雄二と秀吉が何か話しているけど……他のクラスの事なんてどうでも良いじゃないか。

 

 

『そっか……でも、アキにも話しちゃダメなの?』

『恥ずかしいから……だから島田さんにしか話してない』

 

 そりゃそうだろう。

 好きな人への告白なんて上手く行けば良いけど

 ダメだった時は……

 

 …………僕は、美波が僕の事を好きだって先に言ってくれてたから言えた気がする。

 

 

 そう言えば、美波が僕に告白してくれた時……

 

 僕の傍にずっと居たいって言ってくれて、約束もしたんだ。

 

 その美波が僕以外の人と付き合うなんて……

 その美波を僕が信じてあげなくて……

 

 

『判ったわ。話を聞いちゃった以上、付き合ってあげる』

 

 

 

 …………っ!?

 

 

 

「明久……お主、何て顔をしておるんじゃ!?」

「おいっ!明久っ!?……呼吸(いき)してるかっ!?」

「…………心臓マッサージが必要?(バチバチッ)」

「今の状態の明久に規格外のスタンガンなんぞ使ったら、本当に明久の心臓が止まっちまうぞっ!?」

 

…………

………

……

 

 気が付くと雄二に両肩を掴まれて揺すられていた。

 

「ん……えっ!?あ……」

 

 えっと……僕は今、何をしていたんだっけ?

 

 あれ……なんか息苦しいな?

 何で僕は息を止めてるんだろう?

 とりあえず、大きく吸ったり吐いたりする。

 

「ふぅ……」

 僕が普段通りの呼吸を開始すると

 

「ビックリして息を呑むと言いますけど……まさか本当に呼吸するのを忘れる人が居るなんて」

 姫路さんがビックリして、まさしく息を呑んだような顔をして僕を見ている。

 

「まさか島田があんな事言うなんてな……」

「冗談でもあんな事を言うとは思わないからのう」

 雄二と秀吉がムッツリーニのノートパソコンを見てそんな事を呟いている。

 この二人が思わなかった以上に僕の方こそ……

 

「だって彼女にしたくない女子ランキング三位の美波だよ?」

 主に僕のせいでランキングが上がっていた気がする。

 美波は気にしないと言っていたけど……

 

「怒るといつも関節技や、時々激辛の料理を作っちゃう美波だよ?」

 僕が美波の気持ちに気付かないで無神経な事ばかり言ったり、やっていたせいじゃないか。

 

「僕が風邪を引いた時は作ってくれる料理の味や匂いがきつくならないように気を遣ってくれて」

 僕がゆっくり休めるように食事の手伝(あーん)いやお風呂の準備、着替えの用意までしてくれて

 僕を喜ばせようとしてメイド服を着てまで看病してくれた。

 

「僕がちゃんと朝御飯食べてないのを心配してわざわざ作りに来てくれて」

 朝早く寒い中を朝御飯の材料を買って僕の家まで来て

 作りたての朝御飯を食べさせてくれたりもした。

 

「笑うと笑顔が可愛くて、近くに居ると良い匂いがして、いつも僕の事を気にかけてくれる」

 僕が寒くないようにって、マフラーも慣れていない手編みで作ってくれて

 身だしなみや怪我をしてないかとか、いつも僕を見てくれている。

 

 

「明久君……」

「…………明久」

「明久、お主……」

「明久……それはノロケ過ぎだろ」

「だって全部本当の事だよ」

 

 そうだ。

 僕にいつも色んな事をしてくれて、僕の事をいつも気にかけてくれている。

 その美波は僕の事が好きだって言ってくれたんだ。

 

 

 …………去年のクリスマスイブに美波の想い出の場所で。

 

 

 だから、さっきの事もきっと何かの聞き間違いか、機械の故障に違いない。

 

 

『じゃあ、今日付き合ってくれるんだね?』

『仕方ないわね。付き合ってあげるわよ』

 

 

 

 …………今度は、これ以上はないっていうくらいハッキリ聞こえた。

 

 

 美波は確かに『付き合ってあげる』と言った。

 その美波の目の前に今、僕は居ない。

 このスピーカーの向こうで美波の目の前に居るのはおそらく平賀君だろう。

 そうすると、この言葉は僕に向かってではなくて平賀君に……

 

 

『そうか。ありがとう』

 

 平賀君の『ありがとう』がすごく嬉しそうだ。

 そうだよね。僕だって美波が……

 

 

 ――――っ!!

 

 

「おいっ!明久っ!?」

「明久君っ!?」

 

 もうすぐ美波が戻ってくるだろう。

 

 僕は教室に残っていたくなかった。

 とりあえず鞄と上着を引っ掴んで教室を飛び出した。

 

 

 

 戻ってきた時の……

 

 美波の嬉しそうな顔を見たくなかったから。

 

 


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