僕とウチと恋路っ!   作:mam

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1月9日(月)


僕とウチとある登校の風景

 今日から三学期の授業が始まる。

 先週の始業式は雄二のせいで酷い目にあったからなぁ。

 これからも色々と大変な事がありそうだ。

 

 ……なんて思いながら出掛ける準備をしていると

 

 PiPiPiPiPi!!

 

 メールの着信を知らせる音が鳴った。

 確認するために携帯を操作して……

 

【Message From 島田美波】

【今家を出たわ】

 

 僕はすぐに返事をする。

 

【了解】

 

 美波を公園で待たせないために家を出る時間をメールで教えてもらうようにした。

 美波はそんなの気にしないわよ、と言ってくれたけど

 流石に、この時期は寒いから美波を待たせて風邪を引かれちゃうと嫌だし……

 

 僕の家のほうが学校に近いから、もうそろそろ家を出ればいいかな。

 そう思って家の戸締りとキッチンの見回りをしようとリビングへ行くと……

 

「あら、アキくん。これから学校ですか」

「うん。姉さん、今日は遅いんだね」

「ええ。今日は朝から取引先へ行くので」

 普段だと僕より30分は早く家を出る姉さんが居た。

 そして姉さんは真剣な顔になって僕の方へ向き直ると

 

「アキくん」

「何?」

「学校ではしっかり勉強して」

「うん」

 姉さんに言われるまでもない。

 たとえFクラスとはいえ、美波と一緒のクラスになれるんだから

 ちゃんと進級して三年にならないと。

 

「思いっきり姉さんの事を考えてください」

「勉強は良いとして、何で学校で姉さんの事を考えないといけないのさ」

 僕がそう言うと姉さんは少し目を伏せて

 

「この世でたった二人の姉弟なのに」

「まるで父さんと母さんが死んじゃったみたいに言うのはやめてよ」

 朝から縁起でもないなぁ。

 

「大丈夫です」

 姉さんはスッと顔を上げて、にこっと微笑むと

「私とアキくんが結婚して子供を作れば、きっと父さんと母さんも喜んでくれると思います」

「それで喜ぶのは姉さんだけだっ!」

 本当に僕と姉さんが結婚なんてしたら

 父さんと母さんは心配で死んでも死に切れないだろう。

 僕も、もちろん生きた心地がしないだろうし……

 そんな、みんながゾンビみたいになる結婚は絶対にお断りだ。

 

 チラッと時計を見ると……メールをもらってから5分くらい過ぎていた。

 僕は慌てて

 

「姉さん。僕、学校に行ってくるからキチンと戸締りをしてから出かけてね」

「わかりました。行ってらっしゃい」

 姉さんに見送られて家を出た。

 

 

 姉さんのせいで家を出るのが少し遅くなっちゃったから早足で歩く。

 

 この新学期は初っ端の始業式から雄二のせいで大変な目に……

 確かに遅刻した僕らも悪いんだけど。

 

 でも、学校のみんなに見られてすごく恥ずかしくて

 頭の中がごちゃごちゃになって何を考えていたのか良く覚えていないけど……

 

 顔を真っ赤にして目を瞑りながら僕の腕に顔を付けていた美波の姿は良く覚えてる。

 普段、美波があんなに僕を頼ってくれる事は無いからなぁ……料理以外で。

 

 とりあえず今は美波を待たせないようにしないとね。

 それに何より……

 

 僕自身早く美波に会いたいから、いつの間にか走っていた。

 

 

 

☆   ☆   ☆

 

 

 

 僕が走りながら公園の入り口から中に入ると……

 やっぱり美波がベンチに座って待っていた。

 そして僕の姿を確認すると美波は立ち上がって

 

「アキっ、おはよう」

「はぁっ、はぁっ……おっ、おはよっ……はぁっ、はぁっ……」

 美波が元気良く挨拶をしてくれているけど

 僕は息も絶え絶えだった。

 

「そんなに急いで来ないでも良かったのに……ウチも今来たばかりよ」

「はぁっ、はぁっ……ごっ、ごめん。美波を待たせないようにってメールまでもらったのに」

 

 僕が息継ぎをしながら美波に謝っていると……

 僕のマフラーを解いて呼吸をしやすいようにしてくれて

 

「少し休んだら?」

 

 そう言うと僕の頭を優しく包み込むように抱きかかえてくれた。

 美波の優しくて良い匂いに包まれながら……余計ドキドキしてきちゃったよ!?

 

 むしろ走った直後よりドキドキしている。

 

「みっ、美波。ちょっと良いかな」

 

 美波に手を離してもらって顔を上げる。

 目の前には頬を少し染めて大きな瞳で僕を見上げている美波。

 

「アキ。まだ顔が赤いわよ?」

 美波は、そう言いながらジッと僕を見つめている。

 たぶん……じゃなくて、確実に美波に見つめられているからだと思う。

 

「ちょっと深呼吸すれば大丈夫だと思うよ」

 美波から視線を逸らすようにして深呼吸をすること十数回……

 呼吸はだいぶ収まってきたし、ドキドキもさっきよりは少し減ったみたいだ。

 

「ふぅ……待たせて、ごめんね」

 僕が美波の方を向くと……

 美波は僕の首元に手を伸ばしてネクタイを真っ直ぐにしてから

 マフラーを巻き直してくれた。

 

「これで良しっと……ふふっ、今日は遅刻しないで済みそうね」

 

 美波が屈託のない笑顔を見せながら僕の手を取って……

 手を繋いだまま、公園を後にする。

 

 学校の前の長い坂道を登りながら

 

「そう言えばさ、今日は今年一番の寒さらしいんだけど美波は大丈夫?」

 珍しく朝見ていたTVでそんな事を言っていた。

 まだ十日も経っていない今年一番の寒さらしいけど……

 この後、“今年一番”が何回あるのか判らないけどね。

 

「そうね。確かに寒い事は寒いんだけど……」

 

 僕と繋いでいる手を上に上げて優しく微笑むと

 

「アキがウチの隣に居てくれるから……嬉しくて嬉しくて寒いのなんか気にならないわよ」

 

 そう言うと美波は嬉しそうに繋いでる手を頬に当てている。

 僕も美波の頬に触れている手の甲から伝わる温かさ(うれしさ)が心地好い。

 

 

 

 そしてしばらく歩いて校門が見えてくると……

 

 数人の黒尽くめの服をかぶった集団が僕たちの前に現れた。

 黒は熱を吸収するみたいだから冬は暖かそうだなぁ、と思いながら見ていると

 

「よぉしぃいぃ。朝っぱらから手を繋いで登校するなんて羨ま……違う、不埒な事をしやがって」

「今日こそは大人しく我々の裁きを受けろっ」

「今日こそはって、先週の始業式の日にもみんな居たの?」

 僕が質問をすると全員が手をブルブル震えさせながら

 

「『居たの?』じゃないっ!」

「ずっとお前らが来るのを待っていたんだっ!」

 そう言えば先週は派手に遅刻しちゃったからなぁ。

 そのおかげで恥ずかしい事になったけど、この襲撃からは逃げられたのか。

 

「あのような大胆な方法で我々から逃げるとは」

「あんな事が二度も三度も出来ると思うなよ」

 

 いや、遅刻なんて二回も三回もしたくないんだけど……

 しかもあんな事をしでかしたのは全部雄二だし。

 僕がどうやって、ここから逃げようか考えていると……

 

「ちょっと、アンタたちっ!アキに手を出したら承知しないからねっ!」

 

 隣の美波はだいぶ御立腹の様子。

 繋いでいる手からそれがヒシヒシと伝わってくる。

 なぜなら僕の手の骨がミシミシと言っているから。

 

 美波が暴れだす前に走って逃げちゃおうかなぁ。

 

 すると黒装束の一人が

 

「我々とてバカではない」

 いや、Fクラスに居る時点で学年トップクラスのバカだと思うんだけど……

 

「対島田用にこちらの人物を用意しておいたんだ」

 そう言うと黒装束の集団が、サァッと左右に分かれて、一人の人物が現れた。

 

 

 …………清水さんじゃないか。

 

 

 いつから待っていたのか判らないけど、すごく寒そうにブルブル震えている。

 

「みっ、美春っ!?」

 繋いでいる美波の手がじんわりと汗をかいているようだ。

 たしかに美波対策でこれ以上の人間は居ないかも?

 何でFFF団(バカども)と一緒に居るのか聞いてみるかな。

 

「清水さん?こんな寒い中、よくうちのクラスの連中と一緒に居るね?」

「汚らわしいですがお姉さまと一緒に帰って寝るために仕方なく居るだけです」

 まだ朝だし、学校はどうするつもりなんだろう?

 

「さぁ、吉井を大人しく渡……」

 黒装束の一人が話している途中で

 

「まったく、人を呼びつけておいて、こんな寒空の下でただボーっと待たせるなんて……だから男って最低ですね」

 

 清水さんが腰に手を当てて目を瞑って話しだしたよ?

 

「普通、女の子を寒いところに呼び出すなら熱い缶コーヒーの一つや二つ用意しておくのが当然でしょう」

「「「うっ……」」」

 あれ?

 

「相手が何をして欲しいのか考えもしないから女の子に何をしたら喜ぶのか、まったく判らないんです」

「「「ううっ……」」」

 清水さんの言葉による攻撃がFFF団に効いているみたいだ。

 

「全然女の子の扱いも心得ていないあなた方に一生彼女なんて出来る訳ないです」

「「「…………っ!?」」」

 黒装束の全員がガックリして手と膝を地面に付いてしまった。

 まるで背中に重石を背負っているかのように……

 

 

「そんなクソ虫にも劣るあなた方がこのブタ野郎を処刑するのは構いませんがお姉さまにちょっかいを出さないで欲しいですね」

 

 なおも清水さんの言葉による暴力は続いている。

 僕がFFF団のみんなを哀れに思っていると……

 

(アキ。今のうちに教室まで行きましょ)

(そうだね)

 僕が頷くと、美波は僕の手を引っ張って、その場を後にした。

 

 清水さんはその後も罵詈雑言をFFF団に浴びせていたらしく

 福村君たちは遅刻になってしまった。

 きっと清水さんも遅刻になったんだろうなぁ。

 

 

 

☆   ☆   ☆

 

 

 

――お昼休み

 

 いつものように僕ら6人で卓袱台を囲んでお弁当を食べ終えた頃……

 

 

 いきなり教室の扉がガラッと開き、あまりFクラス(ここ)に来る事の無い人物が現れた。

 

「島田さんは居るかな?」

 

 Dクラスの代表、平賀君だった。

 

「なんだ、平賀。試召戦争の宣戦布告にでも来たのか」

 雄二がニィッと口の端を吊り上げながら笑って聞くと

 

「勘弁してくれ。今日は個人的な事で来たんだ」

「チッ、つまらん」

 舌打ちをしてそっぽを向く雄二。

 

「ウチに何か用?」

 美波が僕の隣に座ったまま聞いている。

 

「ここじゃ、ちょっと……悪いけど、一緒に来てもらっても良いかな」

 平賀君は周りを見ながらそんな事を言ってきた。

 

「仕方ないわね。ほら、アキも行くのよ」

 美波は立ち上がると僕の腕を引っ張った。

 すると平賀君は少し顔を赤くして……

 

「あ、出来れば島田さん一人で来てくれないかな……他の人に聞かれるのはちょっと」

「何よ、アキにも聞かれちゃマズい話なの?」

「出来れば、島田さん以外に聞かれたくないんだ……吉井、悪いけど島田さんを借りるよ」

 

「そんな美波を物みたいに……」

 僕が少しムッとしていると

「じゃあ、ちゃっちゃと行ってくるわね」

 

 美波は平賀君と教室を出て行った。

 

 

「明久。気にならないのか?」

 雄二がニヤニヤしながら僕にそんな事を言ってきた。

 

「気になるって何がさ?」

「平賀の事だよ。ひょっとしてアイツ……」

 雄二が美波と平賀君が出ていった扉の方を見ながら呟いている。

 

「確かに何か思い詰めておった顔じゃったが……」

「秀吉までどうしたのさ?」

 

 正直に言えば……

 美波が他の男子に呼び出されて気にならないわけがないじゃないか。

 

 

 

 でも僕は美波を信じている。

 

 ずっと僕の傍に居たいって……

 

 ずっと僕の傍で笑っていたいって言ってくれた美波を……

 

 

 

 ノートパソコンに何か小さい機械を接続して操作していたムッツリーニが

 

「…………二人は今、屋上」

 と言うと、なにやら音声が聞こえてきた。

 

『……で、ウチにどうしろって言うのよ?』

 

 屋上はきっと寒いだろうから美波が風邪を引かなきゃ良いけど……

 なんて僕が思っていると平賀君が……

 

 

『……俺と付き合って欲しいんだ』

 

 


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