僕とウチと恋路っ!   作:mam

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1月6日(金)


僕とウチと始業式part03

「代表、相変わらずだね」

「んむ」

「そうですね」

 しばし呆然としていた僕たちだったけど……

 いきなり美波が何かを思い出したのか

 

「忘れてたわっ!」

「どうしたのさ?」

「今日は葉月が家に居るから早く帰ってお昼御飯作らないと」

 美波はそう言うと……僕の手を引っ張って

 

「アキも一緒に来るのよ」

「ふぇ?僕も?」

「その方が葉月が喜ぶからに決まってるじゃない」

 そして「ウチも嬉しいし」と笑顔で言われたら、行くしかないよね。

 

 僕なんかで喜んでくれるなら……

 もっと大勢で行ってあげて葉月ちゃんを喜ばせてあげたいなぁ。

 

「じゃあ、皆も一緒に行かない?」

 僕がそう聞くと……

 

「行きたいのは山々じゃがワシはこれから部活があるからの」

 秀吉が申し訳なさそうな顔で謝ってきた。

 

「仕方ないよ。いきなりだしね」

 秀吉の可愛い顔をしんみりさせてしまったこっちの方が申し訳ない気持ちで一杯だ。

 

「ボクたちも行って良いの?」

「もちろん良いに決まってるじゃない」

 美波がそう答えると

 

「そっかぁ。じゃあ、ボクたちも行こうよ」

 工藤さんが嬉しそうにムッツリーニの袖をつかみながら聞いている。

 

「…………何で俺まで」

 ムッツリーニは顔を横に向けているけど

 袖をつかんでいる工藤さんの手を振り(ほど)こうとはしていない。

 ほんとに素直じゃないんだからなぁ。

 

「ムッツリーニも行こうよ。葉月ちゃんもきっと喜ぶと思うよ」

 僕が誘うと……ムッツリーニが小声で

 

(…………今度明久の写真を撮らせて欲しい)

(別に良いけど……何に使うのさ?)

(…………ちょっと顧客から頼まれただけ。気にするな)

(すごく気になるんだけど……顧客って誰なのかとか、何に使うんだろうって)

(…………知らない方が幸せ)

(めちゃくちゃ気になるんだけどっ!?)

 

「…………今日は暇だから行っても良い」

「やったぁ。じゃあ、今日もムッツリーニ君と一緒にお昼だねっ」

 そう言うと工藤さんがムッツリーニの手を握り、喜んでいる。

 するとムッツリーニがいつものように

 

――ポタポタポタ

 

「ムッツリーニっ!まだ手を握っただけで鼻血が出るのっ!?」

「…………昨日の事を思い出しただけ」

 鼻にティッシュを詰めながら幸せそうな顔で僕を見ているムッツリーニ。

 昨日何があったというのだろう?

 

「何よ、愛子。昨日も土屋と会ってたの?」

「ブラの散歩中にたまたまムッツリーニ君に会ったら、お昼を作ってくれて」

 工藤さんが顔を赤くして手をばたばたさせながら美波に説明をしている。

 しかし、お昼御飯を作るだけで何故鼻血が出たり、顔が赤くなったりするのだろう?

 

 あと、残っているのは姫路さんだけか。

 葉月ちゃんのためにも出来れば来て欲しいんだけどなぁ。

 そんな期待をしながら姫路さんを見ると……

 

 僕と美波を見ると下を向いて、少ししたらまた僕と美波を見る。

 そしてまた下を向く……の、繰り返し。

 

「あの、姫路さん?」

「はっ、はいっ!」

 僕が話しかけるとビクッとして姿勢を正す姫路さん。

 何か考え事でもしていたのかな?

 

「やっぱり姫路さんも何か予定があるの?」

「いえ。今日は特に予定は無いのですが……」

「じゃあ、一緒に行こうよ?きっと葉月ちゃんも喜ぶと思うし」

「そうですね……でも、二人の邪魔になっちゃうかなって」

 姫路さんが手を口に当てて俯いちゃった。

 すると美波が姫路さんの手を取り

 

「ほら、瑞希も遠慮なんてしてないで来てよ」

「あっ、美波ちゃん」

 そのまま美波が姫路さんを引っ張っていく。

 僕たちも遅れないように教室を後にした。

 

 

――――

―――

――

 

 

 僕たち5人で校門を出て長い坂道を下っていく。

 

「ねぇ、美波」

「なぁに?」

「今日のお昼ってやっぱり美波が作るの?」

 美波が作るつもりだったんだろうけど、人数が人数だし

 僕も手伝った方が良いよね。

 

「そのつもりよ。買い物もしていかないといけないわね」

 美波があごに手を当てて……何を作るか考えているみたいだ。

「あっ、あの……私もお手伝いしますっ」

 小さく手を上げてお手伝いを申し出ている姫路さん。

 

 美波と一緒に作るから、たぶん大丈夫だとは思いたいんだけど……

 僕の隣を歩いていたムッツリーニは顔を青くしてブルブル震えている。

 さっき鼻血を出しすぎて貧血になったわけじゃないよね。

 

「瑞希、ありがと……って、どうして土屋がそんなに青い顔して震えているのよ?」

「あっ、あのさ……僕とムッツリーニで買い物をしてお昼御飯を作るから、美波たちは早く帰って葉月ちゃんを安心させてあげなよ」

「そんな悪いわよ」

「気にしなくて良いよ。ムッツリーニもすごく作りたいみたいだし」

 

 僕がそう言うとムッツリーニはどこかのコンサート会場に居る観客のように

 頭をすごい勢いで前後に振る。

 これだけ頭を振れば、遠心力で頭に血が上って血色も良くなるだろう。

 

「そっ、そう……じゃあ、お願いしようかな」

 ムッツリーニの熱意が通じたのか、美波が若干顔を引きつらせてお願いしてくれた。

 

「ありがとう。ところで美波は何を作るつもりだったの?」

「ん~、そうね……」

 美波がまた、手をあごに当てて考え込む。

 すると姫路さんも、また小さく手を上げて

 

「やっぱり私もお手伝いした方が……」

「みっ、美波たちは早く帰って葉月ちゃんを安心させてあげて。僕たちは買い物に行ってくるねっ」

 これ以上姫路さんにお手伝いを申し込まれると断り切れなくなるかもしれない。

 僕がムッツリーニの手を引っ張って歩き出そうとすると

 

「…………明久。ちょっと照れる(ポッ)」

 青くなったり赤くなったり忙しいヤツだなっ!?

 

「あっ、アキっ!何で土屋と手を繋いでるのよっ!?」

「ムッツリーニ君。吉井君だったらあんなに簡単に手を繋げるんだ」

「あっ……(ポッ)」

 

 姫路さんが何故顔を赤くしたのか理由を聞くと立ち直れなくなりそうなので……

 とりあえず女の子三人を背に、ムッツリーニの手を引いて早足でその場を立ち去った。

 

 

――――

―――

――

 

 

 ムッツリーニと相談して手短に作れそうと言う事で

 お昼御飯はカルボナーラを作る事にした。

 これなら色が白っぽいから美波が僕のためを思ってタバスコを掛けてもすぐ判るし。

 

 後は簡単なサラダに使う野菜やデザート用にりんごやアイスなどを買って

 僕とムッツリーニは買い物袋を一個ずつ持って美波の家へ。

 

 

――――ピンポーン ピンポーン

 

 

「今開けるですっ」

 

 この声は葉月ちゃんだ。

 

「悪いけど、これ持ってもらえるかな?」

 そう言って僕が持っていた買い物袋をムッツリーニに手渡す。

 

 

――ガチャ

 

 

 ドアが開くとすぐに葉月ちゃんが、ぽふっと僕に抱きついてきた。

 そして僕の鳩尾におでこをぐりぐり当ててから

 

「バカなお兄ちゃんっ。ようこそですっ」

 満面の笑みで僕を見上げている葉月ちゃん。

 

「葉月ちゃん、こんにちは」

 と、言って頭を撫でてあげると目を細めて「うにゅ~」と言って喜んでくれた。

 

「…………お邪魔します」

「あっ、鼻血のお兄さんですっ。ようこそですっ」

 

 そして葉月ちゃんは僕の手を取り、ムッツリーニの手も取ろうとしたんだけど……

 ムッツリーニは両手に買い物袋を持っていたので手を取れなかったみたいだ。

 もしムッツリーニが葉月ちゃんに手を握られていたら

 また鼻血を出していただろうから助かったのかもしれない。

 

「こっちにどうぞっ」

 にこにこしながら僕の手を引っ張って案内してくれる葉月ちゃんについていくと

 リビングでは美波たちがお茶会をしていた。

 

「ごめんね。今すぐ作るから、ちょっと待っててね」

 僕がそう言ってムッツリーニから買い物袋を一つ受け取っていると

 葉月ちゃんが目をキラキラさせながら

 

「バカなお兄ちゃん?今日はメイドさんの格好をしてくれないんですか?」

「えっ……」

 葉月ちゃんの発言に僕が驚いていると

 

「吉井君のメイド姿可愛かったからボク、また見たいなぁ」

「今度、玲さんにお願いしてメイド服を一着分けて貰おうかしら」

 工藤さんと美波は僕を見ながら何かぶつぶつ言ってるし……

 姫路さんは両手を胸の前で合わせて何かを期待するような笑顔で僕を見つめている。

 

 そしてムッツリーニは……

 

「…………いつでも準備オッケー」

 

 空いた片手にデジカメを持って僕の方を見ている。

 

「何の準備をしてるのさっ!?みんなもメイドって単語にそんなに反応しないで欲しいんだけどっ!?」

 

 僕の一言でみんなががっかりした顔をする中、早くお昼御飯を作るために……

 

 一番残念そうな顔をしたムッツリーニの背中を押してキッチンへ移動する。

 

 

…………

………

……

 

 

 そして僕とムッツリーニでカルボナーラのソースを作ったりパスタを茹でたりしていると

 

「アキ。タバスコ使う?」

 美波がそんな事を言ってきたので

「今日はカルボナーラだから大丈夫だよ」

 と、お引取り願った。

 

「あの……やっぱり私もお手伝いをしたいのですが……」

 お手伝いを申し出てくれる姫路さんには

「たぶんもうすぐ出来るから僕とムッツリーニだけで大丈夫だよ」

 と、お断りをする。

 

「ムッツリーニ君。今日もボクが食べさせてあげよっか?」

 工藤さんはキッチンへ来るなりそんな事を言ってきた。

 なるほど、ムッツリーニはあーんで鼻血を……

 

 …………って、身体的に接触もしてないのに鼻血が出るのっ!?

 

「ムッツリーニ?あーんで鼻血が出るなんて、段々症状が悪化してるんじゃ……」

「(ブンブン)…………違う。昨日は……」

 僕と工藤さんが見つめる中、ムッツリーニは首を横に振って否定して

 

「…………工藤のセーターの首周りが開き過ぎていてブラヒモが見えてた」

「なるほど。あーんで工藤さんの顔が近づく時に見えちゃっていたんだね」

 僕がそう言うと……

 

 ムッツリーニはまたポタポタと鼻血を垂らしていた。

 幸いな事にムッツリーニはシンクでサラダ用の野菜を洗っていたから

 大事には至らなかったけど……

 運が悪かったらトマトソースを使ったカルボナーラみたいになっていたかもしれない。

 

「ムッツリーニ君のえっちっ!!」

 と、顔を赤くして制服の胸元を両手で押さえてリビングの方へ行ってしまう工藤さん。

 ムッツリーニが、えっちなんて今更……と思いながら、ふと……

 

 

 …………頬を少し染めて大きな瞳を潤ませた美波が上目遣いで僕を見てて

 大き目のセーターで首周りが少し肌蹴ているところを想像してしまった。

 

 

「ムッツリーニ。僕もその誘惑には勝てそうも無い」

 

 ムッツリーニと、二人並んでシンクで鼻血を出していると葉月ちゃんがやってきて

 

「バカなお兄ちゃん?まだ出来ないですか……鼻血のお兄さんが二人になってるですっ!?」

 

 

…………

………

……

 

 

 とりあえず料理が完成したので、みんなで食べていると……

 美波がフォークにパスタを巻き取りながら

 

「まったくアンタたちは……人の家のキッチンで何やってるのよ」

 まさか、そう言ってる美波のあられもない姿を想像していたなんて

 口が避けても言える訳が無いよね。

 

「ごめんなさい」

 僕が謝っていると姫路さんが笑顔で

 

「でも、このパスタすごく美味しいですね。お店で食べてるみたいです」

「そうだね。ボクがたまに食べる冷凍のパスタとは全然違うよ」

「バカなお兄ちゃんが作る料理はどれも美味しいですっ」

 工藤さんと葉月ちゃんも笑顔で食べてくれている。

 

「そうね。後を引く美味しさと言うか……」

 美波もパスタを食べてから微笑んでそう言ってくれている。

 みんなが笑顔になってくれて……作った甲斐があるなぁ。

 

「ソースに少し昆布茶を混ぜてみたんだよ。そうすると旨味が少し加わるからね」

「アキって本当に料理の事になるとすごいわね」

 美波が少し驚いた表情で僕を見ている。

 

「小さい頃からやってるからね。最初は嫌々やっていたんだけど、そのうち色々覚えていって……」

 ふっと昔の事を思い出しちゃった。

 

「そのうち姉さんが笑顔になってくれて次に父さん、そして最後に母さんが笑顔になってくれて」

 まだ父さんも母さんも日本に居た頃の事……

 

「みんなの笑顔を見ていたら僕まで嬉しくなって……もっと頑張ろうって思ったんだ」

「アキ……」

「そしたら、いつの間にか家事全般出来る様になっていたんだよ」

 美波が、そっと僕の手を握ってくれる……すごく温かくて落ち着くなぁ。

 そして優しく微笑むと

 

「やっぱり……アキの将来の職業はメイドね」

「ちょっと待ってよっ!?何で執事じゃなくてメイドなのっ!?」

 すると、女の子全員が笑顔で

 

「「「「可愛いから」」」」

 と、言って

 

「…………就職したらよろしく」

 と、ムッツリーニは笑顔でカメラを構えていた。

 

 

 

――――

―――

――

 

 

 

 そしてデザートにアップルクランブルを作って、それを食べながら

 みんなでいろんなお話をした後、解散となった。

 

 

 途中でムッツリーニと工藤さんと別れて、今は姫路さんと二人っきり。

 そう言えば、姫路さんと二人で歩くのってすごく久しぶりだなぁ。

 

 

 ムッツリーニたちと別れてから、しばらく黙って歩いていた姫路さんが

 

「明久君は小さい頃から誰かのために一生懸命だったんですね」

「そんな良いものじゃないよ。うちでは誰も家事が得意じゃなかったから仕方なく僕がやっていただけだよ」

 

すると姫路さんが笑顔で

 

「そんな事ないですよ。明久君が一生懸命やってるのが嬉しくて……きっと家族の人は笑顔だったんだと思います」

「そうかなぁ?」

 僕がそう言うと姫路さんは頬を染めて手を口に当てて

 

「ふふっ。だって私もそんな明久君が好……」

「……す?」

 あれ?姫路さんが顔を赤くして俯いちゃったよ?

 

「す……すごいと思うんですっ」

 姫路さんは真っ赤な顔で俯きながら手をばたばたさせている。

 そんなに僕、すごい事してるかなぁ?

 

「ありがとう……でも、姫路さん?少し落ち着いたら?」

「そっ……そうですね」

 と、言いながら二度三度と深呼吸をする姫路さん。

 少し落ち着いたかな?

 

「でも……明久君は何でそんなに料理の事には一生懸命なんですか?」

 まだ顔が少し赤い姫路さんに質問をされた。

 

「うーん……僕はそんなに一生懸命やってるつもりは無いんだけどなぁ」

「そうなんですか?」

「うん。ただ、僕の料理で笑顔になってもらえれば……小さな幸せをあげられたって嬉しくなるんだ」

「幸せをあげる……」

「うん。だって嬉しかったり楽しかったりするから笑顔になるんでしょ?」

「そうですね」

「こんな取り得の無い僕でも誰かを笑顔にさせる事が出来るって……すごく嬉しいんだ」

 僕がそう言うと

 

(取り得が無いって……こんなに優しいのに)

 姫路さんが何か小声で言っているみたいだけどちょっと聞き取れないな。

 

「姫路さん、どうしたの?」

「いっ、いえ……私も誰かに幸せをあげる事が出来るでしょうか」

 姫路さんがすごく真剣な表情で……僕を見ている。

 

「姫路さんなら出来ると思うよ。すごく優しいし、色んな事を知ってるし」

「本当ですか?」

「うん。でも基本は大切だから料理をする時はあまりアレンジを加えない方が良いと思うんだ」

 姫路さんがアレンジをすると料理じゃなくて化学兵器が出来ちゃうからね。

 

「判りました。明久君がそう言うなら、これからはきちんとレシピ通り作ってみようと思います」

 ぱぁっと輝くような笑顔になる姫路さん。

 うんうん。これで僕らの命も救われれば……

 僕がホッと胸を撫で下ろしていると

 

「そのマフラー、すごく暖かそうですね」

 僕のマフラーの端っこを触りながら姫路さんが話しかけてきた。

 

「すごく暖かいよ」

「ひょっとして……美波ちゃんの手編みですか?」

「うん。クリスマスプレゼントに美波からもらったんだ」

 

 すごくふわふわしてて美波の優しい匂いがするから……

 

 ……いつも美波が傍にいてくれるような気がして心まで温かくなる。

 

「すごく嬉しそうですね」

「うん」

 僕が笑顔で答えると

 

「私も明久君に……幸せをあげる事が出来たんでしょうか」

「ふぇ?」

「なっ、なんでもないですっ。私の家、すぐそこなので……送ってくれてどうもありがとうございました」

 少し慌てた感じでぺこりと頭を下げる姫路さん。

 

「どういたしまして」

 つられて僕も頭を下げる。

 

「それじゃ、明久君。また明日翔子ちゃんの家で」

「うん、また明日」

 そう結んで、トトトッと軽く駆け出す姫路さん。

 

 

 なんとなく……

 

 少し寂しそうな後姿が見えなくなるまで

 目を離す事が出来なかった。

 

 


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