僕とウチと恋路っ!   作:mam

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1月6日(金)


僕とウチと三学期:前半
僕とウチと新学期


――――1月6日 午前0時

 

 

――より、ちょっと前

 

 まもなく日付も変わるかな、と言う時間。

 明日から学校も始まるし、そろそろ寝ようかなぁ。

 

…………と、思っていたら携帯からメールの着信音が鳴り響く。

 

 PiPiPiPiPi!!

 

 こんな時間に誰からメールが来たんだろう?

 

 とりあえず机の上に置いてあった携帯を手に取り

 雄二だったら返事は明日でも良いや、と思いながら確認すると……

 

【Message From 島田美波】

【今から電話しても良い?】

 

 美波からだった。

 僕はベッドの上に座り直して、すぐに返信をする。

 

【楽しみに待ってるね】

 

 美波だったら、いつでも電話してくれて良いのに。

 ……なんて、美波の心遣いに感動しているとすぐに携帯が鳴った。

 

 PiPiPiPiPi……

 

「もしもし、美波?」

『ゴメンね。こんな時間に……ひょっとして寝てた?』

「そろそろ寝ようかな、と思っていたところだから大丈夫だよ」

『そっか……昨日、今日とアキに会えなかったからウチ寂しくて……』

 

 そう言えば最後に美波と会ったのは二日前。

 二人でアイススケートに行ったんだよね。

 

『本当はメールでも良かったんだけど、アキの声が聞きたくて……迷惑じゃなかった?』

「迷惑なんて……僕も美波の声が聞けてすごく嬉しいよ」

『ありがと……アキって優しいから大好きよ』

 美波の顔は見えないけど、そんな事を言われるだけでも……

 思わず顔がにやけてしまう。

 

「僕も美波の事が大好きだよ」

 周りに誰も居ないと、こういう事でもすらすらと言えるなぁ。

 顔が見えない方が言い易いって事もあるよね。

 

『すごく嬉しい……でも、やっぱり……』

「やっぱり?」

『ううん、なんでもない……気にしなくていいわよ』

 

 気にしなくてもいいって……僕には無理だ。

 

 声だけで判る。

 

 

 …………美波は今、笑っていない。

 

 

 やっぱり好きな女の子には、いつも笑っていて欲しい。

 僕は美波にずっと笑顔でいてもらいたいんだ。

 僕に出来る事なら、なんでもしてあげたい。

 

「遠慮なんてしなくて良いよ。僕に出来る事なら何でもするから」

『ほんと?』

「本当だよ。だって僕は美波の彼氏でしょ?」

 

 美波はいつも僕のことを想ってくれている。

 それが痛いほど良く判るから……

 

 

 …………時々本当に関節が増えるんじゃないかって言うくらい痛い時もあるけど。

 

 

『ありがとう……ウチ、やっぱりアキを好きになって良かった』

 美波に改めて言われると……照れちゃうな。

 顔が火照ってきた気がする。

 

『じゃあ……遠慮なくお願いするわね』

「うん」

『今、アキの写真を見ながら電話をしてるんだけど』

 ぬいぐるみが持っている写真立てのかな?

 

『声を聞いていたら写真だけじゃ寂しくて……』

 まさか今すぐ会いに来て欲しいとか……

 

 さすがにそれは色々と……心の準備がっ!?

 

『それで明日会った時にもう一度アキの口から「好きだ」ってちゃんと聞きたいの』

 

 ……なんだ、そんな事か。

 

 今すぐ来てくれなんて言われたら姉さんも居るし、出掛ける言い訳も出来なかったけど

 明日会ってからで良いなら問題ないよね。

 

「うん、いいよ」

『本当?本当に本当?』

「もちろん、本当だよ」

 

 美波が今すごく嬉しそうな笑顔だって言うのは声だけでも良く判る。

 美波が笑顔になってくれて本当に良かった。

 

『じゃあ、約束よ。それで明日なんだけど……』

「うん」

『一緒に学校に行きたいから途中の公園で待ってるね』

「判ったよ。じゃあ明日は学校の近くの公園で……」

 

 …………あれ?

 

 僕は今、美波と何か約束をしたような……?

 

『寝坊しちゃダメよ?ウチまで遅刻する事になっちゃうんだからねっ』

 美波は僕が来るまでずっと待っていてくれるつもりみたいだ。

 すごく嬉しい……絶対に寝坊出来ないな。

 

「うん、判ったよ。それでさっきの約束って……」

『ウチ、すごく楽しみで眠れないかも……明日アキがウチを抱き締めて「好きだ」って言ってくれるんだもの』

 

 …………なんか約束の内容が変わってない?

 

 僕、抱き締めるとか言ったっけ?

 それを外で……しかも学校の近くでしないとダメなのっ!?

 

「あっ、あの……美波?」

『じゃあ、アキもすぐ寝た方が良いわよ。おやすみ』

 

 誰にも繋がっていない携帯を握り締めたまま、僕は……明日の事を考えていた。

 

 

 

――――

―――

――

 

 

 

――――次の日の朝

 

 

 美波と一緒に学校に行くって約束をしたから、いつもより15分くらい早く家を出た。

 新学期初日から遅刻する事より、この寒い中で美波を待たせちゃいけないよね。

 

 それに何より……美波に会えるって言うのは、やっぱり嬉しい。

 学校で雄二や鉄人の顔を見ながら授業を受けなければいけないと判っていても……

 

 でも今日は始業式だけで、後は何も無いはず。

 いくら鉄人でも初日から補習はしてこないだろう。

 

 僕はいつもより早足で歩いていき

 公園の入り口から中を見ると……

 

「アキっ!」

 ベンチに座っていた美波が白い息を弾ませて僕の方へ駆け寄ってくる。

 

「おはよう、美波。ゴメン、待たせちゃったね」

「おはよう。そんな事ないわよ。ウチも、ついさっき来たばかりだし」

 僕を見ている美波の顔は……すごく嬉しそうな笑顔だった。

 

「ねぇ、アキ。ウチ、どこか変わったと思わない?」

 にこにこと笑顔で僕を見つめてくる美波。

 パッと見、何処が変わったのか、さっぱり判らない。

 

「アキ。ウチをよく見て?」

 美波に促されて僕は、もう一度美波をよく見てみる。

 

 絹のように(つや)やかで銀細工のように(きら)びやかな御自慢の髪の毛は

 陽の光を受けて流れるように輝き、いつもの黄色の大きなリボンで

 馬の尻尾のような形に束ねられている。

 

 大きくて勝気な吊り目が印象的な、可愛くて整った顔立ち。

 

 少し下がって、胸の事を言われるのは美波も本望じゃないだろうし

 下手な事を言って美波の機嫌を損ねて酷い目に会うのは僕も本望じゃない。

 なので、ここの部分はこっそりとスルーして……

 

「アキ?何か失礼な事、考えてない?」

「滅相もございません」

 一応、プルプルと首を横に振っておく。

 

 制服の上にダッフルコートを着ているけど、その上からでも判るスリムな体形に

 スラリと伸びた綺麗な御御足(おみあし)

 

 いつも通りの……僕の大好きな美波なんだけどなぁ。

 何処が変わっているのか、僕はさっぱり判らないのでジッと美波を見続けていると……

 

「アキ、そんなに見つめられると……(ポッ)」

 美波が赤く染めた頬に両手を当てて、少し俯いて身体を捻っている。

 

 よく見ろって言ったのは美波だよね?

 

…………

………

……

 

 うーん…………やっぱり判らない。

 

 僕があごに手を当てながら首を傾げて美波を見つめていると……

 

「もぅ、アキったら……まだ判らないの?」

「ごめんなさい」

「ここよ、ここ」

 そう言って美波が指さしたところは……

 ポニーテールを形作っている黄色いリボンだった。

 

「へ?リボン?」

「そうよ。よく見て」

 僕が美波のリボンをまじまじと見ていると……

 

「ほら、リボンの長さが5センチ長くなったから、その分リボンを結ぶ位置を少し上に上げて前よりポニーテールがハッキリ判るようにしたのよ」

「そんなの、判らないよっ!?」

 僕がそう言うと……美波はいきなり僕の胸倉を掴んで

 

「そんなのってなによっ!?アキがポニーテールが好きだって言うから一生懸命やったのにっ」

「えっ、あっ、その……ごめんなさい」

 胸倉を掴んだまま睨んでいる美波の目が怖くて、僕は少し視線を逸らして

 

「でもね、僕は美波がポニーテールだから好きになったんじゃないよ?」

「アキ……」

 美波は僕の胸から手を離してくれた。

 

「美波はすごく優しくて……いつも一生懸命に僕の事を考えてくれているから」

 少し頬を染めて見上げるように僕を見ている美波。

 

「だから僕は美波の事が……」

 すると美波は僕の口に人差し指を当てて

 

「ダメよ、アキ。そこから先は昨日約束したでしょ?」

「約束?」

「うん」

 美波は僕に抱きついてきて上目遣いで僕を見ると……

 

「ウチの事を抱き締めて耳元で優しく(ささや)いてからキスしてくれるって言ったじゃない」

 そう言うと目を瞑って頭を(もた)れかけてきた。

 

 …………約束が大変な事になっているんですがっ!?

 

「ちょっ、ちょっと美波?今、それを全部するのはさすがに恥ずかしいよ……」

 いくらなんでも通学路にある公園だから

 外の道路を見れば文月学園の生徒が歩いて……いないな?

 さっきまで何人か歩いていた気がしたんだけど……

 

 すると美波は僕を見上げて

 

「仕方ないわね……ちょっと寒いかもしれないけど我慢してね」

 そう言うと美波は僕のマフラーを解いて……

 

「アキ……ネクタイが曲がってるわよ?」

 美波は僕の首元に手を伸ばしてネクタイや襟を直してくれている。

 誰かに見られるとすごく恥ずかしい事をされているみたいで照れちゃうな……

 

「みっ、美波?大丈夫だよ、後で直せば……」

「ダメよ。アキが恥ずかしい格好しているとウチも恥ずかしいんだからねっ」

 美波は話しながらも手を動かしていて……

 

「これで良し……っと」

 僕のネクタイを直し終わるとマフラーも巻き直してくれて……

 

「ほら、アキ。学校行こ?」

 美波の温かくて柔らかい手が、僕の手をそっと握ってくれた。

 

 

 

 美波と手を繋いで学校の前の長い坂道を歩いていく。

 

「やっとアキと恋人になれたのに……アキとウチの事を学校のみんなが知れば、アキも恥ずかしくなくなるのかな?」

 美波が、ふいにそんな事を言ってきたけど……

 二学期の終わりに変な噂が流れたり、校内放送で美波に告白したり

 色々やってるから、ほとんどの人は知ってると思うんだけど……

 これ以上、噂になるような事は起きないで欲しいなぁ。

 

「みんなが知ってても人前で抱き付かれたりすると恥ずかしいよ」

「それもそうね」

 美波は繋いでいる手を見て……

 

「アキが、この距離に居てくれるだけで幸せだもの……ね?」

 満面の笑みで僕を見ている美波。

 僕も美波が隣で笑っていてくれるだけで幸せな気持ちになれる。

 まるで世界が僕と美波の二人だけのために……

 

 

 …………二人だけ?

 

 

「ちょっと、美波っ!?」

「アキ、どうしたの?何か慌てているみたいだけど……」

 美波が首を傾げながら僕を見ているけど……

 

 さっきから手を繋いで歩いていても普段みたいに

 あまり恥ずかしさを感じないなと思ったら……

 

 僕たちの周りに誰も居ない。

 学校へ行くには必ず通る通学路の坂道なんだから全く居ないと言う事は……

 

「今、何時?」

「えっと……9時40分っ!?」

 

 美波と顔を見合わせて……

 

「アキっ!急がないとっ!?」

 急いでも始業式は始まってるけど……

 

「そうだね。美波走ろうっ!」

 

 美波と手を繋いで学校目指して走り出す。

 

 

 今年も……色々ありそうな予感のする新学期の始まりだった。

 

 


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