僕とウチと恋路っ!   作:mam

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1月2日(月)


僕とみんなとお正月part06

 

 

 そして僕たちは公園に着いた。

 

 ブランコなどの遊具は設置されていないせいか広々としていて

 所々にベンチが設置されている。

 

 ベンチには犬を連れてきて座ってる人や

 携帯ポットに入れてきていたのか、何か飲みながら一休みしている人たち。

 

 広いところで三角形のビニール製の凧を揚げている子供たちや

 サッカーボールを蹴っているお父さんと男の子などなど……

 みんな楽しそうに過ごしている。

 

 

 

「じゃあ、早速凧を揚げようか」

「うん」  「はいですっ」

 

 まずは僕がお手本を、と言うことで美波に凧を持ってもらう。

 

「走って凧に風を当てて揚げるんだよ」

「判ったわ」

 

 そして僕が走り出すと美波は…………凧を持ったまま僕を追いかけてきた。

 

「アキっ!全然揚がらないわよ?」

「はぁっはぁっ……あのね、僕が走り出したら手を離して大丈夫だよ」

 僕が少し息切れしているのに美波は全然息が乱れてない。

 

 そして今度は美波が糸を持ち、僕が凧を持ち上げると

 

「アキっ!絶対手を離しちゃダメだからねっ」

「美波?それだと今みたいに凧が揚がらないよ」

「仕方ないわね。じゃあ、凧を放したらウチのサポートお願いね」

「了解」

 そして美波が走り出したので凧を手から放し、僕も美波の後を追いかける。

 少し走ってから美波が

 

「アキっ!どれくらい走れば良いの?」

「それくらいで良いんじゃないかな」

「これで良いのかしら?」

 美波は立ち止まってこっちへ振り返る。

 やはり走ったからか、頬は少し赤みがかっていて肩を少し上下させている。

 

「引っ張られる感じがするわね」

「うん、その時に少しずつ糸を出して凧を高く揚げるんだよ」

「判ったわ……こんな感じ?」

 美波が右手を少し上げて糸を緩めないように引っ張っている。

 僕は美波の右手を覆うように自分の右手を重ねて

 

「こんな感じで少しずつ糸を出さないと凧が落ちちゃうよ」

「あっ……(ポッ)」

 あれ?美波が真っ赤になって俯いちゃったよ?

 

「美波ちゃん、羨ましいなぁ」

「お姉ちゃんばっかりずるいですっ!」

 

 ブラちゃんのリードを握っている工藤さんと

 今までブラちゃんと遊んでいた葉月ちゃんが僕たちの方を見ている。

 すると美波が真っ赤な顔で僕を見上げて小声で……

 

(アキ、これよっ)

(これって?)

(愛子と土屋よ。意識させずに手を繋がせるのに良いと思わない?)

(なるほど……確かにこれだと凧の方に意識が行くからムッツリーニでも大丈夫かもね)

(そうよ。アキもすごく自然にウチの手を握ってくれたし……)

 そう言うと美波が僕の胸に頭を(もた)れかけてくる。

 

(わわっ。みっ、美波っ!?姉さんも居るんだから今はマズいよっ!)

 うわぁ……ほんとに今は冬なのか、と思うくらい顔が熱い。

 運よく姉さんは僕の背中の方に居るから

 美波が僕に寄りかかっているのが見えていないだろうけど……

 

(もうっ……ほんとはずっとこうしていたいけど、愛子との約束もあるしね)

(そうだね)

 助かった……ムッツリーニたちが居なかったら、ずっとこのままだったかも……

 それはそれで嬉しいんだけど、やっぱりみんなが見てる前でって言うのは恥ずかしいな。

 

 ところで凧は……あれ、落ちちゃってるよ。

 やっぱりそんなに揚がってなかったから、ちゃんと見てなかったらすぐ落ちちゃうんだな。

 

「じゃあ、僕が糸を巻いておくよ」

 美波から糸巻きを受け取って糸を巻き始める。

 そして美波は工藤さんの方へ行き

 

「次は愛子たちがやってみる?」

「ボクもやっていいの?」

(ボクたち、でしょ?うまくやりなさいよ)

(美波ちゃん、ありがとう)

 工藤さんが美波と小声で何か話して、ブラちゃんのリードを美波に渡して僕の方へやってくる。

 

「はい、工藤さん。しっかりやってね」

「吉井君もありがとう。今度何かお礼するね……(美波ちゃんには内緒でね)」

 工藤さんが片目を瞑りながら小声で……

 

「くっ、工藤さんっ!?」

「あははっ。ホント吉井君は、からかい甲斐があるね」

 笑いながら僕から糸巻きを受け取る工藤さん。

 そして僕は凧の方へ行き、拾い上げる。

 さてムッツリーニは何処で何をやっているのかな?

 

 少し離れたところで…………姉さんの写真を撮っていた。

 

「おーい。ムッツリーニ?姉さんの写真なんか撮ってないで凧揚げしようよ」

 僕は凧を持ってムッツリーニの方へ移動する。

 

「姉さんの写真なんか欲しがる人居ないと思うよ?」

「(ブンブン)…………そんな事はない。いろんな需要がある」

 そう言うと僕の女装写真を……今それを出したら姉さんがっ!?

 早く話題を変えなければ……

 

「そっ、それよりムッツリーニは凧揚げってやったことある?」

「…………紳士の(たしな)み」

 親指をグッと立てて目をキラーンと光らせるムッツリーニ。

 凧揚げが紳士の嗜みなんて聞いた事が無いけど……

 まぁ凧は昔の中国とかで戦争にも使っていたみたいだから

 きっと凧にカメラでも取り付けて女子更衣室を覗いてた、とかだろう。

 

 …………ムッツリーニだとどんな軍事技術でも欲望(エロ)のために使う気がする。

 

 とりあえず工藤さんも待ってるから

 

「ほら、ムッツリーニ。今度は工藤さんが凧を揚げるから手伝ってあげなよ」

 そう言って凧を渡すと素直に受け取ってくれた。

 ふぅ、やれやれ……僕が一息ついていると背筋が凍るような寒気が……

 

「……アキくん?『姉さんの写真なんか』って言うよりも……」

 姉さんの声がいつもと違う……僕は恐る恐る後ろを向くと……

 

「先ほど美波さんと抱き合っていたように見えたのですが……」

「あっ、あれは、その……ちょっと美波と相談があって」

「後でぽっきりお話があります」

「はい……」

 後でって……話だけで済めば良いけど、無理だろうなぁ。

 

 

「ムッツリーニ君っ。行くよーっ!」

「…………(コクコク)」

 工藤さんが走り出したのを見計らってムッツリーニが手を離す。

 すると凧はぐんぐん揚がっていき……

 あっという間に美波が揚げた高さの二倍くらいまで行った。

 

 僕が美波の傍まで行くと、葉月ちゃんはブラちゃんと遊んでいた。

 どうやら今は凧よりもブラちゃんの方に興味があるみたいだ。

 

「僕たちより高く揚がってるね」

「ほんとね。でも、これだと土屋の出番が無いんじゃ……」

「あっ……」

 確かにムッツリーニは工藤さんの近くには居るけど……見ているだけだった。

 

「これじゃ意味ないじゃない」

 美波が悔しそうにムッツリーニと工藤さんを見ている。

 うーん、まさか工藤さんの運動神経の良さが裏目に出るとは……

 風の影響とかもあるんだろうけど。

 

 とりあえずムッツリーニに糸を触らせるようにしないといけないな。

 何か、ないかな……あ、そうだ。

 

「おーい、ムッツリーニ。凧の曲芸って出来る?」

 するとムッツリーニは僕にも判る様に大きく頷くと工藤さんに近づいて……

 

「…………工藤。ちょっと借りるぞ」

 そう言うと糸を握っている工藤さんの手に自分の手を重ねて凧を操作し始めた。

 

 すると凧は空を躍るように動き出した。

 8の字を横にした形を描いたり、一気に落ちたかと思ったら急上昇したり……

 どうやったら、あんな動きが出来るんだろう?

 

「すごいわね……凧ってあんな動きが出来る物だったのね」

「うん、すごいね」

 僕と美波が凧の動きに見とれていると……姉さんがいつの間にか後ろに来て

 

「なるほど。さっき抱き合っていたように見えたのはこれの打ち合わせをしていたのですね」

「ねっ、姉さんっ!抱き合っていたって……」

「あっ、玲さんっ!?」

 美波の顔がまた真っ赤になってる。

 僕も顔が火照っているから、きっと真っ赤になってるな……

 

「今回は大目に見る事にします。あの二人のためにやった事でしょうから」

 ムッツリーニと工藤さんを見ながら、そう言う姉さん。

 ふぅ、助かったよ。

 

「姉さん、ありがとう」

「いえ、礼にはおよびません。後でメイド服を着て食事の支度をしてもらうだけで許してあげます」

「なぜにメイド服っ!?」

「アキくんがもっと可愛くなるからです」

 姉さんがにっこり微笑みながらそう言うと……

 

「玲さん、ありがとうございます」

「ちょっ、ちょっと美波っ!何でお礼なんて言ってるのさっ!?」

「いいじゃない、減るもんじゃないんだし」

「僕の精神力がごっそり減るんだけど……」

 僕がうなだれながら美波と話していると

 

「では、これから毎日姉さんにおやすみとおはようのキスをするのに変更しますか?」

 

「「是非、メイド服でお願いしますっ!」」

 

 結局、美波と二人で頭を下げた。

 姉さんは少し残念そうだったけど……

 

 

 

 ところでムッツリーニと工藤さんは……

 工藤さんが真っ赤な顔をしてムッツリーニを見ているな。

 でもムッツリーニは凧の操作に夢中みたいだ。

 

「これって工藤さんの願いは叶った事になるのかな?」

「そうね。愛子も嬉しそうだし……」

 僕と美波がお互いに顔を見合わせていると……

 

「あっ」

 葉月ちゃんの小さい叫び声が聞こえて……

 ブラちゃんが真っ直ぐ一直線にムッツリーニと工藤さんの方へ走っていった。

 

「あぅ……ごめんなさいです」

 申し訳なさそうに俯いている葉月ちゃんの手に握られているのは

 美波が持っているリードの先に付いている留め金だった。

 どうやら遊んでいるうちに外れちゃったみたいだ。

 

 でも飼い主である工藤さんの方へ走っていってるから大丈夫だろう。

 ここなら公園の中だから車とか交通事故の心配も無いしね。

 

「大丈夫だよ。工藤さんの方へ行きたかっただけみたいだから」

 そう言って葉月ちゃんの頭を撫でてあげると

「ありがとうです」

 泣きそうだった顔が笑顔に……やっぱり葉月ちゃんは笑顔が一番似合うよね。

 

 そしてブラちゃんが近づいたのに工藤さんが気が付いて

 

「あっ、ブラっ!留め金(ホック)が外れちゃったのっ!?」

 

――― プッシャァァァァァ

 

 今日、一番の大きな赤い花が咲いた。

 

 

――――

―――

――

 

 

 ムッツリーニがベンチに寝て、いつも持ち歩いている非常用の輸血セットで輸血をしている。

 僕たちを見た人が何人か「救急車を……」と言ってくれたけど

 いつもの事だから「大丈夫です」と返事をする。

 普通は公園のベンチで輸血なんかしないよね……

 それ以前に輸血セットを持ち歩いている訳無いんだし。

 

 結局、凧は落ちて竹ヒゴが折れちゃったので

 今は葉月ちゃんとブラちゃんが公園の中を走り回っているのを見ている。

 今度はちゃんと留め金が外れないように葉月ちゃんも気を付けているみたいだ。

 

「…………今日はありがとう」

 ベンチでタオルを目に当てて寝ているムッツリーニがいきなりお礼を……

 

「いきなりどうしたのさ?」

「…………俺は明久ほど鈍くない」

 少しムッとした口調でムッツリーニが言葉を続ける。

 

「…………工藤に何か言われたんじゃないのか?」

「えっと……」

 僕が言いよどんでいると……いつの間にか美波と工藤さんが近くに来ていた。

 

 ……口に人差し指を当てながら。

 

「…………ここのところ、工藤の様子が変わった気がする」

「様子って?」

「…………二学期の最初くらいまでは何かと張り合っていたんだが」

 工藤さんは静かにムッツリーニが言うことに耳を傾けている。

 

「…………最近は少し引いて俺の事を見ている気がする」

「そうなの?」

「…………ああ。さっきもそうだった」

「さっきって……凧揚げした時?」

「…………そう。自然と手を触れたけど、何もしてこなかった」

「そう言えば、よく鼻血が出なかったね?てっきり凧に集中していたのかと思ったんだけど」

 さっき葉月ちゃんに手を握られただけで鼻血が止まらなかったのに。

 

「…………逆。凧の操作はそれほど集中しなくてもあれくらいは出来る」

 普通の人は集中してもあんな動かし方は出来ないよ?

 

「…………一学期の頃の工藤なら、手を握った瞬間にきっと何かしてきたはず」

 そう言えば最初の頃の工藤さんっていたずら好きの女の子ってイメージがあったなぁ。

 今もあんまり変わらないけど。

 

「…………工藤の手が温かくて……それが心地好かった」

「工藤さんの手を握るのに集中していたってこと?」

「…………そうかもしれない……工藤の手にずっと触れていたいっていう気持ちだけだった」

 と言うことは、普段ムッツリーニが鼻血を出すのは極端にエッチな事を考えちゃうからか。

 そういう事を考えないですむなら鼻血も出なくてすむみたいだ。

 

「それならムッツリーニは工藤さんの事をどう思ってるのさ?」

 工藤さんが少し驚いたような顔をして……ムッツリーニを見つめている。

 

「…………そうだな……」

 ムッツリーニは少し黙った後……

 

「…………出来れば一緒に居たい……のかもしれない。明久と島田のように」

「僕と美波?」

「…………ああ。正直少しだけ……羨ましいと思っているのかもしれない」

「羨ましいって……」

「…………入学した頃から二人を知っていて……妬ましいと思う事もあったけど」

「妬ましいって……」

「…………最近は羨ましいって思う事の方が多い気がする」

「じゃあ、ムッツリーニも工藤さんと付き合ったら良いじゃないか」

 工藤さんは顔を真っ赤にして首をブンブンと横に振っている。

 なんかムッツリーニに似ているなぁ。

 

「…………それは無理」

「どうしてさ?」

「…………俺が工藤の傍に居たら迷惑になるかもしれない」

「そんな事……」

 僕が言いかけると……

 

「そんな事無いよっ!」

 工藤さんが真剣な表情で……真っ赤になりながら叫んだ。

 

「康太君が一緒に居たいって言うなら一緒に居てあげるよっ!」

「…………くっ、工藤っ!何故ここにっ!?」

 目隠しのタオルを取って、眩しそうに目を凝らしながら声のした方を見るムッツリーニ。

 さっきまで一緒に凧揚げしていたのに何故ここにって……

 

「ボクが居て康太君が迷惑だって言うなら仕方ないけど……」

「(プイッ)…………そんな事実は確認されていない」

 横を向いて話すムッツリーニ。本当に素直じゃないなぁ。

 

「じゃあ、ボクが傍に居ても迷惑じゃないんだね?」

「…………迷惑じゃないけど困る」

「ムッツリーニ、どっちなのさ……」

 ムッツリーニは起き上がると僕の胸倉を掴んで

 

「…………何故、工藤が居ることを教えないっ!?」

「言う暇が無かったんだよ」

「…………くっ……」

 僕から手を離してガックリとうなだれるムッツリーニ。

 

「康太君?ボクの何が気に入らないのかな?」

「…………そんな事は無い。むしろ逆。だから困る」

「何が困るのさ?」

 僕が問いかけると……美波に引っ張られた。

 

(しばらく二人っきりにしてあげましょ)

 そのまま美波に引っ張られて葉月ちゃんと姉さんが居るところへ……

 

 

 

 しばらくすると……

 

「ムッツリーニ君のわからずやっ!」

「…………工藤こそ何故判ろうとしない」

「そんな事を言ってるからいつまでたってもすぐ血を噴いちゃうんだよっ!」

「…………何を言われてもこれだけは曲げられない」

「そんなに言うなら、こうだよっ!(チラッ)」

「…………くっ、卑怯な……っっ!!(プシャァァァァ)」

 

 ムッツリーニがまた血を噴いている。

 さっき輸血した分、全部出ちゃうんじゃないかな?

 工藤さんが少し怒りながらこっちへ来ると美波が

 

「愛子、どうしたの?さっきは良い雰囲気だったのに」

「ムッツリーニ君ったら、ひどいんだよっ!」

「ムッツリーニがどうしたの?」

「ボクがいつムッツリーニ君が倒れて輸血が必要になってもいいように傍に居てあげるって言ったら」

「「言ったら?」」

 僕と美波が聞くと……

 

 

「『俺のために工藤の貴重な時間を使う事は無い』って……ホントひどいよねっ!」

 

 


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