僕とウチと恋路っ!   作:mam

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1月2日(月)


僕とみんなとお正月part04

 

 

 …………

 

 ……ん

 

 少しずつ目を開けると……見慣れない天井が見えた。

 

 ここはどこだろう……

 

 今、僕がどこに居るのか周りを見ようと思って身体を捻ると左腕が動かしにくい。

 どうしたんだろうと思って見てみると……管が二本、僕の腕に付いていた。

 

 何でこんな物が僕の腕に……

 

 

――ガチャ

 

 ドアが開く音がして、誰か部屋に入ってきたみたいだ。

 白衣を着た人が二人、僕の傍に来ると……

 

「吉井君、気が付いたかい?」

 最初に僕に声を掛けてくれたのは眼鏡を掛けた背の高い男性だった。

 どこかで見たことがあるような……

 

「目が覚めちゃったんですか。そのままくたばってくれれば楽でしたのに」

 白衣の女性が心底残念そうに言葉を吐き出した。

 

「えっと……」

 あなたたちは誰なのか?

 僕の腕に付いている管は何なのか?

 そして……僕はどうしてここに居るのか?

 

 どれから聞こうか考えていると

 

「どこか痛むところはないかい?」

 男性が優しく問いかけながら僕の身体を触ってくる。

 

 なぜだろう…………背中に、ぞくりと寒気が走った。

 

「先生。そんな事をしなくても、これを使えばブタ野郎を動けなくする事が出来ます」

 白衣の女性がドクロのマークが付いたビンから液体を注射器に移している。

 どう考えてもそんなマークが付いた薬は普通、人間に使う薬じゃないよね?

 

「待つんだ。それは最後の手段だ」

 最後の手段って、使う気あるのっ!?

 

 僕が目の前で行われている処刑の準備に身体を強張らせていると

 

「吉井君。僕が誰だか判らないのかい?」

 白衣の男性が眼鏡をいじりながら少し残念そうに言ってくる。

 

 ……と、いう事は僕の知り合いなのかな?

 

 よく目を凝らして見てみると……クラスは違うけど、いつも僕を助けてくれる友達に似ている気がする。

 

「ひょっとして……久保君?」

 僕が答えると男性は顔を綻ばせて

 

「正解。やっと思い出してくれたようだね」

 僕の顔を撫でながら嬉しそうに微笑んでいる。

 

 …………更に寒気が強くなってきたな?

 

「まったくブタ野郎が助かるから、お姉さまが……」

 さっきから白衣の女性は『ブタ野郎』とか『お姉さま』とか……僕が女性の顔を見ていると

 

「美春の顔をジロジロ見ないでください。汚らわしい」

 

 ええっ!この人、清水さんなのっ!?

 

 髪型が螺旋双髪ではなく、普通のストレートのロングで先っぽの方をリボンで束ねている。

 よく見ると顔は確かに清水さんの面影があるけど、少し背が高いような?

 

「吉井君は目が覚めたばかりで、まだ現状の把握がきちんと出来ていないのだろう」

 僕の手を握り締めながら久保君がそう言ってきた。

 僕の背中には寒気がいい勢いで走っている。

 

「目が覚めたばかりって?」

「覚えてないのも無理は無い。君たちは旧校舎が吹き飛ぶ爆発に巻き込まれたんだ」

 久保君が少し俯き加減で僕と目を合わせないように話す。

 

「君たちって……」

 何故だろう……すごく嫌な予感しかしない。

 

「お姉さまもこんなヤツを好きにならなければ……」

 清水さんが僕の事を睨んでいる。

 視線で睨み殺そうとしているのか、手に持った注射器の中の毒薬を使うつもりなのかどっちだろう?

 

 でも、そんな事より僕と一緒に爆発に巻き込まれた人って……僕の予想は外れて欲しい。

 僕が動けない状態になっても、きっと無事なんだろうけど……

 

「あの、僕と一緒に爆発に巻き込まれた人って……」

「爆発の前後の記憶が無いんだね」

 僕の頬を優しく撫でてくれる久保君。

 僕の背中に寒気が(ほとばし)る。

 

「吉井君と一緒に爆発に巻き込まれた人は……」

 久保君はそう言うと、ジッと僕の顔を見つめてきて……

 

「……西村先生だよ。それで先生はかすり傷一つ無かったそうだ」

「ブタ野郎はずっと意識が無かったのに……そのまま永眠してくれれば美春も楽でしたのに」

 やっぱりっ!僕がずっと寝たきりだったらしいのに……

 鉄人はかすり傷一つ無いってどういうことなのさっ!?

 

「吉井君と西村先生が何か作業をしていたら爆発が起きて二人一緒に吹き飛んだらしいんだ」

「ブタ野郎が入院してから毎日お姉さまがお見舞いに……じゃない、美春に会いに来てくれてるんです」

 両手を合わせてうっとりと宙を見ている清水さん。

 美波は元気みたいで良かった……って、僕はどれくらい意識がなかったんだろう?

 

「さて吉井君も意識が戻ったようだし、いつものように触りまく……じゃない、触診をさせてもらうよ」

 いつものようにって、僕が意識が無かった間、何をしていたのだろう?

 怖くて聞けないけど……

 

「大人しくパジャマを脱いでくれると嬉しいな。出来れば手荒な事はしたくない」

「久保君っ!パジャマを脱ぐのも嫌だし、手荒な事もして欲しくないんだけどっ!?」

「仕方ないな。清水さん」

 久保君が清水さんに目配せをすると、僕の腕にチクリと痛みが……

 僕が痛みのあった腕を見ると、清水さんが手に持っていた注射器を刺している。

 

「ああっ!それって……」

「大丈夫だよ。死ぬ薬じゃない。ただちょっと身体が動かせなくなるだけなんだ」

 眼鏡の奥の目から異様な鈍い光を放ち、薄ら笑いを浮かべる久保君。

 僕の背中は寒気が縦横無尽に暴走している。

 

「全然大丈夫じゃないよっ!?」

 背中の寒気が全身に広がっているのが判る。

 今この状況で身体が動かせなくなったら……まな板の上の鳥肌じゃないかっ!!

 

「痛くしないから安心して良いよ」

「久保君の後は美春がきちんとトドメを刺してあげるから、お姉さまの事は心配しなくて良いです」

 二人が邪悪な悪魔の笑みを浮かべている。

 

 美波に会えないまま死ぬなんて……そんなのは絶対嫌だっ!!

 段々身体が言う事を聞かなくなってくるのが判る……もう手も足も動かせない。

 でも……まだ声は出せる。出来る事は何でもやらないとっ!!

 

「みっ、美波っ!助けてっ!」

 

――バンッ

 

 僕が叫ぶとドアが勢いよく開いて……

 

「アキっ!早く起きてっ!!」

 美波が助けに来てくれた。

 

「美波っ!身体が動かないんだっ!」

「なんでも良いから早く起きるのよっ!」

 と言うと、美波は僕の頬を勢いよく叩き始めた。

 

 

…………

………

……

 

 

 …………ん……

 

 …………夢、だったのか……

 

「痛ぁぁっ!なっ、何事っ!?」

 顔の痛みで目が覚めると……大きな吊り目をさらに吊り上らせた美波の顔が見えた。

 

「あっ!バカなお兄ちゃん、目が覚めたんですねっ」

 葉月ちゃんが嬉しそうに僕の頬を触ってくる。

 

「痛ぁっ。はっ、葉月ちゃん。ゴメンね、そこはすごく痛いよ」

「あぅ。ごめんなさいです」

 申し訳無さそうに俯く葉月ちゃん。悪い事しちゃったな。

 葉月ちゃんの頭を撫でて謝ろうと思ったら……あれ、なんで葉月ちゃんは僕の上に跨っているの?

 僕は腕がまったく動かせない状態だった。

 

「アキっ!ちゃんと起きた?」

「アキくん、起きちゃったんですか」

 とりあえず今どうなっているのか……

 姉さんはすごく残念そうに、美波は少し息を切らせながら僕のベッドの傍に立っている。

 そして葉月ちゃんが布団の上から僕に跨っている。

 

「えっと……僕はどこから質問すれば良いのかな?」

 頬がひりひりと痛むのを我慢しながら誰とも無く尋ねてみる。

 

「葉月が遊びに来たら、バカなお兄ちゃんがまだ寝ていたので起こそうと思ったんです」

 まず葉月ちゃんが教えてくれた。

 

「私が来た時にアキくんがうなされていたから目覚めのキスをしようと思ったのです」

「うなされていたら普通に起こしてくれた方が良いんだけど?」

「せっかくのチャンスが勿体無いじゃないですか」

「何のチャンスっ!?」

 姉さんが少し赤く染まった頬に手を当てて身体をもじもじ捻っているけど……

 これ以上聞くとヤバい気がするから、姉さんは放っておこう。

 

「ウチが来た時にちょうどアキが『助けて』って……それでアキを起こそうと思って、つい……ゴメンね」

 美波が申し訳無さそうに俯いちゃったけど……美波のおかげで姉さんから助かったのか。

 

「僕の方こそ助かったよ。ありがとう」

 出来る限りの笑顔で美波に御礼を言った。

 

「じゃあ僕、着替えるから葉月ちゃんどいてくれる?」

「はいですっ」

 ベッドの上から葉月ちゃんが降りてくれたので布団から出ると

 

「あの姉さん?僕、着替えをしたいんだけど」

「メイド服にですか?」

「なんで正月早々そんな物に着替えるのさっ!?……あと美波と葉月ちゃんも残念そうな顔をしないでっ!」

 すごく残念そうな顔をしている三人の背中を押して部屋から退場してもらった。

 

 そして着替えて洗面所に行って顔を洗おうと思って鏡を見たら……

 頬が両方ともすごく腫れていて、まるで福笑いのようだった。

 

 

…………

………

……

 

 

 僕が少し遅めの朝食でおせちの黒豆を食べていると……

 

「そう言えばアキくんは何の夢を見て、あんなにうなされていたのですか?」

「うーん……何の夢を見ていたか、ハッキリとは覚えていないんだけど……」

「葉月がお兄ちゃんのところに行った時、すごく苦しそうでした」

「それで僕を起こそうとしてくれたんだね。ありがとう」

 僕がそう言って葉月ちゃんの頭を撫でると「うにゅ~」と言って目を細めて喜んでくれた。

 

「私もアキくんを起こしてあげようと思っていたのですが」

「姉さんは起こし方に問題があるんだよっ!?」

 姉さんは拗ねた顔になっていたけど……

 チュウをするか殴るかの選択肢しか持っていない姉さんには起こして欲しくないんだけどなぁ。

 

「全然覚えていないの?」

 美波に質問をされて思い出してみる……

 

「たしか、清水さんと久保君が白い服を着て笑っていた気がするんだけど……」

「美春と久保?」

 僕が二人の名前を出すと美波が顔をしかめちゃった。

 清水さんはともかく、久保君は気にする事は無いと思うんだけどなぁ。

 ……時々視線が怖かったり、背中に寒気が走るけど。

 

「うん。何で二人とも笑っていたのか、さっぱり判らないんだけど……」

「でも、ウチに助けてって言ってたわよ?」

 それは寝ているところを姉さんに襲われそうになっていたから

 無意識で助けを呼んだんじゃないかな?

 

「実際、美波に助けてもらったようなものだし……本当にありがとう」

「何よ、あらたまって……気にしなくて良いわよ」

 僕が御礼を言うと美波は少し頬を染めた。

 

「バカなお兄ちゃんっ。葉月にも何か出来る事があったら言ってくださいですっ」

「ありがとう。その時は遠慮なくお願いするね」

 そう言って葉月ちゃんの頭を撫でてあげていると……

 

「困った事があったら姉さんにも、もっと頼っても良いんですよ」

 と、姉さんがにっこり微笑んで言ってきたので

 

「僕が困ってるのって、姉さんが変な事をするからなんだけど……痛っ、いたっ、イタッ」

 

 

 姉さんは笑顔のまま、グーで往復ビンタをしてきた。

 

 


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