僕とウチと恋路っ!   作:mam

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1月1日(日)


僕とウチと初詣

 

 

 さすがに元日だけあって、こんな朝早いのに人は結構居るなぁ。

 そう言えば大通りから、この神社へ続く道の両脇には色々な出店も並んでいるし。

 

 僕たちが鳥居の前に来ると、霧島さんが立ち止まり

 

「……ちょっと待って」

「どうかしたのか?」

 雄二が聞くと……

 

「……服装を正して」

 そう言うと、雄二のタイや自分の服装のチェックを始める霧島さん。

「翔子、どうしたの?」

 美波が僕のマフラーを巻き直しながら霧島さんに尋ねると

 

「……これから神様に御挨拶に行くから、きちんとした服装で行かないと失礼」

「「「なるほど」」」

 霧島さんの説明に頷く僕たち三人。

 すると雄二が僕に向かって

 

「明久は神様の前に行って良いのか?こんなに乱れた顔をしてるのに」

 と言って僕の右頬に人差し指を突き付けてきた。

「雄二こそ、そんなに崩れた顔なのに神社に来て良いの?」

 僕も負けじと雄二の左頬に人差し指を押し付ける。そして……

 

「んだとっ!?お前に言われる筋合いはねぇっ!」

「僕こそ、雄二なんかに言われる覚えは無いねっ!」

 お互いにいつものように胸座をつかみ合っていると

 

 ドガッ!×2

 

「「痛ぁぁ(ぇぇ)っ!」」

 僕と雄二の脛が、美波と霧島さんに蹴飛ばされた。

 

 僕と雄二が涙目になりながら脛を押さえて蹲って(うずくまって)いると

 美波と霧島さんが僕たち二人を見下ろすように仁王立ちになり

 

「アンタたち、何やってるのよっ!」

「……二人とも大人しくしないとダメ」

 そして僕と雄二が立ち上がると、またマフラーやタイを直してくれている。

 道行く人たちが僕たちをちらちら見て……

 微笑んでいる人や顔を背けて笑いを堪えている人が割りと居た。

 

(明久。少し恥ずかしいぞ)

(ほんとだね)

(仕方ねぇ。初詣が終わるまでは我慢するか)

(うん。帰るまでは大人しくするしかないね)

 雄二とアイコンタクトで会話する。

 まさか正月早々、雄二の顔より恥ずかしい事になるとは思わなかったよ。

 

「……鳥居を通る時は軽く会釈をしてから」

 そう言って軽く頭を下げる霧島さんにならって僕たちも軽く頭を下げてから鳥居をくぐった。

 

「たしか参拝する前は手を洗ったりするんだよな」

「そう言えば、そんな気もするね」

「そうなの?」

「……手水舎(ちょうずや)で身を清めてからお参りする」

 霧島さんが指をさした方向に人だかりが出来ていた。

 僕たちがそこへ行くと……そこに居る人全員が、手を洗ったり口をすすいだりしている。

 

「ここで手を洗うのね」

 美波が少し驚いた感じで他の人がやっているのを見ている。

「どうやるんだっけ?」

「左手と右手と口をすすぐんだよな」

「……うん。私がやるから見てて」

 霧島さんと美波が並んで、僕と雄二がその後ろに並ぶ。

 

「明久は頭にも水をかけた方が良いんじゃないのか?バカが治るかもしれないぞ」

「なんだとっ!?」

 僕と雄二がお互いに向き合って、また胸座を掴み合おうとした時……

 

 ガシッ!×2

 

 あれ……何か視界が暗くなったような?

 

 ぼんやりとした視界で雄二を見ると霧島さんに後頭部を押さえられていた。

 ……と言う事は僕も美波に頚椎を押さえられているのか。

 

「アンタたち、本当に学習しないわね」

「……私たちも疲れる」

「「ごめんなさい」」

 僕も雄二も、美波と霧島さんに命を握られている以上謝るしか出来なかった。

 

 

 そして霧島さんたちの順番が来て……ふむふむ、まずは左手を清めてから次は右手か。

 美波にも判る様に霧島さんがゆっくり所作を行っている。

 手を清めてから口をすすぎ、そして柄杓を縦にして終わりか。

 

「ううっ、日本のお参りって結構面倒くさいのね」

 美波はそんな事を言いながら手を拭いていた。

「……これも日本の文化の一つ」

 霧島さんも手を拭きながら列を離れて……やっと僕と雄二の番か。

 

「えっと、まずは……右手で持って、と」

 左手を洗って右手を洗って……あれ?口をすすぐ時はどうするんだっけ?

 隣の雄二を見ると……なるほど、左手で水を溜めて口をすすぐのか。

 僕も左手で水を溜めて口に含んですすごうとした時……

 

 先に口をすすぎ終わった雄二が両手で自分の顔を引っ張って変な顔を作り、僕の方を向いた。

 

「ぶぅぅぅっ」

 ただでさえブサイクな雄二が余計おかしな顔になってるから

 堪えきれずに水を噴いちゃったじゃないか。

 

 当然、僕が噴いた水はそのまま雄二にかかっちゃったけど……自業自得だよね。

 

「うわっ……きったねぇな、明久っ!(ドゴッ!)」

「ごほっ、雄二が悪いんじゃないかっ!(ボゴッ!)」

 

「「痛ぁぁ(ぇぇ)っ!」」

 僕と雄二は、さっき鉄人に殴られた頭のてっぺんを今度は美波と霧島さんに叩かれた。

 

「まったく、西村先生じゃないけどアンタたちってほんとに成長しないわね」

 いや、鉄人と美波に同じところを叩かれたので、きっと1センチくらい身長が伸びてると思うよ。

 …………たんこぶで。

 

 僕たちは手水舎を少し離れてから、僕は美波に、雄二は霧島さんに顔を拭いてもらった。

 そして参拝するために境内を歩いていく……僕と美波、雄二と霧島さんで腕を組んで。

 

「あ、あの……美波?」

「しょっ、翔子?」

「「すごく恥ずかしいんだけど(だが)……」」

 僕と雄二が恐る恐る声をかけると……美波と霧島さんにギロッと睨まれて

 

「「アキ(雄二)たちがする事以上に恥ずかしい事なんてないわよっ(ない)!」」

「「すいません」」

 正月早々、僕たちは二人に頭が上がらなくて謝るしか出来なかった。

 

 

 そしていよいよ参拝へ……さすがに賽銭箱が置いてある辺りは人がたくさん居るなぁ。

 少しずつ進みながら

 

「お金を入れて鈴を鳴らして……何回、手を叩くんだっけ?」

「一回でも叩けば良いんじゃないのか?」

 僕と雄二がそんな事を言っていると霧島さんが

 

「……二拝二拍手一拝だから二回」

「へぇ。そうなのね」

 美波が頷いていると

 

「たくさん叩いた方が願い事を聞いてくれそうな気がするよな」

「そうだね。三三七拍子とかリズムよく行くと良いかも」

 僕と雄二がそんな事を言っていると……組んでいる美波の腕に力がこもってきている。

 雄二も顔が蒼くなっているから、きっと霧島さんも腕に力を込めているのだろう。

 

「アキ~?」

「……雄二」

「「すんまっせんでしたぁ」」

 

 

 そして雄二と霧島さんの順番になり……

 霧島さんが願い事をしているのが少し長かったけど無事終わり

 いよいよ僕と美波の番か。

 

 美波も僕の腕を解放してくれて……お賽銭はいくらにするかな?

 3年くらいは来てなかったからなぁ……少し奮発して100円にしよう。

 鈴を鳴らして二回お辞儀して二回手を叩いて……と。

 横を見ると美波が真剣な表情で手を合わせていた。

 

 お願い事か……せっかくお金を出したんだし、出来る事ならたくさんしたいけど……

 今回は一個だけにするから絶対に叶えて下さい、神様。

 

 

 

 先に参拝を済ませていた雄二と霧島さんのところへ、美波と二人で移動する。

 

「ずいぶん早かったな、明久」

「そうかな?」

「お前の事だから、たくさん願い事をするかと思っていたんだけどな」

「そうしようと思ったんだけど……」

「思ったんだけど?」

 美波が僕の顔を覗き込むように見ている。

 

「たくさんお願い事をしても、たぶん忘れちゃうから一個にしたんだ」

「神様なんだから忘れる訳無いだろ。聞いてくれるかは別だがな」

「いや、忘れちゃうのは僕なんだけど……」

「ははっ、それもそうだな……で、何をお願いしたんだ?」

 いきなり雄二にそんな事を聞かれたから……ふっと隣に居た美波を見て

 

「あっ、明久。何いきなり赤くなってるんだっ!?」

「ゆっ、雄二がいきなり変な事を聞くからだろっ!」

「変な事って……ははぁ」

 雄二があごに手を当てて僕と美波を交互に見て、ニヤニヤしている。

 くっ……僕が何をお願いしたのか、気付いたのかっ!

 すると霧島さんが

 

「……雄二はずいぶん早かったけど何をお願いしたの?」

「ん?俺は勿論、しょ……」

 雄二は途中まで言いかけると……耳まで真っ赤になったよ?

 

「……しょ?」

「しょっ……しょんな事、どうでも良いだろっ!」

 霧島さんが真っ赤になった雄二に詰め寄っている。

 いい気味だ、と思って雄二を見ていると、美波が僕の袖をくいくいっと引っ張って

 

「ねぇ、アキは何をお願いしたの?」

「僕はお願いと言うか、想っている事を言っただけなんだけどね」

「想っている事って?」

 美波の大きな瞳が何かを確認するように僕を見つめている。

 

「そっ、それより美波は何をお願いしたのさ?」

「ウチ?勿論、アキとずっと一緒に居れますようにって」

 美波は頬を少し染めて満面の笑みを見せてくれた。

 

「ありがとう……それで僕のお願いなんだけど」

「なぁに?」

「もう叶っているんだ」

 僕が美波の笑顔を見ながらそう言うと……

 

「ふふっ。良かったわね。じゃあ、今度はアキがウチのお願い、叶えてね」

「うん」

「ちゃんと一緒に進級して卒業するのよ?」

「うっ……」

 

 神様、お願いを追加しても良いですか?

 

 

…………

………

……

 

 

「さて御神籤(おみくじ)でも引いて帰るか」

「そうだね」

 雄二の提案に僕が同意すると……

 

「ウチ、絵馬と言うのをやってみたいんだけど」

「へぇ。美波、絵馬なんてよく知ってるね」

「うん。この前、瑞希が言ってたじゃない」

「この前?」

 この前って、いつだろう?

 

「なっ、なんでもないわっ。それより絵馬ってどこでやるのかしら?」

「みっ、美波?」

 美波が僕の手を引いてどこかに行こうとすると

 

「……絵馬とか御神籤はあっちの社務所で扱ってるはず」

 霧島さんが指差す方向に白い建物があり

 その脇には吹き抜けの白いテントが立っていて、人だかりが出来ている。

 

「ありがとう、翔子。さぁ、アキ。行くわよっ!」

「美波。そんなに急がなくても……」

 美波に引っ張られるように移動する。

 

 

 社務所の前に着くと……

 窓口は四つあり、そのうち二つが御神籤、一つが絵馬や破魔矢などで、一つは閉まっていた。

 さすがにまだ朝早いから、そんなに人が来ていないとは言え、2~3人は常に並んでいる状態だった。

 

「絵馬を買うのは美波だけかな?」

「あれ?アキたちは絵馬をやらないの?」

「うん。お願い事はさっき神様にしちゃったし」

「俺も今年は遠慮しておくかな」

「……私も」

「じゃあ、買ってくるわね」

 そう言って美波は一番端っこの列に並んだ。

 並んでいるのは3人くらいだから、すぐ来るかな。

 

「じゃあ、俺たちは御神籤を引いてくるけど明久はどうする?」

「僕は美波を待ってるよ」

「そうか」

 雄二と霧島さんも御神籤の列へ並んだ。

 

 

 5分もしないで雄二と霧島さんが戻ってきて

 

「島田はまだか」

「うん、美波は次みたいだね」

 美波が並んでいる列を見ながら返事をする。

 

「雄二と霧島さんは今年の運勢はどうだったの?」

「まだだ。お前たちを待っててやろうと思ってな」

「……うん」

 そう言って雄二と霧島さんが小さく折りたたまれた紙を見せてくれた。

 

「そっか。悪いね」

「気にするな。明久だけだったら見捨ててる」

「くっ……」

 僕が拳を握り締めていると美波が戻ってきた。

 

「おまたせっ。ところでこれ、どこで書くのかしら?」

 買ってきた絵馬の表と裏を確認するように見ている美波。

 

「社務所に言えば、書くものを貸してくれるんじゃないか?」

「ありがと。ちょっと書いてくるわね」

 しばらくすると美波が絵馬を片手に戻ってきた。

 

「書いたわ」

「何を書いたの?」

 僕が絵馬を見せてもらおうと片手を出すと……

 

 プスッ

 

「痛ぁぁぁぁっ!」

 美波にいきなり目潰しをされたよっ!?

 

「アキは見ちゃダメッ!」

「ええっ!」

「いいから絵馬の事は忘れなさいっ!」

 

 …………なんか、つい最近こんな事があったような?

 

 

「お前ら、早く御神籤引いてこいよ」

「う、うん」

「そうね。ほら、アキ行くわよ」

 僕は目潰しのせいでまだ視界が戻らないので美波に手を引いてもらって御神籤を引きに……

 

「えっと……いくらだろ?」

「100円って書いてあるわね」

 ワンコインか……楽で良いよね。

 お賽銭で用意してあったのがポケットの中に何枚か残っていた。

 列に並んでいる間に何とか視界が戻ってきた。

 そして木で出来た筒を振って出てきた番号の紙をもらい、美波と二人で雄二たちのところへ戻る。

 

「おまたせ」

「じゃあ、早速何が書いてあるか見ようぜ」

 みんなで一斉に御神籤を開く。

 

 霧島さん……【吉】

 雄二……【末吉】

 美波……【中吉】

 僕……【小吉】

 

「「「「…………」」」」

 四人で御神籤と顔を見合わせる。

 

「なんと言うか……」

「つまんねぇな」

「……」

「これって良いのか悪いのか判らないわね」

 美波が御神籤を縦にしたり横にしたりして見ている。

 

「美波は中吉だから結構良いはずだよ」

「そうなんだ」

 でもあまり笑顔にならない美波。

 書いてある内容がよく判らないから、どれくらい良いのか判らないのだろう。

 

「まぁ運勢に書いてある内容の方が重要みたいだしな」

 僕も学業のところが『努力せよ』とか、失せ物は『しばらく見つからない』とか……

 吉って言葉に騙されちゃいけないのかもしれない。

 

「さっさと結んで帰ろうぜ。腹減った」

 雄二がお腹を押さえながら歩き出したので僕たちも歩き出す。

 そして霧島さんが雄二の袖を引っ張りながら

 

「……帰ったら朝御飯一緒に食べよう」

「俺も翔子の家で食うのか?」

「……うん。おせちで作った里芋の煮物がたくさんある」

「ちょっと待て。里芋以外に雑煮とかも食べたいんだが」

「……判った。では具が全部里芋のお雑煮を作る」

「それだと、ただの里芋煮だろっ!?」

 どうやら雄二は新年早々里芋ダイエットを始めるらしい。

 

「アキ?」

「なに?」

 美波が僕の袖を引っ張って……

 

「お昼にアキの家に行っても良い?」

「うん」

「ありがと」

 姉さんと二人きりだと間が持たなかったり危なかったり……

 美波が来てくれるなら、姉さんもあまり無茶はしてこないだろう。

 

 

 御神籤を結ぶところに着き、絵馬を奉納するところもすぐ近くにあるみたいだ。

 美波は先に絵馬を奉納しに行ったので僕は御神籤を結ぼうと、みくじ掛の前に立つと

 すぐ脇の木の幹に何か打ち付けてあるのに気が付いた。

 なんだろう?と思って近寄ってみると……

 

 絵馬にワラ人形がくっ付いていて、それが木の幹に釘で打ち付けてあった。

 そして絵馬には……

 

『豚野郎が居なくなってお姉さまが私の物になりますように』

 

 と書いてあった。

 

 こんな事をしたらバチが当たるんじゃ……と、思いながら

 立体的な装飾を施された絵馬を見ていたら

 

「ねぇ、アキ?」

 美波に呼ばれたので絵馬を掛ける方に行ってみると……

 やっぱり絵馬を掛けるところの近くにあった木にも絵馬とワラ人形がセットで打ち付けられていた。

 

「絵馬って、こうやって掛けるの?」

「絶対真似しちゃダメだよ」

 美波は「うん」と言って普通に絵馬を奉納するところに掛けて

 僕と一緒に御神籤をみくじ掛に結んだ。

 

「明久」

「そっちにも?」

「ああ」

 雄二が僕たちの方に来て周りを指差すと……

 ほぼ全ての木に絵馬が打ち付けてあった。

 数にすると20個は下らない。

 

「ひょっとしてさっき近藤君たちに会ったのって……」

絵馬(これ)の帰りだろうな」

 

 

 

 とりあえず僕らが関係者だという勘違いをされる前に

 雄二たちと別れて家に帰った。

 

 


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