僕とウチと恋路っ!   作:mam

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1月1日(日)


僕とウチと初日の出

 

 

 今日は1月1日、時間は午前4時すぎ。

 天気は……星が見えるから、たぶん晴れだろう。

 

 正直眠いし寒いし、で……普通なら今頃はまだ布団の中なんだけどなぁ。

 

「これでよし……っと」

 

 僕は今、路上で携帯を操作していた。

 こんな朝早くから呼び鈴を鳴らして、一緒に住んでる他の人を起こしちゃいけないから

 携帯へワンコール入れて、しばし待つ。

 

 

 ……カチャ

 

 少し離れた所で静かにドアが閉まる音がして……

 街灯が照らす中、トレードマークのポニーテールを揺らしながら女の子が僕の方へ駆け寄ってくる。

 

「あけま……」

 僕が新年の挨拶を言おうとしたら

 その女の子は止まる事無く、僕に抱きついてきて……

 

 頬を真っ赤に染めて大きな瞳を潤ませた可愛い顔がアップになり……

 僕の唇に柔らかくて温かいものが軽く触れると

 

「アキっ!今年もよろしくねっ!」

 美波がすごく嬉しそうな笑顔で僕を見つめている。

 

「こっ、今年もよろしくお願いしゅるね……」

 顔が物凄く火照っているのが判る……新年の挨拶を噛んだのが気にならないくらい。

 

「ふふっ。アキったら、『しゅるね』なんて……そんなにウチに会えたのが嬉しいの?」

 美波は僕に抱きついたまま、僕の胸に頬をつけてくる。

 ポニーテールから仄かに香るシャンプーのいい匂い。

 

「今年はずっと一緒に居てくれるのよね?いつでもアキは……ウチの傍に居てくれるのよね?」

 さっきまで笑顔だった美波が……少し不安そうな顔で僕を見上げている。

 僕は、そんな悲しそうな美波の顔を見るのはすごく辛いんだ……いつも笑っていて欲しい。

 

「もちろんだよ。美波がずっと笑っていられるように……僕は美波の傍に居るよ」

 僕がそう言うと……

 

「うんっ」

 僕が一番見たかった……心の底から幸せそうな美波の笑顔がすぐ目の前にあった。

 

 

 

 PiPiPiPiPi……  PiPiPiPiPi……

 

 あれ、携帯が鳴ってる……こんな時間に誰だろう?

 

「美波、ちょっとごめんね」

 美波はちょっと不満そうな顔をしたけど、離れてくれた。

 着信を見ると雄二からだった。

 

「もしもし?」

『明久。今どこだ?まさか布団の中とか言わないだろうな』

「美波の家の近くだけど、どうしたのさ?」

『そうか。ちゃんと起きてはいたんだな』

「当たり前だろ。昨日あんなに一生懸命働かされて間に合わなかったりしたら、ただのバカじゃないか」

『お前は更にその右斜め上を行くバカだから心配してやってるんだろうが』

「くっ……それより雄二こそ今どこにいるのさ?」

『俺は今、家を出たところだ……って、翔子っ!明久だから浮気じゃ……こらっ、ベルトを返せっ!』

 霧島さんは年が変わっても相変わらずだなぁ。

 

「じゃあ、僕たちは今から学校へ向かうからね」

『ああ、俺たちも今から……って、ズボンを脱がそうとするなっ!』

 雄二は、また下半身超クールビズ仕様で学校へ行くつもりなんだろうか。

 この寒いのに風邪を引かなきゃ良いけど……なんて思いながら携帯を仕舞うと

 

「ほら、アキ。学校へ行こ?」

 美波がそっと僕の手を握ってくれた。

 

 

――――

―――

――

 

 

 校門前で雄二たちを待っていると……五分もしないうちに坂道の下の方に二人が見えた。

 

「雄二、霧島さん。あけましておめでとう。今年もよろしくね」

「坂本に翔子。あけましておめでとう。今年もよろしくね」

 僕たちが先に新年の挨拶をすると

 

「おめっとさん、二人とも。今年もよろしくな」

「……あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願い致します」

 軽く片手を上げただけの雄二と、深々と頭を下げて挨拶をする霧島さん。

 対照的な二人だなぁ。

 そして雄二が遅れてきたにもかかわらず

 

「さっさと鉄人のところへ行って屋上で初日の出見ようぜ」

 そう言って校門の脇の小さな門扉を押して中へ入っていく。

 残された僕たち三人も置いていかれないようについていった。

 

…………

………

……

 

 ……コンコン

 

「入れ」

 

 ――ガラッ

 

 進路指導室の扉を開けると、鉄人は机に向かっていて、何か書いているみたいだった。

 

「「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願い致します」」

 美波と霧島さんはぺこりと頭を下げて新年の挨拶をしている。

 

「あけましておめでとう。今年も頑張れよ」

 女子二人の挨拶に笑顔で答えている鉄人。

 そして僕と雄二の方へ視線を移してきたので……仕方ない、挨拶するかな。

 

「あけおめことよろ。てっつん☆(ドゴッ!)」

「あけたからおめっとさん。てっちゃん♪(ボゴッ!)」

「新年の挨拶くらい、きちんとしろ」

「「痛ぇぇっ!」」

 僕と雄二は、首がめり込むんじゃないかと思うくらい頭のてっぺんを鉄人に叩かれた。

 正月だからフレンドリーに行こうと思ったのにっ!

 

「まったく貴様らは全然成長が見られんな……その調子だと今年もずっと二年生をやる事になるぞ」

 それは洒落にならないんだけど……しかも担任に言われたら現実味がありすぎるじゃないかっ!

 

 僕と雄二が涙目になりながら、それぞれ美波と霧島さんに頭を撫でてもらっていると

 鉄人がやれやれと言った感じで

 

「早く屋上へ行った方が良いんじゃないのか?そろそろ日の出の時間だぞ」

「もうそんな時間か。こんな事で見れなかったら悔しいからな」

「そうだね。早く行こう」

「帰る時も、ちゃんと挨拶に来い」

 そう言いながら鉄人が扉を開けてくれて、僕たちは廊下に出て階段の方へ歩いていく。

 

 

…………

………

……

 

 

 ギィ……

 

 階段の先にあった門扉を開けて僕たちが屋上に出ると

 空は真っ暗なんだけど、水平線の方から淡いオレンジ色に明るくなってきている。

 

「あぶねぇ……後ちょっと遅かったら間に合わなかったな」

「そうだね。鉄人なんかで時間を潰してる場合じゃなかったね」

 僕と雄二がそんな話をしていると……

 

「アキっ!あっちへ行きましょ?」

「……雄二。もっと近くで見よう?」

 僕は美波に、雄二は霧島さんに手を引っ張られて

 水平線が明るくなっている方へ向かって屋上を移動する。

 

 そして段々明るくなってきて、やがて……太陽が少しずつ見えてくると

 美波が僕の手をぎゅっと握り締めて……繋いでいる手と反対の手を少し前に出すと

 

「ほら、アキも手を前に出して……指でアルファベットの『C』を作ってくれる?」

「うん」

 僕は美波に言われるがままに左手を前に出して、指を『C』の形にすると……

 

 美波は前に出していた自分の右手を僕の左手と対称の形にして合わせてきた。

 

「アキ。親指を少し下げてくれる?」

「うん」

 そして美波も僕に合わせて親指を少し下げると……

 

 僕の左手と美波の右手でハート型の窓が出来て、今昇ったばかりの太陽がそこから見えて……

 

「すごく……綺麗ね」

「うん……綺麗だね」

 

 普通に見る太陽と違って、すごく……心まで温かくなる優しい光が溢れている気がする。

 

「来年も再来年も、これからずっと……アキとウチで、こうやって一緒に見ようね」

「うん」

 横を見ると……今見ていた太陽に負けないくらい優しくて眩しい美波の笑顔がすぐ近くにあった。

 

 

「しょっ、翔子っ!お前、何をする気なんだっ!?」

 ふいに聞こえてきた雄二の叫び声で我に返って雄二たちの方を見ると……

 霧島さんが雄二の左手を抑えて雄二の指を無理矢理広げようとしていた。

 

「……私たちも、ああやって太陽を見よう」

「恥ずかしいだろっ!せめて手を繋ぐくらいで……」

「……わかった」

 霧島さんはそう言うと雄二の左手を握り締めて……

 

「痛ぇぇっ!関節を極めるなっ!?」

 

 ゴキッ

 

「うぎゃぁぁぁ!関節を外すなぁーっ!」

 動かせなくなった雄二の左手の指と自分の指で輪を作って太陽の方に向けている霧島さん。

 雄二も素直にやれば良かったのに……

 

 ふと校庭を見ると……鉄人が太陽に向かって何か叫んでいるみたいだった。

 でも雄二の叫び声の方が五月蝿くて何を言っているのか、さっぱり判らなかった。

 

 

…………

………

……

 

 

 そして鉄人に挨拶をして校門を出ると、雄二が僕たちに向かって

 

「せっかくだから初詣も行かないか?」

「僕は構わないけど、美波はどうする?」

「そうね。せっかくアキと一緒に居るんだし……それにウチ、初詣って行った事無いのよね」

「えっ!そうなの?」

「うん。だって日本のお正月って今年で二回目なのよ?」

「そっか」

 そう言えば美波が日本に来たのは一昨年の春だったっけ。

 日本のお正月は去年と今年だけなのか。

 

「じゃあ、一緒に行こうよ」

 僕が手を差し出すと……

「うんっ」

 美波は嬉しそうに笑顔で僕の手を握ってくれた。

 

 

 

 そして四人で歩き出した。

 

「そう言えば初詣ってどこに行くのさ?」

「学校から帰る途中にある神社で良いだろ」

 僕たちの学校から文月駅のほうに向かっていく道の途中から

 少し離れた所に割りと大きな神社があったっけ。

 

「親月神社のこと?」

「ああ。俺は毎年そこへ初詣に行ってるんだけどな」

 雄二も霧島さんと手を繋ぎながら歩いている。

 

「僕も小さい頃に行った記憶はあるんだけど……父さんたちが日本を出てから初詣は行ってないなぁ」

「そう言えば明久の両親はずっと海外に居るのか」

 雄二が羨ましそうに僕の事を見ている。

 一人暮らしの自由が羨ましいのだろうか。

 そう言えば、雄二はあまり家族の事を話したがらないよね。

 ……今は姉さんが居るから自由どころか、命の危険や色々な危険が毎日あるんだけどね。

 

「ウチは海外から来た方で、ずっと家族が一緒だったから寂しくは無かったけど……」

 美波が僕と腕を組んできて……少し頬を染めて大きな瞳で僕を見つめて

 

「……寂しくなったら、いつでもウチに甘えて良いからね」

 優しく微笑みながら、そう言ってくれた。

 

「ありがとう。僕の隣に居て笑ってくれるだけで……十分だよ」

 美波の心遣いが本当に嬉しい。

 

…………

………

……

 

 しばらく歩いていると……いつの間にか、雄二と霧島さんも腕を組んで歩いていた。

 

「そういや、今年はマフラーなんてしてるんだな」

「ん?僕のこと?」

「ああ。去年までそんなものしてなかっただろ」

 僕の事まで……良く見てるなぁ。

 

「美波の手編みなんだ。すごく暖かいよ」

「アキに気に入ってもらえて本当に良かった……頑張った甲斐があるわね」

 すごく嬉しそうに美波がそう言ってくれた。

 

「島田の手編みか。そう言えば二学期の終わりに頑張っていたのってそれの事か」

「そうよ」

「……雄二も私の手作りの物が欲しい?」

 霧島さんが雄二の袖を引っ張りながら聞いている。

 

「そうだな。やっぱり手作りって何か特別な感じがするからな」

 珍しく雄二が照れながら、そんな事を言っている。

 さては僕がもらったマフラーが羨ましいんだな?

 

「……判った。今度、私も雄二のために作ってあげる」

「そうか?悪いな。楽しみに待っててやるよ」

 雄二が頬を少し赤くして嬉しそうに笑っている。

 なんだかんだ言っても、やっぱり霧島さんの事が好きなんじゃないか。

 

「……雄二。黒とこげ茶と銀色の何色が良い?」

「ずいぶん渋めの色ばかりだな?」

「……うん。後、材質は金属と革のどっちが良い?」

「ちょっと待てっ!俺が欲しいのは手編みのマフラーで、断じて鎖の付いた首輪じゃないからなっ!?」

「……冗談」

「何度も言ってるがお前の場合、全然冗談に聞こえない」

 

 そんな会話をしながら歩いていると神社の鳥居が見えてきて……

 

 

 …………なんか見知った顔が二つ、神社の方から歩いてきた。

 

「吉井ぃぃ……」

「坂本ぉぉ……」

 クラスメイトの近藤君と布田君が、僕と雄二を見るといきなり襲ってきた。

 

「貴様らぁ、学校だけじゃ飽き足らずぅぅ」

「こんなところでもイチャイチャしやがってぇぇ」

 

「「謹賀……死んねぇぇーーっ!!」」

 

「まったく正月早々トチ狂いやがって」

「ほんとだよ」

 僕と雄二が迎撃しようとすると……

 

 美波と霧島さんが僕たちの前に出て

 

「アキに手を出したら」

 美波が近藤君に目潰しをして

 

「……雄二に何かしたら」

 霧島さんが布田君のあごに掌底を当てて

 

「「許さないからっ!!」」

 そして美波は蹴りを、霧島さんは肘で腹を打撃して突き飛ばした。

 

「俺たちの出る幕が……」

「まったく無かったね……」

 

 今更ながら美波の強さを目の当たりにして

 家に帰ったら黒豆をたくさん食べよう、と思った。

 

 


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