僕とウチと恋路っ!   作:mam

59 / 111
12月30日(金)


僕とみんなとおせち料理part02

 

 

 秀吉がぶつぶつ言っているけど、ずっとこの部屋に居ても仕方ないので

 おせちを作るために使わせてもらえる厨房の方へ移動を開始する。

 途中で大きな鞄を持った姫路さんが

 

「おせちに使われている料理ってそれぞれに意味があるんです」

「僕もなんとなくは聞いた事があるけど……」

「ウチは作り方だけじゃなくて、おせちに選ばれている理由も知りたいわね」

「ほとんどが語呂合わせみたいな物です」

「ご…ろ……あわせ?」

 美波が頭に『?』を浮かべているみたいだ。

 

「語呂合わせって、ダジャレみたいなものだよ」

「へぇ……『竹やぶ焼けた』ってヤツの事かしら?」

 美波が人差し指をあごに当てながら考えていると姫路さんが苦笑しながら

 

「美波ちゃん、それは回文です」

「か…い…ぶん?」

 またもや美波が頭に『?』を浮かべている。

 

「かいぶんって言うのはね、怪しい文章の……」

 僕が美波に説明していると、さっきまで拗ねていた秀吉が

「明久に島田よ。回文というのはじゃな、上から読んでも下から読んでも同じ発音をする文章の事じゃ」

「へぇ、そんな事よく知ってるね。秀吉」

 僕がそう言うと秀吉は拗ねていた表情から一転して、ぱぁっと笑顔になり

 

「つい、この間、『水戸の八百屋の富』という台詞があっての。回文で演劇をやっていたのじゃ」

 そう言えば秀吉は演劇に関係あることになると嬉しそうに話してくれるんだっけ。

 今度から秀吉が機嫌を損ねた時はこれに限るな。

 やっぱり友達には笑顔で居て欲しいし……特に秀吉みたいな可愛い子は。

 

 そして、ほどなくして霧島さんが立ち止まり、【第二厨房】と書かれたプレートの扉を開けて中に入ると……

 

 すごく広くて、まるでテレビで見るような、何処かのホテルの厨房みたいだった。

 大きいオーブンや業務用の冷蔵庫などの高そうな機械がピカピカに磨かれて光っている。

 

「うわぁ、すごいね」

「ほんと、立派ね」

「すごいですね」

「ボク、こういう本格的なところに来るの初めてだよ」

「これは……なかなか立派なものじゃな」

「…………(キョロキョロ)」

「……今日は私たちの貸切だから好きに使って」

 霧島さんが微笑みながらそう言ってくれた。

 

「僕たちが好きに使って良いの?」

「そう言えば夕食作ってくれてるとか言ってなかったかしら?」

「さっき入ってくる時にプレートには『第二』って書いてありましたね」

「ああ。ここはサブの厨房だから今日は使わないそうだ」

 雄二がそう答える。

 でもサブって……普通の家にはキッチンは二個もないんだけど?

 メインはどうなっているんだろうか。

 

「…………おせちの材料は?」

 ムッツリーニが久しぶりに口を開いた気がする。

 喋らないと普段から存在を消して動いているような奴だから居るのか居ないのか判りにくい。

 もっとも性的衝動を抑えられなくなった時に真っ赤になるからすぐ判るんだけど。

 

「……冷蔵庫の中に入ってる」

 業務用の冷蔵庫へ向けて、霧島さんが白魚のような綺麗な指を刺す。

「でもおせちの材料って高かったような……それを僕たちが勝手に使っちゃっても良いのかな?」

「……大丈夫。みんなには悪いけど、残った物や端っこの方だから問題ない」

 なるほどね。霧島さんの家で作るおせちで使わなかった材料を使わせてもらえるのか。

 

「それで十分だよ。ありがとう」

「これなら腕の振るい甲斐がありそうね、アキ?」

「うん。頑張って美味しいおせち作ろうね」

「もちろんよ。お正月にアキに食べさせてあげるんだから♪」

 美波が笑顔で小さくグッと両の拳に力を込める。

 うんうん、来年のお正月は良い事がありそうだ。

 

 僕と美波を見て、霧島さんが雄二に

 

「……私も雄二におせちを食べさせてあげる」

「ん?お前は、正月は家の事で忙しいんじゃないのか?俺の事なら気にするな」

「……来年は雄二も一緒にうちの行事に参加するから」

「ちょっと待て。俺はそんな事一言も聞いちゃ……うぎゃぁぁぁ」

 霧島さんの白魚のような綺麗な指が雄二の顔面に食い込んでいる。

 いつもの見慣れた光景だね。

 

「……雄二も早くうちの仕来たりに慣れて欲しいから拒否は認めない」

「おっ、俺は正月くらいはゆっくり誰にも束縛されずに……うぎゃぁぁぁ」

 今度は雄二の腕に自分の腕を絡めて関節技を極めている霧島さん。

 さっき似たような技を美波に掛けられたから雄二の痛さがよく判る。

 

 一年の刑は元旦にあり、とは言うけれど

 雄二が来年されるであろう刑は全部元旦に執行される気がする。

 

「おっ、お前らがイチャイチャするのは構わないが、すっ、少しは俺の事も考え……うぎゃぁぁぁ」

 雄二が何か言いかけると今度は霧島さんが雄二の背後に回りこんで鯖折りをしている。

 しかし、和服って動きにくい気がするんだけど霧島さんはずいぶんそつなく動いているなぁ。

 

 とりあえず雄二はほっといて……

 確か秀吉は料理はほとんど出来なかったよね。

 姫路さんは料理という名の化学実験をしていたけれど

 最近はちゃんと作れるようになったみたいだし……

 

 そう言えば、工藤さんって料理の腕前はどうなんだろう?

 料理をするところが想像できないんだけど……聞いてみるかな。

 

「工藤さんは普段料理ってどれくらいしてるの?」

「ボク?電子レンジのボタンを押すのと、お湯を沸かすのは任せておいて」

 八重歯の可愛い笑顔で答えてくれたけど……ほとんどした事ないんですね。

 そして僕に向かって

 

「吉井君が教えて欲しいって言うなら……二人っきりで教えてあげようか?もちろん実技付きでね(チラッ)」

 工藤さんがシャツの胸元を少しはだけさせて笑顔で僕に片目を瞑ってみせる。

 少し離れたところでムッツリーニが鼻血を出していた。

 何の実技を教えてくれるんだろう?と思ってドキドキしていると……

 

「アキっ!?なんでデレデレしてるのよっ!!」

「うぎゃぁぁぁ」

 美波が僕の背後から鯖折りを……まさか雄二だけじゃなく、僕まで刑が執行されるとは思わなかった。

 

 

 

 僕と雄二が鯖折りから解放されて、ダメージが回復してからおせちを作り始める。

 

「じゃあ、俺と明久でそれぞれ分かれて作ると効率悪いから一緒に作ろうぜ」

「そうだね」

 新年早々、雄二と同じおせちを食べるのもちょっと引っかかるけど……

 でも料理の腕前は確かだから問題は無いだろう。

 

「じゃあ、まずは一のお重からだね」

「一番最初って何が入っているのかしら?」

 僕と美波が空のお重を見ていると

 

「一のお重には黒豆や数の子、田作りなどですね。簡単につまめる物と言った感じでしょうか」

「「「「へぇ」」」」

 僕や美波、ムッツリーニと秀吉も姫路さんの説明を聞いている。

 

「黒豆って何で入っているのかしら?」

 美波が首を傾げて考えている。ここは僕も美波の前でいいところを見せておかなくちゃ。

 

「それはね……」

 僕が言いかけると横からムッツリーニが

 

「…………年の数だけ食べるから」

 ああっ!僕が言おうと思ってた事を先に言われたよっ!?

 

 すると姫路さんが苦笑して

 

「それは節分ですね。黒豆は真面目に働くように、健康でいられるように、という願いから来ているみたいですよ」

 しかも違ってた……良かった、美波の前で間違った事を言わなくて。

 

「……それに黒は魔除けの意味もある」

 僕がホッとしていると霧島さんが補足してくれている。

 

「じゃあ、アキはいっぱい食べておかないとダメよね」

 美波が笑顔で僕に言ってきた。

 

「えっと……真面目に勉強するようにって事かな?」

「それもあるけど……」

 美波が少し頬を染めて大きな瞳で僕をジッと見て……優しく微笑むと

 

「ウチに技を掛けられても無事で居られますようにって」

 美波は来年も僕に抱きついてくる気満々だった。

 

 

「じゃあ、豆を煮るぞ」

 雄二が大きな寸胴を火にかけている。

「あれ?豆は最初、水に入れて一晩寝かせておかないとダメなんじゃ……」

「俺と翔子で仕込みは昨日やっておいたから今日は調理するだけだ」

 僕が質問をして雄二が答えていると

 

「翔子ちゃん、昨日も坂本君と一緒だったんですか?」

「代表。休みの時はいつも坂本君と一緒に居るんだねっ」

「……うん」

 霧島さんが頬を染めて、雄二の袖を掴んで頷いている。

 

「…………鉄は入れなくて良いのか?」

「ああ、ちゃんと鉄玉子を入れてあるから……って、姫路っ!何を入れようとしているんだっ!?」

 ムッツリーニの質問に雄二が答えていると

 姫路さんがビンのような物を持って蓋を開けようとしていた。

 

「はい。黒豆に色が付くように、鉄がよく溶けるかなと思って硫酸を入れようかと……」

「そんな事をしちゃダメだよ、姫路さん」

 僕は姫路さんからビンを取り上げる。

 この前のお弁当で姫路さんもちゃんと食べる物だけを使うようになったと思って

 安心していたけど、まだちょっと危ないな。

 

(とにかく姫路から目を離すな)

(((了解)))

 僕たちはアイコンタクトで会話する。

 そして姫路さんが厨房に持ってきた荷物をさっき居た部屋に置いてくるようにお願いをした。

 姫路さんはすごく悲しそうな顔をしていたけれど、美波や僕の命には代えられないからね。

 雄二だけ食べるなら姫路さんに作ってもらっても良いけど。

 

「今日はここにある材料だけ使ってね」

「はい……判りました」

 荷物を置いて戻ってきた姫路さんは素直に返事をしてくれたけれど

 ここに置いてある洗剤とかも注意をしたほうが良いかも知れない。

 

「一のお重には後、何が入るんじゃ?」

 まだ空のお重を見ながら首を傾げている秀吉。

「えっと…田作りと数の子だったかな?」

 よく覚えているなぁ、工藤さん。

 

「数の子は卵の数が多いから子孫繁栄を、田作りは豊作の願いが込められているそうですね」

 また説明をしてくれている姫路さん。さっきより少し元気が無いみたいだ。

 でも、姫路さんのオリジナルレシピを使用すると楽しいはずのお正月の茶の間が

 サスペンスドラマの事件現場みたいになっちゃうからなぁ。

 

「数の子は冷蔵庫から出して盛り付けるだけだから後にして、田作り作っちまおうぜ」

 雄二がそう言うと冷蔵庫から小さいイワシを出してきた。

 

「それをどうするの?」

「このまま軽く炒って乾燥させてから調味料に漬け込んで完成かな」

 美波がイワシを見ながら聞いてきたので僕が答えると

 

「……私が炒る」

「ウチも炒るのやってみたい」

 霧島さんと美波が申し出てくれたので、僕と雄二が調味料を作ることにする。

 

「わしにも何か手伝える事は無いかのう?」

「ボクにも何かお手伝いさせてよ」

「私にもお手伝いさせてください」

 お手伝いの申し出を断るのも申し訳無いので三人には胡桃を割ってもらって細かく砕いてもらう。

 そしてムッツリーニには砕いた胡桃とゴマをよく炒ってもらって……

 

 美波と霧島さんが炒ったイワシを少し冷ましてから

 僕と雄二が作った調味料に漬け込んで、バットにキッチンペーパーを敷いてその上にあける。

 秀吉と工藤さんと姫路さんが砕いた胡桃とゴマを混ぜて

 ムッツリーニに炒めてもらった物を振りかけて完成。

 

 美波と二人だけで作るのも良いけど

 みんなで作ったおせちを食べられるのも嬉しいな。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。