僕とウチと恋路っ!   作:mam

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僕とウチと大掃除

 

 

「……アキ」

 ゆさゆさ……

「ん……」

 

「…………アキ」

 ゆさゆさ……ゆさゆさ……

「……ん……」

 

 誰かに揺すられている……?

 うぅん……休みなんだからゆっくり寝かせて欲しいなぁ。

 

「もぅ……アキったら」

「休みの日だからって少しだらけすぎですね」

「でも……アキの寝顔、可愛い」

「そうですね」

「玲さんが羨ましいです。毎日アキの寝顔が見られるなんて」

「でも最近は鍵が掛かっている事が多くて……なかなかアキくんの部屋に入れません」

「良かった…ちゃんと鍵はしてるのね」

「美波さん?何故胸を撫で下ろしているのですか?」

「いっ、いえ、大した事では……それより、アキ全然起きませんね」

「そうですね。今日はせっかく鍵を掛け忘れているのに」

 

 んん?……姉さんと美波が居るのかな?

 

「そうだ。美波さん、こうしませんか?」

「なんでしょうか?」

「二人で交互にアキくんに目覚めのキスをするんです」

「ええっ!そっ、そんな事して良いんですかっ!?」

「ただし、唇はダメですよ。アキくんにはまだ早すぎます」

「はっ、はい……そっ、そうですよね。あはは……」

「美波さん?何かすごく慌てているような気がするのですが……」

「きっ、気のせいですよっ……うっ、ウチ、寝ているアキを見るの、すごく久しぶりだから」

 

 …………ここ、僕の部屋だよね?

 何で二人とも僕の部屋に……

 

「じゃあ、どっちが先にアキに、そっ、その……目覚めのキスを……」

「そうですね。それではまず私からでもよろしいですか?」

「ええっ!あっ、あの……せめてじゃんけんするくらいは……」

「ええ、いいですよ……では、恨みっこなしで行きましょう」

「はいっ」

 

 ふむふむ……じゃんけんで決めるのか。

 姉さんが勝ったら今すぐ起きよう。

 美波が勝ったらキスしてもらうまで寝てようっと。

 

「「じゃんけん、ぽん」」

 

 どっち?どっちが勝ったのっ!?

 

「やったっ!」

 この声は……美波だな。

 それなら、もうちょっと寝ている振りしてるかな。

 

 ガシッ!

 んぐっ……んぐぐぐ……

 なっ、なんでいきなり口と鼻を押さえられてるのっ!?

 

「ああっ!玲さんっ!どうしていきなりアキの顔を押さえてるんですかっ!?」

「いえ、せっかくなのでアキくんを気絶させて、たくさん目覚めのキスをしようかと」

 ちょっと待ってっ!寝ている人を気絶させるって、どういうことなのっ!?

 

 とりあえず僕が起きているという事を姉さんたちに知らせないと……

 僕の顔を抑えている姉さんの腕を叩いた。

 

「アキくん。大人しく寝てなさい」

 姉さんは僕を起こしに来たんじゃないのっ!?

 いかんっ!殺されかねんっ!

 

 とりあえず首を捻って……って、姉さんの押し付けが強すぎて頭が動かせないっ!?

 昨日、海外から帰ってきてお風呂上がったら居眠りするほど疲れていた筈なのに……

 何で今日はこんなに元気なのさ!?

 ヤバい。そろそろ息が……僕は最後の力を振り絞って両手両足で布団を跳ね上げた。

 

「「きゃぁ」」

 姉さんと美波が小さく悲鳴をあげて……やった、姉さんが離れてくれた。

 僕は布団から上半身を起こし、呼吸を整えながら

 

「ふっ、二人とも朝から何を……して……」

 何故か、姉さんと美波が二人ともメイド服を着ている。

 

「二人とも、何で朝からメイド服なんて着てるのっ!?」

 殺されかけた事よりも、二人がメイド服を着ている方に僕の危険察知能力が警告を発している。

 すると姉さんは真面目な顔になって

 

「アキくん。今年も今日を入れて後四日しかありません」

「うん」

「そして昨日の大雪で今日は外に出れません。だから大掃除をしようと思っているのですが」

「姉さん、昨日日本に帰ってきたばかりなのに元気だね」

「もちろんです。昨日アキくんが姉さんを抱っこしてくれましたから」

 抱っこと言う言葉で美波が、ぴくんと少し身体を振るわせた。

 でも昨日美波にもお姫様抱っこしてあげたし……

 

「父さんと母さんが居ない間は私がアキくんの保護者なんですから手本となるようにしないといけません」

 そう言うメイド姿の姉さんの手には一着のメイド服が……

 

「なので、アキくん。早く顔を洗ってきて着替えてください」

 ビシッとメイド服を差し出す姉さん。

 保護者がメイド服を着て、男である僕にメイド服を勧めてくるこの状況がおかしいことを

 どうやったら姉さんに理解出来るように伝えられるのだろうか?

 

「ちょっと待ってよ。大掃除するのは良いけど、僕は男なんだからメイド服はおかしいでしょ」

 すると二人とも心外そうな顔をして……口を揃えて

 

「「だってアキ(くん)は、こんなに可愛いのに」」

「はい、そこっ!おかしいからねっ!?」

 男なのに可愛ければメイド服を着ても良いってものじゃ……

 自分が男だと偽っている秀吉は除くけどね。

 

「でもアキくん?掃除をするのですからメイド服は、いわば家事の制服みたいなものでしょう?」

「メイド服は動きやすそうに全然見えないんだけど」

「じゃあ、アキくんは動きやすいように裸にしますか?」

「何でそうなるのさっ!?それに今の時期、裸でいたら風邪引いちゃうよ」

「判りました。では最大限に譲歩してエプロンの着用だけ認めましょう」

「エプロンだけだと裸と変わらないじゃないかっ!?」

 すると美波が首まで真っ赤にして顔を両手で覆うように隠して指の隙間から、ちらちら僕を見て……

 

「アキ、ちょっと待ってね。ウチ、まだ心の準備が……」

「裸エプロンなんてしないから、心の準備なんかしなくていいからねっ!?」

 僕がそう言うと、美波は「え~」って不満そうな顔をしてたけど……

 とりあえずここに居てもメイド服を力づくで着させられそうなので顔を洗ってくるかな。

 

「じゃあ、僕、顔を洗ってくるよ」

 ふぅ……しかし、姉さんが帰ってきた次の日の朝からこんな状態じゃ、無事年を越せるのかなぁ?

 

…………

………

……

 

 そして僕が顔を洗って部屋に戻ると……二人はすでに大掃除を始めていた。

 

「あれ?もう大掃除始めてるの?」

 僕のベッドから布団が床に下ろされていて

 美波は僕の枕のカバーを外していて

 姉さんはベッドのマットレスを動かしてまで……

 ずいぶん本格的に大掃除をするつもりなんだな。

 

「ええ。まず朝御飯を食べる前にアキくんのところから、と思いまして」

「ねぇ、アキ?」

「どうしたの?」

「正直に答えてね」

 にっこりと微笑む美波。

 やっぱり美波の笑顔は可愛いなぁ……特に今はメイド服を着てるし。

 

「うん」

「他に隠してある場所は何処?」

 美波が手にしているのは…………

 

 それはっ!?

 僕が冷蔵庫の野菜室を二重底にして、湿気ないようにビニール袋に入れて保管してあった

 大人の階段を登るための参考書(エロ本)じゃないかっ!!

 

「なっなっ、何でそれをっ!?」

「アキが前にうちに来た時、冷蔵庫の中に隠してるって言ったじゃない」

 そう言えば姉さんは料理をしないから冷蔵庫に隠してるって言っちゃった気が……

 

「アキくん?まずは家の中を大掃除する前に……」

 姉さんと美波が二人揃って僕をキッと睨むと……

 

「「アキ(くん)の生活態度から大掃除するわ(します)よ」」

 

 正直、ほっといて欲しかった……僕は泣く泣く、最後の一冊を……

 トイレの貯水槽の中にビニール袋に入れて隠してあった参考書(エロ本)を……

 

――――

―――

――

 

 そして美波が作ってくれた朝御飯を食べてから僕の家の大掃除を開始する。

 朝御飯で使った食器や鍋などを片付けるついでにキッチンの大掃除を僕と美波でやる事にして

 その間、姉さんは自分の部屋を掃除している。

 

 ちなみに正直に参考書(エロ本)を出したから、と言う事と

 水周りの掃除をするからメイド服を汚しちゃいけない、と言う事で

 メイド服の着用は免れたけど……

 僕の大切な参考書(エロ本)は朝御飯を食べる前に全部燃やされた。

 

 僕はシンク周りを、美波はレンジの辺りを掃除しながら

 

「ごめんね。うちの大掃除を手伝ってもらって」

「気にしなくて良いわよ」

「僕、美波の家の大掃除を手伝うよ」

「大丈夫よ。お父さんも今日からお休みになるから、きっと今頃うちでも大掃除してると思うわ」

「そうなんだ。じゃあ、僕でもお手伝いできる事があったら何でも言ってね」

「うんっ。その時はお願いするわね」

 

 お昼を食べて、午後は僕がお風呂とトイレを掃除して

 姉さんと美波が客間とリビングを掃除する。

 

 そして三時過ぎには掃除も無事終わり、姉さんと美波は普段着に戻って

 綺麗になったリビングで三人でくつろいでいると……

 

「さっき、私の部屋から面白いものが出てきましたので、ちょっと持ってきますね」

 と言って、姉さんがリビングを出て行き……手に何かを持って、すぐ戻ってきた。

 

「アキくんの小さい頃のアルバムです」

「ちょっと、姉さん。まさか、また僕の裸ばかり……」

「大丈夫ですよ」

 にっこり微笑む姉さん……その笑顔には何度騙された事か。

 

「これはちゃんと可愛い服を着てますから」

 そう言って姉さんは美波にアルバムを渡した。

 

「そっか。ちゃんと服を着ているなら大丈夫……」

 …………ん?

 なんか可愛いとか言う言葉が付いていた様な?

 

「わぁ……アキ、すっごく可愛いっ!」

 美波がすごく楽しそうにアルバムを見ている。

 まぁ裸じゃないなら、そんなに恥ずかしい事は無いだろう。

 小さい頃の写真なら普通は可愛く写ってる筈だし……

 ……と、思うけど、念のためにちょっと見ておくかな。

 

 僕は立ち上がって美波が座っているソファの後ろへ行って覗き込むと

 アルバムの写真の中の僕は……

 

 …………頭にリボンをつけて、ひらひらのスカートをはいて嬉しそうに笑っていた。

 

「ちょっと姉さんっ!この写真は、いつ撮ったのさっ!?」

「きゃっ。アキっ!?近くでいきなり声出されるとビックリするじゃないっ」

「あ、ごめんね」

 僕は美波に謝ると、さっき座っていたところに座りなおして

 

「姉さん。このアルバムは何の写真を集めてるの?」

「アキくんの可愛い写真です」

「なんでこんな写真ばっかり撮ってるのさ?」

「でもアキくんは喜んでいました」

 にこにこと笑顔の姉さん。

 たしかに写真の中の僕はすごく楽しそうに笑っていたけど……

 知らないって事は幸せなんだなぁ。

 

「ところでアキくん」

「何?」

「今度のお正月のおせちはどうするのですか?」

「それなら美波と一緒に作ろうかと思ってるんだけど」

 僕がそう言うと、美波は今まで見ていたアルバムを閉じて姉さんに渡す。

 

「玲さん。ありがとうございました」

「どういたしまして」

「それでウチがおせちを作る勉強をしたいなと思ってアキに一緒に作ってくれるようにお願いしたんです」

「そうだったのですか」

「ちょうど雄二たちもおせちを作るから、明後日霧島さんの家で一緒に作ろうって約束してるんだけど」

「では今度のおせちはアキくんと美波さんの手作りなんですね」

「うん」

「楽しみにしててください」

「はい」

 

 

 そして日が暮れる前に美波を家まで送っていく。

 

 隣を歩いている美波がすごく楽しそうに微笑んでいる。

 

「どうしたの?すごく楽しそうだけど」

「アキのちっちゃい頃の写真を思い出してたの」

「ううっ、小さい頃も女装させられていたなんて……」

「いいじゃない。すごく可愛かったわよ」

 美波はすごく楽しそうに笑っているけど……やっぱり恥ずかしいなぁ。

 

「じゃあ、アキもウチの小さい頃の写真見ていく?」

「えっ?」

「ウチもだいぶ昔のアルバムあるわよ。三歳の頃にフランスに旅行した時の写真とか」

「へぇ」

 小さい頃の美波か……きっと可愛いかったんだろうなぁ。

 

「そのアルバムのおかげでアキがウチに言ってくれた大切な言葉の意味が判ったのよ」

「そうなんだ」

 そうか。それでドイツ語とフランス語を間違えてたのに判ったのか。

 

 美波の家に着いて……

 美波の小さい頃の写真を見せてもらって……やっぱり可愛かった。

 

 また夕御飯まで御馳走になり

 葉月ちゃんの小さい頃の写真まで見せてもらって……

 昔…と言っても数年前だけど…の葉月ちゃんは小さい頃の美波に似ていたから

 やっぱり大きくなったら美波みたいになるんだなぁ。

 

 そして何故か……

 美波のお父さんとお母さんが若かりし頃に

 付き合い始めたばかりの時の写真まで見せてもらった。

 若い頃の美波のお母さんも美波に似ていたので

 やっぱり美波が大きくなったらお母さんみたいになるんだな。

 

 

 そうするとやっぱり美波の子供は女の子だったら美波そっくりに……

 男の子だったら、僕に……

 

 


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