僕とウチと恋路っ!   作:mam

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僕とウチと冬休み前編
僕とウチと冬休みの課題part01


 

 

 PiPiPiPiPi……  PiPiPiPiPi……

 

 ん……携帯が鳴ってる……

 着信の表示は……美波からだ。

 

「おふぁよう」

「おはよう、アキ。ずいぶん眠そうな声ね?」

「うん……まだ布団の中に居るから」

「もう9時過ぎてるのよ?休みだからって、だらけてたらダメよ」

 美波に言われて時計を見てみると……9時20分だった。

 携帯を少し顔から離してから、欠伸を一つ。

 

「ごめんなさい。昨日、美波のお父さんに言われた事を調べてて……そのままゲームしちゃって」

「アキったら……玲さんが居ないからってしっかりしないと」

「そうだね。美波の声も聞けたし、ちゃんと起きるよ」

 さて、起きて朝ご飯を食べて……昨日のゲームの続きでもするかな。

 

「ウチ、今からアキの家に行っても良い?」

「今日も美波に会えるのは嬉しいけど……何するの?」

「冬休みの課題をやろうかなって……早く片付けておけば、たくさん一緒に遊べるじゃない」

 確か問題集が5冊くらいだったような……

 全教科じゃないだけマシだけど、それでも僕が一人でまともにやったらほぼ丸二日はかかるだろう。

 

「うっ……それ、来年になってから雄二たちに聞きながらするってのじゃダメかな?」

「ダメよ」

 即答だった。

 

「玲さんは明日か明後日には帰ってくるんでしょ?」

「確か、その筈だけど……」

「玲さんが帰ってくる前に終わらせて、アキもきちんと出来るんだってところを見せてあげない?」

「それはそうなんだけど……」

「さっきも言ったけど課題をさっさと終わらせてアキと一緒に居たいの。誰にも邪魔される事無く……ね?」

 確かに姉さんにちゃんと勉強してるところを見せないと、休みだからって遊びには行きにくいかも?

 それに、どうせやらないといけないなら早く終わらせた方が良いよね。

 

「うん、判ったよ」

「よろしい。じゃあ、ウチ、今から家を出るからちゃんと起きててよ?」

「大丈夫だよ」

「ふふっ、とびっきりの目が覚める魔法をかけてあげる。あのね……」

「うん?」

 携帯で魔法って……催眠術でも、かけるつもりなのかな?

 

 

「アキ……愛してるわ。世界中の誰よりも」

 

 

「……っ!?」

「また後でねっ」

 携帯は切れたけど、僕はしばらくの間、布団の中で携帯を握ったままだった。

 顔を洗うために洗面所に行って鏡を見たら……まだ顔が赤かった。

 

 

――――

―――

――

 

 ピンポーン ピンポーン

 

「今、開けまーす」

 

 ガチャ

 

「こんにちは」

 ドアを開けると、肩からバッグを提げて、買い物袋を手にした美波が居た。

 

「いらっしゃい。何を買ってきたの?」

 美波が持っていた買い物袋を預かって、質問をすると……

 

「お昼御飯を作ってあげようかと思って……それより朝御飯はちゃんと食べたの?」

 逆に質問をされてしまった。

 

「ううん。まだ食べてないよ」

 確か今は11時ちょっと前だった気がする。

 美波の魔法のおかげで目はバッチリ覚めたけど

 布団の中でしばらく動けなかったからなぁ……お昼と一緒でも良いかなと思ってたんだけど。

 

「ダメよ。朝御飯はちゃんと食べないと……一日の始まりなんだからねっ」

 美波が腰に手を当てて、僕をビッと指差した。

 

「ごめんなさい」

「そんな事だろうと思ったわ……じゃあ、ちょっと早いけど先にお昼御飯にしましょ」

 

 キッチンに着くと美波が

 

「アキ、エプロン貸してもらえる?」

「材料を買って来てもらったのに作るところまでお願いするのは悪いから僕が作るよ」

 僕がそう言うと美波はジッと僕を見つめてきて

 

「ウチに作らせて欲しいの……お願い」

 と言ってきたので…・・・僕は美波にエプロンを渡すと嬉しそうに微笑んで

「すぐ作るから待っててね」

「うん」

 

 美波がてきぱきと料理を作っていく。

 買ってきた材料を見るとベーコンとか卵とかパスタがあったから

 多分、カルボナーラかな?

 

「アキ?調味料適当に使うわよ」

「うん、お願いします」

 あ、ヤバい……適当で使われて困る物があった。

 

「あの、美波?」

「どうしたの?」

 フライパンで手際よくベーコンを炒めながら返事をしてくれる。

 

「判ってはいると思うけど……タバスコは入れないでね?」

 

 

 

…………

………

……

 

「頂きます」

 テーブルの上にはカルボナーラとサラダが二人分。

 サラダのプチトマトくらいしか赤いのが見えないからタバスコは使われていないだろう。

 

 今日は向かい合わせに座っているから、あーんは残念ながらやってもらえない。

 ソースにパスタを絡めて、と……ソースが固まったりしていないし、美味しい。

 ふと美波を見ると……あれ?手をつけてないな。

 

「美波、食べないの?」

「アキが美味しそうに食べてくれてるのを見てたら嬉しくなっちゃって」

 嬉しそうに微笑んで僕を見ている。

 美波の笑顔を見れるのは嬉しいけど、ジッと見られてると食べにくいな。

 

「僕が食べさせてあげようか?」

 半分冗談のつもりで言ってみる。

 もちろん残りの半分は本気ですよ?

 

「あ、ごめんね。早く食べて勉強しないといけなかったのよね」

 美波はフォークとスプーンを手に取り、慌てて食べ始めた。

 いつもやってもらってるから、僕もやってあげたかったんだけどな。

 

 

 

 そして少し早いお昼御飯を食べ終えて、美波と二人で課題に取り組む。

 今回は僕も美波も苦手な古典が無かったので助かった。

 お互いに教える事の出来そうな教科はなるべく一緒にやる事にしたので数学から始める。

 

 数学は2ページに一回くらいずつ美波に教えてもらいながら進めていった。

 そして三時間くらいで何とか数学は終わった。

 

「ふぅ……やっと、終わった」

 僕がテーブルの上にうつ伏せになっていると美波が

「少し休憩しましょ。お菓子も買ってきたからお茶にしない?」

「うん。じゃあ、僕が飲み物を淹れてくるよ。美波は何かリクエストはある?」

「クッキーを買ってきたから紅茶が良いかな」

「ちょっと待っててね」

 

 しばらくしてテーブルの上には、今まで僕たちの頭を悩ませていた数学の問題集の代わりに

 僕たちがリラックスするための、紅茶の入ったカップが二つとクッキーが載ったお皿が一つ。

 

「あと4冊もあるのか……」

 僕はクッキーをつまみながら残りの問題集を数える。

 何度数えても残っている問題集の数は変わらない。

 

 PiPiPiPiPi……  PiPiPiPiPi……

 

 僕の携帯か。

 誰からだろうと思って携帯の表示を見ると……姉さんからだった。

 

「もしもし」

「アキくん。お久しぶりです」

「姉さん、元気?」

「あんまり……」

 あれ、なんか元気が無いような?

 

「大丈夫?どこか具合でも悪いの?」

「いえ、身体は大丈夫なのですが……」

「どうかしたの?」

「最近アキくんを抱き締めてないので力が入らなくて……」

 最近も何もそんな頻繁に抱き締められている記憶はないんですがっ!?

 

「今、美波と勉強してて忙しいから特に用がないなら切るけど?」

「美波さんと勉強をしているのですか?」

「うん。冬休みだからって、だらけちゃいけないって」

「そうですね。学校が休みでも勉強は毎日してないと身に付きません」

「判ってるよ。ところで何で電話してきたの?」

「日本に戻るのが明後日になりそうなのでその連絡を、と思いまして」

「あ、今年には戻って来れるんだね」

「はい。アキくんには寂しい思いをさせているかと思いますが後二日の辛抱です」

 後二日しか自由が無いのか……

 

「そんな事は無いよ。美波も一緒に勉強してくれてるし」

「そうですね。先日のクリスマスもお世話になってるみたいですし、美波さんには御礼しないといけませんね」

「うん」

「それで明後日なんですが日本に戻るのはお昼くらいになりそうなのですが」

「じゃあ、お昼御飯は作ったほうが良いのかな」

「いえ、報告をしに会社に行かないといけないので家に帰るのは夕方以降になります」

「そうなんだ。大変だね」

「でも明後日で仕事納めになるので家に帰ったら、アキくんが好きなだけ抱き締めてあげます」

「それは勘弁してください」

 気のせいか、僕を見る美波の目が怖い……

 

「では後二日ですが我慢してください」

 と言って、姉さんは電話を切った。

 後二日の我慢ではなくて、二日後から我慢しなきゃいけないのだろう……いろいろと。

 

「玲さんからだったの?」

 美波が確認をするように尋ねてきた。

「うん。日本には明後日戻ってくるんだって」

「そうなんだ……そしたら明日には課題終わらせないとね」

「うん、頑張ろうね」

 ふっと美波が何かを思いついたような顔をして

 

「そうだ。ねぇ、アキ?」

「ん?」

「明後日なんだけど、玲さんが帰ってきたらウチらでお祝いしてあげない?」

「お祝い?」

「うん。玲さん、クリスマスの時、来れなかったから」

「そう言えば日本を発つ時、残念そうだったな」

「後、勉強を見てもらったりしてるし……それの御礼も兼ねて、ね?」

「そうだね。きっと喜ぶと思うよ」

 姉さんが帰ってくるなり僕に抱きついたり

 可愛い格好をさせようとするのを防ぐためにも良いかも知れない。

 

「じゃあ、決まりねっ」

 美波が、スッと立ち上がると僕に向かって

「アキっ、ちゃっちゃと課題を終わらせるわよっ」

 

 そして次の課題は世界史を選んで珍しく僕が美波に教える形に……

 そう言えば僕が人に教えるって滅多に無いからなぁ。

 

 世界史が終わったのは午後6時前だった。

 日もすっかり暮れて、そろそろ美波も帰らないといけないかな。

 

「もうこんな時間……ウチ、そろそろ帰らないと」

「そうだね。送っていくよ」

 僕が立ち上がって問題集や筆記用具をまとめていると

 

「ねぇ、アキ?夕御飯はどうするの?」

「ん?一人だと作るの面倒だからコンビニとかスーパーで買おうかな」

 実際一人分だと作るより買った方が安いしね。

 すると美波が笑顔で僕の腕を引っ張りながら

 

「じゃあじゃあ、ウチの家で一緒に食べない?」

「ええっ。昨日も御馳走になってるのに悪いよ」

「そんなの気にしないわよ」

 美波はそう言うとバッグの中から携帯を取り出して電話をかけている。

 

 そして、少し話していると……指でVサインを出してきた。

 

「お母さんがオッケーだって」

「本当に良いの?」

「もちろんよ。それに……」

 

 美波は頬を少し染めながら、僕の左手を取って両手で握り締めると

 

「少しでも長く……アキと一緒に居たいの」

 

 美波の大きな瞳が上目遣いで僕を見ている。

 そんな美波のお願いを……僕が断れる訳が無かった。

 

 

――――

―――

――

 

 

 美波と一緒に白い息を吐きながら並んで歩いていく。

 ふいに美波が

 

「明日はお父さんもお母さんも仕事があるから、アキがうちに来てくれると嬉しいんだけど……」

 そう言うと少し俯いて上目がちに僕を見てくる美波。

「うん、良いよ」

 葉月ちゃん一人でお留守番は寂しいもんね。

 しかし美波の両親は本当に仕事が忙しいんだな。

 そう言えば僕はまだ将来の事は決めてないけど、美波は何か決めている事があるのかな?

 

「美波は将来の夢とかあるの?」

「ウチの夢?」

「うん。僕はまだ何の仕事がしたいとか無いんだけど、美波はあるのかなって」

「ん~、そうね……」

 美波はあごに指を当てながら考えている。

 

「ウチもまだ何の仕事がしたいってある訳じゃないんだけど……」

 そう言うと僕の腕を取り、腕を組んできて

 

「ウチの夢はね。もちろん……」

 僕の顔を見て頬を染める美波。

 

「もちろん?」

 僕が聞き返すと……美波は優しく微笑んで

 

「教えてあげない……だってアキから言ってくれるって言ったもん」

 

「ええっ。僕、何か言ったっけ?」

 僕、美波の夢に関係ある事って何か言ったっけ?

 

「察しなさいよっ!アキは本当に鈍感ねっ」

 と言うと、少しの間だけ関節技を掛けられた。

 

「痛たぁぁ。みっ、美波、いきなりは酷いよっ!?」

「何よ。自分で言った事を忘れるアキが悪いんじゃない」

 今は普通に腕を組んでくれているけど、僕を睨んでいる。

 

「まぁ良いわ。アキの鈍いのは今に始まった事じゃないしね」

 ううっ……痛い目にあった挙句に酷い言われようだ。

 

「それでウチの進路だけど、大学に進学希望よ」

「そうなの?」

「だって何の仕事に就きたいか、まだ決まってないんだもの」

「そっか。大学へ行ってから考えても良いよね」

 確かに高校で一生の事を決めるのは早い気もする。

 

「そうね。でも入れそうな大学はそんなに無いけどね」

「そうなの?」

「うん。外国語がドイツ語を選択出来るところじゃないとウチにはちょっと厳しいかなって」

 そう言えば美波はドイツからの帰国子女だったんだっけ。

 今は普通に日本語で話をしているからすっかり忘れてたよ。

 

「何よ?人の顔をジッと見て」

「あ、いや……美波って、すごく努力してるんだなって」

 僕がそう言うと、また頬を赤く染めて……組んでいる僕の腕をぎゅっと抱き締めてきて

 

「アキが友達になろうって言ってくれたから……ウチ、アキの傍に居たくて……頑張れたのよ?」

「ありがとう……僕も頑張らないといけないね」

 僕も美波の傍に居たいから頑張らないと……って、何を頑張ればいいんだろ?

 

「アキは何を頑張るの?」

「えっと……僕は何を頑張れば良いんだろうね?」

「もう、アキったら……教えてあげるから耳を貸しなさい」

 美波は笑顔で僕の腕を引っ張ると……僕の耳に口を近付けて

 

「ウチももっとアキの事を好きになるから……アキもウチの事をもっと好きになりなさい」

 

 美波がそう言い終わると……

 頬に温かい感触が……

 

 


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