僕とウチと恋路っ!   作:mam

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僕とウチとクリスマス

 

 図書館を出て美波と腕を組んで歩いていく。

 

「次は何処に行くの?」

 嬉しそうに腕を組んでいる美波に聞いてみる。

 

「アキの好きなところで良いわよ……ウチはアキについていくから」

「美波の行きたいところは図書館だけで良いの?」

「うん。今日はアキと一緒に居られるだけで……幸せだから」

 美波はそう言うと頭を僕の肩に(もた)れかけてくる。

 そっか。僕と一緒に居るだけで……嬉しいなぁ。

 

 ……あれ?

 

 今日は美波が行きたいところに行くだけだと思っていたから何も考えてなかった。

 それに将来の事とか言われていたから、そっちばっかり考えていたし……

 

「アキ、どうしたの?」

「今日はてっきり美波に付き合うものだと思っていたから……行きたい場所とか全然考えて無かったよ」

「じゃあじゃあ……二人だけでクリスマスパーティーしない?」

「ほぇ?二人だけ?」

 いきなり言われたので変な返事をしてしまった。

 

「うん。今日の夜はウチの家でみんなでパーティーするけど、今からアキとウチの二人だけで……ね?」

 美波が嬉しそうに微笑んで……そんな嬉しいお願いをされると僕が断れる訳無いじゃないか。

 

「うん。いいよ」

 僕も笑顔で答える。

「ほんとっ?ありがとう」

 美波は満面の笑みで組んでいる僕の腕を両手で抱き締めてくれた。

 

 二人っきりでするなら、美波に何か作ってあげたいな。

 

「じゃあ、僕の家でも良いかな?マフラーの御礼に何か作ってあげたいんだ」

「そんな……悪いわよ。アキもクリスマスプレゼントくれたのに」

 そう言って嬉しそうに胸元のネックレスを触る美波。

 そして僕の方を見て美波が笑顔で提案をしてくる。

 

「それならウチと一緒に作ろ?……今日はずっとアキの傍に居たいから……」

「うん」

 

 そして僕たちは僕の家に行く途中でスーパーへ寄る事にした。

 

 

―― スーパー

 

 スーパーもクリスマス一色だった。

 入り口ではクリスマスケーキが山のように積まれて売られていて

 惣菜コーナーではフライドチキンやポテト、ピザなどがたくさん置いてある。

 

「ねぇ、アキ。何を作るの?」

「美波は何か食べたい物はあるの?」

 僕が尋ねると美波は顔を赤くして、やや俯いて……両手を身体の前で合わせて、もじもじしながら

 

「……アキが食べさせてくれるなら……なんでも良いかなって」

 ふむふむ。僕が食べさせてあげるのか…………って、ええっ!?

 

「どうしたの?顔が真っ赤よ」

 真っ赤な顔の美波に言われた。

「ぼっ、僕が美波に食べさせてあげるのっ!?」

「アキはウチが食べさせてあげるから……ダメ?」

 そんな期待した顔で見られると……僕も美波に食べさせてもらったほうが嬉しい。

 

「……全然ダメじゃないです。すごく嬉しいです」

「良かった」

 美波がすごく嬉しそうに微笑んでくれた。

 

 

 一緒に作るのは良いけれど何を作ろうかな?

 やっぱり食べさせてあげるなら箸やフォークなどの食器を使わないで食べられる物が良いかな。

 サンドイッチとか、おにぎりとか……でもクリスマスにおにぎりはないよね。

 そうなるとやっぱりサンドイッチかな?と、思っていると……

 ふとディスプレイ用のワインのそばに置いてあったクラッカーやフランスパンが目に入る。

 

「あ、カナッペでも良いかな?」

「カナッペ?」

「うん。食べさせてあげやすいかなと思ってさ」

「そうね。あとはケーキでもあればクリスマスらしくなるわね」

 美波があごに指を当てながら、確認をするように言ってきた。

 

「カナッペだとお昼御飯としては、ちょっと物足りないかもしれないけどね」

「そんな事無いわよ。夜にご馳走食べられるんだし」

「じゃあ、ケーキとカナッペに載せる食材を買って行こうか」

「うんっ」

 

 そして小さいクリスマスケーキとノンアルコールのシャンパン、カナッペのベースとなるクラッカーと

 クリームチーズやミックスナッツなど載せる食材を買って僕の家へ……

 

 

―― 僕の家のキッチン

 

 美波と二人でカナッペの上に載せるためにベーコンや卵を炒めたり

 何種類かディップソースを作る。

 

「アキ?あーん」

 美波が小さいスプーンにディップソースを少し乗せて僕に差し出してきた。

 ぱくっ……クリームチーズに刻んだ玉葱が良く混ざっててニンニクやパセリなどのハーブの風味が

 少し口の中に広がるのがきつくなくて美味しい。

 

「美味しいね」

 僕が笑顔で答えると、美波は嬉しそうにディップソースをかき混ぜていたボウルを抱き締めて

「良かった。アキに気に入ってもらえて……後でたくさん食べてね」

「うん。楽しみだよ」

 

 そしてクラッカーに色々トッピングをしていく。

 

…………

………

……

 

 テーブルの上にはカナッペが所狭しと載ったお皿が三つ

 ノンアルコールのシャンパンが入ったグラスが二つ

 そして小さいクリスマスケーキが一つ。

 

 すごいご馳走とは言えないかもしれないけど……

 二人で一緒に作って二人で一緒に食べられるのが嬉しい。

 美波と初めての二人だけのクリスマスパーティー。

 

 二人でグラスを、チン、と軽く当てると

 

「美波。これからもよろしくね」

「アキ。これからはずっと一緒よ」

 

 

 早速、美波がカナッペを一つ取ると

 

「はい、アキ。あーん」

 ぱくっ……もぐもぐ。

「どう?美味しい?」

 美波の笑顔がすごく近くに……この笑顔を見ていると、どんな物でも美味しく感じちゃうかも?

 

「うん、すごく美味しい。ありがとう」

 今、こうして美波と一緒にクリスマスのお祝いをしているのがすごく嬉しい。

 去年は一人ぼっちで……ゲームソフトを買いすぎてクリスマスのお祝いどころじゃなかったしなぁ。

 僕が少し考え事をして、じっとしているのを見て、美波が心配そうに声をかけてきた。

 

「どうしたの?」

「去年は姉さんも居なくて一人だったから……今年は美波と一緒にクリスマスのお祝い出来て嬉しいなって」

「ウチもアキと一緒にお祝い出来て本当に嬉しい……去年も言ってくれれば一緒にクリスマスパーティーをやったのに」

「そうだったの?」

 なんか勿体無い事をした気がする。

 

「そうよ……ウチ、去年からずっとアキの事が好きだったのよ」

 美波が頬を染めて僕の左手を包むように両手で握ってくれる……手だけでなく、胸の中まで温かく感じる。

 

「全然気が付いてあげられなくて、ごめんね」

「ううん……アキのせいだけじゃないもの」

 美波が僕の左手を自分の頬に当てながら……

 ケーキの上の【Merry Christmas!】と書かれているチョコレートのプレートを見て

 

「アキ?あーん」

 と言って、そのチョコレートをくわえて僕の方に顔を突き出してくる。

 まさか、それを口移しで食べさせてくれるのっ!?

 

 さすがに二人っきりとはいえ、それはちょっと恥ずかしいな。

 

「あの……美波?それを口移しで食べさせてもらうのは、もっと恋人としてのレベルがあがってからね」

 僕がそう言うと、美波はくわえたままパキッと半分に折って

 その半分を僕の口へ……僕がおそらく顔を赤くしながら、それを食べさせてもらっていると美波が

 

「どうやったらあがるのよ?」

「さぁ……どうすればいいんだろうね?」

 僕が首を傾げながら答えると、いきなり美波が立ち上がって

 

「抱きついたら上がるかな……えいっ」

「わぁっ」

 僕の頭を抱き締めてきた。

 すごく心地の好い温かさが僕の頭を包み込む。

 

 すると、どこからともなくいきなり電子音が……

 

 PiPiPiPiPi!!   PiPiPiPiPi!!

 

「やったっ!上がったわ、アキ」

「ごめん、美波。それ、僕の携帯のメールの着信音だよ」

 メールなら今すぐ確認しなくても良いかな。

 

「良く考えたら……ウチはこれ以上は無いってくらい、アキのことが好きなのに」

 美波が泣きそうな顔で僕を見ている。

 

「上がる余地があるって事は、アキはまだウチのことが一番じゃないの?」

 美波が涙目で僕を睨んできた。

 

「一番だよ。世界中で一番、美波が大切だよ」

「じゃぁ……」

 と言って、一瞬ケーキの上を見て、ぷぃっとそっぽを向く美波。

 

「ごめんね。僕に出来る事なら何でもするから」

「アキもウチと同じ事をしてくれないと許してあげないんだからっ」

 相変わらずそっぽを向いたままの美波。

 同じ事って……ケーキの上には砂糖の塊で出来ているサンタクロースが一人居る。

 

 まさか……

 

「あの、美波?」

 僕が恐る恐る声をかけると……

 

「アキは、ウチの笑顔を一番近くで見たいって言ってくれたじゃない……何でもするとも言ってくれたわよね」

 取り付く島も無いといった感じだ……目を瞑って横を向いたまま、こっちを見てくれない。

 やっぱり、このサンタクロースを……

 

「美波、ごめんね……僕は美波にずっと笑顔で居て欲しいんだ」

 

 僕はそう言ってケーキの上のサンタクロースをつまんで美波の方を向くと……

 美波は、やっと目を開けて僕の方を見てくれて……

 僕を見ると嬉しそうな笑顔を見せて……

 

 

…………

………

……

 

 

「アキって優しいから大好きっ」

 

 さっきまでとは打って変わってすごく嬉しそうな満面の笑みの美波。

 サンタクロースは……物凄く甘かった。

 きっと砂糖で出来ていたからだろう。

 

 

 

 そしてケーキとカナッペを食べ終えて、使った食器や調理器具も洗い終わって

 リビングで美波と何気ない話をしていて、ふと思い出した。

 

「そう言えばマロングラッセを作ってみたんだけど、少し食べてみる?」

「うん」

 美波が笑顔で返事をしてくれたのでちょっとキッチンの方へ……

 姉さんが帰ってきてから食べてもらおうと思って分けておいた分を冷蔵庫から取り出す。

 そして美波が待つリビングへ……

 

「お待たせ。ちょっと味が薄いかもしれないけど」

 美波の前にマロングラッセの載ったお皿を置く。

 

「頂きます」

 美波が食べるのをジッと見ていると……

 

「美味しい」

 ぱぁっと笑顔になる美波。

 良かった、気に入ってもらえたみたいだ。

 

「すごく美味しいわね。甘みが強いとすぐ飽きちゃうけど、これなら何個でも食べられるわね」

「ありがとう。それ、美波の家に行く時にお土産で持っていこうと思ってたんだ」

「そうなの?ウチ、食べちゃっても良かったのかしら」

 美波の手がぴたっと止まってしまった。

 

「気にしないで全部食べてね。それは姉さんと僕の分だから」

 僕がそう言うとまた食べ始めてくれた。

「これならきっと、お父さんとお母さんも喜ぶと思うわ」

「良かった」

 

 そして、また少し美波と話をしていて、すっかり日が暮れた頃

 美波の家に行くために僕が準備をして美波が待つ玄関へ……

 

「あら、アキ?ずいぶん大きな荷物ね」

「うん。さっき言ったお土産のマロングラッセと葉月ちゃんのクリスマスプレゼントだよ」

「ええっ。そんな悪いわよ。あの子はアキが来るってだけで喜ぶと思うわ」

「ううん。葉月ちゃんにはいつもお世話になってるからね。これでも足りないと思ってるんだ」

 葉月ちゃんへのクリスマスプレゼントはぬいぐるみを用意したんだけど……

 美波の部屋にある写真立てを持っているぬいぐるみより二周りくらい小さい奴だ。

 予算の関係上、それ以上の大きい奴が買えなかった。

 来年はもうちょっとお小遣いのやりくりをきちんとしないとなぁ。

 

 

 

―― 美波の家へ向かう途中

 

「ねぇ、アキ?」

「どうしたの?」

 美波が白い息と共に質問をしてくる。

 

「さっきのメールは何だったの?」

「姉さんが26日か27日には帰ってこれそうって」

「そっか。玲さんが今日来れなかったのはちょっと残念ね」

「仕方ないよね」

 姉さんが来れなくなって僕はホッとしているんだけど……

 

 しかし寒いなぁ。

 美波と組んでいる腕は温かいけど……

 

 ふと、空を見てみる。

 これだけ寒いんだったら雪でも降ってくれれば少しはロマンチックになると思うんだけどなぁ。

 

「アキ?」

 僕が空を見ていると、ふいに美波に呼ばれた。

 

「ん?なに?」

 美波を見ると……頬を染めて僕をジッと見つめて

 

「今、雪が降ってくれば良いのに……と、思ってたでしょ」

「何で判ったのっ!?」

 僕が驚いていると

 

「ウチもその方がロマンチックかなって思ったんだけど……」

「けど?」

 僕が尋ねると……すごく嬉しそうに微笑んで組んでいる僕の腕にもう片方の手を添えて

 

「だって……雪が積もっていたらこうやってアキと歩けないもの」

 目を瞑って僕の腕に顔をつけてくる美波。

 たしかに美波とこうやって一緒に歩ける方が幸せだよね。

 

 

 そして美波の家に着いた。

 

 美波が玄関のドアを開けて……

 

「ただいまー」

「お邪魔します」

 

 


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