僕とウチと恋路っ!   作:mam

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僕&ウチと俺&私と召喚獣バトルpart03

 

 

「うわぁ……こんな大勢の前に出るのなんて初めてだよ」

 舞台の上から周りを見回す。

 人、人、人……空席は全然見えない。

 まったく無いという訳じゃないんだけど、目を凝らして良く見ないと判らないくらいしかない。

 

「明久。大変だな。この人たちの前で無様な姿を晒すなんて……同情するよ」

 雄二がそんな事を言いながら僕の肩を叩く。

 僕はその手を払いのけて

 

「雄二こそ、この大勢の前で負けた言い訳しないといけないなんて大変だよね」

 

 しばし沈黙。

 

「やんのかっ、ゴルァ」

「なんだとっ、キサマッ」

 お互いに胸座をつかみ合う。

 

「はぁ……翔子も大変ね」

「……本当。お互いに」

 美波と霧島さんがため息をついていた。

 

 

『では、ただいまより新アトラクションのプレオープンイベントを始めさせて頂きます』

『このアトラクションで使用されているシステムは、かの進学校』

『文月学園で使用されている試験召喚システムを使用させて頂いております』

『そして今回プレオープンイベントと致しまして文月学園から来て頂いた生徒の方達に』

『エキシビジョンマッチをして頂きます』

 どうやら僕たちの紹介をしてくれるらしい。

 また女装が似合うとか言われないと良いけど……

 

『では、まず吉井君と島田さん、召喚をお願い致します』

 

明久(あきひさ)召喚(サモン)!」

美波(みなみ)召喚(サモン)!」

 僕と美波の足元に幾何学模様のサークルが現れて

 その中から青い鎧に身を包まれた召喚獣が二体現れる。

 

『続きまして坂本君と霧島さん、召喚をお願い致します』

 

雄二(ゆうじ)召喚(サモン)!」

翔子(しょうこ)召喚(サモン)!」

 そして雄二と霧島さんの足元にもサークルが現れて

 その中から赤い鎧の二人の召喚獣が現れる。

 

『なお今回参加して頂いている吉井君と島田さん、坂本君と霧島さんは』

 僕たちをどういう風に紹介してくれるのかな?

 

『それぞれ結婚を前提としてお付き合いされているカップルで』

 はっ?どういう紹介の仕方?

 

『二組の挙式は当園にある如月グランドホテル・鳳凰の間、別名【鯖の味噌煮】にて行われる予定です!』

 初めて聞いたんですがっ!?

 美波と霧島さんは……ダメだ。顔を赤くして俯いてもじもじしちゃってる。

 恥ずかしくてまともに顔を上げていることも出来ないのだろう。

 僕だってあまりにも恥ずかしくて穴があったら……

 雄二を落として土をかけて雄二の存在をこの世から消してやりたいくらいだ。

 

「ちょっと、雄二。これはどういうことなのさっ!?」

「俺だって初耳だっ!まさか鳳凰の間に別名をつけた事への仕返しかっ!?」

「貴様かっ!?貴様のせいなのかっ!!」

「るせーっ!俺だって被害者だろうがっ!!」

 僕と雄二が互いの胸座をつかもうと近寄った時……

 僕は美波に、雄二は霧島さんに、腕を引っ張られる。

 

『おおっと、二組ともここで最後の作戦会議でしょうか』

 実況は気楽で良いな、おいっ!!

 

「ねぇ、アキ」

 美波が耳まで赤くして僕を見上げている。

「なっ、なにかな?」

「ウチら、ちゃんと告白もしてないんだけど……ウチの事、幸せにしてね」

 そう言うと僕の胸の中に顔をうずめる美波。

 美波の、なんかのスイッチが入ったっぽい……色々過程が飛びすぎではっ!?

 

「みっ、美波?とりあえず今は雄二たちを倒さないと」

「そうね、あ・な・た♪」

 

 

 

「……雄二」

「翔子、しっかりしろ」

「……やっぱり今日このまま結婚しよう」

「バカッ!明久たちをやっつけるんだろっ!?」

「……判った。あの二人を倒して私たち結婚する」

「判るのは倒すところまでで良いからなっ!?」

 

 あっちはあっちで大変そうだ。

 

 

『二組ともかなり寄り添っていますが……見ているこっちが当てられそうです』

 誰のせいでこうなったと思ってるんだっ!?

 

『では二組とも、試合を始めてくださいっ!!』

 

『私はこれで黙らせて頂きます。みなさま、どうかごゆっくり観戦してください』

 仕事しろよっ!

 

 

「長引けば俺たちには不利だっ。点数があるうちに明久を沈めるぞっ」

「……うん、あなた」

「ぶっ。こっぱずかしい事言うなっ」

「……ふふっ」

 

「ほらっ、美波っ。雄二たちが来るよっ!」

「わかったわ。この続きは戦いが終わった後でゆっくりしましょ」

 えっ!続きをするの?

「僕が雄二を抑えるから美波は霧島さんを」

「おっけー」

 

 まっすぐ僕の方へ突っ込んでくる雄二の召喚獣。

 霧島さんは雄二の左斜め後方から同じ速度で来てるな。

 霧島さんは美波に攻撃してもらうから、雄二が剣を出してきたら

 それを避けて、すれ違い様に一撃を……って、雄二の召喚獣が剣を持っていないっ!?

 

「アキっ!翔子が剣を二本持ってるわっ!」

「明久、忘れたのか?俺の召喚獣は最初メリケンサックだったんだぜっ」

 雄二の召喚獣が目の前でサイドステップして僕の召喚獣に拳を叩き込んできた。

 何とか、それを受け止める……が、左前方の霧島さんが剣を大きく振ってきた。

 

「ダメッ!剣が一本だと……」

 美波の攻撃は片方の剣で防がれて、もう片方の剣で僕の召喚獣に攻撃を……

 かなりの大振りだったので何とか避けれた……つもりだったんだけど、切っ先が少し(かす)めたらしい。

 点数が8点くらいだけど削られてしまった。

 ここに来ていきなりの二刀流とは……

 

「霧島さんも器用だなぁ」

「細かい動作は出来ないけどな。切る、突くくらいなら造作も無い」

「まったく色々考えるね。こっちの身にもなってよ」

「何せ、俺は智将だからな」

「恥将の間違いだろっ」

「言ってろ。とにかく明久。お前を先に潰すぜ」

「僕を買いかぶりすぎでは……」

「お前がバカで何するか判らねぇからだっ」

 

 一回仕切りなおして再度雄二の召喚獣が僕に突っ込んできた。

 でも霧島さんは少し離れたところで美波に苦戦しているみたいだ。

 やはり付け焼刃の二刀流くらいでは美波の相手じゃないな。

 とりあえず雄二と一対一なら、こっちから攻撃するか。

 剣を構えて避けにくい突きを……あれ?雄二の召喚獣がどこかに行っちゃったよ?

 

 僕の召喚獣は剣を真っ直ぐ構えたまま

 雄二の召喚獣が来ると思ってた方向へ突っ込んでしまった。

 僕の召喚獣が目標物を見失って立ち尽くしていると……

 

 目標物……雄二の召喚獣はまっすぐ美波と霧島さんの方へ走っている。

 とにかく後を追わなくては。

 

「悪ぃな、明久」

「くっ……卑怯だぞ、雄二」

「卑怯、汚いは敗者の戯言だ。お前もFクラスなら判るだろ」

 美波の召喚獣は霧島さんの召喚獣に剣で抑えられていて……そこに雄二の召喚獣が突っ込む。

 

「俺たちの本当の狙いは……明久の本当の弱点は島田、お前だっ」

 そう言いながら雄二の召喚獣が横から美波の召喚獣を殴り飛ばした。

 

「きゃぁっ」

 美波が悲鳴を上げて……美波の召喚獣は、かなりの勢いで吹っ飛んで行った。

 

「雄二っ!キサマッ!!」

 僕が雄二の胸座を掴んで拳を振り上げると……

 

「アキッ!!」

 

 パァンッ!

 

 僕は美波に頬を叩かれていた。

 

「アンタ、何やってんのよ!?」

「だって、美波が雄二に……」

「本っ当にアキはバカねっ!召喚獣で戦ってるんだから殴られても仕方ないでしょっ」

「まったくお前は現実(リアル)仮想(バーチャル)の区別もつかないくらいバカなんだな」

 雄二が姿勢を正しながら言ってきた。

「明久がもっとうろたえて自滅してくれると思ったんだがな。島田に感謝しろよ」

 

「アンタの召喚獣じゃないんだから殴られても平気よ」

 美波が僕の胸座を掴んで……大きな目を吊り上げて怒っている美波の顔がかなり近い。

 

「ウチに格好良い所、見せてくれるんじゃなかったの?」

「うん」

「それならしっかりしてよねっ」

「判った」

 

「……雄二」

「どうした?」

「……もし私が殴られたら……雄二も怒ってくれる?」

「バカ言うな。俺はお前を殴らせやしねぇ。明久と一緒にするな」

「……うん」

 

 

 そして再度仕切りなおして……とりあえず残りの点数の確認をするか。

 僕は最初の少しだけ削られた分で292点

 美波はさっき雄二に殴り飛ばされた分が大きくて138点

 雄二はまったく無傷の300点

 霧島さんはさっき美波と小競り合いしていた時に削られたらしく180点か。

 

「雄二」

「何だ、明久」

「ここから、どうするのさ?」

「特別に教えてやるよ」

 そう言うと雄二と霧島さんの召喚獣が僕の召喚獣めがけて突っ込んできた。

 

「明久たちが負けるんだ」

 

 雄二の召喚獣は……今度は剣をちゃんと持ってるな。

 

「美波っ。あれをやるよっ」

「おっけー。しっかりやりなさいよ」

 

 雄二の召喚獣が僕の召喚獣めがけて剣を構えて突っ込んでくる。

 そして霧島さんの召喚獣も並んで剣を構えて突っ込んできた。

 僕の召喚獣は微動だにしないで待ち構えている。

 

「何だ、明久。観念したのか」

「違うよ。勝負を決めるんだ」

「その状態で俺たちの攻撃を避ける()でも……」

「悪いね、雄二。僕は避けるつもりはないよ……二重召喚(ダブル)!」

 

 僕が叫ぶと……二体目の召喚獣が現れた。

 

 そして二人の召喚獣が構えた二本の剣は一体目の僕の召喚獣に深々と突き刺さる。

 霧のように消えていく一体目の僕の召喚獣。

 

 残った僕の召喚獣は霧島さんの召喚獣が持っていた剣を叩き落して、その剣を拾おうとして(かが)む。

 そこへ雄二の召喚獣が剣を上段から振り下ろす。

 

「明久っ。往生際が悪いぜっ」

「ウチのアキにちょっかい出さないでよねっ」

 

 雄二の召喚獣が振り下ろした剣を美波の召喚獣が受け止める。

 そこへ僕の召喚獣が剣を手に取り……

 

「この勝負」

 下から雄二の召喚獣めがけて剣を振り上げる僕の召喚獣。

 切られて動きの止まった雄二の召喚獣を今度は美波の召喚獣が剣を振り下ろす。

「ウチらの勝ちよっ」

 

 そして……霧のように消えて行く雄二の召喚獣。

 

「……雄二の無念は私が晴らす」

 消えた僕の一体目の召喚獣が落とした剣を霧島さんの召喚獣が拾って

 僕の召喚獣めがけて突っ込んできた。

 でも真っ直ぐ突っ込んでくるだけなら余裕で……あれ?なんで動かないの?

 

 そして動かないまま霧島さんの召喚獣に切られて僕の召喚獣は残りの点数が24点に……

 でも美波の召喚獣が僕の召喚獣の前に立って

 

「翔子。悪いけど、この勝負はウチらの勝ちよ」

 

 霧島さんの召喚獣の方が美波の召喚獣より40点くらい点数が高いけど

 今まで僕らと一緒に戦ってきた美波との経験の差を埋めるには……あまりにも点数が低すぎた。

 

 …………そして霧島さんの召喚獣も霧のように消えた。

 

 

『たったいま勝負は決まりました!……勝者は吉井君と島田さんのペアです!おめでとうございます』

 

 場内アナウンスが流れて……やっと終わりか、やれやれ。

 あれ?動かなくなった僕の召喚獣がブルブル震えてるよ?

 

 少しすると、すごい勢いで分裂を始めた。

 

「ちょっ、ちょっと、アキ!?何とかしなさいよっ」

「何とかって……どうすれば良いのっ!?」

「やっぱりな……あのババァが言うと、ろくな事がねぇ」

「やっぱりって雄二っ、何か知ってるのかっ」

「いや、あのババァが俺たちに白金の腕輪の事を言ってただろ?」

「そう言えば僕たちの得意技とか何とか言ってたっけ」

「ああ。だからさっき切られる前に俺の白金の腕輪も起動させてフィールド消しちまおうかと思ったんだがな」

 

 僕らが会話している間にも僕の召喚獣は分裂を繰り返し……

 舞台から溢れて建物の床いっぱいになったところでシステムを落として何とか止まった。

 

 

 

 

--控え室

 

 試合が終わった後、今度は僕たち四人で控え室に居る。

 

 ……ガチャ

 ドアが開いて、河野木さんが入ってきた。

 

「今日はお疲れ様でした」

 河野木さんは僕たちに向かって一礼をする。

 

「「「「こちらこそありがとうございました」」」」

 僕たち四人は椅子から立ち上がり、頭を下げる。

 

「最後はちょっと大変でしたが……試合内容は大変素晴らしいものでした」

 河野木さんがそう言うと……

 美波が僕と腕を組んできて、霧島さんが雄二と腕を組みながら

 

「文月学園一の召喚獣の使い手と」

「……文月学園一の司令官なんですから」

 

「そうでしたか」

 河野木さんはにっこり微笑んで

「では、これは勝者である吉井君と島田さんに」

 バレンタインイベントのプレミアムチケットを美波に手渡す。

 

「そしてこれは……今日の試合内容があまりにも素晴らしかったので私個人からのお礼です」

 僕たち一人一人に……パスポートを手渡してくれた。

「それは来年一杯までの如月ハイランドのフリーパスポートです。ぜひ遊びに来てください」

 

「「「「ありがとうございます」」」」

 

「では今日は本当にありがとうございました」

 河野木さんは部屋を出ようとすると

「あ、そうそう。うちの観覧車はカップルに結構評判が良いんですよ。今からだと時間もちょうど良いと思いますのでぜひ行ってみて下さいね」

 そう言って部屋を出て行った。

 

「じゃあ、早速観覧車にでも行ってみるか」

 雄二はそう言って部屋を出ようとする。

 

「ちょっと待った」

「何だ、明久。この部屋に今日は泊まっていくのか?」

「そんな事する訳無いだろ。それよりさっきのチケットなんだけど……」

 僕がそう言うと美波が霧島さんに手渡した。

 

「……いいの?」

「ええ。ウチら、勝っても翔子たちにあげようって話してたから」

「いや、それは悪い。お前らが勝ったんだから、お前らが使うべきだ」

「雄二たちは負けたんだから大人しく貰って欲しいんだけど」

「いやいやいや、俺は決して撮影されるのが嫌とかじゃなくてだな」

「そんな謙遜しなくても良いよ。僕より雄二の方が写真写り良いと思うよ」

 きっと背後霊とか自縛霊の写真写りが良い写真だと思うけど。

 

「大人しく受けとれっ」

「お前らが恥をかけっ」

 僕たちがいつものように胸座をつかんでいると

 チケットをじっと見ていた霧島さんが

 

「……雄二。これは私たちが頂こう」

「なっ、翔子。お前、何を言って……」

「……良いから私たちが貰う」

 いつものアイアンクローが出た。

 

 そして観覧車へ行こうと言う事になって僕と美波が先に部屋を出て……

 

「……雄二。これ」

「まったくお前は……俺たちもあいつらに渡そうって言ってたのに」

「……ここ。よく見て」

「ん?なになに……『このチケットは二組同時に使用してください』……なんだ、そういうことか」

「……そう。美波と吉井も私たちと一緒にCM出演できる」

「あいつらがそれを望んでいるのかは判らんけどな……如月グループも抜け目無いな」

 

 

 

--観覧車のゴンドラの中

 

 今回も観覧車に乗るために並んでいる時は周りはカップルだらけだった。

 そして僕たちの順番が来て乗り込むと……

 ちょうど夕焼けが街並みを包みこんでいる。

 

 美波は……僕の横にちょこんと座って頭を僕の肩に(もた)れかけている。 

 

「そう言えば前に来た時は葉月と一緒だったのよね」

「そうだね」

「ふふっ。いつか、きっと……三人で来ようね」

「えっ?葉月ちゃんと?」

「違うわよ…………バカ」

 

 美波の顔は夕日に照らされているせいなのか少し赤い気がする。

 

「ねぇ、アキ」

「どうしたの?」

「さっき……ウチの召喚獣が坂本に殴られた時」

「うん」

「怒ってくれて…………本当はすごく嬉しかった。ありがと」

 そう言って僕の手を握ってくる。

 そして美波は目を瞑ったまま……

 

「もう絶対……友達の関係になんて戻らないからね」

 

 そう言うと静かに……微笑んだ。

 

 その後、僕たちは一言も話すことなく……ゴンドラは地上に着いた。

 

 

 

 雄二たちのゴンドラは雄二の叫び声がずっと聞こえてて……ちょっと五月蝿かった。

 

 

 

 

--次の日

 

「アキっ、おはよう」

「おはよう、美波」

 校門前の長い坂道の途中で後ろから走ってきた美波が朝の挨拶をしてくれる。

 

「昨日は大変だったね」

「そうね」

 僕と美波が話をしていると後ろから

 

「明久、島田。うーっす」

「……美波、吉井。おはよう」

 雄二と霧島さんも朝の挨拶をしてくれる。

 

「雄二、霧島さん。おはよう」

「おはよう。翔子、坂本」

 

「そういや、ババァが報告しろとか言ってたっけ」

「そう言えば、そうだったね」

「じゃあ、ちょうど俺たち四人居るから、このままババァのところへ行くか」

「こんな朝から居るかな?」

「たしか先週は出張行くから日本に居ないとか言ってたわね」

「まぁ行くだけ行ってみて居なかったら忘れちまおうぜ」

 

 

--学園長室

 

 ……コンコン

 

「どうぞ」

 ガチャ……

「失礼します」

 そう言って美波と霧島さんが部屋に入り

 

「来てやったぞ」

 僕と雄二が入室する。

 

「まったく……アンタらには目上の者を敬うって気持ちが微塵も無いのかい」

 入室早々文句を言われるとは……ババァが来いって言うから来てやったのにっ。

 

「……昨日の報告に参ったのですが」

「それはわざわざすまないね。一応昨日ニュースで見たんだが吉井と島田が勝ったそうじゃないか。おめでとさん」

「はい、ありがとうございます」

 美波が少し照れながら返事をする。

 

「ニュースではそこまでしか見れなかったんだけど何か変わった事は無かったのかい」

「えっと……」

「何でも言っておくれ。じゃないと報告にならないからね」

 ババァがそう言うなら……言わせてもらうかな。

 

「クソババァ、いつまで生きてやがる」

「醜悪な妖怪は早く異世界へ帰れ」

「そこのバカ二人っ!何でもってそう言う事じゃないんだよっ!」

 何でも言えって言ったのに怒られたよ?

 

「……昨日試合が終わった後に吉井の召喚獣が分裂をして大量に増えました」

「ほう……白金の腕輪を起動させたのかい」

 ババァがなんか嬉しそうだ。

 

「うん……二重召喚(ダブル)を使ったら、しばらくして動かなくなっていきなり増えだしたんだ」

「そうか、そうか……さぞや大変だったろうねぇ」

 いーっひっひという笑い声が聞こえてきそうなほど気持ち悪い笑顔のババァ。

 

「ババァ、何をやったんだ?」

 雄二が質問をする。

 

「他人のシステムをそのまま使おうとしてるのが許せなくてね。ちょっと細工をして置いたのさ」

「細工ですか?」

「ああ。吉井が行けば何かやるだろうと思っていたけど、まさかここまで思惑通りだとは……」

 今にもお腹を抱えて笑い転げそうなほど顔をくしゃくしゃにして喜ぶババァ。

 くっ、ババァを喜ばすために僕は利用されたのか。

 

「ちなみにだが、俺の『アウェイクン』だとどうなるんだ?」

 今にも飛びかかろうとしている僕を手で押さえながら雄二が質問をする。

「そのフィールドに居る全召喚獣が物理干渉能力を持つのさ。もちろんフィードバック付きでね」

「……どうしてそんな事を?」

「開発者としては自分が作ったシステムが世間に広まるのは嬉しいんだが、人の作った物をそのまま使われるのがちょっと気に入らなかっただけさね」

 

 そんな理由だけで僕を利用したのかっ!?

 くっ……このババァになんか仕返しをしたい、と僕が思っていると

 

「ところでアンタらは良いのかねぇ」

 僕と雄二を見てそんな事を言ってくる。

「どういうことだ?」

「あのニュースなんだがね」

「ニュース?」

「ああ。アトラクションのニュースなんだが試合開始前のアンタらの紹介から始まってたんだが」

 ん?僕らの紹介?

 

「なんでもアンタら結婚を前提として付き合っているそうじゃないか」

「「「「ええっ」」」」

 美波が僕の袖を、霧島さんは雄二の袖をつかんで…顔を赤くして俯いてしまった。

 

「「僕(俺)たちはまだ告白もしてないのにっ!?」」

「おや、そうなのかい」

 ニヤニヤと僕たちを見てくる醜悪なクソババァ。

 

「昨日観覧車で言おうとしたら翔子が暴走してそれどころじゃなかったんだっ!!」

「僕も今度のクリスマスにちゃんと言うつもりなんだけどっ!!」

 

「めでたくて結構な事なんだが……また変な校内放送するんじゃないよ」

「しないよっ、バカッ」

 なんて事言うんだこのババァはっ!!

 

「それよりアンタらのクラスのバカどもの方が大変じゃないのかねぇ」

 と、ババァが言うと、ドカンと扉が吹っ飛んで……

 

「ヨォシィイイイィ」

「サァカモォトォォゥ」

 うちのクラスのバカどもが現れた……ヤバい。もぅ会話が出来るレベルじゃないっぽい。

 

「結婚を前提としたお付き合いしてるそうじゃねぇかぁぁ」

「俺らとも是非…………」

 

「「「「血痕をぉぉぅ、前提としたぁぁ、どつきあいぃぃをしようじゃねぇかぁぁ」」」」

 

「明久っ、 逃げるぞっ!」

「了解っ」

 話し合いになるとは思えないから雄二の判断は正しいと言わざるを得ない。

 そして僕と雄二は窓から飛び出した。

 

「「なんでいつも僕(俺)たちばっかりこんな目にーーっ」」

 

 

 次の日からFクラスの出席の返事は

 

「ヨシイコロス」

「サカモトコロス」

 

 二択になった。

 

 


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