僕とウチと恋路っ!   作:mam

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僕&ウチと俺&私と召喚獣バトルpart01

--土曜日

 

「アキくん」

「姉さん、どうしたの?」

 朝御飯を食べ終えて、お皿を洗い終わってリビングに戻ったところを姉さんに呼び止められた。

 

 テーブルの上には……

 

「わぁ、姉さん。こんなにたくさんの栗、どうしたの?」

 ダンボール三箱にぎっしりと栗が入っていた。

 

「会社で頂いたのですが……昨日は夜遅かったのでアキくんを起こすのも可哀想かなと思いまして」

 昨日、姉さんは僕が寝るまでに帰ってこれなかったんだっけ。

 ここのところ帰ってくるのが遅くて、なかなか一緒に夕飯も食べられないし……

 やっぱり年末だと仕事が大変なのかな?

 

「家に持って帰ってくるの大変だったんじゃ……」

「ええ。会社からタクシーで帰ってきて運転手さんに家まで運ぶのを手伝って頂きました」

「そっか。でも今度から大変そうだったら電話してくれれば手伝うよ」

「ありがとうございます。次からはそうさせてもらいますね」

 そう言ってにっこり微笑む姉さん。

 日本にたった二人で居るんだから、もう少し僕に頼ってくれてもいいのに。

 

「それで大変言いにくいのですが……」

 姉さんが僕に言いよどむのは珍しいな?

 そんなに大変な事なのだろうか。

 

「どうしたの?たった二人の姉弟じゃない。何でも言ってよ」

「ありがとう。アキくんにそう言ってもらえると助かります」

 何か決したような表情で僕を見つめて手を握ってくると……

 

「アキくん」

「うん」

「姉さんとお医者さ……」

「僕、今日は美波とも約束してないし、暇だから遊びに行ってきます」

 姉さんの手を振り解いて部屋の外に行こうとすると

 

「冗談です」

「全然冗談に見えないんだけどっ!?」

「アキくんは余裕がありませんね。少しは心に隙を作らないと」

「隙が出来ると危ない人が目の前に居るんですが」

 すると姉さんは心外ですね、と言ってきた。

 

「もぅ……姉さんの冗談に付き合ってたら日が暮れちゃうよ」

「冗談には付き合わなくて良いので、お医者さんごっこに付き合ってください」

「僕、今日は雄二の家に泊めてもらうから姉さんはこの栗剥いといてくれる?」

 この調子だと僕が寝ている間に何されるか判らない。

 

「本当はクリスマスの事なんですが」

 いきなり本題らしき事を話し出す姉さん。

「クリスマスがどうしたの?」

「アキくんと一緒に美波さんの家にご招待頂いていたのですが」

「うん」

「大変申し訳無いのですが姉さんは行けなくなってしまいました」

「ええっ!?」

「アキくん、顔がにやけていませんか?」

「そっ、そんな事無いよ。姉さんが行けなくなって、本っ当に残念だよ」

「今の気持ちを英単語一つで表すとなんですか?」

「glad」

 ゲシッガシッ…………

 

「姉さん、グーで往復ビンタは止めて欲しいんだけど……」

「こんなアキくんを残して日本を離れるのは心配ですね」

「はっ?」

「アキくんは日本語も判らなくなったのですか」

「いや、日本語は判るけど……姉さんの言ってる意味が判らないだけで」

「言葉どおりです。姉さんは急ですが今日からクリスマスくらいまで母さんたちの所に行ってきます」

「ええっ……それはまた急な話だね」

「はい。ひょっとすると年を越してしまうかもしれません」

「でもそうすると僕一人でこれだけの栗は食べきれないな」

「この栗を姉さんだと思って大切にしてください」

 そう言ってダンボールの中から栗を一個取り出し、僕の手に乗せる。

 

「そんな事を言われるとすごく食べ辛くなるんだけど……」

「それならご近所の方にお裾分けすれば良いのでは」

「そっか。それならマロングラッセでも作ってクリスマスの時に美波にプレゼントするかな」

 ちょうど美波の家に持っていくお土産になるしね。

 マロングラッセは作るのに時間も掛かるし、日持ちもするだろう。

 

「マロングラッセですか」

 あれ?姉さんが何か考え込むような顔をしている。

「うん。今から作り始めれば、ちょうどクリスマスくらいに出来るし」

「たしか美波さんはドイツから日本へ来られたんですよね」

「そうだよ」

「そうですか……それなら、きっと美波さんのご両親もアキくんの気遣いをすごく喜ぶと思いますよ」

 姉さんがにっこりと優しく微笑んでいる。どうしたんだろう?

 

「そっ、そうかな」

「はい。ちゃんと美波さんに手渡しするのですよ」

「うん、判ったよ。ところで姉さんは栗と海栗の区別はつくの?」

「むっ。アキくんはそうやって姉さんをバカにするんですね」

「じゃあ、どうやって見分けるのさ?」

「栗は山で取れる物ですよね」

「うん」

「海栗は海で取れる物です」

「そうだね」

「だから濡れているのが海栗で乾いているのが栗です」

「違うよっ」

 

 ちなみに姉さんは栗とタワシの区別がつかなかった。

 姉さんはその後まとめてあった荷物を持って、すぐに家を出ていった。

 僕は一日中、栗と格闘をしていた。

 

 

 

--日曜日

 

 今日は僕と美波、雄二と霧島さんの四人が

 如月ハイランドで召喚獣を使ったアトラクションの

 プレオープンイベントのエキシビジョンマッチに招待されている。

 

「おはよう」

「おはよう。アキ」

「……おはよう。吉井」

「おせぇぞ」

「みんなが早過ぎるんだよ」

 どうせ行くなら一緒に、と言う事で僕たち四人は駅前広場に

 朝の八時半集合で、ちゃんと五分前に着いたのに……僕が一番遅かった。

 イベントでは文月学園の生徒と言うのが判る様にとの事なので僕を含めてみんな制服で来ている。

 

 電車とバスを乗り継いで約二時間後、如月ハイランドに無事到着。

 

「オ待ちしてまシタ」

 似非野郎に出迎えられる。

 

「デハ、こちらへドウゾ」

 似非野郎の後についていくと

 古代の闘技場みたいな建物に案内されて中に入ると……

 すり鉢みたいな感じで座席が配置されていて

 底のほうが平らになっていて少し高くなった舞台がある。

 そして舞台に上がるための階段が脇にある。

 

「デハ簡単な説明ハ舞台の上デしマス」

 と言って、似非野郎は階段を上っていく。

 

 僕らの腰くらいの高さの舞台の上へ上る。

 舞台に立つと周りが良く見える。

 

「うわぁ、こんなところで試合するのか」

「ああ。今は誰も居ないから良いが人が入ったら緊張するかもな」

 僕と雄二が先に舞台に上がり、後から美波と霧島さんが上がってくる。

 

「これ全部に人が入るの?」

「……すごいたくさん入りそう」

 美波と霧島さんも驚いている。

 

「ザっと2000人クらい入りマス」

 サッカー場とか野球場の何万人と言うのに比べたら少なく感じるけど

 レジャーランドの一施設としての規模で見たら、大きい方だろう。

 

「召喚獣を呼ビ出す言葉ハ自分の下ノ名前とサモンを一緒に言って下サイ」

 

明久(あきひさ)召喚(サモン)!」

雄二(ゆうじ)召喚(サモン)!」

美波(みなみ)召喚(サモン)!」

翔子(しょうこ)召喚(サモン)!」

 僕たちの足元に幾何学模様のサークルが現れて

 その中から僕たちそれぞれをデフォルメした召喚獣が現れる。

 

 僕たちは自分たちの召喚獣を見て……

 

「うわぁ。ちゃんと鎧を着て、剣を持ってるよ」

「ああ。俺たちの召喚獣はすごく立派に見えるな」

 

 僕と雄二の召喚獣がいつものチンピラ風じゃなくて、ちゃんと西洋騎士風の鎧と剣を装備している。

 美波と霧島さんの召喚獣も同じような格好だ。

 霧島さんは学校の召喚獣だと日本風の鎧だったから面白そうに見ているけど

 美波は普段も西洋風なのであまり変わりが無いからなのか、つまらなそうだった。

 カラーリングは僕と美波が青を基調としていて、雄二と霧島さんは赤を基調としたものだった。

 そして僕たちの点数は四人とも300と表示されている。

 

「装備モ色も種類がアルのデスが今回はエキシビジョンマッチと言う事デ統一してマス」

 似非野郎が色々と説明をしてくれている。

「テストノ点数が表示サレるのデスが今回ハ300で統一してマス」

 

 すると、いきなり雄二の召喚獣が僕の召喚獣の頭を殴った。

 吹っ飛んでいく僕の召喚獣。点数が70点くらい減っちゃったじゃないか。

 

「何するんだよっ!?」

「いや、明久の召喚獣が鎧を着ていると、また頭が取れるかと思ってな」

 雄二が笑いながら、そんな事を言っている。

 それだとバグでアトラクションとして使えないじゃないか。

 でもフィードバックが無いのも、なんか変な感じがするなぁ。

 

 僕が雄二に文句を言っていると河野木さんが舞台の上に上がってきた。

 

「今日はよろしくお願いしますね」

「「「「はい」」」」

「点数の方はエキシビジョンマッチまでに戻しておきます」

「すいません。お願いします」

「今回の御礼なのですが、みなさんに昼食の用意をさせて頂いてますので、この後はレストランの方へ」

「「「「ありがとうございます」」」」

 四人揃ってぺこりと頭を下げる。

 

「それで勝ったペアの賞品として……」

「そんな悪いですよ」

「そうだな。校則を無くすために明久が開けた穴の修繕までしてくれるのに」

「僕が開けたって強調するんじゃないっ!!」

 こいつは……僕たちが学校を卒業しても言ってくるんじゃないだろうか。

 

「これは私どもの方としましても是非受け取って頂きたいのですが……」

 そう言うと一枚のキラキラしたチケットを取り出して僕たちに見せてくれた。

 なになに……チケットには大きく『Happy Valentine』と書いてある。

 

「「これは……」」

 僕と雄二は表情が固まっている。

 多分、雄二も僕と同じ事を考えているのだろう。

 

「「なんでしょうか?」」

 美波と霧島さんはチケットに負けじと目をキラキラさせて聞いている。

 二人とも全身から嬉しそうなオーラを発しているのが判る。

 

「来年の二月に行う予定のバレンタインデーのイベントのプレミアム招待チケットです」

 どの辺がプレミアムなのか知りたくは無いけど……

 知っても知らなくても多分結果は一緒だと思う。

 僕か雄二のどっちかが強制参加させられるのだろう。

 ひょっとしたら二人ともかもしれない。

 

「どのようなイベントなんですか?」

 美波が質問をしているけど……バレンタインだと普通チョコレートを渡すだけのイベントだよね?

 

「はい。まず女性から男性へバレンタインのチョコを渡して頂いてから、如月ハイランドで一日デートをして頂きます」

 そして河野木さんが僕たちを見てから、おもむろに……

「その一部始終を撮影させて頂き、CMとして使用させて頂きたいのです」

 

「「それは無理っ!!」」

 僕と雄二が反対すると……

 

「「アキ(雄二)は黙ってなさいっ!」」

 僕は美波に頚動脈をつかまれて、雄二は霧島さんにアイアンクローを極められている。

 

「もしウェディング体験をご希望されるなら、もう一度体験をして頂いても構いません」

 僕らが考えている事を見透かしたように言葉を付け加えてくる。

 

「今度こそ結婚式が最後まで出来るんですか?」

「はい。お二人がご希望されれば入籍までお手伝い致します」

 

 その言葉を聞いた瞬間、美波のやる気が溢れてくるのが判る。

 ……握力が強くなったから。多分雄二も一緒だろう。

 

「アキ」

「はい」

「ウチからのお願い……聞いてくれる?」

「はいっ、死ぬ気でやりますっ」

 多分断ったら僕はここで人生終了の気がする。

 

「……雄二」

「ぐっ、なんだっ?」

「……本気で勝ちに行く。不戦勝でも構わない」

「それだとエキシビジョンマッチにならないだろ」

 断ったら雄二もおそらく僕と同じだろう。

 

「ではみなさん、頑張って盛り上げてくださいね」

 そう言って微笑むと河野木さんは舞台から降りていった。

 

「デハみなサン。昼食の場所へゴ案内しマス」

 似非野郎の後について僕たちも舞台から降りる。

 

(雄二)

(なんだ?)

(あのチケットなんだけどさ)

(勝った方が引き取るしかないな)

(やっぱり?)

(仕方ないだろ。あの二人を説得出来ると思うか?)

(無理……だよね)

 雄二とアイコンタクトで会話する。

 

 すごく嬉しそうに軽い足取りで似非野郎についていく美波と霧島さん。

 それを後ろから見ながらついていく僕と雄二。

 

 美波が喜ぶところは見たいけど……

 撮影されるのは恥ずかしいなぁ。

 美波は恥ずかしくないのかな?

 

 


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