僕とウチと恋路っ!   作:mam

38 / 111
僕とウチと新しい校則part02

 

 ……ガラッ

 

「おはよう」

「おはようございます」

 美波と姫路さんが揃って教室に入ってきた。

 

「おはよう、美波。姫路さん」

「二人ともおはようさん」

「……おはよう、美波。瑞希」

 美波と姫路さんが僕たちの方へやってきて

 

「翔子、なんだか元気が無いわね」

「翔子ちゃん、どうかしたんですか」

 二人とも心配そうに霧島さんに声をかけている。

 

「「坂本(君)が全然相手をしてくれないの(んですか)?」」

 

「ぅおぃっ!翔子が落ち込んでいると全部俺のせいなのかっ!?」

「何よ、違うの?」

「坂本君は翔子ちゃんをもっとかまってあげないと」

 三人のやり取りを聞いていた霧島さんが俯いて……

 

「……美波と吉井。期待させるような事を言って本当にごめんなさい」

 力無い声で申し訳無さそうに僕と美波に謝る霧島さん。

 

「霧島さんが謝る事なんて全然無いよ」

「そうよ。翔子は精一杯やったんでしょう?」

「そうだな。昨日の翔子は頑張ってたと思うぞ」

 珍しく雄二が霧島さんの事を庇ってるな。

 と、言う事は悪いのは……

 

「悪いのは貴様かっ、雄二っ!」

 雄二の顔めがけてハイキック。すんでのところでかわされてしまった。

 チィッ、勘の良い奴め。

 

「あぶねぇっ!何しやがるっ!?」

「貴様が責任を取れっ!」

「何をトチ狂ってやがるんだ」

「坂本は昨日翔子と一緒に翔子の親に会いに行ったんじゃないの?」

「あ、坂本君はついに翔子ちゃんと一緒になる決心がついたんですかっ」

 両手を合わせて目をキラキラさせて質問をしてくる姫路さん。

 昨日出来た新しい校則を知らないのだろうか。

 

「姫路が何を勘違いしてるのか知りたくも無いが、昨日翔子の親に会って」

 雄二が僕と美波を交互に見てから

「修繕費用を出す事は出来ないって言われたんだ」

「そうなんだ……」

 雄二の言葉を聞いて美波も落ち込んでしまった。

 

「やっぱりすごいお金がかかるんだね」

 僕がそう言うと霧島さんは首をふるふると横に振った。

 

「違うぞ、明久。金額の問題じゃないんだ。昨日帰り際にババァが言ってた言葉を覚えているか?」

「たしか……お金で解決出来ないとか、どうとか」

「そうだ。昨日翔子の親に言われて判ったんだが……」

 

 雄二が言うには、問題なのは金額の大きさではなくて、霧島さんの親の経営する会社が

 いきなり文月学園に寄付すると今まで寄付してきた会社や企業との摩擦が起きる可能性があるらしい。

 霧島グループの会社と今まで寄付してきた会社や企業との争いが生まれるかもしれないし

 文月学園と今まで寄付してくれた会社や企業との亀裂が生じるかもしれない。

 

 そして霧島さんの親が個人的に寄付するにしても、今度は普通の個人だと金額が大きすぎるから

 霧島さんの成績云々に手心を加えて欲しくてやったと世間に見られるかもしれないと言う事だった。

 

 そんな事をしなくても霧島さんはちゃんとした実力で学年首席なのに……

 でも、それは普段の霧島さんを良く知っている僕たちだけしか判らない事だろう。

 

「なるほどのぅ。社会に出るといろんな問題があるのじゃな」

「…………問題は先送りにしちゃいけない」

「わぁっ!二人ともいつのまに来てたのさっ!?」

 ムッツリーニと秀吉がいつの間にか僕たちの会話に混ざっていた。

 

「ムッツリーニなら判るけど、秀吉までいつのまに気配を消して近付けるようになったの?」

「わしか?最近忍者物の演劇の台本を渡されてのぅ。今その特訓をしておるところじゃ」

「…………むっ。明久、これ」

 何故か機嫌が悪そうなムッツリーニが、むすっとして何枚か写真を僕に見せてくる。

 これって……僕の女装写真っ!?

 

「ムッツリーニ、なんて物を持ってるんだよっ!?」

「…………買わないと屋上から、これをばら撒く」

「ええっ」

 僕は渋々写真を買う事に……なんで自分の女装した写真を買わなきゃいけないんだろう?

 

「あら?アキ、何それ」

 僕が今ムッツリーニから買った写真を、美波にひょいと取られてしまった。

 

「ああっ、美波っ!それ返してっ!」

「なによ。減る物じゃないんだし、ちょっとくらい見せてくれたっていいじゃない」

 美波が僕に背中を向けて写真を見ている。すると姫路さんも

 

「美波ちゃん、それなんですか?」

「見てよ、瑞希。アキ可愛い~」

「わぁ、本当ですっ」

 二人が、わいわいと僕の女装写真を見ている……

 女の子に自分の女装しているところを喜ばれるのはすごく複雑な心境だ。

 

「アキ?これ、ウチ欲しいんだけど……もらっても良いわよね?」

「明久君、私も欲しいんですけど……もらっても良いですか?」

 僕に聞きながら二人で写真を分けてそれぞれ仕舞っているんだけど……僕、まだ返事してないよね?

 

「良いじゃないか、明久。減るもんじゃないんだし」

「僕の財布の中身が減ってるんだよっ」

「些細な事だ。それよりお前はこのままでも良いのか?」

「このままって?」

「あの校則だ」

「そう言えば、みんなで何を話していたんですか?」

 姫路さんが写真を仕舞い終えて会話に加わってきた。

 

「瑞希。昨日新しい校則が増えたの知らないの?」

「恋愛禁止のでしょうか」

「うん。それの事だよ」

「なんであんな校則を作ったんでしょうね」

 姫路さんが首を傾げながら質問をしているけど……

 

「全部明久が悪いんだ」

「バカ雄二っ!全部僕のせいにするんじゃないっ!!」

「明久が床に穴を開けて、明久が校内放送で島田に告白したからだろ」

「それはそうなんだけど……」

 昨日ババァに言われたからなぁ。誤魔化しようが無い。

 

「ちょっと待って。穴を開けたのは確かにアキだけど……」

 美波が顔を赤くしながら僕の前に立って

 

「告白はウチの事を想ってやってくれたんだからウチにも責任はあるわっ」

「僕が勝手に想っていた事だから美波は全然悪くないよ」

 僕がそう言うと美波は、くるっと振り向いて両手を合わせるようにして僕の左手を包むと

 

「そんな寂しい事言わないで……アキの気持ちを教えてもらってウチは本当に嬉しかったんだから」

 美波の温かい手に包まれているととても幸せな気持ちに……ずっとこうしていたいなぁ。

 

「おぬしら、校則はいいのかの?」

「…………校則違反」

 秀吉とムッツリーニに言われて慌てて美波と離れる。

 

「アキと手も握れないなんて……ウチ、もぅこんな生活イヤっ」

 両手で顔を押さえて美波が泣き出しちゃったよ。

 

「美波……」

 僕が手を差し出すと美波は泣くのを止めて僕の手を取り、そして……

 

「アキっ!?早く何とかしてよっ!」

 いきなり関節技をかけてきた。

 

「いだぁぁぁ、みっ、美波っ!いきなりどうしてっ!?」

「昨日アキは何とかしてくれるって言ってくれたじゃない」

「確かに言ったけど……」

 

 少し離れたところで雄二が霧島さんにアイアンクローを極められていた。

 するとそこへ鉄人が、ガラッと扉を開けてやってきた。

 

「全員居るな。今日は特に伝達事項も無いからホームルームは終わりに……って、霧島。一時間目が始まるまでには教室へ戻っておけよ」

「……はい、先生」

 鉄人に注意をされている間もアイアンクローを外さない霧島さん。

 もちろん美波も関節技を極めたままだ。

 

「じゃあ、次の授業の準備をしておくように」

 鉄人が教室から出ようとした時、雄二が

 

「おっ、おい、鉄人。この状況は恋愛行為に含まれるんじゃないのか?」

「馬鹿者っ!鉄人ではないと……ふん、坂本と吉井が何か悪い事でもしたんだろう。それは体罰だから恋愛行為には含まれん」

 そう言い残して鉄人は行ってしまった。

 

「アキ?これは恋愛行為じゃないんだって……良かったわね」

 美波さんがすごく嬉しそうです。

 何がそんなに嬉しいのか聞くのが怖いんですが……

 

 …………僕と雄二の幸せな不幸の始まりだった。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。