僕とウチと恋路っ!   作:mam

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僕とウチと新しい校則part01

「あれはどういうことなんですかっ!」

「……ですか……っ!」

 公布された新校則を見るなり

 美波は僕の襟を掴んで、霧島さんは雄二にアイアンクローを極めて

 学園長室へ、なだれ込んだ。

 

「どうもこうも書いてあるとおりさね、クソジャリども」

 しれっとした顔で僕たちを見るババァ長。

 

「恋愛禁止なんてあんまりですっ!ウチら、つい最近付き合い始めたばかりなのにっ!」

 美波が僕の襟から手を外すと、そのまま僕と腕を組んできた。

 

「……そうです。私も雄二とこんなに愛し合っているのに」

 霧島さんはアイアンクローを極めた雄二の頭を突き出した。

 人には、いろんな愛の形があるんだね。

 

 そんな僕らを見て、ババァ長はふふん、と鼻を鳴らし

 

「そいつぁおめでとさん。もっと仲良くしたきゃ卒業まで待ちな」

 取り付く島がないと言った感じのババァ長。

 

「まぁ明久に島田、翔子も落ち着け。まずはババァがなんでこんな校則を作ったのか聞こうじゃないか」

 ずいぶん他人事のような感じで話に加わってくる雄二。

 どうも反対するのにそんなに乗り気じゃないみたいだ。

 

「ああ、聞かせてやろうじゃないか。特に吉井。お前には聞きたくないと言っても聞かせてやらなきゃ気が済まないからね」

 あれ?なんで僕が名指しされてるの?

 

「どっかのバカが開けた穴を塞ぐためにスポンサー様をご招待して、やっとこさ(まと)まりかけてた所へ……」

 キッと僕を睨んでくるクソババァ長。

 そのしわくちゃの顔で見つめられると気持ち悪いんだけど……

 

「穴を開けた張本人の校内放送のおかげで保留になっちまったんだよっ!!」

 首が伸びて僕に噛み付くんじゃないかと言うくらいの剣幕で怒鳴りつけてくる。

 

「あの校内放送の色恋沙汰の問題だけでもすぐに対応しておかないと来年からスポンサーが居なくなっちまうかもしれないだろ」

 クソババァ長は言いたい事を言い切ったと言う感じで、ドスン、と椅子に座る。

 

「何だ、明久が悪いのか。それじゃ仕方ないな」

「ちょっと待ってっ!床に穴を開ける作戦も、校内放送を流したのも全部雄二が指示したんじゃ」

「全部やったのは明久だからな。俺は意見を述べただけだ」

「なんだとっ、キサマッ!」

「やんのか、ゴルァッ!」

 僕と雄二が、お互いに胸座(むなぐら)を掴み合っていると

 

「アキ、ちょっと落ち着きなさい」

 僕は美波に頚動脈を押さえられて

 

「……雄二、少し静かにして」

 雄二は霧島さんに再びアイアンクローを極められていた。

 

「でも学園長先生。全面禁止にしなくても……せめて学校内の禁止くらいで」

「……そうです。学園長先生。人間の感情を抑えるのは教育として良くないと思います」

「中途半端な校則にすると、そこのバカ二人がまた暴走するかもしれないだろ」

 クソババァ長が僕と雄二を睨んでくる。

 

「だがな、人間抑えられれば抑えられるほど反発も強くなるぞ」

 いつも顔面を抑えられていても反発がまったく出来ていない雄二が言っても説得力無いと思うよ。

 

「まぁね。スポンサーの前で校則を変更すると言ったら、似たような事を言われたけどねぇ」

 やれやれと言った感じで話を続ける。

 

「アタシも鬼じゃないから可愛い生徒の頼みなら聞いてやりたくもなるさね」

 確かに鬼なんて可愛いものじゃない。醜い妖怪か醜悪な老婆だろう。

 じゃあ、ちょっと頼んでみるかな。

 

「撤回をよろし『死にさらせ』……くぅっ」

 ひどいっ!最後まで言わせてもらえない。

 どうやら僕は可愛い生徒ではなかったようだ。

 

「学園長先生。お願いします。また召喚獣のテストとかあったらアキと一緒に喜んでお手伝いしますから」

「……今まで楽しく過ごさせてもらったこの学校で恋や勉強を雄二と一緒にもっと頑張りたいんです」

 美波が僕と、霧島さんが雄二と手を繋いでクソババァ長に訴えているけど……

 僕と雄二が出てくると良い印象を与えるのは無理だと思うんだ。

 

 でも、そんな僕たちを見て……何か思い付いたかのように

 

「ふむ……そこまで言うなら、そこのバカが開けた穴がアンタらのおかげで塞がったら考え直しても良いさね」

「「本当ですかっ」」

 思いがけないクソババァ長からの提案に喜ぶ美波と霧島さん。

 

「ああ。あの穴が直るなら全部元通りになるからね」

 ババァの言葉を聞いて雄二があごに手を当てて何か考え込んでいるみたいだ。

 気になる事でもあるのだろうか。

 

「さて気が済んだならお引取り願えるかい。こう見えても忙しいんだよ」

「お忙しいところありがとうございました」

「……では約束の件、よろしくお願いします」

 美波と霧島さんがぺこりと挨拶をして部屋を出て、僕と雄二もその後をついて行こうとすると

 

「ああ、一つ言っとくよ」

「ん?なんかあるのか」

「世の中にはお金で解決出来ない事もあるって事さ」

 そう言うと、しっしっと手を振って僕たちに出て行けとジェスチャーするクソババァ。

 

 業者に頼まないで僕たちで直せと言う事だろうか。

 

 

 

--校門の前の坂道

 

 美波と霧島さんが並んで歩いている後ろを、僕と雄二が並んで歩いている。

 学校から見える範囲では一応新しい校則を守っている振りだけでもしないとね。

 

「まさか、あんな校則が出来るなんて思いもしなかったわ」

「……そうね」

「せっかくこれからクリスマスとかお正月とかあるのになぁ」

 僕たちが、はぁ…と、ため息をついている中で雄二一人だけが嬉しそうだった。

 

「まぁ、お前らが落ち込むのも判るが、卒業まであと一年ちょっとじゃないか」

「何よ、坂本。ずいぶん嬉しそうじゃない」

 美波がキッと雄二を睨んでいるけど、それを気にした様子も無く

 

「いやいやいや、俺も気にはしているがこれで翔子からの束縛が無くなるとか考えた事も無いぞ」

 どう見ても雄二の顔が(ほころ)んでいる。

 すると霧島さんが……ガシッといつものアイアンクロー。

 

「うわっ。翔子っ、何をするんだっ!?」

「……今から一緒にうちへ行く」

「なっ、何故?……恋愛禁止だからあまり一緒に居たらまずいんじゃないか」

「……お母さんとお父さんに頼んで修繕費用を出してもらうのに雄二も一緒にお願いして」

「なっ、何で俺も一緒に行かないといけないんだっ!?」

「……私達の未来を説明するから」

「ちょっ、ちょっと待てっ!俺が一緒に行ったら校則違反になるんじゃないのかっ!?」

「……大丈夫。校則違反になりそうな事をする時には校則は無くなっているはず」

「全然大丈夫じゃねぇっ!何をする気なんだーっ」

 叫ぶ雄二をずるずると引きずるように連れて行く霧島さん。

 

「翔子お願いね」

「……頑張る」

 片手をグッと握り締めた霧島さんと、もう片方の手で顔面を握り締められてる雄二は行ってしまった。

 

「じゃあ、僕たちも帰ろうか」

「そうね」

 美波と並んで歩き出す。

 

「今日はアキの気持ちを教えてもらってすごく嬉しかったのに……」

 美波が俯きながら呟く。

 

「いや、あれは、その……」

 何で僕が想っている事は全部美波に知られちゃうんだろう?

 

「ふふっ。照れなくてもいいじゃない」

 そう言う美波の笑顔は……どことなく寂しげだった。

 寂しそうな美波を見るのは辛いな……何とか励ましてあげられないかな?

 

「あ、そうだ」

「どうしたの?」

「あのね、美波」

「何よ?あらたまって」

 僕は出来るだけの笑顔で……

 

「ちゅうぬぷどればどぶにいるもなみー」

 

 あれ?美波に元気になってもらいたかったんだけど……

 やっぱり二度も三度も使う物じゃないかな。

 

「ふふっ。ウチら、もう友達なのに……ありがとう、アキ。ウチを励ましてくれてるのね」

 美波は目に涙を溜めながら……すごく嬉しそうな笑顔を見せてくれた。

 

「そうよね。友達に戻ってもウチが恋したアキだもの。絶対何とかしてくれるわよね」

「ええっ!?僕には、どうすれば良いのか全然見当も付かないよ」

「ううん。ウチは信じてる。アキはきっと格好いいところを見せてくれて、またウチに恋をさせてくれるって」

 美波の大きな瞳が真っ直ぐに僕を見ている。

 本当に僕を信じてくれているっていうのが判る。

 何をどうすれば良いのか、今はさっぱり判らないけど……

 

「うん。今は判らないけど……きっと何とかしてみせるよ」

「そうよ、アキ。頑張ってね」

 笑顔で僕の肩をポンと軽く叩いてくれる美波。

 

「それでどうにもならなかったら……」

「ならなかったら?」

 美波が笑顔のまま、首を傾げて僕を見ている。

 僕は少し間を置いて……

 

「…………転校するって方法も……」

「期待してたウチに謝りなさいっ!!」

 

 グーで殴られた。

 

 

 

 

--次の日

 

 ……ガラッ

 

「おはよう」

 教室の中には雄二と霧島さんが座っているけど……いつもみたいにじゃれあってないな?

 

「明久か。おはようさん」

「……おはよう、吉井」

 霧島さんがすごく元気が無いな。

 いまにもFクラスの腐った畳にめり込みそうなほど落ち込んでいる。

 

「霧島さん、大丈夫?すごく元気が無いように見えるんだけど……雄二が何かやったの?」

 すると霧島さんは首を振って

 

「……ううん。雄二は何もしてくれない。色々して欲しいのに(ポッ)」

 頬を染めながら返事をしてくれる霧島さん。

 この調子なら大丈夫かな?

 

「お前らのボケに俺を巻き込むな。俺まで校則違反になるだろ」

「……雄二、冷たい。私がこんなに落ち込んでいるのに全然励ましてくれない」

「励ましてやりたくても校則がな……あれが何とかなったらいくらでも励ましてやるよ」

「何とかなったらって……霧島さんのご両親がお金出してくれるんじゃなかったの?」

 僕が尋ねると霧島さんが申し訳無さそうに

 

「……ダメだった」

 

 


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