僕とウチと恋路っ!   作:mam

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僕とウチとツーテールpart05

 

 無事にスーパーに着いてカートを押しながら献立を考えていると

 葉月ちゃんが僕の服の裾を引っ張ってきて

 

「バカなお兄ちゃん?」

「どうしたの?」

「あれは何ですか?」

 葉月ちゃんが指を指す方向にあったのは茎まで赤く染まったカブみたいな野菜だった。

 たしか、あれは……

 

「てーぶるびーと?」

「あれ?葉月ちゃん知ってたの?」

「書いてあったです」

 赤い野菜が置かれているテーブルの脇に薄い赤色の紙で名前が書いてあった。

 

「これはね、ボルシチって言う料理を作る時に使うんだよ」

 僕が葉月ちゃんに説明をしていると

 

「あなた、ボルシチなんて作れるんですか」

「うん。前に世界三大スープを作ろうと思って一回作ってみたことがあるんだ」

「へぇ……あなたにも料理なんて意外な使い道があるんですね」

「そんな褒められると照れちゃうなぁ」

 僕が照れながら声のした方を振り向くと……

 

「豚野郎なんて褒めるつもりはまったく無いです」

 腰に手を当てて僕を睨んでいる清水さんが居た。

 

「しっ、清水さん!?何でここに?」

 僕が質問をして帰ってきた答えが……

 

「お姉さまの家にスト……いえ、何でもありません」

 キッと僕を睨んで答えるのを止めた清水さん。

 そろそろ本気で警察に通報を考えた方が良いかもしれない。

 

「あなたを見かけたのでお姉さまが近くに居るかと思ったのですが……それにしても……」

 スッと視線を僕から逸らして少し下に向ける清水さん。

 その方向に居るのは葉月ちゃん……ヤバいっ!!

 僕の危険察知能力が警報を発しているっ!!

 

 僕と清水さんを交互に見ている葉月ちゃんを、僕は覆いかぶさるように抱き締める。

 すると僕の背中に衝撃が走り、「きゃっ」と言う声が……

 

 僕が葉月ちゃんを抱きしめたまま、清水さんの方を見ると……

 僕に突っ込む形で当たってきてそのまま転がっていったみたいだ。

 

「何をするんですかっ!危ないじゃないですか」

 危ないのは清水さんの性格と行動と趣味じゃないかな?

 何をしようとしたのか一応聞いてみるか。

 

「清水さんこそ、何をしようとしたの?」

 僕が葉月ちゃんを抱き締めたまま尋ねると

「そちらの小さいお姉さまを持ちかえ……いえ、何でもありません」

 やっぱり……姫路さんと美波の子供の召喚獣みたいに持って帰ろうとしてたんだな。

 僕がホッと胸を撫で下ろしていると

 

「バカなお兄ちゃん?こんなところで葉月を抱き締めるなんて……葉月恥ずかしいです」

 葉月ちゃんが顔を真っ赤にして俯いている。

 そう言えば葉月ちゃんを抱き締めたままだった。

 

「ごめんね」

 そう言って僕が葉月ちゃんから離れると

「ところでそちらのお姉さまに良く似ている方は?」

 清水さんは何処の誰かも判らないで誘拐しようとしていたのか。

 

「この子は美波の……」

 僕の説明を(さえぎ)る様に清水さんがいきなり大きな声で

「まっ、まさか……お姉さまと豚野郎の子供なのですかっ!?」

 清水さんの悲痛な叫びが土曜の昼間のスーパーに響く。

 こんな大勢の人が居る前で僕の事を豚野郎呼ばわりする事より

 葉月ちゃんが僕と美波の子供という方を否定しなければっ!!

 

「違いますっ。葉月はバカなお兄ちゃんのお嫁さんなんですっ!」

 葉月ちゃんが僕の手を握りながら反論する。

 良かった。葉月ちゃん自身が否定してくれて……

 

 …………あれ?

 なんか周りの人たちの視線が凄く痛いんですけどっ!?

 

 周囲に居る人たちがヒソヒソと話をしているみたいだけど……

 やたらとロリコンと言う単語が聞こえてくる。

 

 

 

--明久たちから少し離れた所

 

 いつも同じスポーツドリンクだと飽きちゃうのよね。

 たまには違った物を、と思って探しに来てみたものの……やっぱり早々ある訳無いか。

 あら、何か騒がしいわね?

 

「あれは……Dクラスの清水さんだったっけ」

 あの特徴的な髪型は滅多に居ないわよね。誰かと話しているみたいだけど……

 

 ああっ、あのバカ面は吉井じゃないっ!

 横に居る子供は……誰かに似てるわね?誰だったかな……

 

 なんか聞こえてくるけど……ええっ。吉井の子供っ!?

 確か清水さんがお姉さまって言ってるのは……Fクラスの島田さんね。

 うちの後輩にも島田さんに興味を持っているのが何人か居るけど……

 あの子は島田さんに似てるのよ。

 

 そう言えば、噂で聞いたけど島田さんとあのバカが付き合い始めたって……

 あのバカのせいで久保君が全然私の方を見てくれないってのに

 何であのバカに彼女が出来て、しかも子供が居るって……冗談じゃないわ。

 

 そうだ。この事を久保君が知れば、あのバカの事を諦めてくれるかもしれない。

 そしたら私の事も少しは考えてくれるようになるかも……

 

 早速写メ撮ってみんなに教えてあげなきゃ。

 これで久保君が私の事を……

 

----

 

「お嫁さんですか?」

「はいですっ」

 清水さんの問い掛けに、僕と手を繋いで嬉しそうに返事をする葉月ちゃん。

 

「お姉さまが居るのに……お姉さまに似てるからって浮気するなんて豚野郎にも劣るクソ虫野郎ですね」

 豚野郎の更に下の呼び名があるのか。

 

「やっぱり貴様なんかにお姉さまは任せられませんっ」

 そう言うといきなり店外の方へ向かって走っていく清水さん。

 結局葉月ちゃんの事は誤解したままの気がするけど……

 

 

 夕飯はさっき葉月ちゃんが見ていたテーブルビートを使ってボルシチを作る事にした。

 結局、美波のお母さんが午後九時くらいに帰ってきたので僕は入れ替わるように帰った。

 

 

 

--月曜の朝

 

「アキっ。おはよう」

 朝から元気一杯の美波の挨拶。

 

「おはよう、美波。今日は眠くなさそうだね」

「先週は心配掛けちゃってごめんね」

「僕のために頑張ってくれてるんだから……僕の方こそ全然役に立てなくてごめん」

「そんな事無いわよ。土曜日にお手伝いしてくれたし……おかげでだいぶ早く終わりそうよ」

「そっか」

「うんっ」

 美波の笑顔が見れて……土曜日に清水さんのおかげで恥ずかしい思いをしたのが

 無駄にならなくて本当に良かった。

 

「そう言えば、お父さんもお母さんもアキの作ってくれたボルシチを凄い褒めてたわよ」

「ほんと?嬉しいなぁ」

 僕の作った料理で喜んでくれたなら嬉しい。

 仕事で疲れて帰ってきてるだろうから少しでも美味しい物を食べてもらいたかったし。

 

「それでね」

 美波が頬を染めて少し俯いて指をもじもじさせながら

「お父さんがちゃんと挨拶をしたいって……ウチの事をよろしくお願いしますとか言ったら、どうしよう♪」

 いきなり美波が僕の左腕を取って捻り始めた。

 

「そしたらアキはウチの事……」

「あ、あの美波?僕の左腕が人類としておかしな形になってるんだけど……」

「あ、ごめんね」

 美波が僕の左腕を解放してくれて、僕の右側に移動して今度は右腕を取り

 

「左腕はアキの利き腕だったもんね」

 そういう問題じゃない。

 

「そう言えば、美波の家でするクリスマスパーティーは24日と25日のどっちなの?」

 美波がまた捻りだす前に注意を他の事へ向けよう。

 

「そうね。お父さんもお母さんもその週末は居る筈なんだけど……」

「僕も姉さんも残念ながらどっちも空いてるよ」

 僕がそう返事をすると、美波の目がスッと細くなり……何故か、攻撃色が強くなってきた。

 

「残念ながらって何よっ!アキはウチと一緒にクリスマスを過ごすのが嫌だって言うのっ!?」

 取られていた右腕が関節技の犠牲に……結局僕の右腕も変な形になる運命だったのか。

 

「わぁっ、美波落ち着いてっ!?残念って言うのは美波が誘ってくれなかったら姉さんが僕と二人っきりで過ごすって言ってたからだよっ」

「本当に?」

「本当だよっ。だって美波と約束したじゃないか。クリスマスに美波の言う事を聞くって」

「そうだったわね」

 僕の腕を解放してくれる美波。

 そして頬を少し染めて大きな瞳で僕をジッと見ながら

 

「じゃあじゃあ……24日のイヴにウチの言う事聞いてくれる?」

「うん、いいよ」

「ありがと……楽しみね」

 美波の笑顔が見れて今日も朝から良い事があるなぁと思っていたんだけど……

 学校に近付くほど何故か僕と美波の周りの雰囲気が少し違う気がした。

 

 


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