僕とウチと恋路っ!   作:mam

32 / 111
僕とウチとツーテールpart02

 今日は姉さんも早く帰ってきたので二人で夕食を食べている。

 そう言えば、美波にクリスマスパーティーのお誘いをもらったんだっけ。

 いつって、はっきり聞いてないけど24日か25日だろう。一応、姉さんに確認してみるかな。

 願わくば、姉さんも誰かと過ごす、なんて事になってくれてれば良いけど……

 

「姉さん、ちょっと聞きたい事があるんだけど……」

「はい、なんでしょう?」

 箸を止めて僕の方を見てくれる。

 

「クリスマスなんだけど、姉さんは何か予定あるの?」

 お願いします。あると言ってっ!!

 

 少し僕の顔をジッと見てから姉さんはおもむろに……

 

「もちろん、あります。姉さんだって年頃の女性ですよ?」

 おおっ、神よ。

 こんな姉さんでもクリスマスにはちゃんと一緒に過ごす人を見つけてくれていたんですね。

 心の底から、ありがとう。

 僕が両手を胸の前で合わせて神様に感謝していると

 

「アキくん、そんなに感謝しなくても良いですよ」

 姉さんがにっこり微笑んで僕を見ている。

 いやいやいやいや、見た目はともかく中身が人にうまく説明できない姉さんに

 彼氏が出来るとは神様にでも頼まない限り無理だろう。

 

「アキくんが感謝するほど喜んでくれるなんて姉さんは嬉しいです」

「僕もすごく嬉しいよ。姉さんにクリスマスを一緒に過ごす人が見つかって」

「アキくんがそう言ってくれると姉冥利に尽きますね。クリスマスの時はよろしくお願いしますね」

 あれ?何で僕によろしくなんて言ってるんだ、この人は。

 

「あの、姉さん?そう言う事は僕じゃなくて一緒に過ごす人に言うんじゃ?」

「はい。だからクリスマスを一緒に過ごすアキくんに」

 にこにこと笑顔で僕を見つめる姉さん。

 ええっ!誰か他の人じゃなくて僕なのっ!?

 神様に頼んでも無理だったようだ。誰に頼めば良いのだろう?

 

「ちょっと待ってよ。僕に相談無しで何勝手にクリスマスを僕と過ごす事にしてるのさ」

「姉さんは去年のクリスマスの時から予定していたのですが」

「去年は日本に居なかったよねっ!?」

 今年の夏休み前に日本に戻ってきたくせに……

 なんで、それで今年のクリスマスの予定を去年から立ててるんだ。

 

「では聞きますがアキくんはクリスマスに何か予定があるのですか」

「う、うん」

「美波さんですか?」

「そうだよ」

「美波さんと二人っきりで過ごしたいのですか?」

 珍しく姉さんが寂しそうに……

 

「いや、美波の家でクリスマスパーティーをするみたいだから、それに招待されて」

「そうだったのですか」

「うん。それで姉さんも一緒にって」

「美波さんの家でって事は、ご両親もいらっしゃるのですか?」

「たぶん、いるんじゃないかな」

 美波の両親は、いつも忙しそうだけど流石に今年のクリスマスは週末に重なるから居るだろう。

 

「そうですか」

 姉さんは何か考え込んでいるようだ。変な事じゃないと良いけど……

 そして少ししてから

 

「姉さんは何を着ていけば良いんでしょう」

「ん?普通の服装で良いと思うけど……」

 仮装パーティーとかじゃないから普通の格好してくれば良いと思うけど……

 まさか、僕にメイド服とか女装を勧めるつもりなのっ!?

 

「でも……せっかくご両親に挨拶するんですし、あまりラフすぎる格好も失礼かと」

「ちょっと姉さん。何するつもりなの?」

「美波さんのご両親に会うんですから結婚の御挨拶を、と思いまして」

「ちょっ、ちょっと姉さんっ!?僕たちにはまだ早すぎるよっ!!」

 僕と美波が結婚なんて……まだ学校も卒業してないのに。

 

「何をそんなに顔を赤くして慌てているのですか」

「だって美波と結婚なんて……まだ二人とも学生なのに」

「アキくんは何を言っているのですか」

 姉さんが、きょとんとした表情で僕に話しかけてくる。

 

「そっ、そうだよね。冗談だよね。まったく姉さんも……」

「私とアキくんの結婚を美波さんのご両親に報告するんですよ」

「なんで僕と姉さんが結婚なんてするのさっ!?しかもそれをどうして美波の両親に報告するのっ!?」

 Fクラスの卓袱台ならひっくり返している所だ。

 さすがにうちのリビングにあるテーブルだと大きすぎて一人ではひっくり返せない。

 

「冗談です。そんなに怒ると消化に悪いですよ」

「全然冗談に聞こえなかったんだけど……」

 僕の視線をまったく気にすることなく姉さんは

 

「ではクリスマスの予定は空けておくようにしますね」

「それはそれで弟としては心配なんだけど……」

「アキくんは姉さんにどうしろと言うんですか?」

「普通にしてて欲しいだけなんだけど……」

 クリスマスの予定を聞くだけでこんなに疲れるとは……

 僕が疲れ果てて夕食にも手を付けられずにぐったりしていると、ふいに姉さんが質問をしてきた。

 

「ところでアキくんは明日はどうするのですか」

「美波の家で御飯作ったり、お手伝いに行くんだ」

「美波さんと二人きりなのですか」

「葉月ちゃんもいるよ。両親は居ないみたいだけど」

「アキくんは休みの日に女の子の家に遊びに行くようになったんですか」

 えっ!美波の家でも遊びに行くと不純異性交遊に該当するのっ!?

 

「でっ、でも美波だし……」

「そうですね。美波さんなら良いでしょう。二人っきりと言う訳でもなさそうですし」

 僕がホッと胸を撫で下ろしていると、姉さんがにこにこと笑顔で

 

「では家事手伝いに行くのならメイド服を貸してあげましょう」

「いらないよっ!?」

 そんな気遣いもメイド服もいりません。

 

「どうしてですか。せっかく家事手伝いに行くんですから、それに相応しい格好をしていくのがマナーでしょう」

「ちょっと待って。マナーと言えば男子高校生がメイド服を着て良いって訳じゃないからね」

 カップラーメンを作ってあげる時もメイド服を着ないといけなくなるじゃないか。

 

「もうアキくんはわがままですね。判りました。では美波さんの分もメイド服を用意しましょう」

「何が判ったのさっ!?僕が言いたいのは美波とペアルックしたいって事じゃないからねっ!!」

「ではアキくんは裸エプロンで美波さんの家に行くんですか?」

 それは外を歩くだけで大惨事だ。

 もちろん美波の家の中でも……

 

「僕は普通の格好で行って普通の格好で美波のお手伝いをしたいんだ。たぶん美波もそれを望んでいると思うよ」

「そうですか。それは残念ですね」

 姉さんは少し残念そうに言った後、夕食を食べるのを再開し、それ以降は何も言ってこなかった。

 こんな姉さんを美波の両親に紹介しても良いのだろうか。

 

 

 

 

--次の日

 

 時間は……今、朝の8時過ぎか

 姉さんは今日は朝早く仕事に行っちゃったし、僕も出掛ける準備は出来てるから

 美波に電話してみるかな。

 

  Prrrrrr Prrrrrr Prrrrrr Prrrrrr

 

「アキ、おはよう」

「おはよう、美波。朝早くごめんね」

「ううん。それだけアキと早く会えるんだもの。嬉しいに決まってるじゃない」

「ありがとう。でも今日はもう起きてて大丈夫?」

「大丈夫よ。今日はアキが来てくれるって言ってくれたから昨日は夜更かししないで早く寝たのよ」

「そっか。それなら大丈夫だね。今から家を出るんだけど、何か持って行く物とか買って行く物ってあるかな」

「そうね……アキがお昼に何か作ってくれるなら、うちにある材料だと無い物があるかも?」

「それは見てみないと判らないかな。じゃあ、今から家を出るね」

「うん、待ってるから。気をつけてね」

「ありがとう。また後でね」

 

 携帯をポケットに仕舞って……と。

 さて出掛けるかな。

 

 

 

 

 無事に美波の家の前に着いた。

 

  ピンポーン  ピンポーン

 

「はいですっ」

 

 ガチャ、と扉が開くと……どん、と体当たりをされて

 

「バカなお兄ちゃん。来てくれたんですねっ」

 葉月ちゃんにしがみつかれておでこで鳩尾をぐりぐりされる。

 

「おはよう、葉月ちゃん」

 葉月ちゃんの頭を撫でてあげてると、美波が出てきて

 

「おはよう、アキ。今日はよろしくね」

「美波、おはよう。今日は何でも言ってね。ちゃんと出来るか判らないけど」

「ふふっ、大丈夫よ。アキが来てくれただけで嬉しいもの」

 そう言うと優しく微笑んでリビングまで案内してくれる。

 

「ちょっと待っててね。今温かい物でも淹れるわ」

「おかまいなく……って、僕がやるよ。美波はする事があるんじゃ……」

 僕がソファから立ち上がろうとすると

 

「これくらいはウチにやらせて欲しいの」

 そう言ってキッチンと(おぼ)しき方へ行ってしまった。

 

「バカなお兄ちゃん。今日はずっと葉月と一緒に居てくれるんですか?」

 葉月ちゃんがアーモンド状の吊り目をキラキラさせながら聞いてくる。

「うん。よろしくね」

 頭を撫でてあげながら返事をする。

 

 それからしばらくして美波がお盆に紅茶の入ったカップとクッキーが乗ったお皿を載せて戻ってきた。

 

「はい、どうぞ」

「ありがとう」

 紅茶を飲んで一息ついたので美波に

 

「そう言えば僕は今日、何をすれば良いのかな?」

「そうね……悪いんだけど、昼食と夕食を作ってくれるとすごく助かるんだけど……」

 美波が指をもじもじさせながら顔を俯かせて上目遣いに僕の方を見てくる。

 それくらいならお安い御用だ。

 

「うん。任せといて」

 僕は笑顔で胸を軽く叩いてみせる。

「今日はバカなお兄ちゃんがお昼御飯作ってくれるんですね。葉月もお手伝いするですっ」

「よろしくね」

「はいですっ」

 両手を上げてにこにこしてる葉月ちゃん。いつも元気で良いなぁ。

 

 そんな僕と葉月ちゃんを見ていた美波が……あれ?なんか顔が赤くなってる?

 そして僕の袖をくいくいっと引っ張ってきて

 

「あのね、アキにすごく大切な事をお願いしたいんだけど……」

「うん。今日は何でも言ってよ。僕も美波の為に何かしてあげたいんだ」

 僕がそう言うと、顔を赤くしたまま立ち上がって

 

「ちょっとこっちに来てくれる?」

 僕の手を引っ張ってリビングを出て美波の部屋の前に連れて来られた。

 そして俯いて、また指をもじもじさせながら小声で……

 

(あのね)

(うん)

(ウチが頑張れるようにおまじないをして欲しいの)

(おまじない?)

(うん。アキもウチのおまじないで期末試験頑張れたでしょ?)

(そうだね。美波のおまじないのおかげで今回のテストはすごく良かったよ)

 自分でもビックリするくらい、すごく点数が取れていた。

 これが一学期の期末試験だったら、姉さんを日本から追い返せたのに……

 

(だからウチにもしてくれる?)

(うん、良いよ)

 僕が人差し指を自分の唇に当てようとすると美波が

 

(あ、違うの)

(あれ?違った?)

(うん。それはテストで頑張れるおまじない)

(種類があるんだ)

 何種類くらいあるんだろう?

 

(ウチが頑張れるおまじないはね……アキが「頑張ってね」って言ってくれて……)

(うんうん、僕が言ってあげて)

 美波が頬を赤く染めて大きな目で僕を見上げて

 

(アキがウチのおでこにキスしてくれるの)

(ふむふむ。僕が美波のおでこにキスね……って、ええっ!?)

(ダメ……なの?)

 ああっ、美波が泣きそうになってる。

 

(ここなら誰も居ないからアキでもしてくれると思ったのに……)

 美波が大きな潤んだ目で僕を見上げてる。

 ……さっき何でも言ってくれって僕は言ったじゃないか。

 

(美波)

 僕は美波の肩に、そっと手を置いて……

 

(アキ……)

(いつもありがとう。頑張ってね)

 そう言って僕を見上げている美波の顔に……そっと唇を触れさせた。

 

(アキ……ありがとう)

 美波が僕の背中に両手を回して、しばらくそのままで……

 仄かに香る良い匂い。ずっとこのままでいられたら……

 

「バカなお兄ちゃん?お姉ちゃんと何してるんですか?」

 いきなり葉月ちゃんの声が聞こえてきたので慌てて美波と離れる。

 良かった。リビングからだったみたいだ。

 

「ごめんね、葉月。アキは今そっちに行くわよ」

 美波が葉月ちゃんに返事をして

 

「じゃあ、ウチ頑張るからね」

「うん。楽しみに待ってるからね」

「あと、ウチの部屋見たらダメよ?」

「わかってるよ」

 美波が部屋に入ったのを見てから僕は葉月ちゃんが待つリビングへ……

 

 

「バカなお兄ちゃん。お姉ちゃんと何をしてたんですか?」

「待たせてごめんね。美波が頑張れるようにちょっとおまじないをしてあげてたんだよ」

「そうなんですか。でも、なんでお兄ちゃんのお顔が真っ赤なんですか?」

「いっ、いや、その……ちゃんと効くように一生懸命おまじないしてあげたからだよ」

「それなら、お姉ちゃん夜遅くまで頑張らなくても良くなりますねっ」

 葉月ちゃんが両手を上げて喜んでいるのを見ていると……

 少しだけ心が痛んだ。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。