僕とウチと恋路っ!   作:mam

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僕とみんなとBクラス戦part05

 

 

 こちらは、少し時間をさかのぼり……

 

--四階空き教室内

 

 美波と姫路さんでBクラスの人たちを何人か補習室送りにしたけど

 さすがにそろそろ疲れが見え始めているな。ずっと緊張しっぱなしだからなぁ。

 美波はともかく、姫路さんは身体がそんなに強い方じゃないし、心配だな。

 

「雄二?そろそろ姫路さんたちを休ませてあげないと」

「そうしたいのは山々なんだが……根本が動くまでは出来るだけ入り口で時間稼ぎしておきたいしな」

 雄二が忌々しそうに呟く。

 

『Fクラス   島田美波   &   Fクラス   姫路瑞希

  数学     171点   &   422点         』

 

 細かくだけど、やはり戦闘すると少しづつ減っていく。神経も相当すり減っているだろうな。

 今は入り口の所でBクラスの召喚獣一体が美波の召喚獣と鍔迫(つばぜ)り合いをしている。

 

「…………根本が動いた」

 いきなり、ポツリとムッツリーニが呟いた。

 どうやらムッツリーニがBクラスに仕掛けておいた盗聴器が何かを拾ったらしい。

 

「そうか。姫路っ!島田っ!下がれっ!!」

 雄二が叫ぶと

 

「やっと休ませてもらえるのね」

「わかりました」

 美波の召喚獣が相手を突き飛ばすと姫路さんの召喚獣が装備している腕輪が光り、相手を一瞬で燃え上がらせる。

 さすがにBクラスの人たちも、いきなりの派手な攻撃で少し怯んだみたいだ。

 その隙に美波と姫路さんは僕たちの後ろの方へ移動を開始する。

 

「アキっ!後は任せたわよ」

「うん、任しといてよ」

 美波とすれ違い様にハイタッチ。

 それを見ていた姫路さんも

 

「明久君。わ、私も良いですか?」

 そう言っておずおずと左手を上げて近付いてきてくれたので

 

「うん、おつかれさま」

 姫路さんともパァンとハイタッチ。

 二人が頑張ってくれたのを無駄にしないように僕も頑張らないとね。

 

「木内先生ありがとうございました。田中先生お願いします」

 雄二がそう言うと教室内のフィールドは数学から世界史へ……僕の一番点数の高い科目だ。

 

 

試獣召喚(サモン)!」

 僕の召喚獣が魔方陣の中から現れる。

 

『Fクラス   吉井明久

 世界史    191点』

 

 僕たちの前で一人で仁王立ちして相手が来るのを待っている僕の召喚獣。

 立っている姿は格好良いんだけど……装備が改造ガクランと木刀だと

 どう見ても喧嘩の相手を待っている不良のようにしか見えない。

 次のリセットの時はちゃんと騎士みたいな格好にして欲しいなぁ。

 

 Bクラスの人たちが数人、教室内へ入ってきて僕と僕の召喚獣を見て

 

「まさか、お前一人で俺たちの相手をするって言うんじゃないだろうな?」

「お前ら、こいつを甘く見るな」

 お、珍しく雄二が僕の事を褒めてくれるのかな?

 

「なんせ学園始まって以来の初の観察処分者になるくらいの大バカで」

 あれ?褒めてくれるんじゃぁ……

 

「ちょっと前まで生活費のほとんどをゲームと漫画に注ぎ込んで、塩水で生活するくらい甲斐性なしで」

 そこは今、全然関係ないんじゃないかな?

 

「しかもブサイクだろ……生きているのが恥ずかしくないのか?」

 ひょっとして僕の事言ってるの?

 

「ウチという者がありながら他の女の子にデレデレするし」

「女心が全然わからない鈍感ですしね」

 …………僕の心の最後の砦である美波や、いつも優しい姫路さんまで……

 僕の味方は何処にも居なかった。

 

 ああっ!僕の召喚獣がいじけちゃって、しゃがみこんで泣きながら

 地面に『の』の字を書いているんですがっ!?

 そんな僕の召喚獣に目もくれず、教室内に入ってきたBクラスの人たちが一斉に召喚を始める。

 

「「「「試獣召喚(サモン)!」」」」

 魔法陣がいくつか現れ、その中から召喚獣が出てきて

 一歩踏み出して僕の方へ近付こうとすると……前に進もうとした召喚獣から床の中へと姿を消していく。

 

「「どうしたんだっ!?」」

 いきなり消えた自分の召喚獣を探すBクラスの人たち。

 

 僕の召喚獣は出ているから、僕たちを討ち取るなら自分たちも召喚獣を出して戦闘をしないといけない。

 Bクラスの人たちもそれは判っているらしく、何人かが無駄だと判っていても召喚を試みている。

 だけど結果は……前に進もうとすると召喚獣は消える、の繰り返しだ。

 

「よし、今がチャンスだ。明久、あいつらを挑発してやれ」

「なんか勝ち負けなんてどうでも良くなっちゃったよ……」

「俺たちは負けると姫路が転校しちまうかもしれないんだぞ。お前はそれでも良いのか?」

「くっ……それは嫌だっ」

 どんな形にせよ、友達が居なくなるのは寂しいから嫌だ。

 今までいじけていた僕の召喚獣が立ち上がり、相手の方にお尻を突き出し、おしりぺんぺんをする。

 

「くっ……こんなバカにバカにされるとは」

 心底悔しそうに唇を噛んで僕を睨み殺さんばかりに睨みつけてくるBクラスメンバー。

 ああ、また僕の悪評が増えていく……今更一個や二個増えても変わらないって言わないでっ!

 

「まったくだ。お前ら、人として恥ずかしくないのか?」

「雄二っ!キサマがやれって言ったんだろっ!?」

「何を言うんだ、明久。連中を怒らせて召喚獣の操作を誤らせようという作戦だぞ」

「相手の召喚獣一匹もいないじゃないかっ!!」

 雄二が、ニヒヒと笑っている。

 こいつ、わざと僕をからかっているな。

 

 するとムッツリーニが僕と雄二の制服の裾を引っ張って

 

(…………根本がFクラス前の廊下に来た)

(そろそろだな)

(了解)

 アイコンタクトで会話する僕たち。

 ムッツリーニは今回、ずっと盗聴器で下の階の動向を探っている。

 

(ここに居ると危ないから木下さんは美波たちのところまで下がってもらえるかな?)

(心配してくれるの?吉井君って思ってたより優しいのね)

 にこっと微笑むと美波たちの方へ移動する木下さん。

 秀吉に微笑んでもらったみたいでちょっと顔がニヤけてしまう。

 

 あれ?なんか妙に突き刺さる視線を感じるな?

 妙な視線の元を探るべく、周りを見回すと……指をポキポキ鳴らして般若のような形相をした美波がいた。

 

「ア~キ~~?後で、ちょ~っとお話があるの」

 どう見ても会話のキャッチボールが出来る雰囲気じゃないんですが……

 僕、今日は生きて家に帰れるかな?

 

 

 

 僕たちを取り囲んでいるBクラスの一人が

 

「お前ら、明日も同じ戦法()が使えると思うなよ」

 と、悔しそうに言い放つと

 

「明日まで、この戦争を続ける気は無いぞ?俺は今日中にケリをつけるつもりだからな」

 珍しく真面目な顔で受け答えをしている雄二。

 

「どうやってここから出るつもりなんだ?」

「召喚獣を出せないからって俺たちが素直にここを退()くとでも思っているのか?」

 まぁ普通はそうだよね。

 すると雄二は口の端をにぃっと吊り上げて

 

「お前らの物差しで計るんじゃねぇ。俺たちは……」

 雄二がそう言い掛けると床の下の方から……

 

 

『今じゃっ!!』

 

 

 まさしく地の底から響き渡るような秀吉の声。

 さすが演劇で鍛えた発声だな。

 

「やれっ、明久っ!」

「了解っ!」

 

 大きく腕を上に伸ばし、両手を合わせる僕の召喚獣。

 

「お前ら、何をする気だっ!?」

 ちょっと腰が引き気味のBクラスメンバー。出来れば、そのまま近付かないでいてね。

 

 

 前回のBクラス戦の時、科目は英語だった。

 今回は僕が今一番得意な世界史で、点数はあの時の三倍以上ある。

 単純に召喚獣の力が三倍になる訳じゃないけど、それなりの強さがあるはず。

 あの時は五回殴りつけた。でも、それは何も無い状態の普通の壁だった。

 今、僕がブチ破ろうとしているところは……

 

 

 …………昨日のFクラスのみんなの騒ぎで薄くなった床だ。

 

「だぁぁーーっしゃぁーっ!」

 

 召喚獣の持てる力全てを両の拳に集中して、そのまま床に叩きつける。

 両手から一瞬で僕の全身に痛みが走る。頭はクラクラし、手は指先から足はつま先まで痺れる。

 いつも思うんだけど僕の召喚獣で何かすると必ずと言っていいほど

 フィードバックされる痛みを伴う事ばっかりだ。

 

 ……でも、僕の召喚獣にしか……僕にしか出来ない事だから。

 

 ドゴォォォォッッ!!

 

 物凄く豪快な音がして、床がガラガラと崩れていく。

 もちろん、僕と雄二とムッツリーニはそのまま瓦礫と一緒に……

 秀吉と根本君が待つ、僕たちFクラスの隣の空き教室へ。

 そして落ち際に雄二は……

 

「……俺たちは何があっても前に進むだけだ」

 

 

 

 

「おっ、お前ら……」

 根本君からは、それ以上言葉が出てこなかった。

 日本語を忘れるくらいショックな事でもあったんだろうか。

 

 あれ?なんで根本君が秀吉に抱きついているの?

 僕たち三人の視線が自分に集中してるのを感じ取ったのか、秀吉が

 

「こっ、これはじゃな……落ちてきた破片が根本に当たりそうになって、つい……」

 気のせいか、根本君の頬が少し赤い気がする。

 

 

「…………妬ましい……Fクラス、土屋康太」

「くっ……ムッツリィーニィィ………………(じゃまをするな)

「…………Bクラス、根本恭二に保健体育勝負を申し込む」

 さっきの秀吉の合図で行動を開始したのは僕たちだけじゃなくて

 保健体育の大島先生も空き教室の隣にある階段の方に待機してもらっていて今は教室内に……

 

『 Fクラス   土屋康太   VS   Bクラス   根本恭二

 保健体育    662点   VS   223点         』

 

 ムッツリーニの召喚獣が一瞬で根本君の召喚獣を切り裂いていた。

 

「…………貴様に構っている暇など無い」

 

 そう言うとムッツリーニは両手にカメラを持ち

 僕が今日見た人の中で一番忙しそうに、秀吉の女装を撮っていた。

 

 

「根本よ。おぬし、大丈夫かの?」

 秀吉が傍らに倒れている根本君に向かって話しかけている。

 見たところ、どこも怪我をしているようには見えないんだけど……

 秀吉が心配するくらいだから、さっき天井が崩れた時に何か当たったのかな?

 

「いっ、いや、大した事は無いんだが……」

「おぬしがそう言うのなら良いのじゃが」

「ところで木下は……その……」

「んむ?どうしたんじゃ?」

 秀吉が少し戸惑っていると……いきなり根本君が秀吉の手を取って

 

「俺とちょっと話を……出来れば二人っきりで」

「おっ、おぬし、何を言っておるのじゃっ!?」

 秀吉は根本君の手を振り解くと慌てて飛びのき、僕に抱きついてきた。

 

「ひっ、秀吉っ!?」

 これは今回の試召戦争で頑張った僕への御褒美なんだろうか。

 まさか女の子の格好をした秀吉が抱きついてくるなんて……神様、ありがとう。

 

 そしていつのまにかBクラスの人たちが僕たちの周りを取り囲んでいて

 何かヒソヒソ話をしている。

 

(おい。根本の奴、マジで木下の事……)

(まさか……普通に女好きじゃなかったのか)

(こんなのが代表で良いのか)

 

「根本の奴、終わったな」

「…………自業自得」

 

 …………天井から、物凄い殺気が感じられるんだけど……

 怖くて上を見ることが出来なかった。

 

 

「しかし、雄二に明久よ。いつにも増して今回は、ちと派手にやり過ぎたのではないかの?」

「「そうか(な)?」」

「うむ。いくら、いつも騒動の中心におるとは言っても流石に校舎を破壊すると言うのは……」

 秀吉が少し不安そうに呟く。

 

「大丈夫だろ。別に今回が初めてと言う訳じゃないんだし」

 初犯じゃないから今度はヤバいかもしれない。

 

 

 

 

 

--Fクラスの教室

 

 結局、僕たちはBクラスと設備の交換はしなかった。

 あと三週間もすれば冬休みになって三学期には設備が元に戻るし

 それなら必要な時に何か言う事を聞いてもらった方が良い、と言う雄二の判断だった。

 でも本当は霧島さんのAクラスが隣になるから休み時間ごとに会いに来られるのが嫌なんだろう。

 まったく素直じゃないんだからなぁ。

 

 そして僕たちは今、教室で一休みしている。

 

 

 

 …………僕と美波を除いて。

 

「アキのバカッ!!」

「あっ、あの……ぐほっ」

 

「アキのバカバカッ!!」

「ちょっ、ちょっと……ごほっ、くぺっ」

 

「アキのバカバカバカッ!!」

「ぼっ、僕の……ぐがっ、げほっ、ごぺっ」

 

 おかしい。

 さっき確かに美波は話があると言った。

 そして僕は言葉で美波に話し掛けようとしているのに……

 美波は拳で僕に話し掛けてきている。

 誰か通訳して欲しい……

 

「なんでウチが怒っているのか判る?」

「えっと、良く判らないんだけど……」

「アキが他の女の子にデレっとしてたのが悪いのよっ!!」

 そう言うと僕の左手を取って……思いっきり捻るのかと思ったら

 

「ちょっと、アキっ!血が出てるじゃないっ!?」

 どうやらさっき召喚獣で床を壊して下に落ちる時にどこかにぶつけたみたいだ。

 でも痛みが無かったから全然気がつかなかったよ。

 

「もぅ……傷口が化膿したらどうするのよ」

 美波が僕の手を放して自分の鞄の中を探っている。

 やっぱり美波は優しいな。いつも僕の事を気に掛けてくれて何かあったら心配してくれる。

 ただ、今は指からの出血より、美波に殴られていた身体の方が痛いんだけど……

 そして美波が絆創膏を手に持って

 

「ほら、アキ。手を見せて」

「ありがとう」

 怪我をしている手を差し出すと血が出ている指をティッシュで拭いて絆創膏をくるっと貼ってくれた。

 

 美波は僕の手を取ったまま、僕の指に貼った絆創膏をジッと見ている。

 そして……頬を少し赤く染めて

 

「あのね、アキ。ちょっとお願いがあるんだけど……いいかな?」

「なに?」

「ウチにも……絆創膏貼ってくれない?」

「ええっ!美波も怪我したのっ!?大丈夫?痛くない?」

「ううん、別に怪我をしてるわけじゃないんだけど……」

 鞄から絆創膏をもう一枚出して僕の方に差し出してきたので受け取ると

 

「お願い……アキの手でウチにつけて欲しいの」

 美波が頬を赤く染めて何かを期待するような目で僕をジッと見ている。

 その目を見ていると……僕がやってあげなきゃいけない気がしてきた。

 

「えっと……何処に貼れば良いの?」

「アキと同じ所にお願い」

 そう言うと、スッと手を出してきた。

 改めて美波の手を取ると……僕と比べると小さくて綺麗な手だ。

 何処にあんな破壊力のある攻撃が繰り出せる力があるのか不思議だ。

 

「アキ……」

「今貼るね」

 美波が僕の指に巻いてくれたように

 僕も美波の左手の薬指に絆創膏を巻いてあげた。

 

 すると……頬を更に赤く染めて大きな目を潤ませながら僕を見上げて

 

「アキ……ありがとう」

 そう言うと嬉しそうに僕が巻いてあげた絆創膏に見入っている。

 さっきまで怒っていたのが嘘のようなすごく優しい笑顔で……僕もずっとその笑顔を見ていたい。

 

 

 

 ん?そう言えば、ここ教室だったんだっけ?

 そう思い出して周りを見てみると……

 

「式には是非とも呼んで欲しいのぅ」

「…………頑張れ」

「明久、俺より先にお願いするぜ」

 ニヤニヤした顔が三人と

 

「美波ちゃん、幸せそう……」

 顔を赤くしてうっとり見てる人が一人。

 

 なんか、みんな幸せそうだし

 なにより美波がすごく嬉しそうだから良いかな。

 

 


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