僕とウチと恋路っ!   作:mam

23 / 111
僕とウチとテスト勉強part09

 来週から期末テストが始まる。

 テスト前の最後の週末。

 今日は霧島さんの家で期末テスト対策の勉強会を泊まりで開いてくれる事になっている。

 確か一学期の時もやってもらったけど、あの時のテストでは一番自信を持って受けた世界史で

 名前を書き忘れるという大きなミスをしちゃったからなぁ。

 

 美波と二人で霧島さんの家の前へ……

 

「相変わらず、すごい家ね」

「そうだね」

 呼び鈴を鳴らしてから待つ時間が分単位なんて家は滅多に無いだろう。

 美波と待つ事、しばし……大きなドアが開いて……

 

 …………猫耳を付けたメイド姿の霧島さんに出迎えられた。

 あれ?よく仮装するイベントのハロウィンは一ヶ月くらい前に終わってるよね?

 

「……吉井と美波。いらっしゃい」

「「お…お邪魔します…」」

 どういうリアクションをしたら良いか判らないので普通に挨拶をした。

 そして長い廊下をメイド姿の霧島さんについて歩いていき

 しばらくすると、前に来た時に使わせてもらった勉強部屋に着いた。

 霧島さんにドアを開けてもらい、中に入ると……

 

「明久と島田。ずいぶん遅かったな、待ちくたびれたぞ」

 猫耳を付けた執事姿の雄二が居た……今日は仮装して来ないとダメだったんだろうか?

 

 部屋の中には、また何か言い争いをしているムッツリーニと工藤さん

 相変わらず可愛い顔をしている姫路さんに秀吉がいた。

 霧島さんと雄二以外は普通の格好だから仮装しなければいけない訳でも無さそうだ。

 

「あのさ、雄二?」

「なんだ?」

「何で霧島さんと雄二はそんな格好をしているの?」

 すると猫耳を付けた雄二が僕を睨んできて……笑っちゃダメだっ。

 でも美波は雄二に背中を向けて小刻みに震えている。

 

「貴様のせいだっ!」

「どっ、どうしたのっ?」

 その格好で迫らないで欲しい……笑いを堪えるのも大変なんだよ?

 

「貴様がメイド服なんか着るから、俺は……俺は……」

「僕がメイド服を着ると、なんで雄二が猫耳なんて付けるのさ?」

 そもそも一番最初に僕がメイド服を着たのは雄二のせいだったんじゃなかったっけ?

 

「これには深い理由(ワケ)があるんだ……それにタキシードは着てないから、まだ俺は自由の筈だっ」

「一体どうしたのさ……それにタキシードなら、この前如月ハイランドで着てたじゃないか」

「とにかく、すぐに勉強を始めるぞっ。時間が勿体無いからな」

 雄二に教わる人は笑いを堪えるのが大変だな。

 

 

 

 僕とムッツリーニが雄二に勉強を教わっている。

 ムッツリーニの鼻血対策のためだ。

 前回、霧島さんの家で勉強会をした時、ムッツリーニはずっと工藤さんと保健体育の討論をしていた。

 そのせいで失血死しそうになっていたから今回は男同士で、と言う事になり、この組み合わせになった。

 さすがに僕とムッツリーニが笑い出して勉強にならなくなるので、雄二は猫耳を外している。

 

「わしも男なのじゃが……」

 秀吉の意見は当然却下された……主に女性陣に。

 

 前回は成績を伸ばしやすい科目と言う事で世界史を中心に勉強をしていたけど

 今回は全体の底上げと言う事で苦手な科目から勉強をする事に……

 でも正直に言って苦手な科目ほど集中力が続かないんだよね。

 そして僕もムッツリーニもほとんどの科目が苦手な上に教えてくれるのが雄二だから尚更だ。

 あっちの席は女の子(秀吉を含む)だけだから、華やかで良いなぁ。

 

「ほら、明久。ぼーっとするな」

「あ、ごめん」

 隣のムッツリーニを見ると、ノートとにらめっこはしているんだけど……

 僕と同じようにあまり書くのは進んでいないみたいだ。

 

「お前らの点数が全体的に上がれば試召戦争ももっと楽に勝てるようになるんだがな」

「もっと点数が取れる科目を増やさないとダメって事かな」

「ああ。明久は召喚獣の操作は他の奴に負ける事は無いから点数がある程度あれば大丈夫だろ」

「いつも先生の雑用で、こき使われているからね」

「ムッツリーニも保健体育は安心出来るんだが、それ以外の科目がな」

「…………頑張る」

「お前ら二人がしっかりしてくれないと勝てるもんも勝てないからな」

「姫路さんは?」

 学年首席の霧島さんの次に頭が良いはずの久保君に総合の点数で勝てるくらいだし。

 

「姫路は確かに召喚獣は強力だけど、本人の体力の問題があるしな」

「そっか」

 確かに僕とムッツリーニなら二階から飛び降りるとか全然気にならないけど

 姫路さんだと、そうはいかない。女の子だしね。

 

「でも今は、目の前の期末テストに集中しろ」

「そうだったね」

「…………了解」

 仕方ない。楽しいクリスマスやお正月を迎えるために頑張りますか。

 

 

 

「……みんな、そろそろ夕飯だからこっちに来て」

 霧島さんに呼ばれて時計を見ると午後六時過ぎ。

 ペンを置いて、凝り固まった身体を(ほぐ)そうと

 んー、と身体を伸ばしていると

 

 サワッ

 

「ひぁっ!」

 いきなり首筋にくすぐったい何かの感触が……

 

「ふふっ。アキってば、『ひぁっ』って変な声」

 美波が自分の髪の毛を片手に楽しそうに僕を見ている。

 

「美波、何するのさ」

 僕が美波に向かって話しかけていると

 

 サワッ

 

「ひぁっ!」

 またしても首筋にくすぐったい感触が……

 

「明久君、可愛い声です」

 声のした方を見ると姫路さんが自分の髪の毛を片手に楽しそうに笑っている。

 

「姫路さんまでっ!?」

 僕の首筋をくすぐる遊びが流行っているのだろうか。

 これはこれで嬉しいんだけど……

 

「二人とも髪が長いから良いな~。ボクの髪だと短すぎて出来ないや」

 工藤さんが珍しく()ねた感じでそんな事を言っている。

「じゃあ、仕方ない。ボクに出来る事をするよ」

 

 ピラッ

 

 プスッ        (美波に僕が目潰しをされた音)

 プシャァァァァァッ  (ムッツリーニが鼻血を出した音)

 

「おぬしらはいつまでたっても進歩しないのぅ」

「美波ちゃんも大変です……」

「大変なのは僕の方なんだけど……」

「なによっ!アキがいやらしい目で愛子を見るからいけないんじゃない」

「今のは見ようと思ってた訳じゃ……」

「あはは。ゴメンね、吉井君」

「お前ら、遊んでないで飯行こうぜ」

 いつまでも部屋を出ようとしない僕たちに、雄二が促すように話しかけてくる。

 

「……じゃあ、みんな。ついてきて」

 霧島さんが先導してくれるみたいだけど

 僕は視力が戻らないので美波に手を引かれて部屋を出た。

 少し歩いていくと、だんだん御馳走の良い匂いがしてきた。

 そして部屋に入るといっそう良い匂いは強くなったんだけど

 僕は、まだ目が見えないので想像だけが膨らんでくる。

 この前と同じ中華料理だろうか。でも匂いだけでもすごく美味しそうだというのは判る。

 

「……じゃあ、適当に座って」

「「「はーい」」」

 霧島さんに言われたとおり、各々適当な席に座る。

 僕は美波に手を引いてもらって席に着いたので当然僕の隣に美波が座っている。

 

 

「「「いただきまーす」」」

 みんなで元気良く挨拶をして楽しい夕食の始まりだ。

 

「うーん、ちょっと見づらいな」

 美波に目潰しをされたので視界がハッキリしない。

 少しずつは戻ってきているんだけど。

「さっきのはアキも悪いんだからね……仕方ないからウチが食べさせてあげるわよ。ほら、あーん」

「あーん」

 もぐもぐ……これはチンジャオロースーだろうか。うん、美味しい。

 

「本当におぬしらは仲睦まじいのぅ。食事を始めたばかりなのに御馳走様と言いたくなるわい」

「…………(コクコク)」

「ホント、羨ましいなー。ムッツリーニ君もボクが食べさせてあげようか」

「…………自分で食べられる」

 

「……雄二」

「なんだ?(プスッ)……うぎゃぁぁぁ、いきなり何をするっ!?」

 ハッキリは見えなかったけど霧島さんが雄二に目潰しをしたみたいだ。

 

「……雄二、あーん」

「くっ……目が見えないんじゃ仕方ねぇか」

 うっすらと見える視界の中で、雄二が普段より大人しく霧島さんに食べさせてもらっているけど

 なんか麻婆豆腐が紫色だったり、春巻がピンクだったり……

 雄二のだけ、すごく派手な色をした中華料理だった。

 全然羨ましくないけど。

 

「うぅ……美味しすぎて食べ過ぎちゃいます。また太っちゃう……」

 姫路さんが美味しそうに食べながら心配する、と言う器用な事をやっている。

 

「そんな心配しなくても姫路さんはスタイル良いんだし、気にしなくても良いんじゃないかな」

「そうよ。瑞希なんて食べなければ痩せられるんだから良いじゃない」

 美波が姫路さんの一部分を見ながら羨ましそうに呟いている。

 

「ウチなんて食べても出て欲しい所は全然出ないし……って、ウチ何言ってるのっ」

「あはは。ところで吉井君はやっぱり胸はおっきい方が好きなのカナ?」

 こんな時になんて危険な質問をっ!?

 美波の攻撃射程内に居るから答え方を間違えると、これが最後の晩餐になってしまう。

 考えろっ、僕……そうか、僕が答えを考える必要はないんだ。誰か他の人の答えを参考にしよう。

 

「ムッツリーニはどうなのかな?」

「…………愚問」

 ちょっと答えが簡単すぎないっ!?

 しかも全然参考にならないし……仕方ない、雄二に振ってみるか。

 

「もごっ、むがぁぁぁぁ」

 ダメだ。

 普通の食べ物ではありえない、すごく綺麗な色をした中華料理を霧島さんに口に詰め込まれている。

 周りを見回してみる……男子は僕と雄二とムッツリーニしか居ない。

 

「明久よ。わしを忘れてはおらぬか?」

「秀吉は比べられる側なんだから好きかどうかなんて関係ないじゃないか」

「わしは男じゃぞっ!何で比べられる側になるんじゃっ!?」

「木下は今でも胸が成長してるんでしょっ!ウチを置いて瑞希みたいにたゆんたゆんになっちゃうんでしょ!」

 僕がうっかり話しちゃったあの噂、美波はまだ信じていたんだ……しかもそんな真剣に。

 

「わしにとってそれは不幸以外の何物でもないのじゃが!?」

「出来れば、そういう話は僕たち男子の前では控えてくれると嬉しいんだけど……」

 このまま工藤さんの質問も流しちゃえ。

 

「明久よ。わしは男子と女子のどっちに含まれておるのじゃ?」

「もちろん女子」

 こんな簡単な質問なら即答できるんだけど。

 

「何故じゃっ!?わしは男だと何度も言っておろうがっ!」

「そう思ってるのは秀吉だけだと思うよ」

 秀吉にとっては辛いかもしれないけど現実を教えてあげるのも友達の役目だよね。

 

「むぅ、納得いかんっ!」

「木下君も少し落ち着きなよ。せっかくみんなで食事してるんだし」

「そうは言うが工藤よ。わしは男なのに、女として見られているのが納得いかんのじゃ」

「木下君、わがままを言っちゃダメですよ」

「そうよ、木下。アキを誘惑しないでよね」

「姫路と島田までそんな事を言うのか……ならば、決めたのじゃっ!」

 何かを決意したのか、両手をグッと握り締める秀吉。

 

「今日こそ明久たちと一緒に風呂に入るのじゃっ!!」

「えええっ!?そんなのダメだよっ!!」

「何がダメなのじゃっ!男同士で裸の付き合いをするのじゃっ!」

 あ、ムッツリーニが鼻血を出して倒れた……すごく幸せそうな顔をしているな。

 

「そっ、そうよ、木下。ウチより先にアキと一緒に入るなんて許さないわよっ!」

「みっ、美波まで何言ってるのさっ!?」

「なによっ!アキはウチより木下と一緒に入りたいって言うのっ!?」

「えーと……」

「落ち着くのじゃ、島田よ。おぬしと明久は一緒に入ると色々まずいじゃろうが、わしならば男同士ゆえ問題は無いはずじゃ」

「問題大有りよっ!アキっ!?ウチと木下とどっちと一緒にお風呂に入るのっ!?」

 ヤバい。美波が暴走し始めちゃったよ。

 『どっちが良いか』から『どっちと一緒に入るか』になっちゃってるんだけど……

 どっちって言われたら秀吉には悪いけど、やっぱり美波の方が……あ、想像しちゃった。

 

 プシャァァァァ

 

「きゃぁ、アキっ!何でいきなり鼻血出してるのよっ!?」

「僕は美波以外の人には興味ないから……心配しないで」

 僕が美波の手を握ってそう言うと……

 

「アキ……疑ったりしてゴメンね」

 ぎゅっ……と、美波が僕の頭を優しく抱きかかえてくれる。

 

「あの……美波ちゃん?早く明久君の鼻血を拭いてあげた方が……」

「やっぱりみんなは楽しいねぇ……って、ムッツリーニ君大丈夫?」

 ムッツリーニも工藤さんに抱きかかえられて出血の量が増えたみたいだ。

 今ならムッツリーニが鼻血を出しても幸せなのが良く判る。

 

「うーん、やっと視界と意識が戻ってきたな……って、なんで明久とムッツリーニが血を流して倒れているんだっ!?」

 雄二が正気に戻ったらしい……やっぱり綺麗な色をした料理のせいだったのだろうか。

 

「……雄二」

「なんだ?」

「……私と一緒にお風呂に入りたい?」

「ごほっ、げほっ……お前はいきなり何を言ってるんだっ!?」

「……雄二もあの二人を見習って私の裸に興奮するべき」

「んな見た事も無いもんに興奮なんて出来る訳が(ブスリ)ふごぁっ!?(プシャァァァ)」

 雄二の鼻に霧島さんの綺麗な指が滑り込み

 指が引き抜かれると、そこから勢い良く鼻血が噴き出した。

 

「……これで良い」

「良い訳があるかぁっ!いきなり何しやがるっ!?」

「……雄二は私の裸を想像して興奮しないといけないから」

「これはお前の裸を想像して出た訳じゃないからなっ!(プシャァァ)」

 興奮したせいか雄二の鼻血の量が増えたみたいだ。

 結局霧島さんに興奮しているじゃないか。

 

 

 食事が終わって一休みしてから勉強をしようということになり

 僕たち男子三名と秀吉が同じ部屋で休んでいる間中

 

「納得いかんのじゃ」

 

 秀吉はずっとぶつぶつ言っていた。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。