僕とウチと恋路っ!   作:mam

21 / 111
僕とウチとテスト勉強part07

 ……ゆさゆさ

 

「……アキ……」

 

 ……ゆさゆさ

 

「もう……起きないなら……」

 

「……アキくん。早く起きないとチュウしますよ?」

「わぁっ。起きたっ、起きたよっ」

 ヤバい。チュウされる前に逃げなくてはっ!

 慌ててソファから逃げ出すと……

 

「アキ?ゴメンね」

 あはは、と笑いながら美波が僕に謝っている。

 

「ひょっとして……今の美波が?」

「うん。アキがなかなか起きてくれないから……ちょっと、ね」

 美波が片目を瞑って僕に向かって手を合わせている。

 

「ビックリしたよ」

 本当にビックリした……まだ心臓がドキドキしてる。

 

「本当にゴメンね……ちょっと怒ってる?」

「そんなことは無いけど……」

 ソファに座り直して時計を見てみると6時40分。

 休みなのにずいぶん早いな。姉さんと葉月ちゃんはまだ寝てるかな?

 さすがに僕もまだちょっと眠い。

 大きな欠伸(あくび)を一つして少し目を(つむ)っていると……

 

「……お詫びのしるし」

 仄かにシャンプーの良い匂いがして……

 頬に温かい感触が……

 ビックリして目を開けると美波の顔がすぐ近くに……

 さっきとは違うドキドキが……でも、このドキドキはすごく嬉しい。

 

「目が覚めた?」

「うん……」

「じゃあ、改めまして……おはよう、アキ」

「おはよう、美波」

 

「ふふっ。でも安心したわ」

「なっ、なにを?」

 僕が温かい感触のあった頬を手で押さえながら聞き返すと

 

「その様子だとアキは玲さんからキスされるのを嫌がってるみたいだから」

「姉弟なんだから当たり前だよ」

「姉弟じゃなかったらキスしたいの?」

「したくないよ」

「そっか……朝から驚かしてゴメンね」

 どこか安心したような表情を見せる美波。

 

「ねぇ、アキ。散歩がてら朝食の材料を買いに行かない?」

「うん、いいよ。ちょっと顔洗ってくるから少し待っててね」

 今日のお昼用に買ってきた食材を昨日の夕御飯で少し使っちゃったし

 それの補充もしておくかな。

 

 毛布を片付けながらソファの後ろを見てみると……加湿器が動いている。

 あれ?昨日はエアコンはつけたけど加湿器は動かしてなかった気がする。

 それに加湿器は確か違う所に置いてあった気が……

 

「ねぇ、美波。昨日、加湿器動かした?」

「ウチは知らないわよ?」

 どうかしたの?、と美波に聞かれたけど……

 

 そう言えば、エアコンをつけっぱなしで寝ると喉が痛くなったりするけど

 今日は特に無いな……この加湿器のおかげかな?

 でも、僕も美波も知らないと言う事は姉さんか葉月ちゃんしか居ない。

 まさか雄二やムッツリーニが夜中に僕の家に来る訳無いし。

 葉月ちゃんが夜中に加湿器を動かすとは思えないから残るは姉さんだけなんだけど……

 

 姉さんが僕に何かしてこないのは珍しいな。

 でも下手に何か聞いて藪から蛇ならまだしも

 姉さんが相手ならドラゴンとか出てきそうな気がするから、やめておこう。

 

 毛布を片付けて顔を洗って出掛ける準備をしてリビングへ……

 美波は、すでに出掛ける準備は終わっていたらしく

 テーブルの上に、僕たちが出掛ける事を知らせるメモを書いていた。

 

「お待たせ」

「じゃあ、行きましょ」

 

 

 

 外に出ると吐く息が白い。

 さすがに12月も近くなると朝は結構寒いな。

 身体を少し縮こまらせていると

 

「アキ、寒いの?少しジョギングでもしていく?」

「出来れば休みの日くらいは朝はゆっくり歩いていたいな」

 ほぼ毎朝、学校で走っているからなぁ……命がけの追っかけっこで。

 

 僕の腕に美波が腕を絡ませてきて

 

「ふふっ、そうね。朝早く起きるのも良いでしょ?」

「そうだね。早起きは三文の徳って言うし」

「何それ?日本のことわざ?」

 美波が大きな吊り目をパチクリさせて聞いてくる。

 

「うん。早起きすると良い事があるって事だよ」

「早速良い事あったでしょ?」

 そう言うと僕の腕をぎゅっと抱き締めてくる。

 確かに今朝は痛い思いをせずに美波におはようのキスもしてもらったし

 朝から美波と一緒にお出掛けも出来るし……と、思いながら歩いていると

 

「殺されてたまるかぁあーっ!」

 清々しい朝にすごく似合わない事を叫びながら走ってくる奴が居る。

 一体何処のバカだろうと思っていると……

 

「明久と島田かっ!ちょうどいい、助けてくれっ!」

 雄二だった……なるほど、納得だ。

 

「こんな朝早くからどうしたのさ?」

「何よ、坂本。こんな所までジョギングしにきたの?」

「……翔子に…追われて…いるんだ……」

 息を切らせながら僕たちの後ろへ回り込む雄二。

 確かに世界広しと言えど、ここまで雄二を追い詰める事が出来るのは

 僕は霧島さんと鉄人くらいしか知らない。

 

「……雄二。何で逃げるの?」

 手に鎖を持って霧島さんが現れた。

 全速力で走ってきた雄二を追い掛けてきて息切れ一つしていない。

 

「お前こそ、なんでそんなもんを持って追っかけて来るんだっ?」

「……私は雄二と朝の散歩に行こうと思っているだけ」

 チャラ、と手に持った鎖を動かしながら言う霧島さん。

 その様子を見ていると霧島さんに引っ張られている雄二が目に浮かぶようだ。

 

「雄二、せっかくなんだから霧島さんと朝の散歩をしたら良いじゃないか」

「そっ、そうね」

 美波も何かを想像したらしく笑いを堪えている。

 

「お前ら、他人事だと思って……」

「……じゃあ、雄二。私と腕を組んで家まで帰ってくれるなら、これは使わない」

 僕たちを見ながら雄二にそう告げる霧島さん。

 そう言えば朝早いし、ほとんど人影が無かったから美波と腕を組んだままだった。

 

「くっ……どっちも恥ずかしい事に変わりはねぇが、鎖よりはマシか」

 雄二が負け犬の遠吠えのように呟いている。もっと素直になれば良いのに。

 渋々と言った感じで雄二が僕たちの後ろから霧島さんの方に歩いていく。

 

「ところでお前らは何でこんな朝早くから“ガシッ”腕を組んで歩いているんだ……って、いてぇぇぇ」

 朝から五月蝿い奴だな。少しは近所迷惑を考えて欲しい。

 

「しょっ、翔子っ!?腕を組むのと関節技を極めるのは違うぞ?」

「……雄二を二度と離さないように」

 ポッと頬を染めて俯く霧島さん。

 

「逃げられる訳ないだろっ!こんなに腕を捕まれてたら……だから早く技を解けっ」

「……私を一生離さない?」

「趣旨が変わってるだろっ!」

 この二人に関わっていると朝食が昼食になりそうだ。

 

「僕たち朝食の材料を買いに行くところだから、この辺で失礼するね」

「そっ、そうか?じゃあ、また後でな……うぎゃぁぁぁぁ、関節を極めたまま歩くなっ」

「じゃあね、坂本と翔子。また後で」

「……うん、楽しみにしている」

 雄二は鎖で引っ張られていった方が痛くなかったんじゃないかな?

 

 

 

 そしてスーパーで朝食の材料と昨日の夕食で使った分の食材を買って帰った。

 家に帰ると姉さんと葉月ちゃんも起きていて、すぐに朝食を作り

 食べ終わって一休みすると今度はお昼の用意を始める。

 十人分は作るから結構な量になるな。

 

 姉さんは少し仕事を片付けてくると言って自分の部屋へ行った。

 勉強ならともかく料理の事で姉さんに手伝われるとたぶん酷い事になるから助かったけど。

 

「さて始めようか」

「うん。アキ、よろしくね」

「葉月もお手伝いするですっ」

 この三人で料理を作るのは以前パエリアを作った時以来だな。

 

「葉月ちゃんには何からやってもらおうかな」

「葉月、お野菜の皮むきとか出来ますっ」

 手を上げて返事をしてくれる。

 

「大丈夫?」

 一応美波に確認してみると

「家でもやってるからピーラーを使えば大丈夫よ」

「はいですっ。おうちでもお姉ちゃんに教えてもらってるですっ」

 にこにこと笑顔の葉月ちゃんの頭をよしよしと撫でている美波。

 

「すごいね」

「ありがとうですっ。早く葉月もお料理を作れるようになってバカなお兄ちゃんに食べてもらいたいです」

「楽しみにしてるよ」

 僕も葉月ちゃんの頭を撫でてあげると、んにゅ~と目を細めて喜んでくれて

 

「そして葉月がお姉ちゃんくらいにおっきくなったら、お兄ちゃんと一緒に暮らすんですっ」

 満面の笑顔でそう言われた。僕が、あはは、と笑っていると

 美波がキッと僕を睨み

 

「アキ?判ってはいると思うけど……」

「わっ、判ってるよっ。もちろんそう言う訳にはいかないよね」

 今度は美波に向かって、あはは、と笑ってみせる。

 

「もちろんよ。その頃には、きっとウチと一緒に暮らしてるはずだから」

「葉月ちゃんとは今も一緒に暮らしてるんじゃないの?」

「何で葉月なのよっ!?アキに決まってるじゃないっ」

「ええっ!僕となのっ!?」

「お姉ちゃんも葉月たちと一緒に住みたいんですか?」

 葉月ちゃんが首を傾げながら美波に聞いている。

 

「えっ?あっ、ちっ、違うのよ葉月。そっ、その……」

 美波が耳まで真っ赤になって葉月ちゃんに向かって手をばたばたさせながら説明している。

 すごく困ってるように見えるから助けてあげるかな。

 

「葉月ちゃん。このニンジンを洗って皮を剥いてくれるかな?」

 はい、とニンジンを手渡す。

「はいですっ。葉月頑張るですっ」

 ニコニコとニンジンを洗い出す葉月ちゃん。

 

「アキ、ありがと」

「僕たちも頑張って作らないとね」

「ふふっ、そうね」

 良かった、美波が笑顔になってくれて。

 

 

 

 僕と美波、それに葉月ちゃんも手伝ってくれたおかげで

 11時過ぎにはデザートを残して料理は大体仕上がった。

 後は温めたり、盛り付けをするだけとなった。

 そこへ姉さんがやってきて……

 

「すごく美味しそうですね」

「はいっ。きっと美味しいですっ」

 両手を上げて葉月ちゃんが元気良く返事をしている。

 

「楽しみですね」

 にっこり笑っている姉さん。でも、その笑顔に何か引っかかるものが……

 雄二たちが来るまで、ちょっと逃げてた方が良いかな?

 

「僕、朝早くから起きてたからちょっと休んでくるかな」

 自分の部屋へ戻ろうとしたところを……

「ところでアキくん?確かにこの料理はすごく美味しいと言うのは判りますが」

 姉さんが僕の腕をガシッと捕まえて

「せっかくですから、みんなでこれに着替えておもてなししませんか?」

 ぴらっと差し出してきたのは…………メイド服だった。

 何でまたメイド服っ!?そんなに好きなら自分だけ着れば良いじゃないかっ!!

 

「ねっ、姉さんっ!まさか僕にまたそれを着ろって言うのっ!?」

 この前は美波と姉さんだけだったから仕方なく着たのに……

 今日はムッツリーニも来るんだよ?

 絶対、僕のメイド姿の写真は学校でばらまかれるに決まってるっ!!

 

「せっかく三着あるんですから、みんなで着てみませんか」

「それなら姉さんと美波と葉月ちゃんで良いんじゃないの?」

「あぅ……葉月も着たいですけど、ぶかぶかです」

 葉月ちゃんが袖に腕を通してみているけど確かに大きすぎるな。

 

「ウチはアキが可愛いって言ってくれたから着るのは良いんですが……」

 そう言って僕を見る美波。何を期待しているのっ!?

「どうせならアキとペアルックしてみたいです」

「ちょっ、ちょっと美波っ!?ペアルックって僕がメイド服着たら女装だよっ!?」

「大丈夫よ。アキのメイド服姿、すごく可愛かったから」

 美波が満面の笑みで僕に話しかけてくるけど……いくら美波の頼みでも、これだけはっ!!

 

「葉月もまたバカなお兄ちゃんのメイドさんの格好見たいですっ」

 僕の袖を引っ張りながら見上げるように僕をジッと見てお願いしてくる葉月ちゃん。

 可愛いおねだりだから聞いてあげたいけど、これだけは絶対だめだっ!!

 

「あら、葉月ちゃんもアキくんのメイド姿を見たことあるんですか?」

 姉さんがビックリして聞いている。

「はいですっ。前にお姉ちゃんたちの学校のお祭りで見ましたっ」

 確かに清涼祭の時にメイド服着て学校の中を走り回ったけど……

 あれ以降、僕を見る変な視線が増えた気がする。

 

「学校でメイド服を着てたなら良いじゃないですか。みんな知ってるんでしょう?」

「全然良くないよっ!?」

「私はアキくんをそんな風に生んだ覚えはありません」

「ちょっと待ってっ!そこは育てた覚えだよね!?」

 僕を生んでくれたのは母さんの筈だ。

 

「あぅ……葉月もメイドさんになってみたかったです……」

 がっくりとうなだれる葉月ちゃん。そうか、みんなと同じ格好をしたかったんだね。

 でもさすがに僕がメイドになるのは……その時、姉さんが

 

「あ……そう言えば葉月ちゃんに似合う服があったと思います」

 と言って廊下の方へ……何処に行ったんだろう?

 

「ねぇ、アキ?」

「どうしたの?」

「ウチのお願い聞いてくれる?」

 頬を染めて潤んだ瞳で僕を見つめてくる。

 こんな可愛い美波のお願いなら何でも……

 

「メイド服を着るの以外なら何でも聞いてあげるよ」

「何でダメなのよっ!?」

「そうですっ。葉月がこんなにお願いしてもダメなんですかっ」

「ダメなものはダメなのっ!これ以上僕に女装趣味があると思われたらお婿に行けなくなるじゃないかっ」

 この際だからハッキリと言っておこう。

 

「「「そんな心配しなくても」」」

 あれ?三人?

 

「ウチがお婿にもらうんだからっ!」

「葉月のお婿さんですっ!」

「私がもらいます」

 ちょっと待ってっ!何で姉さんも参加してるのっ!?

 

「何で姉さんまで……って、手に持っているのは?」

 姉さんが何か服を持ってやってきた。

「アキくんのおさがりで申し訳ないのですが」

「バカなお兄ちゃんが着ていたんですかっ」

 不思議な国のアリスが着ているようなエプロンドレス。僕は全く記憶がない。

「ええ。とっても似合ってました」

「葉月も見たかったです」

「大丈夫よ。きっとアキは代わりにメイド服を着てくれるから」

「ほんとですかっ。バカなお兄ちゃんっ」

 目をキラキラとさせて僕を見る葉月ちゃん。そんな期待されてもっ!?

 

 ふぅ…と、ため息をついて姉さんが僕を見て

 

「アキくん?みんなでこんなにお願いしているんですから聞いてくれませんか?」

「そうね。ウチもこんなにお願いしているんだし」

「葉月もですっ」

 三人が睨む様に僕を見つめる……その視線に耐え切れず、僕は……

 

「嫌なものは嫌なんだーーっ!!」

 走って逃げようとしたけど……美波に腕を掴まれて姉さんに羽交い絞めにされた。

 

「仕方ありません。アキくんが嫌だと言うなら……」

「嫌だと言うなら?」

「力ずくで着替えさせます……下着まで」

 ポッと頬を染めてすごい事を言い出したよ、この人!?

 さすがに美波は顔を真っ赤にして動かなくなったけど、葉月ちゃんは喜んでいる。

 きっとどう言う事なのか、ちゃんと判ってないみたいだ。

 

「何で下着まで着替えるのさっ!?」

「着替えるんじゃありません。脱ぐだけです」

「何で脱ぐだけっ!?」

「メイド服が嫌だと言うなら……裸エプロンになってもらおうかと」

「何で、その二択なのっ!?」

「私はどちらでも構いませんが」

 ダメだ……美波は首まで真っ赤になって動かなくなるし、葉月ちゃんは首を傾げているだけだ。

 やると言ったら、やる人だからどちらかを選ぶしかないのか。

 

 

「……じゃあ、着替えてくるよ」

「ありがとうございます」

 にっこりと悪魔のような微笑みをする姉さんにメイド服を手渡される。

 自分で誘っておいて言うのもなんだけど、みんな都合が悪くならないかな。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。