僕とウチと恋路っ!   作:mam

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「……雄二」
「何だ、翔子?」
「……私、傘を持ってくるのを忘れた」
「雨降るって天気予報で言ってたのにか?」
「……うん」
「珍しいな、お前が忘れるなんて……なんか、あったのか?」
「……ううん、家を出る時は持っていたんだけど」
「途中で置き忘れるような場所なんかあったか?」
「……うん。教室に忘れてきた」
「取りに行けっ!」
「……雄二の傘に入れてくれないの?」
「入れてやるのは良いが……家に帰るより教室に傘取りに行った方が早いだろ」
「……うちまで送ってくれなくても良い。雄二の家までで大丈夫」
「そこから誰か迎えに来てもらうのか?」
「……ううん。そのまま雄二の家に嫁入りするから(ポッ)」
「狐の嫁入りかっ!?」
「……夢や幻じゃないって雄二でも判るようにしてあげる」
「なっ、何でいつも顔を掴むんだぁぁぁっ」




僕とウチとテスト勉強part02

 

 

--放課後

 

「あーあ、本当に雨……降ってるなぁ」

 外を見て、ため息をつく。

 今朝、美波が言ってた通り、外は雨が降っている。

 このボロい校舎だと壁の隙間から雨音が聞こえてくるようだ。

 

「うぎゃぁぁぁぁぁ」

 外の雨音が聞こえてきそうな静かな教室に響く雄二の叫び声。

 また霧島さんと遊んでいるのか。

 雄二は、違うクラスの霧島さんと一緒に居る時間が一番長いんじゃないかな。

 

「アキ、帰らないの?」

 美波が鞄を持って僕の傍にやってきた。

 

「うん、鞄を置いて帰るかな。どうせ家でもそんなに勉強しないし」

 制服は濡れても乾かせば元に戻るけど、教科書やノートはそうもいかない。

 

「ダメよ、ちゃんと勉強しないと」

「そうなんだけどね……」

「じゃあじゃあ、うちに来て一緒に勉強しない?」

 僕の袖を引っ張りながら、僕の顔を見上げてる美波。

 

「うん、僕からお願いしたいくらいだけど……今朝も言ったけど今日は傘を持ってきてないんだ」

 美波と一緒に勉強できるのは嬉しいけど

 ずぶ濡れのままいると、いくら僕でも風邪引いちゃうし

 美波の家も大変な事になるだろう。

 

「ウチの傘で一緒に帰ろ?」

「いいの?」

「もちろんよ。アキと一緒に傘に入れるから嬉しいし」

 ポッと頬を染めてもじもじする美波。

 

「じゃあ、お願いしようかな」

「うんっ」

 美波は、パッと笑顔になると僕の手を引っ張るように教室の外に向かう。

 

 すると教室の扉がガラッと開いて……

 

「お姉さまっ!美春と相合傘で帰りましょうっ!」

 傘を手にした清水さんが現れた。

 

「美春っ!?ウチはアキと一緒に帰るのよ」

「清水さんは傘を持ってるのに美波と相合傘するの?」

「この傘は今から貴方をぶっ叩いて血の雨を降らせるための傘なのです」

 ビシッと手に持っている傘を僕に向ける。

 

「そして悪者をやっつけた美春はお姉さまの傘で相合傘をしてそのままお布団へ行くのです」

「いい加減にしなさい、美春っ!」

「お姉さまは、そこの下衆野郎に騙されているのですっ!」

「何で美春はアキの良さが判らないのっ!?」

「美春とお姉さまの仲を邪魔するクズ野郎に良いところなんてあるはずがありませんっ!」

 言い切られた。

 

「アキは優しいし、いつもまっすぐで一生懸命だし……ちょっとバカで鈍感でおっちょこちょいなだけで」

 やだな、泣いてないよ?

 

「とにかく美春は、この傘と引き換えに貴方のポジションをもらうのですっ!」

 その傘で普通に帰るという選択肢は無いのだろうか。

 

「ウチはアキと帰るからねっ!」

「お姉さま、すぐに始末するのでちょっと待っててください」

 傘を構えて僕に狙いをつけている。

 

 僕は美波の肩をちょんちょんと軽く叩いて畳を指差す。

 美波が片目を瞑って僕に返事をしてくれた。

 

「この場で死んで汚い華を咲かせて、その座を美春に明け渡すのですっ!」

 僕めがけて傘を突き出してくる。

 でも、そのタイミングは朝見ているから……

 

畳返(たたみがえ)しっ!」

 僕が畳を返すと、そこに傘が突き刺さる。

 やはりFクラスのボロボロの畳だと傘の勢いはあまり止まらず

 そのまましゃがんだ僕の顔めがけて傘の先っぽが……

 美波が手刀で傘の軌道を変える。

 

 僕の身体に深刻なダメージを与えるほどの美波の手刀だから

 普通の傘程度の強度なら簡単に骨が曲がってしまう。

 

「くっ……ぬっ、抜けませんっ」

 清水さんが畳の向こう側で傘を抜こうとしていた。

 ……けど、引っ張りすぎたのか、畳が清水さんの方へ倒れた。

 

「きゃぁっ」

 清水さんらしからぬ可愛い悲鳴が聞こえて清水さんに畳が覆いかぶさる。

 

「アキっ!帰るわよっ!」

「う、うん。清水さん、じゃあねっ!」

 美波に手を引っ張られて僕たちは教室を後にした。

 

 

 

 靴箱のところで外を見ると……今更確認をするまでも無く雨が降っている。

 

「アキ?帰りましょ」

 美波が傘を差して僕を待ってくれている。

 

「うん。ありがとう」

 美波の隣に並んで一つの傘に二人で入って歩き出す。

 

「もうちょっとこっちに寄りなさいよ。肩が濡れてるわよ?」

「美波の傘なんだから美波がちゃんと入ってないと……」

 多少肩が濡れるくらいならタオルでも貸してもらえば大丈夫だろう。

 

「遠慮しないで良いのに……そうだ、良いこと考えたわっ!」

「良いこと?」

「うんっ。あのね……」

 美波が満面の笑みで……

 

「アキがウチの肩を抱いてくれて、もっとくっ付くの」

 ポッと頬を染めて嬉しそうに話してくる美波。

 ええっ!今、学校の帰りなのにそんな恥ずかしい事するのっ!?

 

「そしてアキがウチに『愛してるよ』って(ささや)いてくれるの」

 しかも、もっと恥ずかしい台詞付きっ!?

 でも美波は顔を真っ赤にして潤んだ目で僕を見上げてくる。

 そんなに期待されても校門を出て長い坂道の途中だから周りにたくさん人が居るんだけど……

 

「あ、あの……傘に入れてもらってて言うのもなんですが、ちょっと恥ずかしいかなって……」

「そう?」

「うん」

「じゃあ、『一生離さない』でも良いわよ?」

 変えるのは台詞だけっ!?

 

「ごめん。それもちょっと恥ずかしいよ……」

「もぅ、アキったら……」

 ぷぅっと頬を膨らませる美波。

 ちょっと怒らせちゃったかな?

 

「じゃあ、アキが傘を持ってくれる?」

 そう言って傘を手渡された。

「うん」

 僕が傘を持つと……

 

「ウチがこうするわね」

 そう言うと傘を持っている僕の手に抱きついてきた。

「ふふっ。最初からこうすれば良かった」

 傘を持っている僕の手に自分の手を重ねてすごく嬉しそうな笑顔の美波。

 

 美波の笑顔を近くで見ていると

 二人で持つ傘を打つ雨の音も気にならなくなるくらい

 僕もすごく幸せな気分に……

 こうしていると雨降りも悪くないかもしれない。

 

 

 しばらく歩いていると、ちょっと先にコンビニが見えてきた。

 

「美波。ちょっと寄り道しても良いかな?」

「うん。何処に行くの?」

「ちょっとコンビニで『ダメよ』傘を買おうかと……って、却下早すぎるよねっ!?」

「アキはウチとこうやって歩くの嫌なの……」

 さっきまで嬉しそうな笑顔の美波がすごく寂しそうな表情に……

 

「僕も出来るなら、ずっとこうしていたいけど……さすがにいつまでもって訳にもいかないし」

 僕が美波の家から帰る時も雨が降っていそうだしなぁ。

 

「もしアキが傘を買って、この傘から出るって言うなら……」

「出るって言ったら?」

「二度と傘が持てないようにアキの腕の骨と買った傘の骨を折るわ」

 キッと僕を睨む美波。

 僕の腕の骨まで折る事無いよねっ!?

 

「ええっ!僕、家に帰る時どうするのっ!?」

「冗談よ。夕飯の買い物するのにスーパーに寄りたいから……そこにも傘が売ってるわよ?」

「そっか。良かった」

 僕の腕も助かった。

 

「でもそれまでこうやってても良いでしょ?」

 美波が僕の肩に頭を寄せてくる。

 美波と触れている所も、心も温かいから……

 

「うん」

 明日も雨が降らないかな……と、ちょっとだけ思った。

 

 

 スーパーで美波が夕飯の買い物をして、僕が傘を買って

 荷物が増えたので美波との相合傘はここまで……残念だなぁ。

 そして美波の家へ……

 

「ただいまー」

 美波が玄関のドアを開ける。

「お姉ちゃんっ。お帰りなさいですっ!」

 元気良く葉月ちゃんがお出迎えしてくれた。

 

「葉月ちゃん、こんにちは」

 美波の背中から横に一歩出て挨拶をする。

「あっ!バカなお兄ちゃんっ!」

 僕が姿を見せると、ドンッと勢い良く鳩尾(みぞおち)へ額を当ててきた。

 うんうん、いつも元気だな。今日も鳩尾(みぞおち)が痛い。

 

「ウチは荷物を置いてくるから、葉月はアキをリビングへ案内してあげて」

「はいですっ」

 大きく手を上げて嬉しそうに返事をする葉月ちゃん。

 

「それじゃ、お兄ちゃん、こっちへどうぞですっ」

「っとと、そんなに引っ張らなくても大丈夫だよ」

 葉月ちゃんは元気一杯に僕の手を引いてリビングへ案内してくれた。

 

 そしてソファに座っていると葉月ちゃんが

 

「バカなお兄ちゃんは今日は何をしに来たんですか?」

「今日はお姉ちゃんとテストのお勉強をするんだよ」

 葉月ちゃんの頭を撫でながら返事をする。

 いつもなら目を細めて『んにゅ~』って喜んでくれるのに……

 

「あぅ……テストのお勉強ですか……それじゃあ、葉月は自分のお部屋でおとなしくしてるです」

 そう言って寂しそうにソファから立ち上がろうとする。

 

「待って葉月ちゃん。また一緒にお勉強しようよ。僕で判る範囲で教えてあげるから」

「アキ、そんなこと言って大丈夫なの?台形の面積も怪しいのに」

 くすくす笑いながら美波が勉強道具を持ってリビングへ……

 

「バカなお兄ちゃん、台形の面積は(上辺+底辺)×(高さ)÷2=(台形の面積)ですよ?」

「うう……だから僕に判る範囲でね」

 作り笑いしか出来なかった。

 

 

 今日は姉さんが帰ってくるので僕も夕飯の準備があるから

 美波の家で二時間ほど勉強して夕飯はご馳走にならずに帰った。

 葉月ちゃんに教えてあげると言ったけど、途中で聞かれた算数の問題は

 時々美波に手伝ってもらったり……きっと期末試験に算数の問題は出ないよね?

 

 


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