僕とウチと恋路っ!   作:mam

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「……雄二」
「なんだ?」
「……今日、私とデートしよう?」
「なんだ、藪から棒に?」
「……これ」
「ほぅ、プラネタリウムか……隣町にある奴か」
「……うん」
「まぁ今日は暇だし、一緒に行っても良いが」
「……ありがとう。じゃあ、お昼は私がおごってあげるから、これにしよう」
「どれどれ……って、これケーキバイキングじゃねぇかっ!?」
「……こっちが本命」
「誰か女友達を誘えば良いじゃねぇか。工藤でも木下でも」
「……雄二、デートに行くって言ってくれた」
「くっ、確かに言ったが……けどな?プラネタリウムだけだと思ったから行くと言ったんだ」
「……ケーキバイキングが本命って言ったから怒ってるの?」
「ああ。そんな釣り文句に騙された俺も悪いけどな」
「……じゃあ、ケーキバイキングは誰か知り合いが一緒に行くなら行ってくれる?」
「ああ、日曜にそんな暇そうに歩いている奴が居るとは思えないけどな」
「……じゃあ、それでも良い。でも雄二、勘違いしないで」
「何をだ?」
「……私の大本命は雄二だから」
「ごほっ、げほっ……いきなり何言いやがる」




僕(俺)とウチ(私)とある日曜の午後

 

 

 出口へ向かう人の流れに逆らうことなく僕と美波も出口へ……

 周りを見ると恋愛映画というだけあって結構カップルが多く

 腕を組んだり手を繋いだりしている人が割りと居るので

 美波と腕を組んでいてもそんなに恥ずかしく感じない。

 

 少しお腹が空いたなと思って、時計を見ると午後一時過ぎ。

 

「美波、お昼どうする?」

「ウチはアキが食べたい物で良いわよ」

 僕と腕を組みながら、頬を少し染めて僕の顔をジッと見てる美波。

 そんな美波の顔を見ていて、パッと思いついたのが……

 

「美波の手料理を食べたいなぁ」

「ウチの料理を食べたいの?」

「うん。出来れば美波に食べさせてもらって……でもそんな事、言える訳ないし」

「アキが望むなら、ウチはいつでも良いわよ」

 美波が目を閉じて頭を僕の腕に付けてくる。

 

「ありがとう……って、ええっ!?」

「どうしたの?」

「ひょっとして僕、声に出してた?」

「思いっきり出てたわよ」

 美波が呆れたと言った表情で僕を見ている。

 

「美波、ごめんね」

「どうしていきなり謝るのよ?」

「今日は朝早くから御飯を作ってくれてたのに……また作ってくれだなんて」

「バカね。アキがウチの料理を気に入ってくれてすごく嬉しいのよ」

「本当?」

「うん。出来るなら毎日アキのために作ってあげたいくらいなのに……」

「ありがとう」

「そんな日が早く来るといいな……」

 美波が頬を赤く染めて僕の腕をぎゅっと抱き締めてくる。

 

「そんな日?」

「なっ、なんでもないのよっ!?それより何食べるの?」

 美波が顔を更に赤くして視線を泳がせている。

 何をそんなに慌てているのだろう?

 そんな美波を見ていると……

 

「よぅ、明久」

 不意に後ろから呼ばれて振り返ると……雄二と霧島さんだった。

 

「こんなところで、どうしたのさ?」

「それはこっちの台詞だ。何でこんな所で突っ立って島田がそんなに顔を赤くしてるんだ?」

 ニヤニヤしながら聞いてくる。

 くっ、コイツまた何か変な勘繰りをしてるな。

 

「……雄二。私たちも」

 霧島さんが雄二の腕を取る。

「痛ぇっ!いっ、いきなり何すんだっ!翔子っ!?」

 見事に関節を極めている。

 雄二に殺気を感じさせずに一瞬で技を極めるとは……

 霧島さんの技はすでに職人技と言っても良いかもしれない。

 

「坂本と翔子じゃない。こんなところで何してるのよ?」

 どうやら落ち着きを取り戻した美波が質問をする。

「……雄二と、そこのビルの中にあるパティスリーのケーキバイキングに行くつもり」

 僕たちが今出てきたビルを指差す霧島さん。

 

「アキ?ちょうどいいじゃない。ウチらもお昼まだだし」

「そうだね。霧島さん、僕らも一緒に行っても良いかな?」

「……うん」

「ありがとう。じゃあ、行こうか」

「ちょっ、ちょっと待てっ!翔子っ、そのまま歩くんじゃねぇ!」

 霧島さんは関節を極めたまま歩き出そうとしていた。

 

「良いじゃないか、雄二。霧島さんのためなら腕の一本や二本くらい」

「バカッ、お前、今、腕が使い物にならなくなったら恥ずかしいだろうがっ!」

「雄二の顔ほど恥ずかしい物は無いと思うよ?」

「謙遜をするな、明久。お前なんてバカの上に変態だなんて生きてるのが恥ずかしくなるだろ?」

「霧島さん、遠慮なくやっちゃって良いよ」

「……うん」

 霧島さんの細い腕がぎりぎりと雄二の関節を極めていく。

 あの雄二に力勝ちするなんて何処にそんな力があるのだろう?

 

「ばっ、バカっ、翔子っ!やめろっ、明久の言う事を真に受けるんじゃねぇっ!」

「翔子と坂本も遊んでないで早く行きましょ。ウチお腹空いてきたわ」

「……そう?」

 美波の一言で霧島さんが関節技を解く。

 今まで極められていた関節を押さえながら雄二が……

 

「明久ぁ、てめぇ俺に何の恨みがあるっ!?」

「恨みを言ったら両手じゃ足りないけど許してもらえたんだから良いじゃないか」

「お前、自分が何もされてなかったからって……今から何しに行くのか判ってんのか?」

「お昼食べにケーキバイキングに行くんじゃないの?」

「ああ。島田と二人で行って、そこで利き腕が使えないって状況を想像してみろ」

「そんなの腕が使えなかったら自分一人でまともに食べられないって……えっ!?」

「判ったか?その状況で腕が使えなくなるって事は、あーんで食べさせられるんだぞ?」

「そっか……って、美波?何してるのっ!?」

 僕の腕が一瞬で捻り上げられて関節がありえない角度で曲がってるっ!?

 まさか美波も職人の域に達していたとは……

 そして雄二は、霧島さんにアイアンクローを極められていた。

 

「アキ?遠慮しなくて良いからね。ウチが一杯食べさせてあげる」

 美波が微笑みながら僕の関節を極めている。

「ぼっ、僕は自分で食べたいなぁ、と……好きな物取って来たいし」

「大丈夫よ。ウチが好きなだけ持ってきてあげるわ。食べ放題だし」

 食べ放題でも残したら怒られるんだよ?

 

「わっ、判ったっ、判りましたっ!僕は何も手を出さないからっ!」

「ほんと?」

「ほんとですっ!」

「それなら良いわ……ウチにも食べさせて欲しいしね」

「ええっ!?」

「やっぱり折っとく?」

 グイッと僕の関節を引っ張る美波。

 

「ぜひ僕に食べるお手伝いをさせてください」

「アキが、そこまで言うなら仕方ないわね」

 満面の笑みで僕の腕を開放してくれて、手を繋いできた。

 

「……雄二はどうするの?」

「わっ、判ったっ!俺も手も足も出さないからっ!」

「……私には?」

「くっ……俺が食べさせてやる」

「……じゃあ、行こう」

 

 

 

 そして僕と雄二は今、お店の中に居て席に着いている。

 僕たち四人で一つのテーブルを使い、僕と雄二は向かい合わせに座っている。

 美波と霧島さんが、それぞれの隣に座って食べさせてくれるためであろう。

 その美波と霧島さんは、お皿にケーキやサンドイッチなど乗せて運んでくる。

 二人とも似合うから出来ればメイド服を着てもらいたいなぁ、と思っていると

 

「なんでお前らはあんな所に居たんだ?」

「姉さんに映画の鑑賞券をもらって美波と観に来たんだ」

「あの恋愛映画か。面白かったか?」

「僕はやっぱりアクションの方が良かったけど……でも所々考えちゃうところがあって」

「お前が考えるくらいだから話題になるだけの事はあるって訳か」

「悪かったね」

「まぁそう怒るな」

 僕と雄二が話している間にも美波と霧島さんは

 テーブルと料理が載っているカウンターを往復し

 テーブルの上がお皿で埋め尽くされたところで席に着いた。

 

「「「「いただきます」」」」

 

 何から食べようかな?と、思ってテーブルの上を見ていると……

 

「何から食べる?」

 美波が、笑顔で聞いてきた。

 きっと僕が先に手を出すと即座に僕の手を迎撃するつもりなんだろう。

 

「えっと、サンドイッチかな」

「これね……はい、あーん」

 かなり小さめのサンドイッチだから一口で食べる。

 うん、入ってるチーズも普通の市販のと違って味が濃くて美味しい。

 サンドイッチだけでお腹いっぱいになっても良いな。

 

「美波は何が食べたいの?」

「ウチは、こっちのショートケーキかな」

「これだね。はい、あーん」

 フォークを持ち、ケーキを少しとって美波の口へ運ぶ。

 

「美味しい。イチゴはアキに上げるね」

 ケーキの上のイチゴを僕の口へ……

 でも、ちょっと大振りだったので一口で食べ切れなかったのを……

 

「残りはウチがもらうね」

 ぱくっと美波が食べちゃった……こんな大勢の見ている前で間接キスなのではっ!?

 

 多分、僕は今、耳まで真っ赤になってると思う。

 雄二も真っ赤になりながら霧島さん相手に僕たちと同じような事をしていた。

 

 ほとんど女性同士のお客ばかりで、たまに居るカップルでも

 このテーブルほど違う世界が繰り広げられている事は無いだろう。

 たしかにさっき美波に食べさせて欲しいと言ったけど……

 でも、それは二人っきりと言う場所での話であって

 こんな大勢の前じゃなかったんだけどなぁ。

 

 どうせ、ここに居る人達が次に僕たちの顔を見ても思い出すことはないはずだ。

 それに本当にヤバかったら店の人が止めに来るだろう。それまでは大丈夫だと思う。

 とりあえず自分にそう言い聞かせて恥ずかしいのは忘れる事にした。

 

 結局テーブルの上にあったたくさんのお皿の上に乗っていたケーキは綺麗に片付けられて

 美波と霧島さんは更におかわりもしていた。

 やっぱり女の子は甘い物には目が無くて別腹らしい。

 

 

 

 そして店を出てから……

 

「お前らは、この後どうするんだ?」

「特に決めてないけど……雄二たちはどうするのさ?」

「俺たちは隣町にあるプラネタリウムに行こうと思っているんだが、お前らも来るか?」

「美波、どうする?」

「そうね。行った事ないし……面白そうだから行ってみない?」

「うん。僕たちも一緒に行っても良いかな?」

「……うん」

「よろしくね」

 そして四人で電車に乗り、隣町へ……

 

 そして駅からさほど離れていない所にプラネタリウムが入っているビルがあった。

 投影時間は後15分位したらか。

 

「僕、プラネタリウムって初めてだからちょっと楽しみだな」

「ウチも初めて」

「なんだ、お前ら初めてか。初めての人間は一時間くらい講習を受けないと観れないぞ」

「「ええっ!?そうなの?」」

 初めて知った……小学生とか遠足で観る様な物だから、もっと気楽に観れる物だと思ってたよ。

 

「……嘘をつくのは良くない」

 ガシッと霧島さんのアイアンクローが雄二の顔にめり込む。

「うぎゃぁぁ……すっ、すまんっ。ちょっとしたジョークのつもりだったんだっ!」

「霧島さん、それくらいで……」

「そうね。ウチも気にしてないし」

「……二人がそう言うなら」

 雄二の顔を開放する。

 

「はぁはぁ……まさかジョークを言うのが命がけとは……」

「……私は、いつでも雄二に命がけ」

「いや、お前のせいで、いつでも命がけなのは俺の方だっ!!」

 それはきっと雄二にも命がけで接して欲しいと思う霧島さんの乙女心だろう。

 

「それより入場しない?」

「もうそんな時間か」

 他の人達に混じって入場する。

 

 

 初めての僕でもプラネタリウムと言えば星空という事くらいは知っている。

 星空と言えば、場内は真っ暗になるはずだから

 さっき映画を観ていた時の美波との約束を果たすにはちょうど良い筈だ。

 しかも星空は、きっとロマンチックで美波も、うっとりと見蕩(みと)れているに違いない。

 その隙に出来れば僕もそんなに恥ずかしくなく……

 

 えっ?座席って投影機を中心にぐるっと円状に配置されてるのっ!?

 いやいや、待て待て。

 投影が始まって暗くなれば向こうの席の人どころか近くの人も見えなくなるはずだ。

 

 …………あれ?

 暗くなったのは天井だけで下の方は投影機から明かりが漏れている……ダメじゃんっ!?

 

 宇宙や地球の成り立ちや地球に生まれた生命や文化、星座の言い伝えなど

 いろいろ説明されていて面白かったんだけど……

 

(アキ?どうしたの?なんで泣いているの……?)

 そっと僕の涙を拭いてくれる美波。

 いつも僕の事を気に掛けてくれているんだ……やっぱり美波って優しいなぁ。

 

(ごめんね。ちょっと……でも美波と一緒に観れてすごく嬉しいよ)

(ウチも……ずっとアキと一緒にこうしていたい)

 僕の手にそっと自分の手を重ねて僕の肩に頭を(もた)れ掛けてくる。

 今は、この温かさ(しあわせ)を感じていよう。

 

 

 

 そして僕たちの街にある駅に戻って雄二たちと別れて美波を送る帰り道……

 

「昨日、美春のところでもらったバイト代があるんだけど……」

「そう言えば、バイト代もらってたんだっけ」

 僕の分は返しちゃったけど、美波の分はあるんだっけ。

 

「僕の分くれるの?」

「ダメよ。アキに渡すと無駄使いしちゃうじゃない」

「うっ……否定できない」

 今朝燃やされた参考書(エロ本)の代わりの新しいのを買う購入資金の足しにしちゃう気がする。

 

「せっかくだから何かしたいわね」

「そうだね」

 うーん、何に使うのが良いんだろう?

 

「でも来週から期末テストも始まるし……何かするならテストが終わってからかな?」

「そっか。もうすぐ期末テスト始まるんだっけ」

「ちょっと、アキ。ちゃんと勉強してるの?」

「うっ、うん……ちょっとだけ」

 忘れない程度に……宿題の課題だけ。

 

「もうっ!来年クラスが違うだけでも嫌なのに学年まで違ったらウチは、どうすれば良いのよっ!?」

「ごっ、ごめんっ!そうならないように頑張るよ」

「しっかりしてよねっ!」

 うーん、ちょっと怒らせちゃったかな。

 でも美波が心配するのも、もっともだし……あ、良い事考えついた。

 

「美波?ちょっと耳を貸してもらっても良いかな」

「どうしたの?」

 素直に僕の方に耳を向けてくれる。

 

「ありがとう、美波♪」

 チュッと美波の頬に僕の唇を押し当てる。

 

「あっ、アキ……」

 あれ?約束を守ったのに何かいけなかったのかな?

 やっぱり話の途中で、いきなりこんな事したから……

 

 美波がいきなり僕の胸に飛び込んできた。

 

「アキっ!そういう事するならするって言ってよねっ!」

 えっ!?さっき美波もいきなりだったんじゃあ……

 

「すごく嬉しくて……何を話していたか忘れちゃったじゃないっ!」

 良かった。怒ってはいないみたいだ。

 

「あのさ、来週のテストに向けて、また雄二たちに勉強教えてもらうように頼んでみようよ?」

「そうね」

「それで今週祝日があるでしょ?」

「うん」

「その日にバイト代を使って僕と美波でみんなにご馳走してあげようよ?」

「勉強を教えてもらってる御礼?」

「うん。あと僕と美波が付き合ってる事を応援してくれてありがとうも兼ねてさ」

「そうね……みんなには、これからもお世話になるだろうし……」

「ありがとう、賛成してくれて」

「もう少し……このままで居ても良い?」

「うん」

 

 しばらくしてから僕たちは歩きだし、美波は家に帰っていった。

 テストも近いし、来週も忙しくなりそうだ。

 

 


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