僕とウチと恋路っ!   作:mam

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1月22日(日)


僕&ウチと俺&美春とダブルデートpart02

「アキ、いつまで待たせるつもりなのよ?」

 

 

 ええっ!?

 なんで美波は僕が想っていることを……

 でも美波って時々勘が鋭いからなぁ。

 

 

「えっと、美波は今すぐがいいの?」

「?当たり前でしょ」

 

 そんな今すぐだなんて……僕にも心の準備というものがっ!

 

「でも僕ら、まだ高校生だし早いんじゃ……」

「何言ってるのよ。高校生とか、そんなの関係ないじゃない」

 

 美波は帰国子女だから……

 やっぱり外国で育つと、こういう事に対する考え方はだいぶ進んでいるのかなぁ?

 それにこんな事を言ってくる位だから、ずっと前から待ってくれているのかもしれない。

 何かを期待しているような表情の美波を見ていると……。

 

 美波がそのつもりなら……僕がしっかりしないといけないよね。

 僕は椅子から立ち上がり、仄かに頬を染めた美波の顔を見ながら

 

「分かった。僕は美波に――」

 僕がそこまで言いかけると……

 美波が僕の口に人差し指を当てて片目を瞑り

 

「言わなくても分かってる。美春たちの前だからって遠慮しなくてもいいのよ?」

「――っ!?」

 

 やっぱり美波はすごいな。

 

 いつも僕の事を見てくれて……

 いつも僕の事を考えてくれて……

 いつも僕の事を手に取るように分かってくれる。

 

 本当に手を取られると痛いこともたびたびあるけれど。

 

 

 そして美波は満面の笑みで――

 

 

「ウチにあーんをしてもらいたいんでしょ?」

「…………あーん?」

 

 僕が口をあんぐりと開けて驚いていると

 

「ふふっ、アキったら……まだ早いわよ?」

 嬉しそうに僕と腕を組んでくる美波。

 

「早くお昼食べに行きましょ。美春たちも待ってるんだし」

 そして僕たちはゆったりとした人の流れにあわせて出口の方へ……。

 

 

――――

―――

――

 

 

 他の人たちの邪魔にならないように

 他の人たちに邪魔をされないように

 僕と美波は腕を組んで僕らのペースで通路の壁沿いを進んでいく。

 

 出口付近で僕らを待っていてくれた清水さんと平賀君。

 そして僕と美波を確認すると清水さんが恨めしそうな顔で

 手刀を振りかざしてこちらへやってくる。

 

 平賀君とデートをしている最中でも――

 

 まだ僕と美波が仲良くしているところを見ると許せなくなるのだろうか。

 やれやれ仕方ないな、と思いつつ、美波が壁際を歩いているから

 組んでいる腕を離して僕が通路の真ん中の方へ移動しようとした時――。

 

 離そうとしていた腕が強い力でしっかりと握られ

 僕の身体は後ろ向きに壁の方へ引っ張られた。

 いきなりの事で僕が驚く暇もなく、後頭部と背中を思いっきり壁に叩きつけられる。

 

「――――()~っ!?」

 一瞬、息が出来なくなるほどの強い衝撃に僕が悶絶していると

 

「美春っ!何するのよ、危ないじゃないっ!」

「ですが、お姉さま」

「ですが、じゃないわよ。ほら、アキもこんなに痛がってるじゃない」

 この痛みは、美波の反射神経の良さと馬鹿力のせいだと思うんだけど……。

 

「平賀も平賀よ。今日はずっと美春から目と手を離さないこと。いい?」

 ビッと平賀君を指差し、そう宣告をする美波。

 その言葉を聞いて平賀君の顔はみるみる真っ赤になっていく。

 

 そして美波は僕と組んでる腕を離して両手で清水さんの背中を押す。

 平賀君の方へ駆け寄るように近付く清水さん。

 

「えっと……」

 平賀君は真っ赤な顔で俯いてどうすればいいのか分からないみたいだ。

 清水さんも無言のまま、口に手を当てて俯いている。

 

 美波はそっと僕と手を繋いで二人に近付き

 

「そんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃない」

 そう言って僕と繋いでいる手を二人に見えるようにすると

 

「アキとウチもこうやって今日はずっと手を繋いでいるから……ね?」

 仄かに頬を染めて微笑みながら僕を見上げている美波。

 心の底から嬉しいんだって分かる美波の笑顔がすごく眩しくて、僕も少し照れてしまう。

 

 ふと気が付くと清水さんが僕らの方を見ていた。

 その顔はいつもの殺気を感じさせるような険しいものではなく……

 少し沈んだような悲しげな表情から、すぐに穏やかな柔らかい笑みに変わっていった。

 

 

 そして……

 

 

「仕方ありません。お姉さまの命令ですし、手が空いているとお姉さまの手を取りそうになってしまいますから」

 清水さんはそう言って平賀君の手を取った。

 すると平賀君は嬉しそうに

 

「そっか」

 と、一言だけ言って清水さんの手を握り締めた。

 

 

 

 

☆     ☆     ☆

 

 

 

 

 お昼御飯を食べるには少し時間が過ぎているけれど

 さすがに日曜だけあってどのお店も混んでいる。

 どのお店を選んでも並ぶのは一緒なので席数が多そうなファミレスにして……

 

 僕らは順番待ちの椅子に座りながら待っている。

 

 

 

 

 

 

 

――――手を繋ぎながら。

 

 

(ねぇ、美波?待ってる間は手を繋がなくてもいいんじゃない?)

(ダメよ、アキ)

 美波が繋いでいる手をしっかりと握り締めて

 

(こういう何気ないところでも自然にコミュニケーションがとれるようにならないと)

(そういうものなの?)

(そういうものよ。女の子はこういうのが嬉しいの)

 繋いでいる手を見ている美波の顔は、本当に嬉しいんだっていうのがよく分かる。

 

(美春もそうだけど平賀ももっと積極的に手を繋ぐくらいすればいいのに)

(ひょっとして……それでさっきから平賀君に手を繋ぐように言ってるの?)

(そうよ。話をするにしても、まずは近くに居ないとダメだと思うの)

 

 美波が言いたいのは、きっと……

 声が届く距離とかじゃなくて、相手の話を聞く心の距離なんだろう。

 

(それに……)

(それに?)

 美波は僕の顔を見ると、ぱぁっと花が咲いたように微笑み

 

(せっかくアキに甘えられるんだから……二人のお手本となるためにもアキも恥ずかしがらないでよね)

 

 間近で美波のあどけない笑顔を見て、こんなに心臓がドキドキしてるのに……

 照れるなと言う方が無理だと思う。

 

 

 照れ隠しじゃないけれど、視線を清水さんと平賀君の方に向けると……

 二人とも照れているのか、俯いて会話も特になく僕らの隣に座っている。

 美波がそばに居るのに、こうして大人しくしているのを見ると

 本当に清水さんなのかと疑ってしまう。

 ちょっと確かめてみるかな?

 

「清水さんは美波のこと、どう思っているの?」

 僕がそう聞くと清水さんは頬をほんのり赤く染めて

 

「お姉さまは……美春にとって優しく温かく照らしてくれる太陽みたいな存在です。是非その素敵なお胸に抱きつきたいです」

 キラキラと顔を輝かせて話す清水さんを、おでこに怒りマークを浮かべた美波が睨んでいる。

 美波と繋いでいる手がメキメキいってて、かなり痛い。

 

 

「ついでに聞くけど、僕のことはどう思っているんだろ?」

 するとうっとりとした表情をしていた清水さんが僕を睨んで

 

「あなたのことは……お姉さまに付きまとう害虫以下の病原菌にも劣るウィルスで、ミンチにした後、生ゴミと一緒にコンクリートで固めてロケットに乗せて太陽に向けて発射したいです」

 僕が死んだ後、一応火葬はしてくれるんだ。

 

 

 そんな話をしていると、僕らが席に案内される順番になった。

 

 

 

 

 

☆     ☆     ☆

 

 

 

 

 

 席は僕と美波、平賀君と清水さんが隣同士で

 僕の前に平賀君、美波の前に清水さんが座っている。

 

 

 それぞれオーダーした料理が運ばれてきて

 さっきの映画の話や、この後何処に行こうかなど

 そんな他愛のない話をしながらお昼御飯を食べていると……。

 

 美波が僕の顔をジッと見ていた。そして……

 

「アキ?ご飯粒が付いてるわよ」

 

 そう言って取ってくれたご飯粒を……口に運んだ。

 

「ふふっ、アキの味」

「みっ、美波っ!?」

 

 嬉しそうに微笑みながら美波は口を動かしていた。

 僕は顔がすごく火照っているのを感じながら美波を見ていると……

 

 

 

――バンッ

 

 

 いきなり清水さんがライスのお皿に顔を突っ伏している。

 そしてしばらくしてから顔を上げると……。

 

「お姉さま。美春の顔にもご飯粒が付いていますっ」

 ご飯粒だらけの嬉しそうな顔でこっちを見ている清水さん。

 

「いやよ。そこまで手が届かないし……平賀に取ってもらえばいいじゃない」

 顔中ご飯粒だらけでも悲しいって分かる表情で清水さんがご飯粒を取っていると

 横から平賀君が苦笑しつつ、一緒にご飯粒を取りだした。

 

「――ありがとうございます」

 少し驚いた表情でお礼を言っている清水さん。

 そして最後の一粒を取ると平賀君は清水さんにご飯粒を渡し

 

「どういたしまして。でも食事はもっと落ち着いて食べた方が美味しいと思うよ」

 笑いながらそう言っている。

 それに関しては僕も同意見だ、と思っていると……。

 

 

「アキ、あーん」

 

 美波が嬉しそうに微笑みながら、取り分けたハンバーグを刺したフォークを僕の口元へ。

 反射的に口を開けそうになったけど、思いとどまり――

 

「美波。みんなが見ているし、清水さんたちの前で……」

 美波にあーんをしてもらっているところを清水さんに見られたら

 フォークとかナイフが飛んでくる気がする。

 この至近距離だといつもの文房具のようには、かわせない。

 普通、文房具も食器も相手に向かって投げたり避けたりするものじゃないんだけど。

 

「なによ。さっきアキはウチにあーんしてもらいたいって言おうとしてたじゃない」

 ご機嫌が斜めを向いてしまったのか、頬を少し膨らませる美波。

 

 違うんだよ、美波。

 僕がさっき言おうとしていたのは……僕と美波の未来のことなんだけど。

 でも、そんな事を今言える訳がない。

 

 

「い・い・か・ら……口を開けなさい」

 

 

――ダンッ

 

 

「痛ぁぁっ!?」

 爪先(つまさき)を突き抜けるような痛みが走ったので思わず叫んでしまう。

 すかさず、僕の口にハンバーグを突っ込む美波。

 

「ふふっ、美味しい?ウチが食べさせてあげてるんだから美味しいに決まってるわよね」

 顔を(ほころ)ばせて僕を見つめている美波。

 たしかに美波に食べさせてもらってるんだから美味しい事は美味しいんだけど……

 僕が涙目でハンバーグを味わっているのをジッと見ていた美波が

 

「アキ、何か足りないの?そんなに悲しそうな顔をして……あっ!」

 いきなり何か気付いたような顔でテーブルの上の調味料に手を伸ばす。

 そしてタバスコを手に取り、ふたを外して僕のハンバーグにかけようとしている。

 

 それだけは阻止しないと僕の足だけじゃなく胃袋にもダメージがっ!?

 

 食事しているだけなのに……

 なんで身体の内と外にダメージを受けなければいけないんだろう?

 

「違うんだ、美波……僕は美波が作ったハンバーグを食べさせて欲しかったなって」

 タバスコを持っている美波の手をそっと包むように両手で握り締める。

 

「分かったわ。今度、アキの家で作ってあげる」

「分かってくれてありがとう」

「うんっ。ウチが作る時は、ちゃんとハンバーグの生地の段階からタバスコをたくさん入れてあげるから楽しみにしててね」

 

 僕が言いたいのはそういうことじゃない。

 でも嬉しそうに微笑む美波を見て……違う、と言えなかった。

 

 その時、ふっと正面の平賀君を見ると……

 羨ましそうな顔で僕と美波を見ていた。

 

 たしかに好きな女の子にあーんをしてもらえるのは嬉しいんだけれど……

 やり方ってモノがあると思うんだ。

 爪先がまだ痛いし。

 

 

 すごく痛い目にあっているんだけど、僕と美波がこんなに仲良くしているのを見ても

 清水さんが何もしてこないのはどうしてなんだろう?と思って正面を見てみると……

 

 

 

「平賀君は、その……美春に食べさせてもらいたいですか?」

 清水さんが少し俯きながらそんな事を聞いている。

 

「嬉しいけど少し恥ずかしいよ」

「そうですか。では……」

 

 そう言うと自分のお皿からフォークでおかずを一つ取り、平賀君の顔に近づけて

 

「恥ずかしいのは我慢してください。美春も恥ずかしいですが平賀君が嬉しいなら……」

「清水さん……」

「この間のお礼と……初めて一緒に食事をした記念です。あーんしてください」

「――あーん」

 

 真っ赤な顔で清水さんに食べさせてもらっている平賀君。

 清水さんも顔を赤くして楽しそうに平賀君の口におかずを運んでいる。

 そんな二人を見ながら……。

 

 

「さぁ、アキ。ウチらも負けていられないわよ。ウチにも食べさせてくれる?」

 何故か気合が(みなぎ)っている美波。

 美波が何に勝つつもりなのか分からないけれど……

 僕も自分のお皿から取り分けたハンバーグをフォークに刺し、美波の口元へ。

 

「あーん」

 

 

 

――――

―――

――

 

 

 

 嬉しそうな顔で食べさせてもらっている平賀君。

 

 楽しそうな顔で食べさせてあげている清水さん。

 

 幸せそうな顔で食べたり食べさせてくれている美波。

 

 きっと僕も三人に負けないくらいの笑顔で食事をしているのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

――――僕ら全員、顔を真っ赤にしながら。

 

 

 


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