僕とウチと恋路っ!   作:mam

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懲りもせずにバレンタインです。
前回は一年の頃の明久と美波のバレンタインを書きましたが
今回は少し未来の社会人になった明久と美波のバレンタインです。

前回の番外編『ウチとバカとバレンタイン』を御覧頂いてから
読んで頂いた方がいいかもしれません。


番外編:ウチと僕とバレンタイン
ウチと僕とバレンタインpart01


「――――今年こそ絶対にちゃんと渡すんだからっ!!」

 

 

 

 今日は2月13日。

 

 日本に来てから毎年、バレンタインの前にはチョコまみれになっている。

 

 

 

 アキと初めて逢った高校の時からずっと。

 

 アキと一緒に進学した大学の時もずっと。

 

 

 

 そして今年は……

 

 アキと二人揃って社会に出てから――

 

 

 

 

――――最初のバレンタイン。

 

 

 

 アキに喜んでもらいたくて毎年頑張っているんだけど……

 

 初めてのバレンタインの時はちょっとした事故で割れちゃったんだっけ。

 

 その後のバレンタインでもチョコが溶けたり、砕け散ったりして

 作った時のまともな形のチョコを、まだ一回もアキに渡せた事がない。

 

 

 でもアキはどんな形のチョコでも喜んで食べてくれて……

 

 

 

 

 

――――初めてのバレンタインの時にウチとした約束を必ず守ってくれている。

 

 

 

 

 

☆     ☆     ☆

 

 

 

 

 

「ただいまですっ」

「おかえり、葉月」

 

 ウチがキッチンでチョコを溶かしていると

 見慣れた制服を着た葉月が学校から帰ってきた。

 

 葉月は文月学園に入学したんだけど……

 

 入学した時、アキが居ないって少し怒っていたっけ。

 葉月が入学する時にアキがまだ文月学園に居たらウチが怒っていたでしょうけど。

 

「お姉ちゃん。何をしてるんですか?」

「チョコを溶かしているのよ」

「あっ!そう言えば明日はバレンタインですっ!」

 

 口に手を当てて少し驚いている葉月。

 高校生だから、あまり日にちの感覚が無いのかな?

 でもバレンタインは女の子の間では結構話題になると思うんだけど……

 

「葉月、一緒に作ってもいいですか?」

「ええ、いいわよ。でも着替えてきてからね。制服が汚れちゃうわよ?」

「はいですっ」

 

 トトトッと軽い足音を立てて葉月がキッチンから出て行った。

 

 葉月の制服を見てると懐かしくなってくるわね。

 ウチの制服もまだ取ってあるから

 明日デートする時、制服を着て行ったらアキはビックリするかな?

 

 でもあの頃より背が伸びたから、少しきつくなって……

 ふっと胸に手を当ててみる。

 

 

――――なんで、ここだけ全然成長してないのよっ!?

 

 

 

「お姉ちゃん。お待たせしましたです……って、なんで泣いてるんですかっ!?」

「なんでもないのよ、葉月……諦めちゃダメだからね」

「何の事ですか?」

 

 葉月は首を傾げてウチを見ているけど……

 (くじ)けちゃダメだからね、葉月っ!

 

 

 

 今年は割れたり砕けたりしないように最初から小さめのチョコをいくつか作る事にした。

 ナッツやゼリービーンズなどトッピングしていると

 型枠にチョコを流し込んで冷えるのを待っている葉月が

 

「お姉ちゃんはバカなお兄ちゃんにあげるんですか?」

「そうよ。葉月は誰にあげるの?」

「葉月もバカなお兄ちゃんですっ」

 

 キラキラと目を輝かせながら嬉しそうに答える。

 

「葉月はアキ以外にチョコをあげる人は居ないの?」

「居るですっ。お父さんです」

 

 予想通りの答えが返ってきた。

 ウチも同じなんだけどね。

 

「そうじゃなくて……学校に気になる人とか居ないの?」

「居ないですっ。葉月はバカなお兄ちゃんのお嫁さんになるんですっ」

 

 ニコニコと眩しい笑顔で答える葉月。

 ウチも可愛い妹には幸せになってもらいたい。

 アキなら葉月を可愛がって幸せにしてくれるでしょうけど……

 

 アキはこういうハッキリした好意をなかなか断る事が出来ないから

 きっと葉月も諦めていないのよね。

 

 

「お姉ちゃん。どうしたんですか?」

 

 少し考え込んでいると葉月が首を傾げながらウチを見ていた。

 

「ごめんね、なんでもないのよ……ところで葉月はチョコ(それ)、いつアキに渡すつもりなの?」

「葉月、明日は学校お休みだけど部活はあるんでした」

 

 おでこに指を当てて少し俯いて考え込んでいる葉月。

 仕方ないわね。ここはお姉ちゃんらしく助けてあげようかな。

 

 すると葉月は何か(ひらめ)いたのか、パッと明るい笑顔になり

 

「今からバカなお兄ちゃんのところに持っていくですっ!」

「――はっ?」

 

 全く予想していなかった答えが返ってきたので思わず変な声出しちゃったじゃない。

 

「葉月、明日だとお兄ちゃんにいつ渡せるか判らないから作ったらすぐ持っていくんですっ」

「ダメよ、そんなの。作ってからアキの家に行ったら帰ってくるの夜遅くなっちゃうじゃない」

 

 ウチがそう言うと……

 

 葉月はさらに顔を輝かせて

 

「じゃあ、そのままお兄ちゃんの家にお泊りするですっ!」

「なっ、なっ……」

「葉月、お兄ちゃんと一緒に御飯食べて、お風呂に入って……一緒に寝るんですっ!」

 

 さも名案とばかりに両手を上げて身体全体で喜びを表現している葉月。

 

「だっ、ダメよっ!そんな、羨ま……じゃない、とにかくダメなものはダメだからねっ」

「どうしてですか?」

「どうしてって……ウチ、明日アキと会う約束をしてるの」

「そうなんですか?」

「ええ。だからアキに早めにうちに来てもらうようにして、その時渡せばいいじゃない」

「あぅ……わかったです」

 

 さっきまで喜んで伸ばしていた身体を縮こませて残念そうに俯く葉月。

 ウチも妹が悲しむところは見たくないけれど……さすがにお泊りはね。

 

 

 

 しばらくしてウチと葉月の作ったチョコを箱に入れて

 葉月はピンクの包装紙で、ウチは赤の包装紙でラッピングして完成。

 あとは気持ちを込めてアキに渡すだけ。

 

 葉月は自分の作ったチョコが入っている箱を嬉しそうに眺めている。

 そしてウチは自分の部屋から携帯を持ってきて……

 たしか今日はアキも休みのはずだから、今電話しても大丈夫よね。

 

 

 Prrr! Prrr! Prrr! Prrr!

 

『もしもし、美波?』

「アキ。今、大丈夫かしら?」

『うん、大丈夫だよ』

「明日なんだけど、少し早めにうちに来てもらってもいい?」

 

『判った。僕も美波に早く会えるからその方が嬉しいけど、どうしたの?』

「あのね、葉月がね……」

 ウチがそこまで言うと葉月が

 

「バカなお兄ちゃんですか?葉月、代わりたいですっ」

 手にしていた箱をテーブルの上に置いて両手を伸ばしてきたので

 

「ちょっと葉月と代わるわね」

『うん』

 はい、と伸ばしていた葉月の手に携帯を渡すと

 

「もしもし、バカなお兄ちゃんっ!」

『葉月ちゃん、こんにちは。今日も元気そうだね』

「はいですっ!葉月はいつも元気ですっ!」

 満面の笑みでアキと話している葉月。

 きっと声だけでもアキと繋がっているのが嬉しいんだろうなぁ。

 

『葉月ちゃんが元気だと僕まで嬉しくなるよ』

「葉月、明日バカなお兄ちゃんに渡したい物があるんですっ」

『僕に?』

「はいですっ。今までお兄ちゃんとお姉ちゃんに教えてもらった事を思い出しながら心を込めて作りましたっ」

 

 アキとウチが教えたって……

 

 たしかに何年か前からアキとウチの二人で葉月に料理を教えているけど

 さっき見てた限りではチョコを溶かして型に流していただけだと思うんだけど?

 

『そっか。ありがとう、葉月ちゃん。明日が楽しみだよ』

「葉月もお兄ちゃんに渡すのが楽しみです。じゃあ、お姉ちゃんに代わるです」

 

 笑顔の葉月から携帯を渡される。

 

「もしもし、アキ」

『美波?明日なんだけど……』

「どうしたの?」

『約束だと美波だけって言われてたんだけど、葉月ちゃんの分も用意していいかな?』

 

 

 

――――バレンタインの時の約束。

 

 

 一年に一回だけなのに……

 忘れずにアキは約束を守ってくれている。

 

 

「もちろん、いいわよ。その方が葉月も喜ぶだろうし」

『そっか。ありがとう』

「どういたしまして。ウチ、明日楽しみにしてるからね?アキも楽しみにしててね」

『うん。僕も明日美波と逢える事……期待してるからね』

 

 

 期待……ね。

 

 

「じゃあ、明日待ってるからね」

『うん、また明日』

 

 

 ウチが携帯をテーブルに置くと

 

「お姉ちゃん、ありがとうですっ」

「どういたしまして。アキ、きっと喜んでくれるわね」

 

 テーブルの上にある可愛らしいピンクと赤の箱を見ていると、そう思う。

 ウチと葉月が心を込めて作ったんだから美味しいに決まってる。

 

 

「葉月、御飯まで課題してくるですっ」

 葉月は、そう言うと軽い足音を立ててリビングを出て行った。

 

 

「もう、あの子ったら……」

 ウチ一人で夕御飯の準備をしろって言うのね。

 

 

 やれやれ、と思いつつ食事の支度をしながら明日の事を考える。

 

 

 

 さすがに文月の制服はちょっと無理があるけれど

 明日はいつもと違う格好をしてみようかな?

 

 

 

 高校の頃、アキが好きだって言ってくれたあの髪形に……

 

 


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