僕とウチと恋路っ!   作:mam

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長い間、更新を空けましておめでとうございます。
今年も宜しくお願い致します……じゃない。

間を空けて申し訳ございませんでした。
これからはなるべく早い更新を心掛けたいと思います。

それでは拙いお話ですが、気持ちだけは目一杯込めて書いたつもりです。
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。


1月17日(火)




僕らと子供と召喚獣part03

「――こんなもんかねぇ」

 

 ババァ長が召喚フィールドを消したので僕らの子供の召喚獣は消えてしまった。

 

 

 少し離れたところで霧島さんに膝枕をしてもらっていた雄二が起き上がって

 頭を押さえながらこちらへやってきた。

 

「いつつ……召喚獣の実験はもう良いのか?」

「欲しいデータは大体採れたからね。礼を言うよ。それと遅くならないうちに早く帰りな」

 

 ババァ長はそう言うと教室から出て行ってしまった。

 

 

 そしてムッツリーニもふらふらしながら歩いてきたので

 

「ムッツリーニ、大丈夫?」

 僕がそう尋ねると、グッと親指を立てた右手を差し出し

 

「…………大丈夫だ、問題ない」

 少し青い顔で僕を見ているムッツリーニ。

 

 

 僕もその右手の親指が下を向いてなかったら、大丈夫だと思うんだけどね。

 握り締めた右手から突き出した親指を下に向けているそのポーズは

 誰かに死の宣告をしているようにしか見えない。

 今、この教室の中で一番死にそうなのは

 そのポーズをとっているムッツリーニ本人なんだけど……

 

 自分が出している指の上下も判らないくらい意識が朦朧としているんじゃないのかな。

 

「ほら、無理しないで早く帰ろう?」

 工藤さんがすごく心配そうな顔でムッツリーニの制服の裾を引っ張っている。

 

 

 そう言えば、ババァ長が来る前――

 

「ところで僕ら、何の話をしてたんだっけ?」

「たしか……スイーツを食べに行くかどうかだったんじゃないか?」

 

 雄二があごに手を当ててそう言うと、姫路さんがポンと手を叩き

 

 

「じゃあ、今度みんなで何か甘い物を食べながら、その話をしましょう」

 

 

――嬉しそうな姫路さんの笑顔がすごく眩しかった。

 

 

 

 

 

☆     ☆     ☆

 

 

 

 

 

 校門の前の長い坂を下っていき、雄二たちと別れて

 オレンジ色の空の下を美波と二人、並んで歩いている。

 

 

 いきなり美波が立ち止まったので僕は数歩、前に出てしまう。

 

「――あのね」

「ん?」

 

 僕が美波の方へ振り返ると、両手を合わせて僕を見ている。

 

「さっき、木下と子供の召喚獣を喚び出した時……」

 

 美波はそう言うと、合わせた両手をもじもじさせながら下げて俯いてしまった。

 いつもなら何かあってもハッキリ言ってくるのに……

 秀吉に何か言われたのかな?

 

「どうしたの?」

 僕が質問をすると……美波は意を決した表情になって

 

「木下に……ウチの事が気になって心魅かれてるって言われたの」

 

 それって……

 

 いつも自分の事を男として付き合って欲しいと言っている秀吉が

 美波の男らしくて格好いいところに魅かれたと言う事だろうか。

 

 僕が首を傾げながら美波を見ていると

 

「それで木下はアキの事も……アキは木下の事をどう思っているの?」

「秀吉の事?」

「うん」

 

 何かを探るような……少し不安そうな表情の美波。

 

「そうだなぁ……神様も勿体無い事してるなって」

「なによ、それ?」

 

 僕がそう答えると美波は首を少し横に傾けた。

 

「だってさ、あんなに可愛い顔をしてるのに……女の子じゃないなんて勿体無いよね」

「えっ?アキは木下の事……女の子として見てないの?」

 

 大きな目を見開いてビックリしている美波。

 秀吉の事で今更何を驚いているんだろう?

 大事なのは秀吉の性別じゃなくて……

 

「うん。男でも女でもなく、秀吉は秀吉だと思ってるよ」

 

 秀吉の外見や性格が可愛いのはみんなが認める事実としても

 僕はそれだけで秀吉と一緒に居るんじゃないって事を美波にも判ってもらいたい。

 

 すると美波は不思議そうな顔をして

 

「結局アキは木下の事を男か女か、どっちだと思ってるのよ?」

「だから秀吉は秀吉だって。男でも女でもどっちでもない――」

 

 僕がそう言いかけると……

 美波は僕の顔を挟むように左右の頬に手を当てて、キッと睨んで

 

「アキが木下の事をきちんと男として見るようにお願いされたのっ!」

「えっ!なんで今更っ!?」

 僕が驚いていると美波は僕から手を離して少し俯くと

 

「その……木下はアキの事も気になるって……」

「気になるって……」

「たぶん、木下は……ウチの事と同じくらい、アキの事も好きだったと思うの」

 僕と視線を合わせないように美波は下を向いたまま……

 

 

 秀吉は自分の事を男として認めて欲しくて

 女の子が好きだって言ってるのだろうか?

 

 

 

 

――まさか、秀吉も女装した僕を好きになっちゃったって言うんじゃっ!?

 

 

 秀吉が僕の事を好きって言ってくれるのは嬉しいけど

 僕を女の子と勘違いして好きになられても……

 

 しかも誰が見ても僕より女の子らしい秀吉にそう思われているのがすごいショックだ。

 

 

「アキ?なんで、いきなり泣き出してるのよ?」

「美波は僕の事、男として見てくれてるよね?」

「当たり前じゃない。どうしたの?」

「それなら良いんだけど……」

 

 少し驚いた顔で僕を見ている美波。

 

「それで木下はアキとウチの事をそれぞれに任せたいから……ウチらの事を応援してくれるって」

 そう言って僕の方を向いた美波の顔は……物凄く真剣だった。

 

「――だからアキが木下の事をちゃんと男として見てくれるようにしてくれって頼まれたの」

 

 でも、なんで秀吉はそんな事を美波に頼んだんだろう?

 いつもは自分で男だって言い張っているのに……

 僕やムッツリーニが秀吉の事を男らしく扱っていないように見えるから

 美波や工藤さんに頼む気になったんだろうか。

 

 

「アキが木下を男として見る事できっと自分の想いを……ウチとアキの事を忘れようとしてると思うの」

「秀吉がそんな事を……」

 

 考えていたなんて思ってもいなかった。

 見た目は女の子みたいに可愛いから、雄二やムッツリーニみたいに

 普通の男友達としては考え難かったけど……

 

 でも秀吉も女の子を好きになるって事は、ちゃんとした男だったんだな。

 

 

――好きになる女の子が美波は良いとしても、何故(女装した)僕まで含まれるのかがちょっと気になるけど。

 

 

 

 

 なんて僕が考えていると……

 

 

 

――クイックイッ

 

 美波が僕の袖を引っ張って

 

「アキが瑞希と子供の召喚獣を喚び出した時、瑞希になんて言われたの?」

「ふぇ?」

 

 いきなり美波に質問をされて思い出してみる。

 あの時、姫路さんに言われたのは……思い出したら顔が熱くなってきた。

 

 

「さっきも顔を赤くしてたけど……何を言われたの?」

 

 美波が僕をジッと見ている。

 

 ヤバいっ!関節技を掛けられるっ!?

 僕が本能的に身体を硬直させて身構えていると……

 

 

「お願い。正直に言って?」

 怯えるような表情で僕を見ている美波。

 

「えっと……姫路さんの初恋の相手が僕だったって……」

 僕が恐る恐る答えると……

 美波は顔を伏せるように少し俯いて

 

「それで……アキはどう思ってるの?」

「嬉しかったよ。僕の初恋も姫路さんだったから」

 

 美波に嘘は吐きたくないし、正直に答えると……

 

「やっぱり……やっぱり、アキも瑞希の事が……」

 消え入りそうな小さい声で……

 

「アキ、ごめんね。ウチ……自分の事ばかり考えてて」

 俯いたまま、肩を震わせている美波。

 

「もしもウチが告白しなかったら……本当はアキも瑞希と付き合いたかったんじゃ……」

 肩だけでなく、声も震えている。

 顔は下を向いているのでハッキリ判らないけれど、たぶん……

 

 

――いや、きっと美波は泣いている。

 

 

「アキ……本当にごめん」

 

 美波は俯きながら僕に謝っていて、その場から動こうとしない。

 僕はそんな悲しそうな美波を見ているとすごく辛いんだ。

 

 

 まず美波に僕の話を聞いてもらって……

 いつもの見ているだけで元気を分けてくれるような幸せそうな笑顔になって欲しい。

 

 

 どうしたら……

 美波は僕の話を聞いてくれるんだろう。

 

 

 

 

 そうか。

 美波が僕のことを見てくれれば、話も聞いてくれるよね。

 

 

 それなら――

 

 

「美波。僕がこれからする事、怒らないでね?」

 

 僕はそう言うと少し(かが)んで……

 

 

「きゃっ!?」

「いきなり、ごめんね」

 

 美波の背中を押さえるように腕をまわして

 反対の腕でひざの裏を掬うようにしてお姫様抱っこをする。

 これで美波も僕を見てくれるはず。

 

 ――外でするのはちょっと恥ずかしいけどね。

 

 

「あっ、アキ……」

 

 いきなり、こんな事をしたから美波も驚いて僕の顔を見ている。

 大きな目に涙を溜めたまま……

 

「姫路さんに初恋の相手が僕だって言われて嬉しかったのは本当だよ」

 

 本当は美波の涙を拭いてあげてから話をしたかったんだけど、今は両手が……

 

 

 

――――絶対に離したくない大切な人で塞がっているから話だけでも聞いて欲しい。

 

 

 

 まだ少し震えている美波は僕に抱かれたまま、大人しく僕の言う事を聞いてくれている。

 

「でも、その時……姫路さんも秀吉みたいに僕と美波の事を応援してくれるって言ってくれたんだ」

 美波は泣くのを止めて……僕の顔をジッと見ている。

 

「初恋の相手が僕だって事よりも、僕と美波の事を応援してくれるって言ってくれた事の方が嬉しかった」

「アキ……本当?」

「もちろん。僕は美波に嘘なんて吐かないよ」

 

 僕がそう言うと……美波の身体が震えるのは止まったみたいだ。

 

 

 

――僕は美波が安心してくれるように出来る限りの笑顔で。

 

 

「もし美波が歩けなくなったら、僕がこうやって抱っこしてあげる」

「うん……」

 

 

 

――僕は美波のまだ涙を浮かべている大きな目を見ながら。

 

 

「もし美波が寂しくて泣いていたら、僕が傍に居て笑わせてあげる」

「うん……」

 

 

 

――僕にとって美波は世界でただ一人、僕の願いを叶えてくれる……

 

 

「僕が一番見たいのは他の誰でもない……美波の笑顔だよ」

「アキ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――魅力的な女の子だから。

 

 

 

 

「アキ?ウチのお願い……聞いてくれる?」

 

 まだ目には涙が残っているけれど……

 

 さっきまでの悲しそうに泣いている顔ではなくて

 少し恥ずかしそうに頬を染めて僕を見上げている。

 

「僕に出来る事なら何でも聞くよ」

「しばらく、このままでも……いい?」

「うん。美波が気の済むまで……僕の体力が持てば良いけどね」

 

 僕が笑いながらそう言うと……

 

「ありがと……やっぱりアキの傍が一番……」

 

 見ている僕も幸せな気持ちにしてくれる

 優しい笑顔が僕の腕の中に……

 

 

 

☆     ☆     ☆

 

 

 

 しばらくそのままの状態で、美波を抱っこしていると

 

 

「バカなお兄ちゃんっ!」

 

 トトトッと駆け寄ってくる小さな女の子。

 いつもなら迷わず僕の鳩尾(みぞおち)目掛けて突っ込んでくるんだけど……

 

「あれ?お姉ちゃん、具合でも悪いんですか?」

 手前で止まると首を傾げながら僕と美波を見ている。

 

「これはその……具合が悪いというか、都合が悪いというか……」

 僕が返答に困っていると美波は僕から降りて

 

「葉月、心配掛けてごめんね。もう、大丈夫だから」

 そう言って葉月ちゃんの頭を撫でている。

 

「大丈夫なら良かったです」

 葉月ちゃんはそう言って僕を見て楽しそうに笑うと

 

「葉月も抱っこして欲しいですっ」

 僕目掛けてジャンプしてきて僕の首に手をまわしてきた。

 

「わわっ!?」

 僕は慌てて葉月ちゃんが落ちないように抱きしめる。

 

「んにゅ~」

 嬉しそうに頬を摺り寄せてくる葉月ちゃん。

 

「まったく、この子ってば……」

「美波、悪いけど鞄持ってくれる?」

「仕方ないわね」

 

 美波に鞄を持ってもらい、僕は葉月ちゃんを落とさないようにお姫様抱っこして歩き出す。

 葉月ちゃんは軽いからそのまま歩いても、さほど苦にならない。

 もちろん美波もそんなに重くはないし、ここから美波の家の前までなら大した距離も無いから

 あのまま、お姫様抱っこをしてても歩くのには問題ないけれど……

 誰かに見られるとちょっと恥ずかしいからね。

 葉月ちゃんなら仲睦まじい兄妹に見えるだろうし。

 

 

 そしてしばらく歩いていると……

 

「バカなお兄ちゃん。お願いがあるんです」

「なにかな?」

「葉月にお料理を教えて欲しいですっ」

 大きな吊り目をキラキラさせながらお願いをしてきた葉月ちゃん。

 

「僕に出来る事ならいいけど……いきなりどうしたの?」

「お料理ならウチが教えてあげるわよ?」

 僕と美波が首を傾げながら葉月ちゃんを見ていると

 

「食べてもらうお兄ちゃんに喜んで欲しくて……お兄ちゃんが好きな物を作りたいんですっ」

「そっか。ありがとう、葉月ちゃん」

 僕が葉月ちゃんに笑顔でお礼を言うと

 

「ウチにも教えてくれる?」

 美波も笑顔でお願いをしてきた。

 

 

 

 

――――僕の頬を抓りながら。

 

「いっ、いいけどっ……いひゃいよっ!?」

「アキ、よろしくね」

 パッと手を離して嬉しそうに笑う美波。

 

「ウチもアキの好きな物全部知ってる訳じゃないし……」

 

 あれ?おかしいな?

 

 いつもなら美波の笑顔を見ると嬉しくて幸せな気持ちになれるのに……

 今の美波の笑顔を見ると不安で胸が押し潰されそうなんですがっ!?

 

「それにアキの嫌いな物や苦手な物も知っておかないとね」

「バカなお兄ちゃんの嫌いな物も知りたいんですか?」

「だって間違って作っちゃったらアキが大変だもの……間違ったら、の話だけどね」

 

 美波は間違えないで僕の嫌いな物をいつか作る気満々みたいだ。

 

 

 

 

 

――――美波が引きつった笑顔で僕にあーんをしている光景が目に浮かぶ。

 

 

「じゃあ、お姉ちゃんも一緒に作るんですねっ」

「しっかりアキに教わるわよ」

 

 葉月ちゃんはともかく、美波に作り方で教える事はあまり無いと思うんだけどなぁ。

 それに僕の好きな物や嫌いな物、苦手な物を知ったところで

 美波の場合はタバスコとかカラシを大量に使ってくるんじゃ……

 

 

「バカなお兄ちゃんとお姉ちゃんが一緒ならきっと何を作っても楽しいですっ」

「ふふっ、楽しみね」

 

 葉月ちゃんと美波の嬉しそうな笑顔を見つつ、僕の未来に少し涙しながら歩いて

 美波の家の近くまで来たので葉月ちゃんを下ろそうとすると……

 

「バカなお兄ちゃん、ありがとうですっ」

 

 チュッと可愛らしい感触を僕の頬に残して葉月ちゃんは走っていった。

 

「ははっ……」

 僕が頬に手を当てながら笑っていると……

 

「もう、あの子ったら……」

 葉月ちゃんが走っていった後を確認するように見ていた美波が

 僕の方へ振り向くと……

 

「アキ?」

 胸の前で左右の人差し指をちょんちょんと合わせながら

 少し頬を染めて上目遣いで僕を見ている。

 

「なに?」

「あの……あのね。さっき、アキの気持ちを教えてもらってすごく嬉しかった」

「僕の気持ち?」

「うん。ウチの笑顔が一番見たいって……」

 

 美波に言われてさっきの事を思い出してみる。

 えっと、たしか美波をお姫様抱っこして……

 

 なんかすごく恥ずかしい事を言っちゃったような気がする。

 思い出したら顔がすごく熱くなってきた。

 

「そんなに照れなくてもいいじゃない。ウチ、すごく嬉しかったんだから」

 美波も顔を赤くして、少し拗ねたような表情を見せる。

 

「さっきは……そう思っているのは本当だけど、美波に笑顔になって欲しくて、その……」

 思い出している記憶がごちゃごちゃになってて、うまく言葉が出てこない。

 さっきはスラスラと話せたのが不思議だ。

 

「それでウチがこれからもずっと――」

 美波はそう言うと……

 真っ赤な顔のまま、微笑んで

 

「アキの傍で笑顔で居られる様におまじない……してくれる?」

 両手を胸の前で組んで……目を閉じている。

 

 

「…………」

 おまじないって何をすれば良いのか、美波に聞こうと思ったけど……

 

 さすがに僕でも、この状況で美波が何をして欲しいのか判る。

 さっきみたいに子供の召喚獣を通さなくても……

 

 

 

 

 

 僕は――

 

 

 

 

 唇を美波の唇にそっと重ねた。

 

 


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