オリ主スレッド   作:水代

6 / 24
次のスレッドに行く前に、ちょっとだけ挟む。
基本的に200レス一話。5話で1スレ。1スレ終わったら、次のスレに行く前に、そのスレッドの>>1について軽く触れた小説を一話だけ挟んで次に行く、という形を取ります。これは前から決めてたこと。


カイ・ブランドー

 スレッド画面を切断し、俺は目の前に転がるゲリョス(?)の死骸を見る。

 全くもって厄介な敵だった、と思うがそれでも勝ったのは自身だ。

 大剣に付着した血液を丁寧に拭う。後で錆付かれても困るからだ。

 それからもう一体のゲリョスに突き刺さったランスを回収し、ふと息を付く。

 すでに剥ぎ取れるだけのものは剥ぎ取った。ありふれた素材に混じっていくつか見たこともないような素材もあったが、その辺はギルドや鍛冶屋の領分だ。取りあえず自身はこれらを持って帰るとする。

 もう十年になるのだろうか…………俺がハンターを始めてから。

 あのスレッドの住人は前世持ちの転生組と、スレ神の存在を知り初めて自分の世界のことを知る住人型の二種類に分けられるが、俺の場合は前者だった。

 ゲームの世界にやってきた、しかも前世で大好きだったゲーム。

 最初こそ心躍った…………だが初めてハンターとしてモンスターと出くわした時、俺の心は恐怖一色に染まった。

 

 初めて戦ったモンスター…………それは、ランポスだ。

 

 しかもたった一体。

 

 ゲームの中ではただの雑魚で、ボスと戦っていると現れる邪魔キャラでしかなかったはずなのに。

 現実で相対して、明確にこちらを殺そうと言うその意思に、俺の体は硬直した。

 立ち止まり、動かない格好の獲物にランポスが食らいつく。

 俺の左肩に激痛が走った。恐怖と痛みで錯乱し、狂乱し、ただ逃げ惑う。

 無抵抗に逃げ出す格好の獲物を逃す肉食獣ではない。すぐさま飛び掛ってきて俺を下敷きにする。

 死ぬ、はっきりとそう思った。

 例えば…………漫画や小説などならここで通りすがりのハンターがやってきて俺を助けてくれるのかもしれない。

 だが現実にそんな都合の良いことが起こるはずが無い。

 世界は俺を中心に回ってはいない。そんなこと分かりきっていたはずなのに。

 

 現実は非情である…………俺にとっても、ランポスにとっても。

 

 喰らいつこうと顔を突き出すランポスの顔面に遮二無二に振るった左腕が直撃する。

 顔面への強打に仰け反り、俺を解放するランポス。

 ここで勇気を振り絞って戦えるのなら、俺はきっと主人公になれたのかもしれない、が死のイメージを克明に刻まれたことで完全に及び腰の俺は、這いずるように逃げる。

 だが反撃されたことに怒ったランポスがすぐ様追いつき俺の背に飛び掛る。

 咄嗟に転がりそれを避けたはいいが、腰が抜けてしまってそれ以上移動できない。

 怒り心頭のランポスはもう完全に俺に目をつけてしまっているのに。

 俺の首筋を狙って噛み付こうとしてくるランポスを両手で押し止める。

 だが力が足りない、押し負け、じりじりとランポスの鋭利な牙が俺へと近づいてくる。

 咄嗟に右足を振り上げる。大して高く上がったわけではなかったが、倒れこむようにこちらに顔を突き出してきているランポスの体に足が直撃する。

 ランポスの体が転がり………………そして俺とっては運良く、ランポスにとっては運悪く崖から転がり落ちた。

 

 そうして訪れる静寂。俺はへたり込み、動くこともできない。

 崖からランポスが上がってくるのではないか、と怖くて確かめることすらできないのだ。

 

 十秒が過ぎ、二十秒が過ぎ、そして三十秒と過ぎる。

 

 崖のほうから物音は聞こえない。どう考えたってもう安心のはずだ…………だと言うのに俺はまだ立てなかった。もしかしたらまだ生きているのでは? もしかしたら俺が気を緩める瞬間を待っているのでは?

 そんな有り得ない可能性ばかりが頭を駆け巡り、足が竦むのだ。

 

 そうこうしているうちに状況が変わる。

 一度フィールドに出ておいて、いつまでも何事も無いなどと言うことは有り得ないのだ。

 聞こえる荒い息遣い。

 体がびくり、と震える。

 けれどそれは…………崖の下ではない、俺の背後から聞こえていた。

 振り返る、そして絶望する。

 

 ドスファンゴがそこにいた。

 

 そもそも俺はドスファンゴの討伐のためにここにいるのだった。

 初めてのクエストがいきなりそんなので大丈夫なのか、と受付の人にも散々入れたのに、俺はゲーム時代と言う何の当てにもならない根拠で大丈夫と断言していた。

 今考えればなんて無謀なのだろうか。ここはゲームの世界ではない、現実だと言うのに。

 

 もう遅い。ドスファンゴが完全に俺へ向けて走り出していた。

 

 足は竦みあがり、動くこともできない。

 

 どうにもならない。

 

 このまま…………死ぬだけだ。

 

 先ほどまでとは違う…………必ずこの突進は俺に当たるし、当たれば俺もランポスのように崖に突き落とされ死ぬだろう。

 

 変えようの無い、絶対の死。

 

 そして…………そこまで来てようやく。

 

 俺の中に張り詰めていた糸がぷちん、と切れた。

 

 叫ぶ。

 

 足は立たない。体は震えている。

 

 だからどうした?

 

 俺の手はまだ動く。この手にはハンターナイフが、武器が握られている。

 

 だから、だから…………。

 

 振り上げたナイフをドスファンゴの突進にあわせ、振り下ろす。

 

 ゲームでも出来ないような奇跡的なタイミング。

 

 それは死ぬだとか生きるだとか、そんな生存本能が臨界点を超えてしまったが故の反応。

 

 自身の生死を埒外に捨て置き、ただ一つのことにだけ集中する。

 

 だからこそ…………この刃は届くのだ。

 

 ドスファンゴの眉間にハンターナイフが突き刺さる。

 

 ゲームとは違う、完全なる致命傷。たった一撃、それも最弱の武器であるハンターナイフでドスファンゴが殺せる。

 それは、これが現実である何よりの証だった。

 そして…………倒した、それだけで終われないのも、現実の証だ。

 一瞬で絶命したドスファンゴ、だがその突進の威力は何も変わらない。

 吹き飛ばされ、ドスファンゴともども崖から落ちていく。

 

 一瞬の浮遊感、そして体にかかる重力負荷。

 

 落ちれば死ぬだろう、そんなゲームじゃないのだから、無傷なんて有るわけがない。

 だが、不思議と俺は笑っていた。

 

 ランポスにドスファンゴ。たった一日で二度も命を賭けた戦いがあり、そして俺はその両方に勝利した。

 だから、だろうか…………俺は不思議と死ぬ気がしなかった。

 

 二度あることは三度ある。

 

 そんな気分だ。

 三度目の正直、と言うのもあるが…………けれど、きっと助かるそんな予感を持っていた。

 

 ザパーン…………と海の中に落ちる。

 

 その衝撃の凄まじさに呼吸が止まる。視界がぼやけ、意識が遠のいていく。

 

 助かる…………絶対に、助かる。

 

 俺のその予感は、最後まで途切れなかった。

 

 

 

 カラコロと帰りの車に乗りながら思う。

 あの後、目が覚めれば海岸で、傍にはドスファンゴの死体が落ちていた。

 討伐の証である大猪の牙を剥ぎ取り、持ち帰ってギルドに渡す。

 顔を真っ青にしながら、死にかけの体(てい)で討伐部位を持って帰ってきた俺を見て、ギルドの受付が目を丸くしていた。その後すぐに俺は医者に連れて行かれ、二ヶ月の休養を言い渡された。

 

 思えばあれが転機だった。

 

 あの時きっと俺はこのスキルを手に入れたのだ。

 

 【死中に活を見出す】

 

 この世界のスキルは加護のようなものだ。

 防具や装飾品に宿る霊的な力をいくつかの防具や装飾品を組み合わせることで高め、スキルとして顕現させる。

 そう言ったスキルは、ゲームのように確認することは出来ないが、何となく所持者には分かるものらしい。

 俺があの日を境に手に入れたのは、ゲームにも無い、特別なスキルだった。

 

 名前を見れば非常にわかりやすいが、本気で追い詰められないと発動しないスキルだ。

 

 例えるなら、生存率0%の状態を生存率1%に上昇させる。

 

 発動する状況が様々なだけに、条件は曖昧だが、これが発動する時はほぼ絶望的状況の時だけだ。

 まあそんな絶望的な状況なんて早々陥るのもおかしな話なのだが。

 

 多分あれからだ、わざと絶望的な戦いに身を置くようなことをし始めたのは。

 

 あの日、あの時、あの瞬間が記憶に焼き付き、忘れることができない。

 あの日突き立てた、ナイフの感触。別に殺害趣味、と言うわけではない。

 ただ、自分でも死んだと確信していたあの状況…………けれどそこから拾い上げた勝利、それがどうしても忘れられない。

 

 前世で戦争を題材とした作品で言っていたことだが。

 

 勝利とはあらゆる麻薬に勝る快楽だ、と。

 

 俺の場合、そこにさらに直前までの絶望が加えられていて、絶望の淵から勝利へ、その振れ幅の大きさは俺の生存本能すらも破壊してしまうほどの快楽だった。

 さっきまでやっていたスレッドでバカたちがかっこいい、などと言っていた。

 きっとそれは、無謀にも見える特攻をし、生死のギリギリの攻防をするその勇気を讃えてのことなのだろうが。

 見当違いも甚だしい。

 

 ただ俺は自分の命を計算しないだけだ。

 

 生きているに越したことは無い…………が、別に死んだらそこまでの話だ。

 ただ一つだけ悔いが残るとしたら、きっとそれは勝てなかったことくらい。

 だからいつでも生きるか死ぬかの選択をあっさりとできる。

 周りから見るとそれが勇敢だとかそんな風に映るらしい。

 

 英雄だとか…………特級ハンターだとか…………どうでもいい。

 そんな肩書きがあって何の意味があるのか。

 誰も俺を知らない。俺も誰かに知ってほしいとは思わない。

 

 だから…………ゲリョス討伐を受けたその時に、彼女の言った言葉に衝撃を受けた。

 

 いつまで自分の命を使って遊んでいるんですか?

 

 いつも受け付けに座って俺の無茶な要望をあっさりと通してくれる彼女。

 まさかいつも綺麗言並べ立てて俺を死地へと送り出す彼女が内心でそんなことを思っているとはその時まで知る由も無かった。

 

 例えば…………一年に何人のハンターが脱落して元の生活に戻っていくか知っているだろうか?

 その中で…………命を危機を覚えて見入りが悪くても安全な生活に戻っていった人間が何人いるか知っているだろうか?

 ハンターになる人間の半数以上が働くところがない、ハンターにならなければ生きていけない人間たちだ。

 だから生涯生きていけるだけの金を手に入れたらさっさと引退してしまう人間は多い。

 

 そんなやつらから見たら、俺は異常の一言に尽きるだろう。

 

 使いきれないほどの金も。

 

 身に余るほどの名誉も。

 

 最強の名に相応しい実績も。

 

 全てを持っていながら、わざわざ自らを死地へと追い込む俺は、生きることとは真逆のベクトルに向かっているのは確かであり。

 だとするなら、今俺がハンターをやっているのは、生きていく上での余分なのだろう。

 

 遊び、そう言われると間違ってもいない。

 

 先ほどまでのスレッドなどその最たるものだろう。

 他人に選択肢を委ねると言うその無謀さ、そして遊び半分で向かわされる死地。

 そしてそれを乗り越えた際の快楽。それこそが自分が求めているものだ。

 だがそれが必ず必要かと言われると、そうでもない。

 

 そう…………だな。

 

 答えは見つけた…………だからそれを伝えに行くとしよう。

 

 あの初めての討伐が人生の最初の転機だった。

 

 だからきっと、今から彼女のところへ向かうこれは…………

 

 俺の人生の二度目の転機なのだろう。

 

 

 

 




タイトルの名前が>>1の名前(今決めた)
名前は音が良いので適当。苗字はDIO様から拝借。まあ気にしない。

では、次から新しいスレッドに入ります。
因みに、原作は秘密。
ヒント言うと、これまで感想送ってくれた中の一つ、とだけ言っておきますね。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。