(略)のはAce -或る名無しの風- 作:Hydrangea
(追記)
ルビが何やらおかしくなっていたので、修正の為一旦削除していたものの再投稿です。
『本当に大丈夫なんでしょうね?』
『だいじょーぶ! 私を信じて!』
自身のそれと同色の魔力光で輝く路を駆け抜けつつ、並列して
管理局員としての高みの一つ・執務官を目指している相棒とは異なり、少女が志しているのはあくまでも災害救助を主任務とするレスキュー部隊。故に、彼女が本来立ち向かうべき相手は人ではなくモノであり、一見するとこの現状は聊か不合理に思えるかもしれない。事実、人一倍暴力を嫌い、それ故に災害救助という道を志した過去を持つ少女自身もまた、訓練の話を受けた際はそう考えていた。
しかし、そんな彼女に対し、師であり親代わりでもある人物は、厳しく、しかし優しく、ある一つの教えを諭した。
――お前がこの先立ち向かわんとする相手は、ちっぽけな人間の思考など歯牙にもかけぬ強大なる大自然が一部。たかが人間一人にさえ正面から立ち向かえない弱虫が、そんな大きな存在を相手取り一体何ができるのか。
今のお前が恐れているのは、その力で誰かを傷つけてしまう事ではない。「力」を振う者が背負わなければならない責務によって、お前自身が傷ついてしまう事なのだ――と。
その言葉は、泣き虫であった少女の心へと確かに響いたのだろう。あれ程までに己の力から目を背けていた少女が、今こうしてその「力」と正面から向き合えているのが何よりの証拠だろう。
さて、そうして己が二本の足で戦場へ立てるまでなった少女ではあるが、己の興味がある事以外には中々関心が向かない……というより、ある一つへのめり込むと聊か視野が狭くなる性分の所為だろうか。首席卒業という輝かしい経歴を持つにも拘わらず少々情報に疎い彼女は、相方とは違い今回の「教官」について殆ど予備知識を持っていなかった。それは、精々が「とんでもなく強いらしい」という子どもじみた内容ぐらいの物だろう。
とはいえ、模擬とはいえ戦場の空気とは恐ろしいもの。或いは「百聞は一見にしかず」という、ある管理外世界に伝わる故事の通りとでも言うべきだろうか。初めて顔を合わせて未だ十数分と経っていないにも拘わらず、少女は昨晩相方が散々騒いでいた理由を既に十二分に理解していた。
天地程はあろう、圧倒的なまでの実力の差として。
いくら少女の性格が非好戦的とはいえ、そこは訓練の場。師の教えによる影響もあったのであろう今の彼女は、自身も驚く程に一切の迷い無く全力を賭す事ができていた。首席卒業だからとて、何も座学一辺倒な頭でっかちである筈も無し。むしろ其方が意外に思える第一印象そのままの溌剌さと勢いを余す事無く両の拳へと乗せ、相棒の繰り出す援護射撃と共に模擬戦開始から攻めの一手。怖いもの知らずの若さに溢れたその力は、生半可な壁であれば乗り越える前に木端微塵にされ、例え逃げ続けても忽ち追いつかれてしまう事だろう。
だが、そんな彼女達へと充てられる「壁」が生半可な物でないのもまた必然。鋼鉄を砕く拳は容易に往なされ、飛ぶ鳥をも捉える弾丸は瞬く間に斬り捨てられる。既に火蓋が落とされてから十数分は経過しているにも関わらず、有効打は勿論、かすり傷どころか一歩でさえ教官役たる騎士を開始時の位置から動かせていなかった。
無論、その戦況を「攻めに転じさせていない」等と楽観視できる筈もないだろう。多忙の身ながら教官役を引き受けた彼女が勤労意欲を著しく欠いた怠け者であるなんてのは以ての外。つまりは、足を使わず、攻めに転じずとも十分事足りる。それだけの力があり、またそれだけの差があるという事なのである。
そして、仮に彼女が最初から全力を以て「倒しに」かかっていれば、今の挑戦者二人では十数分どころか数分でさえ持ちこたえられるかどうかも疑わしい。それは。今戦いの場へと立っている少女二人が誰よりも理解していた。全力で振った拳を易々と掻い潜り、あまつさえ自身の隙を見つけ出しては、死力を尽くせばなんとか交わしきれるギリギリの力による反撃。それらを両立させる技量を肌で感じ取れば、どれ程頭が能天気であっても否応なしに理解させられる事だろう。
守勢に入れば水も漏らさぬ盾となり、攻勢に出れば万象を断ち切る刃となる。それが彼女の……古よる伝えられる業と魂とをその剣へ宿した、誇り高きベルカの騎士が力なのである。
そもそも、片や訓練校を出たばかりの
だが、今少女達を捌いている教官たる騎士は、そんな妥協で満足できる程甘くはない。這えば両腕を払い、立ち上がれば尻を叩く。それこそが教え子達の為になると信じ、鬼教官は今日も今日とて鞭を振う。実践において可を出す事こそが本懐であるのに、どうして訓練で良を求められない事があろうか。
何より、少女達自身がその
超エース級を相手にしても堪え切る力量でも、苦境においても己を律し続けられる精神力でもない。その力の差を知り、それでも尚挫けぬ――否、挫け、折れ、砕かれ。それでも
(必ず勝機はある。例え一人では届かなくても、私達二人なら……!)
そして、決して絶える事なき執念にも似たそれが見つけ出した“希望”。長引けば長引くだけ不利となってゆく少女達に残された「勝利」への道標。それを今、彼女は手に掴みつつあった。
未熟ながらも、同じベルカ系の技を使用する彼女だからこそ判る。こと人間同士の戦いにおいて最も重要となるのは、魔力量や演算能力ではなく「間合い」なのだと。
剣対魔導杖
単純なリーチなどで考えれば、一見すると後者の方が有利に見えるかもしれない。実際、何も考えず機械的に
だが、良くも悪くも柔らかな思考を持つ人間同士の戦いは当然ながら計算通りに行く筈も無く、それらを踏まえた上で行われるものこそが「間合いの食い合い」であり、真なる戦い。達人の前において機械的な魔力弾などは豆鉄砲にも劣る玩具であり、無思慮に空けられた距離を「間合い」などとは決して呼びはしない。それらの要素を鑑みた上で弾きだされる計算は、その全てが機械の能力を大幅に上回る結果なのである。
勿論、ミッド系においても近接戦闘の使い手は多々存在するが、生憎と今戦場に立つ少女達はそれに該当する者ではなく、また逆に相手は近接戦闘においてはプロ中のプロ。真正面からぶつかりあったところで、普通ならばまず勝ち目はないだろう。
そう、“普通”ならば。
しかし、繰り返しにはなるが、人間同士の戦いの勝敗を決するのは「間合い」であり、それは何も物理的な距離の問題だけでは無いのだ。意識の水面下に張り巡らされた「心の間合い」も又、それに含まれるのである。
もう一つの相棒であるローラースケート型デバイスのエンジンを吹かし、一端距離を開けつつ改めて現状を確認する。
現在、
だが生憎、少女の持ち味は速度と破壊力とを合わせた後の先を許さぬ「突撃力」であり、例え剣の間合いにおいて勝負にならなくとも、その更に内側、“拳”の間合いであれば、彼女の方に一日の利がある。何より、それらの要素を組み合わせてゆけば、低ランクの若造相手と油断しきっている相手の「心の間合い」は完全に封じる事ができる。少女が見出した勝機とは、その「心の間合い」を一足に飛び越え、剣の振るえぬ懐にまで飛び込む事であった。
『と、言う訳だから。お願い、私を信じて!』
『……まぁ、いいわ。どうせこのままじゃジリ貧だし、
何よりアンタと私とは一蓮托生って約束だからね。
オッケー。今回はアンタの策に付き合ってあげるわ』
『サンキュー! 愛してる!』
『はいはいわたしもよ』
表情にこそ出していないものの、両名とも既に体力・魔力は限界が近い。故に、頼れる相方の了承も取り付けた少女達はすぐさま最後の反撃へと打って出た。
撹乱の為に張り巡らせていた魔力路を解除し、真っ直ぐに騎士の下へと続く路を形成。その上を、恐れも迷いも無く、最大出力で駆け抜けてゆく。当然、そうもあからさまであれば相手も気付く筈ではあるが、最初からカウンターを狙っていたのか、それとも未だに慢心しているのか。残る魔力弾を片手間で捌きつつも、騎士は相変わらず一歩としてその場から動こうとはしない。
『――けど、その油断が命取りよ』
40、30、20、15、10、9、8……
瞬く間にゼロへと近づいてゆく二人の距離。この状況において、どうやら勝利の女神は「勢い」よりも「経験」を選んだらしい。纏わり付いていた羽虫の大半を斬り捨て終え、自身目がけ吶喊してくる敵を正面に剣を構えた騎士は、それ自体が如何なる凶悪な質量兵器をも上回る最強の
だが、しつこいかもしれないがもう一度言おう。彼女は
「っ! 目くらましだと!?」
『決まった! オッケーそのまま……思いっ切りブチかませ!!』
その種は、なんという事は無い。騎士も気付かなかった(気付けなかった)その一発。誘導弾の中に紛れ込ませていた、閃光の術式が組み込まれた魔力弾。遮光グラスさえ容易に貫くそれは、敵味方問わず一切の視界を容赦なく奪い去る、使いどころを誤れば間違い無く味方にさえ危機を齎す代物であり、同時に何よりも単純で初歩的で、この上無く高い威力を誇る最良の罠。
だが、例え己の目が利かずとも、サーチャーを展開していなくとも、彼女には背中を預けられる
「はああぁぁぁっっっ!!」
剣の内側、拳の間合い。裂帛の気合と共に全力の拳、必殺の一撃が振り抜かれ――
「――連携、発想、勢い、どれをとっても中々のものだ。
……が、一つお前達は大きな勘違いをしているようだな」
『嘘……あの状況でどうやって……?』
華奢な胴体へとめり込む拳。しかしそれは、同じ金属の手甲に包まれてはいても、闘士のものではなく騎士のソレ。
視覚を奪われた状態であっても、やはり勝利の女神による見立てに狂いは無かったらしい。二人が交錯したその瞬間、経験と直感だけを頼りに半身となって紙一重で鉄拳を躱した騎士は、その勢いさえも利用して、逆の拳による見事なカウンターを決めたのである。なまじ反撃の存在を考慮せず攻撃に全て注いでいただけに、平時であればただの拳にすぎないそれも、少女にとっては巨人の一撃に匹敵する凶器と化していた。
そして、生来の頑丈さ故に未だなんとか意識を保っていた少女であったが、時には容易に落ちていた方が良い場合もある。少なくとも、この教官は何よりも少女達の未来を案ずるが故に、一縷たりとも容赦はしないのだから。
「油断等では無い。これは余裕と……」
(ああ、ゴメンね●●●……また、ドジっちゃって……)
「言うものだ!!」
『■■■――!!』
轟く爆音。
薄れゆく意識の中で少女が最後に見たのは、何時もの気の強そうな雰囲気を微塵にも感じさせない、まるで嘗ての自分の様に今にも泣き出しそうな相棒の顔であった。
◇◇◇
「えっと…………ヴィ、ヴィータちゃん。一ついいかな?」
「ん、何だ?」
防護用結界を隔てた先、訓練場の横に設営された管制室にて、目の前の「惨状」に己が目を疑いつつ少女……高町なのはは、小柄な自分から見ても更に小さい戦友へと恐る恐る疑問を投げかけた。
嘗ては悲しきすれ違い故に刃を交えた経験もある彼女達ではあるが、それも昔の事。今や掛替えの無い親友として背中を預けられる様にまでなった彼女達は……否、だからこそ、この先も変わらぬ友情を交わしてゆく為にも、不要な悩みの種は決して残しておくべきでは無いのだ。
「あの、その……今の技って?」
そう例えば、先程烈火の将・八神シグナムが放った技――どう見ても故郷のとある漫画でみたまんまのそれに関する真相。なんていうものも、だ。
勿論、彼女達の過去にあった事は外野ながらも一番近い者として耳にしてはいるし、それに関して過度の詮索をするつもりも無い。
だが、よもや彼女が、専ら夕飯時は居間のソファにて夕刊を広げている彼女が。しかし時たま気まぐれを起こしてはデバイスを持ちだしベルカの伝統料理をふるまってくれる彼女が。その本性をして激動の時代の闇を生きた非道なる修羅……例えばCC○みたいな人物だったりするのでは? という疑問に関しては、どうしても彼女自身の手で引導を渡しておきたくなったのである。
どう考えてもお世辞にも明らかにその容姿と釣り合ってはいないだろと言いたくなる程に可愛らしい私服のセンスをなさっている皆のお姉さんが、そんな弱肉強食の修羅である筈が無い という微かか、しかしはっきりとした希望を抱いて。
「ああ、確かに珍しいかもな。あいつが徒手空拳を使うのは。
けど、あれは『Ein brennender roter Arm』って言う、
れっきとした古代ベルカから伝わる奥義の一つなんだぜ?」
「そ、そうなんだ……」
エキサイト直訳かよ
真剣な顔によるあまりにもアレなマジ解答に、流石のなのはさんも苦笑いを浮かべざるを得ない。
確かに、剣を主体とする
だが、“とある事情”を知る極一部の者からしてみれば、それが悪質なまでに凶悪なギャグにしか見えないのもまた事実。少なくとも、もしなのはが実践においてあの技を使わようものなら、防御も回避もかなぐりすてて、思わずその場のノリで喰らってしまう事請け合いであった。
「す、凄いんだね、古代ベルカって(色んな意味で)」
「……まぁ、昔は戦争ばっかしやってたからな。
そういった面はドンドン発達していったんだろ」
引き攣る頬を誤魔化しつつ、若干の皮肉を込めてそう返すなのはであったが、そんな邪な考えは、決して誇らしげでは無いヴィータの横顔により一片に吹き飛んでしまった。
――彼女の言う通りだ。あれもまた、平和な世界で生まれ過ごしてきた自分には想像もつかない戦乱の最中、それでも守りたいモノの為に苦難の末編み出された業の一つなのだろう。
だから、例え見目も中身も全くの同一で、自身にとっては非常に滑稽な光景であろうと、そこに込められた願いは紛れも無く本物で――――
「二重の……極みっ!!」
――そう考えていた時期が、私にもありました。
次いで行われた第二戦、親友の家の狼さんがしでかしたソレを見て、とうとうなのはの中で何かが弾けた。
見た目いい年した筋骨隆々の大の大人が、大真面目な顔して一体何をやっているのか。剩、結界破壊属性など一欠けらも付与されていない唯の強パンチが何故AAAランクのシールドを文字通り「粉微塵」にしているのか。どうして誰もその点に突っ込まないのか。
そういえば今隣で平然としてる赤ロリは以前金ぴかのハンマーを振りまわしていなかっただろうか。いや、それだけじゃない――
めくるめく迷走を続ける思考。ゆらぐ常識と、脳の奥底より溢れだす
次話は再び掲示板形式メイン。更新は未定です。