(略)のはAce -或る名無しの風- 作:Hydrangea
XXXX年XX月XX日(暴風、時々雷)
■■■より、先日遂に『U・D』が完成したとの報告を受けた。
おそらく、材料の確保段階から厳重な情報統制が敷かれていたのだろう。計画発案の折、誰よりも先に反対の立場を取っていた事と、自身のこれまでの経歴などを考慮すれば、その迅速かつ周到なる対応にも納得がいく。
今回■■■が情報を得られたのも、計画が既に止められない所にまで進行しているが故だろう。
後手に回ってしまった。という認識は無い。
我々の、延いてはこの国の現状を鑑みれば、遠からずとも同様の結論には至っていた事だろう。今対処するか、それとも後に回すか。その程度の違いでしかない。むしろ、公然と対処する口実を得られた事に感謝していた方が、気持ちとしても幾分か楽になる。
現状の維持は緩やかなる衰退に同義。それ故に、我々に立ち止まる事は許されない。だが一方で、その全てを自らが意のままに動かさんと欲すれば、そこに綻びが生じるのもまた必然。
如何に強大なる軍事力を誇ろうと、神代の奇跡を操ろうと、我らが我らである限り、決して真理と真実を覆す事など出来はしない。世界とは儘ならぬ程に複雑怪奇であり、それ故に美しいものなのだから。
一体何時からだろうか、同じ姿形をしているにも拘わらず、一見して持たざる者達が軽んじられるようになったのは。その些細な相違だけで、一方は絶対的な権力者となり、もう一方は言葉すら許されぬ家畜と成り果てたのは。その区分が“当たり前”とされるようになったのは。
もはや、我らの心からはあの光も失われてしまったというのだろうか。
いと美しき□□の□が輝きは。
……いや、今は過ぎた事を嘆いている場合では無い。
我々の技術を以てしても、未だ過去そのものを取り戻す事は叶わない。
ならばこそ、我らは前を向かなければならない。その為にも、未来の芽を絶やさない為にも、一刻も早く完成させる必要がある。
希望の灯、この『不屈なる魂』を――