USOくえ   作:生甘蕉

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8話    ドリル

 露出狂気味な美少女勇者に殺害されてしまった俺。

 ロード前の休息所である道場にて、違う世界に離れ離れにされている嫁たちと再会する。

 

「コーイチ、まだ帰ってこれないの?」

 寂しそうに聞いてくるティロルちゃん。

「もう少しだと思うから待ってて」

「ホント?」

「うん。だいぶ揃ってきた」

 俺を殺した女勇者。

 彼女がもし本当に勇者なら。

 ゾーマを倒した勇者なら。

 今も最後の鍵を持っているはずだ。

 それを使えば嘆きの牢獄の奥へと行くことができる。

 現実世界へと行くことができる。

 そうすれば、道具屋でキメラの翼をいくつも買うことができ、狭間の世界に囚われた女の子たちにあんまり気兼ねしないでそれを使うことがきると思う。

 そう、嫁さんたちのいるショートラムへ行くことができるはずなのだ!

 

「って予定なんだけど」

「ふーん。でも、それにはまずその殺人鬼……勇者を仲間にしなきゃいけないよね」

 殺人鬼って……。

 たしかにオリジナル版の勇者の父オルテガは『さつじんき』と色違いのグラフィックだったけど。そんなのからあの美少女が生まれるとは思えないし、神秘のビキニを装備していたからリメイク版だと思う。

 あ、オリジナル版のオルテガって殺人鬼と同じく、着ているのはマスクとマントとパンツと手袋、靴のみ。裸マントというか覆面パンツというか、な怪しい姿……まさか露出狂が遺伝した? ……まさかね。

 

「水着でうろつく勇者様ですか?」

 驚いているのはシグルーン。

 ティロルちゃんやファローラもレオタードっぽい服で生活したり戦闘したりしてるのは気にならなかったのかな。

「まあ、そういう趣味じゃなければたぶん、鎧は置いてきちゃったのかもしれない」

 よく考えたらたしかドラクエ3のエンディングって、ゾーマを倒した後、その際に装備していた武具一式をロトの装備として城に残し勇者は行方不明になる。ってのだったんだよな。

 だから、鎧は装備していないのかも。……それでも水着をチョイスするのはすごいと思うけどさ。

 ボディに自信があるのかな?

 たしかに美少女だったけど、胸はそんなに大きくなかった気がする。

 

「でもね、勇者よりももっと深刻な問題があって……」

 狭間の世界で、俺以外が異世界への移動魔法を使うための条件を説明した。

 

「コーイチノ嫁ニナラナキャイケナイ?」

「それが一番困るとこなんだよね」

「でも、勇者の鍵があればその必要はないんだよね?」

「いや、たぶん行けるのは女の子たちの世界とは違う、現実の世界」

 6の現実世界に行けても、7のフォズちゃん、9のリッカちゃん、3のサリジェちゃんと勇者ちゃんは困ると思う。

 6の世界から他のシリーズの世界に行ければいいんだけど。

 

「結婚なさるのですか?」

 悲しそうな顔で聞かないでミコちゃん。

「他に方法が見つからなくて、彼女たちがそれを望んで、君たちが許してくれれば……かな?」

 俺だけで決められることじゃない。

「結婚だけして、その子たちが元の世界に帰ったらどうするつもりさ? 別れるなんて言われたら、コーイチ泣いちゃうよね」

 うっ。ジーマは俺のことよくわかっているよね。絶対泣くと思う。

 

「その子たちのひきつぎ、やめちゃうの?」

「……別れるつもりなら、結婚はしても抱かないかな」

 ちょっともったいないけどね。

 処女を貰っちゃったら、別れたくなくなっちゃうから。

 

「それ結婚言わないと思うの。はじめて夜がないとだめなの」

 はじめて夜? 初夜って言いたいのかな、クウちゃん。

「そうだよ。ここのシステム考えるとその可能性はあるよ」

 むう。この道場の引継ぎの設定とかもたぶんタムさんが調整したんだろうしなあ。だとすると嬉し……いや、困るな。

「リンスちゃん、その子たちに会ってみたいな。それから考えればいいんだよ♪」

「そうですね。コーイチさんがこちらにくることができるようになれば、私たちがあちらへ行くこともできるはず」

 その案にみんな納得したのか頷いていた。

 まあ、みんないい子だし仲良くなってくれると思う。結婚するかは別にして、会ってもらうのもいいかもしれない。

 

 

 ある程度の説明が終わったので、今度はみんなからショートラムの方の状況を教えてもらう。

 恋愛神マーティスと恋愛多体神ミラの痴話喧嘩を止めさせ、世界のバランスを保つことに成功した俺たち。それでDALKクリア扱いになってボーナスを選んだ俺が酷い目に会ったんだけどさ。

 その喧嘩の大本の原因は、ミラが絶対神フラドの怒りを買い、その姿をメドューサに変えられてしまったこと。

 マーティスの封印を解いて、正式に神官となったセイルはミラの姿を元に戻すため、今もトラム山の地下のダンジョンに潜っている。

 みんなもそれに付き合っているようだ。

「地下8階のアリスソードは手に入れた?」

「うん。教えてもらった通りにゴミ箱を何度も調べて見つけたよ」

 店売りのアイテムが更新されないので、強い武器はほとんどが敵が出す宝箱に頼らなければいけないDALK。しかしなにが出るかはかなりランダムなようで、必ず入手できるイベントを逃すわけにはいかないのだ。

 ましてDALKの仕様は装備できるアイテム数が1。一人一つずつしか装備できないので、強いアイテムが重要。

 アリスソードは全てのクラスが装備できる武器で性能も高い。これで地下攻略も少しは進むはず。

 

「今何階あたり?」

「地下10階。レベル上げと装備の充実をしながらだからこんなもん」

「コーイチ探しながらだったから、ダンジョン攻略は遅れた」

「ごめん。遅れたからって無茶はしないでね。きっと帰るから元気でいて」

 せっかく帰れてもみんながいないと意味がない。

 

「それじゃ、いってくるね」

「いってらっしゃい」

 新婚夫婦らしく、みんなとキスしてからロードした。

 

 

 

 毎朝の日課のセーブ1でロード。

 せっかく真空波覚えたのになあ、と思いながらステータスをチェック。

 すると、パラディンの職業熟練度は星×1に戻っていたが、真空波の特技は覚えたままだった。

 なるほど。

 経験値や熟練度はセーブした時のだけど、スキルは死んだ時のを持ち越せるわけか。これはありがたい。

 これなら何度か繰り返せば、勇者ちゃんと戦っても生き残れるまでに成長できるかもしれない!

 ……無理か。

 勇者ちゃんが城にくるのは今日。

 熟練度が持ち越せない以上、どんなに転職したりして頑張っても星×1の特技や呪文が増えるだけだ。

 ここはやっぱり、サリジェちゃんにお願いするしかあるまい。

 

「サリジェちゃんの勇者って、女の子だったよね」

 朝食後、そう切り出した。

 サリジェちゃんも以前に勇者を説明してくれた時に「勇者オルテガの子」って言ってた。息子じゃなくてね。

「はい。勇者様はとても美しい方ですよ」

「とっても強いよね?」

「ええ。魔王バラモスをたった一人で倒された方ですから」

「一人で!?」

 そりゃ俺も一撃で殺されるわけだ。

 もしかしてサリジェちゃん以外パーティメンバーいなかったとか?

 

「ええ。あの方は既に勇者オルテガを超えています」

 いつもはあまり表情を見せず口数も少ないクール系なサリジェちゃんだけど、勇者ちゃんのことを話してる時は嬉しそうだ。頬も紅潮してるし。

「いつも水着でうろついてたりしてた?」

「いえ……見たんですか? 勇者様の水着姿を見たんですか!?」

 俺に詰め寄るサリジェちゃん。ちょっと怖いぐらいの迫力だ。

「い、いや」

「私でさえ、まだ見たことがないのに!!」

「いや、あのね、サリジェちゃんがそんな格好だから、勇者ちゃんもそうなのかと」

「……なんだ、そんな理由ですか。私のは危ない水着を売るための仕事着と説明したはず。今は着替えがないのでこれを着ているだけです」

 テンションが一気に下がったな。

 大丈夫だよ、勇者ちゃんの水着姿もうすぐ見れるから。

 ……む。そうか。

「もしかして危ない水着を持っていたのって、勇者ちゃんに着せるため?」

「……商売のため」

 そう言ったサリジェちゃんの頬はまだ赤いままだった。

 

「でね。その勇者ちゃんがね、今日、城にくるから」

「勇者様が!?」

 再びテンションアップのサリジェちゃん。

 

「予言ですか?」

 来客の予定を予言扱いですかフォズちゃん。

「うーん、ちょっと違うんだけど……説明できるのは俺の嫁さんになった人にだけかな」

 セーブ&ロードの能力はまだ秘密にしておいた方がいい気がする。

 説明するのもちょっと面倒だから。実演した方が信じてもらいやすいだろうしね。

 

「そ、それじゃおもてなしの用意をしないと」

 リッカちゃんも慌てだした。

「その前にお願いがあるんだ」

「お願い、ですか?」

「うん。俺と仲間のスライムたちは無害だってことを、勇者ちゃんに教えてあげてほしい。じゃないと殺されちゃうから」

 その間はどこかに隠れていた方がいいだろうなあ。

「勇者に怯えるなど情けないのう」

「タムさんだって勇者に負け……タムさんは勇者に負けたダークドレアムに負けたんだっけ」

 そもそも6主人公は勇者になってたのかな?

 タムさんがよく勇者、って言ってる気もするから勇者になってたのかもしれない。

「あっ、タムさんも安全だって言っといてね」

「勇者様にとって危険なモンスターなんていませんよ」

 ……なんかサリジェちゃん、俺までモンスター扱い?

 

 打ち合わせた結果、俺たちは勇者ちゃん襲来の予想時刻に大浴場に非難していることになった。

「さすがに丸裸の男をいきなり殺したりはしないよね?」

「勇者様にそんなものを見せないで下さい」

 なんだろう、勇者ちゃんのことを話してからサリジェちゃんが一気に冷たくなった気がする。

 この数日、いっしょに戦って仲良くなったと思っていたのに……。

 

 

「勇者ちゃんの説得、うまくいってるかな?」

 のんびりと湯船に浸かりながら呼びにくるのを待つ。

 そろそろ、前回スラキンが殺された回復の泉付近に勇者ちゃんが現われている時間だと思うんだけど。

 さすがに長時間風呂に入っていると飽きてくるなあ。

「よし、じゃあみんなの身体を洗ってやろう」

 腕が短くて自分では身体を上手く洗えそうにないタムさんはもう洗い終わっているから、次はスライムたちだ。

 

「スラオウ、おいで」

 湯船の隅で真っ赤に茹っているスラオウを呼ぶ。

「な、なんだべか?」

「洗ってあげる」

「そ、そんなことコーイチ様にさせるわけにはいかねえだ!」

「遠慮すんなって」

 スラオウを掴まえて、湯船を出る。

 

「さすがコーイチ様!」

「ぼくたちにできない事を平然とやってのけるッ」

「そこにシビれる! あこがれるゥ!」

 ……なんなんだろう、残りのスライム3匹のこのノリは?

 

「やっぱりこの感触はいいな」

 柔らかいスライムの身体を手揉み洗い。

 うんうん。肉球の次くらいにいい感触。癖になるなー。

「は、恥ずかしいだ」

「スラオウは照れ屋さんだな」

 そういえば、スラオウといっしょに風呂に入るのは始めてだったっけ。

 こいつ、いつも女の子たちと入っているもんなあ。

「はい、綺麗になった」

「オ、オラもうお嫁に行けないだ……」

 フラフラとしながら、スラオウは湯船へと戻る。

 ……なんか今、変なことを口走っていた気もする。

 

「えっと……スラオウってもしかしてメス?」

「あ、当たり前だべ!」

 当たり前って言われても、俺にはスライムの性別なんて見分けつかないし。

 顔の区別はつくようになったんだけどね。

 

「オ、オラ弄ばれただ!」

 泣きながら風呂を出て行くスラオウ。

 慌てて俺はそれを追う。

「乙女の純情を弄ばれただ!」

「人聞きの悪いこと言わないでくれ!」

 脱衣所で泣くスラオウを捕まえた時、そこにいた人物と目があった。

 

「きゃっ」

「え?」

 眼前を手で隠しながら、指の隙間から覗く少女たち。

「な、なんでここにっ!?」

 慌てて手近にあったもので股間を隠す俺。

「ぴ、ぴぃ!」

 それが高い声で悲鳴を上げる。

 俺が股間を隠すのに使ったのは捕まえたばかりのスラオウだった……。

 

 

「……」

 テーブルの上の気絶したスラオウを扇ぎながら、少女たちを無言で見る俺。

「あ、あの……」

「コーイチさんが危険でないことを証明するために仕方がなかったというか」

 フォズちゃんとリッカちゃんが赤い顔で説明してくれる。

 どうやら、俺のことを教えるためにみんなで風呂を覗いていたらしい。

 

「だからって、入浴中を覗く?」

「ご、ごめんなさい」

「すみませんでした」

 素直な二人はすぐに謝ってくれたんだけど。

 

「いいじゃないですか。減るものでもあるまいし」

 勇者ちゃんのすぐ隣に座っているサリジェちゃん。

 スクール水着とビキニの美少女が並んで座っているってすごいなあ。

「それに、キミが危なくはないけど、酷い奴だってわかったし」

 勇者ちゃんの方は露骨に俺を睨むし。

「酷いのはそっちじゃないか。ノゾキ魔」

「なっ! 女の子をお風呂で弄んだあげくに泣かせた奴に言われたくない!」

 うっ。それについては反省してるけど。

 

「俺はスラオウがメスだなんて知らなかったんだ! みんなは知ってたの?」

「はい」

「いつも女の子といっしょに入ってたじゃないですか」

 ……スライムだからオスでも許されるんだって思ってました。

 それなら、教えてくれてもいいだろうに。

 

「信じられない。知ってて弄んだんじゃないの?」

 疑いの眼差しを向けるビキニ美少女。

 なんだろう、前回はいきなり殺されたり、今度は覗かれたり、疑われたり。

「俺、なんか勇者ちゃんに恨まれるようなことしたっけ?」

「顔のいい男は信用しちゃだめよ、ってペッシュ姐が教えてくれた!」

「誰?」

「ペッシュは賢者。元遊び人で男性経験が豊富だから説得力がある」

 謎の人物をサリジェちゃんが教えてくれた。

 そうか、その女賢者が勇者ちゃんに偏見をしこんだのか。

 女賢者大好きなのにビッチだとかあんまりだ。

 

「……」

 再び無言になって異次元倉庫から愛用の地味眼鏡を取り出し、装着する。

 格好良さカンストも役に立たないなあ。

「泣いてるの?」

「……」

 無視。

 だんまりを決め込んでスラオウを扇ぎ続ける。

 

「……んん」

 どうやらスラオウが目覚めたようだ。

「大丈夫か?」

「コーイチ様!」

 テーブルから逃げようとしたスラオウをギリギリでキャッチ。再びテーブルに乗せる。

「ごめん」

 頭を下げて謝る。

「スラオウが女の子だなんて知らなかったんだ。本当にごめん」

「そ、そうなんだか?」

「うん。俺はまだスライムの性別は見分けがつかないんだ」

「そうだっただか……なら、仕方がねえだ」

「許してくれるか」

「もちろんだ」

「ありがとう」

 俺の手にスリスリしてくるスラオウを撫でて和解成立。

 ふふっ。可愛いやつめ。

 照れているのかまだ真っ赤だし。

 

「スラオウさん?」

 フォズちゃんがなにか驚いている。

「コーイチさん、大変です。スラオウさんが転身しています」

「転身?」

 スラオウのステータスウィンドウを呼び出して状態を確認してみる。毒とかの異常やHPの減少とかはないみたいだけど……。

 あれ? ……スラオウの種族がスライムからスライムベスに変化していた。

「大丈夫かスラオウ? どこか痛いとか苦しいとかないか?」

「平気だ。なんか前より力が溢れてきている気がするだ」

 赤くなっているのは、茹ったのや照れているからじゃなくて、スライムベスに進化してたかららしい。

 

「草以外のもんも食べてたせいだべか?」

 そういえば、スラオウ以外のスライムはみんな草食だったな。

 種族自体が草食だったのか。

「スライムには医者とかいないのか?」

「知らねえだ」

 ふむ。たしか5の小説でスライムがスライムナイトに進化してた。そういう生物だとしたら大丈夫なのかな?

 

「そっちは誰だべか?」

「ボクはロッテ。勇者ロッテ」

 そういえば名前聞いてなかったな。

 ロトじゃなくてロッテなのか。

「オラ、スラオウだ。よろしくだ!」

 勇者を名乗ったのに、スライム、いやスライムベスによろしくされて面食らうロッテちゃん。

 

「それなんだがスラオウ、彼女は俺たちとよろしくしてはくれないらしい」

「そうなんだか?」

「俺を嫌ってるみたいだ。ごめんな」

 ベスになってもスラオウの感触はいいなあ。

 ……あんまり触ってるとセクハラになっちゃうか。

「あ、女の子だったんならあんまり触っちゃまずいか」

「コーイチ様にならかまわないだ。それより、いいんだか? 勇者さ仲間になってもらわねば困るんじゃなかっただか?」

「……俺、しばらく別行動するから、その間に嘆きの牢獄調べてくれるか?」

 仕方なく勇者ちゃんに確認をとる俺。

 

「いっしょにはこないの?」

「気に食わないからって殺されたくない」

「ボクをなんだと思っているのさ!」

 勇者ちゃんが俺を睨む。

「可愛いけど怖い女の子」

「か、可愛い? ……そうやってボクを騙すつもりだな!? これだから顔のいい男は!」

 なんだろう? 実際に騙されたことでもあるんだろうか。

 

「サリジェちゃんだって勇者ちゃんを可愛いって思ってるだろ?」

「勇者様は可愛くて綺麗で素敵です」

「……サリジェはいつもボクに気を使ってくれるから」

「勇者様……」

 百合っぽいのはサリジェちゃんだけなのか。片思いみたいだな。気づいてなさそうだ。

 勇者ちゃんは鈍感属性なのかもしれない。

 

「ボクはいつも、どこへ行っても勇者オルテガの息子だった……」

 急に自分語り始めちゃったよ。どうしよう?

「父さんを失った母さんは、ボクを男として育ててくれて、そのせいでボクは女の子らしいことを知らない」

 旦那の無念を娘で晴らそうとか、かなり覚悟があったんだろうな。

「みんなボクを男と間違うんだよ。ボクは女なのにさ」

「それは本当にどうかしてるな。先代のイメージが強すぎるのか、勇者だからって男だって思い込みがあるのかもしれない」

 男女で台詞が変わらないのは、オリジナル版は容量の問題だったらしいけどね。

 

「やっとバラモスを倒せて、これで普通の女の子になれる。そう思ってたのに、今度は大魔王ゾーマが出てきた。ゾーマを倒したらアレフガルドから帰れなくなった」

「やはり帰れなくなっていたんですね」

「だからボク、アレフガルドで普通の女の子になることにしたんだ!」

 ポジティブだなあ。帰れないことに絶望して、狭間の世界にきちゃったわけじゃなかったのか。

「勇者も引退しようと、城に装備を置いてきちゃった」

「オルテガ様の形見の兜もですか?」

 リメイク版だとオルテガの兜ってアイテムも入手できたっけ。

 

「あれは……弟のとこに置いてきた」

「弟?」

「うん。父さんは、実は生きていてアレフガルドに辿り着いていたんだ。でも、記憶を失ってて……アレフガルドの女の人との間に男の子がいたんだ」

「そんな……」

「そのことと、父さんが本当に死んじゃったことを母さんに教えるかどうかで悩まないで済むようになったから、帰れなくなってよかったのかな?」

 まあ、記憶喪失中じゃ仕方ないかもしれないけど、娘としたら複雑なものがあるんだろう。

 

「それでね、鎧も着なくなったのに誰もボクのことを女の子扱いしないんだ!」

「だからそんな水着を?」

「うん。これなら男と間違えられないと思って! HPも回復するし!」

 ドヤ顔の勇者ちゃん。

 もしかしてアホの子なんじゃないだろうか?

 

「一つ言っていいかい。普通の女の子は、そんな格好でうろつかない」

「嘘っ?」

 驚いた顔でサリジェちゃんを見る勇者ちゃん。

「……はい。普通なら恥ずかしがります」

「だ、だってサリジェだって」

 勇者ちゃんがスクール水着で平然としている女商人に問う。

「私はたまたまこれを着ている最中にこの狭間の世界に来てしまって着替えがないのです」

「そんな……」

 目に見えて落ち込んでいる。

 

「こんな可愛い娘がそんな格好してうろついていたら、すぐに悪い男が近づいてくる。勇者じゃなかったら、どんな目に会ってたかわからないよ」

 まったくもう、勇者ちゃんといいサリジェちゃんといい、危機感がないんだから。世の中、紳士ばかりじゃないんだよ。

「ま、また可愛いって。……ボクをからかっているのっ!?」

 なんで可愛いって言われて怒るかなこの娘は?

「可愛いってば。背が低いのも胸が控えめなのも俺好みでポイント高いし」

 うん。人によってはロリに分類しちゃうかもしれない小ささだよね。俺としてはギリギリ、ロリじゃない、かな?

 でも間違いなく好みの美少女ではある。それだけに冷たくされると傷つくのよ。

 

「ほ、本気で言ってる?」

「……どうすれば信用してくれるの?」

「それじゃ……ボクとデートしてっ!」

 ……予想外の返答に一瞬固まってしまう俺。

「デート? なんでそうなるの?」

「一度でいいからしてみたかったんだ。……やっぱりボクみたいな可愛くない女となんて嫌だよね」

 ああ、そういうことか。

「そういう理由ならわかるけど……実は俺、デートの経験ないんだ」

「えっ? だって結婚してるんだよね?」

 それはみんなから聞いていたのか。

 なのに誘ってくるなんて。

 既婚者だから襲ってこないとでも思っているんだろうか。

 

「俺と嫁さんたちのデートっぽいのはダンジョン攻略だったから。二人っきりでちゃんとデートしたことってなかったんだ」

「ダンジョンデート……いいかもしれない!」

「いや、それ普通の女の子は嫌がるとこだから!」

 やっぱりなんかズレてるな、この娘。

「だから俺、不慣れだよ。こんな俺でもいいって言うなら喜んで誘うけど」

 嫁さんたちには後でちゃんと説明すれば許してくれるよね?

 みんなとちゃんと再会できたらデートをお願いしてみよう。

「本当に!?」

「この狭間の世界じゃ城の散策とまわりの散歩しかできないか……むぅ。コースが限られすぎるな」

 せめて映画館か動物園でもあれば。

「勇者様、デートはこの世界から出られてからになるようですね」

 俺を睨みつけるサリジェちゃん。恋敵認定されちゃったんだろうか?

 

「わかったよ。絶対に逃げちゃだめだからね。後でちゃんとデートしてもらうからね!」

「それって?」

「うん。いっしょにこの世界から出よう! さっきも言ったけどボクはロッテ。よろしくね」

 右手を差し出してくるロッテちゃん。

 俺も右手を出して握手。

「よろしく。……こんな小さくて柔らかい可愛い手なのに……」

 握手しながらステータスを確認したら力が255もあった。ドラクエ3仕様だとしたら、もうカンストしちゃってる。

 バラモスを単独で倒しちゃう勇者はかなり強いな。

「な、なにを言うんだよ」

 真っ赤になって照れるロッテちゃん。やっぱり可愛いなあ。

 

 

 

「この先なんだけど」

 鉄格子の扉を指差す。

 俺たちはさっそく、嘆きの牢獄にやってきた。メンバーは俺、ロッテちゃん、サリジェちゃん、スラオウ。とタムさん。

 ロッテちゃんとサリジェちゃんは残念なことに水着から着替えていた。ロッテちゃんが『ふくろ』から別の装備を取り出したのだ。

 さすが勇者、袋もちゃんと持っている。ということはやっぱりリメイク版みたいだな。オリジナル版は袋がなかったんでアイテムの預かり所があったはず。

 

「はい。開いたよ」

 最後の鍵で扉を開けるロッテちゃん。

 俺たちはやっと、牢獄の奥に進むことができた。

 鉄格子の隙間からも見えていた階段を使って、地下へと降りていく。

 そして、その先には大きな牢。

 ここに現実世界に通じる穴があったはずなのだが……。

 

「なんにもないね」

 再び鍵を使って牢に入るも、その床には穴なんてなかった。

「そういえば、ここの穴は塞いだんじゃった」

「もっと早く言ってよ」

「そう言われても、忘れとったんじゃ。すまんのう」

 がっくりと座り込む俺。

 さて、どうしたものかな?

 勇者ちゃんがいくつかキメラの翼を持っているから、それを貰ってショートラムに行ってみるか?

 

「掘ってみましょう」

 サリジェちゃんが床を掘ろうとする。

「それじゃ!」

「それ?」

「この床は、力を使うのも面倒じゃったので、ただ塞いだだけじゃ。再び床に穴を開ければこの狭間の世界から抜けられる穴もできよう」

 結界とかじゃなくて、物理的に塞いだだけだったのか。

 床を拳で軽く叩いてみる。

「結構硬そうだけど、やるしかないか」

「そうだね」

「やりましょう」

 

「……ギガデインはなしの方向で」

「うん。これ以上やったら、この牢自体が壊れそう」

 苦笑しながら頭をかくロッテちゃん。

 俺たち、というか主にロッテちゃんの攻撃でだいぶ削られてきた床。

 と、同時に牢のあちこちも傷んできている。これから先は慎重にいかないとまずそうだ。

「今日はここまでにして、城で道具を探そう」

 それこそサリジェちゃんが探していたゴールドマトックとか。

 

 

 翌日、牢の床に再アタックの俺たち。

 昨晩、皇一への手紙にこのことを書いたら、今朝、異次元倉庫に手紙とともにドリル槍が入っていた。あっちの世界に出てきた武器『らせんそう』らしい。

 気の力で勢いよく回る螺旋槍を使い、床に穴を開けていく。

「すごい、穴が開いていくよ!」

 欠片が飛ぶので、離れたところで見ているロッテちゃんとサリジェちゃん。

 俺の方はそれにこたえる余裕もない。

 結構疲れるんだよ、この槍。

 

「これでなんとか通れるかな」

 直径1メートルぐらいの穴をなんとか開けた。

 穴の中は虹色に光っている。ちゃんと行けそうだな。

 作業でできた大きな床材の欠片を穴に落としてみた。しばらく経っても落下音は聞こえない。

「大丈夫、かな?」

 

「スラオウ、俺たちはこれからこの穴に飛び込む。お前はタムさんを頼む」

「わかっただ」

 タムさんをスラオウの上に乗せる。

「じゃ、二人とも覚悟はいい?」

「問題ない」

「早く行こうよ!」

 ビビってんの、俺だけ?

 スラオウとタムさんを残して、俺たちは穴に飛び込んだ。

 

 長い落下感というか、浮遊感というか、な不思議な感覚の後に俺たちは地面に着地した。思った程の衝撃もなかった。

「うん、うまくいったみたい」

「ここ、どこ?」

 ドラクエ6だと聖なる祠の付近に出るはずだったけど、ここはただの草原っぽいな。

 穴を開け直したたせいで行き先が変わったのかもしれない。

 まあ、現実世界にこれたことだし、なんとかなるだろう。

「まずは、村か町を探そう」

 俺たちは冒険を開始した。

 

 


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