USOくえ   作:生甘蕉

7 / 12
7話    聖剣

 俺が封印を解いてしまった刀は妖刀どころか、聖剣だった。

 さらに一時的にだが、人間の姿にもなれるインテリジェンスアイテム。

 そして、元人間。

「……」

 人型になった彼女は無言で、辺りを見回す。

 

「……あの」

「貴方、人間ではありませんね」

 そういえば、気配で魔王とか魔人とかがわかるんだっけ?

「……認めたくはないんだけど、そうみたい。一応、元人間なんだけどね」

 元人間なのは俺も同じだったか。

「魔王子じゃ!」

 いつの間に乗っていたのか俺の頭の上でそうタムさんが叫ぶ。

 そのタムさんを摘みあげる。

「ややこしくなるんで、それ止めて下さい」

「魔王……子?」

 腰の刀に手をかける女性。刀がさらに刀を装備してるというのも変な話だが。

 慌ててタムさんを掴んだまま両手を挙げて降参する俺。

 エターナルヒーローなんかに襲われたくない。

 

「待って! 魔王子ってのはタムさんが勝手に言ってるだけだから」

「タムさん?」

「これ」

 手を下ろしてタムさんを前に突き出す。

「俺を後継者として改造しちゃった大魔王。といっても元だけど。俺が魔王子って言い張ってるんだ。恥ずかしいんで止めてほしいのにさ」

「これが……大魔王?」

 疑わしげな目。そりゃこんなちっこいのじゃそう思うだろう。力もあんまり感じないだろうし。

 

「ええと、日光でいいんだよね、君の世界の魔王とは関係ないはずだと思う」

「私のことをご存知なのですか?」

「まあ、それなりに。英雄ブリティシュの仲間で魔王ジルを倒す力を得るために、超神プランナーに願いを叶えてもらって刀にされちゃった。……で、あってる?」

 聖刀日光。

 DALKと同じく、アリスソフトのアダルトゲームであるランスシリーズ。それに登場する聖剣。

 あの世界では魔王や魔人にダメージを与えられる数少ない手段。

 人型になれるってことは鬼畜王仕様なのかな。

 あのゲームも公式の設定資料集買うぐらいまではまったなあ。

 

「……よく知ってますね」

「いや、その後のことはわからないんだけど」

「……刀にされてすぐに大魔王デスタムーアと名乗る存在に捕まり、封印されていました」

 刀になってから鬼畜王まで千五百年ぐらい経ってるんじゃなかったっけ?

 俺の前に立つ姿は20前後の美女なんだけど今いくつなんだろう? たしか21歳の時に刀にされて、それから老化してないはず。気になるけど女性の年齢を聞くわけにもいかない。

 

「タムさんが捕まえた?」

「……おぼえとらんのう」

 首を傾げるタムさん。

「まあたぶん、異世界で収集したが勇者たちの手に渡るのも嫌なので封印した、ってところじゃろう」

「?」

「あ、これがその大魔王デスタムーアのなれの果て」

「これが? あのデスタムーア!?」

 疑いたくなる気持ちはよくわかる。

「うん。魔神ダークドレアムにボッコボコにされて、その時の戦いのあまりの情けなさに手下達にも見放され、その復讐をさせるための俺の改造にほとんど力使って、さらにその後今の姿になるのに残りの力全て使っちゃって、ほとんどなにもできなくなってる。記憶もだいぶ失っちゃったみたい」

「……こんな姿になって記憶を失ってまでも倒したい相手、ですか」

 自分とダブっちゃったのかな。日光からの殺気が消えた。

 

「殺さないでくれると助かる」

「あなたはいいのですか? 望んで改造されたのではないのでしょう?」

 言われてタムさんを見てみる。

 今なら俺を、俺や他の後継者候補を弄んだ恨みを晴らすことは簡単にできそうだ。

 ……そりゃ俺は、かなり根に持つタイプだけどさ。

「異世界に送られたり、改造されたり……恨みがないといえば嘘になるけどね。感謝してるとこもあるから」

「感謝?」

「タムさんが異世界に送ってくれたおかげで嫁さんに会えた」

 じゃなきゃ俺があんな美少女たちと結婚なんかできなかったろうなあ。

「それに、今死なれると困る。かなり記憶を失っているとはいえ、この世界に一番詳しいのは間違いなくタムさんだ」

「なるほど」

 どうやら納得してくれたらしい。

 気づけば日光は刀へと戻っていた。

 

「久しぶりに人の姿になって疲れました」

 刀の状態でも喋れたんだっけ。

「い、今のは?」

 状況についていけずに黙っていたロリ三人がやっと口を開く。

「聞いていて少しはわかったかも知れないけど、この刀は異世界の聖剣。元々は人間で、さっきの女の人の姿になれる」

「私の名は、日光」

「あ、名乗るの遅れてゴメン。俺はコーイチ」

 慌てて自己紹介。

 ……あれ? 俺のフルネームってなんだっけ? 漢字も思い出せなくなっている。

 ステータスでカタカナ表記になっているせいか?

 

「タムーアじゃ。デスの称号は失っておる」

「私はリッカです。宿屋の娘です」

「フォズです。神官です」

「サリジェ。勇者様を探しているわ」

「オラ、スラオウだ」

 テーブルに載せた日光にみんなも名乗りあう。フォズちゃん謙遜しちゃって、君は大神官でしょ。

「よろしくおねがいします」

「こちらこそよろしく」

 刀なので握手もできなかったので、みんな柄に軽く触れていった。

 

「女の子三人は、タムさんがつくったこの狭間の世界に捕らわれちゃったんだ。で、俺といっしょに元の世界に戻る方法を探している」

 酷い話だよね。ちょっと絶望しちゃったぐらいで、こんなとこで暮らさなきゃいけないなんてさ。

「お前の目標はダークドレアムの成敗じゃ!」

「そう言われてもね。俺も早いとこ嫁さんたちに会いたいんだってば」

「全ては奴を倒してからじゃ」

「はいはい。万が一俺がダークドレアムを倒せるぐらいに強くなったらね」

 無理っぽいけど。

 

「日光さんの世界に旅の扉とか繋げてないよね?」

 よく考えたら年上っぽいのでさん付けすることにした。姿だけ見れば違うけど……って、俺も若返っているから姿見ても年上なのか。

「異世界への旅の扉などつくらんわい」

 デスタムーアはそんなものなしでも移動できたみたいだし、作る必要もなかったか。

「ごめんなさい。日光さんをこっちに連れてきたタムさんにはもう力は残っていなくて、元の世界へは返してあげられそうにない」

「……魔王を倒すための力を手に入れたというのに、異世界の魔王に連れ去られるとは……」

 あっちの神様は喜んでるかもしれないなあ。

「日光さんには悪いけど、よかったかな」

「なぜじゃ?」

「あっちの世界は危険だから。危険な神様とか危険な人物とかばかりで」

 戦争や不幸、悲劇とかを楽しむあっちの主神に興味持たれたらろくなことにならないと思うし、あの鬼畜主人公がこっちにきたりしてもやっぱり危険だろうし。

「先程から気になっていましたが、なぜそこまでに私たちの情報を知っているのですか?」

「むこうの世界の歴史……の物語を知っているからかな」

「物語?」

 ゲームというのは説明しにくい。ましてや18禁ゲームだなんて。

 

「ええと、俺の知ってる物語だと聖刀日光は、魔王ガイに連れ去られた少女美樹を助け出そうとする健太郎って少年の剣になるんだ」

「それで魔王を倒すんですね」

「そうなんだけど……魔王は美樹ちゃんが継承してしまって、美樹ちゃんと健太郎とともに旅をしていた」

 あれ?

 なんか俺の立場と似てるかもしれない。

 俺ってば美樹ちゃんポジション?

 誰かが健太郎ポジションになってタムさん倒してくれたりする可能性もあったのかな。

 

「まあ、俺がもっと力をつければ帰してあげられるかもしれないから、気長に待ってて」

 タムさん譲りの力が目覚めれば、なんとかなるかな?

「じゃからコーイチの嫁になれば移動魔法の制限はないというに」

「嫁?」

「……タムさんの力を受け継がされた俺と結婚すれば、移動魔法か同様の力を持つアイテムを使って、この世界から出られるらしい」

 でもさ、お別れするのが前提の結婚ってのは俺としては嫌だし、女の子たちも会って数日の俺と結婚なんて無理があるよね。

 

「それは最後の手段」

 えっ? サリジェちゃん、なに言ってんの?

「……わたしが結婚?」

 フォズちゃん、真っ赤になってるよ。

「コーイチさんのお嫁さん……」

 リッカちゃんまで。

 なんか女の子たちの反応が違うな。これも格好良さカンストのせい?

 眼鏡を異次元倉庫から取り出して装備しても、ロリたちは赤面したままだった。

 

「……私の契約の条件を知っていますか?」

「日光さんの? ……DNAを取り込むっていうアレ?」

 聖刀日光の主となるためには、日光さんと儀式をしなくちゃいけなくて、その儀式が性行為。

 俺の引継ぎ条件と同じなので、別に嫌悪感は感じない。

「やはり、そこまでお知りなのですね」

「ご、ごめん、女の子なのに大変だよね」

「私は聖刀。女の子ではございません」

「女の子じゃないなら、可愛い女の子で」

「コーイチ殿、私たちは魔人と戦うと決めた時から……」

 人であることを捨てた。そう言おうとしたんだろう。でも、俺の涙を見て止めてしまったようだ。

 うん。俺の涙腺は決壊してしまっていた。日光さんに同情したのだけが理由ではない。

「日光さんは可愛い女の子! で、俺も人間! それでいいでしょ」

 心は人間。そう言ってないとおかしくなっちゃうでしょ。

 ……いかん! みんなを不安にさせないように泣くのをずっと堪えてたんだった。

「ちょっとトイレ行ってくる」

「コーイチ殿……」

 俺はトイレに逃げ込んで、泣いた。

 

 

 翌日から城の調査のために人手、いやスラ手を集めようと、城外で戦闘に勤しむ。

 フォズちゃんとリッカちゃんもそろそろ気分転換に城の外に出してあげたい気もするけど、5人でパーティ組もうとしたらできなかった。

 一緒に行動はできるんだけど、どうしてもパーティ扱いにはならないらしく、ステータスが確認できないのだ。

 馬車が必要なのかもしれない。

 あの城に一人で留守番はあんまりなので、メンバーは、俺、サリジェちゃん、スラオウ。あとパーティ扱いになってないけどタムさんもついてきている。

 日光さんは城に残してきた。強い武器なんだろうけど、あの条件じゃ契約するわけにもいかないし、なにかあった時でも二人の護衛をしてくれると思う。

 

 サリジェちゃんはフォズちゃんのとこで6仕様の商人に転職済みだったおかげで、モンスターと一戦しただけで6の商人が覚える呪文、特技を全てマスターしてしまった。

 職業がマスターレベルになってたらそうなるのか。羨ましい。

 そして、ここの転職ではレベルが下がらないと知ると、魔法使いになるサリジェちゃん。もしかしたらルーラで帰れるかもと期待したのだろう。

「外見は変わらないのね」

「むこうだと、転職しただけで顔まで変わっちゃうんだっけ」

 男の魔法使いなんて爺さんにされちゃうし。

 6仕様らしいこの世界では、サリジェちゃんの姿は変わらなかった。

 相変わらずスクール水着のままだ。変わらなくてよかった。

 だが、レベルが下がらないのもいいことばかりではなかった。

 あくまで6仕様っぽいこの世界。サリジェちゃんのレベルが高いせいで、いくら戦闘しても魔法使いの熟練度が上がらず、『みならい』のままだったのだ。

「メラミとラリホーを覚えただけでも良しとします」

 6でもとりあえず魔法使いに転職、一度戦闘させてメラミ覚えたら、すぐに別の職業にするって攻略法もあったけどね。

 

 城のある島の調査も進める。

 やはりドラクエ6と同じであまり大きくはない島だ。

 大賢者のくれる真実のオーブがないと無の海を渡って、狭間の世界にある他の島に渡ることはできないらしい。

 タムさんに聞いても、俺の力が上がれば渡れよう、っていつものパターンだし。

 6と違うのはモンスターの分布か。

 まだスライムにしか会っていない。

 

 三日でスライム三匹を仲間にした。

 島の形もだいたいわかった。

 俺はやっと熟練度星×2のアイアンナイトになることができた。『しんくうは』を覚えたのでかなり強くなった気がする。

 実際、スライム8匹相手でも俺一人で勝てるようになったし!

 のこるはやはり鍵か。

 ピッキングツールか、バールのようなものをむこうの皇一に頼んで作ってもらった方がいいのかもしれない。

 

 皇一とは手紙のやり取りが続いている。

 あの写真も気に入ったらしく、また新たに料理を差し入れてくれた。焼き増した写真も倉庫に入れてくれたので城に飾った。

 カメラもまた再び入っていたので日光さんや浴場を撮影した。

 そうしたら、聖刀日光を見るために異次元倉庫に入れてくれとの要望がきた。

 それは断った。日光さんをアイテム扱いしたくなかったからだ。皇一ならわかってくれると思う。

 でも、食料供給で世話になっている皇一たちの要望を断るだけではまずいので、サリジェちゃんにお願いして彼女の売り物の危ない水着を一着、異次元倉庫に入れた。

 これで許してくれるだろう。むしろ評価が大幅アップしそうだ。サリジェちゃん、代金は後できっと払うからね。

 

 

「仲間になる数に制限はないのかな?」

 ドラクエ6では同じ種類のモンスターが仲間になるのは3匹までだったはずだ。

 もう既にスライムが4匹も仲間になっている。

 俺が魔物使いじゃないせい?

「魔王子が小さいことを言うんじゃない。軍を率いるつもりでおらんか!」

 タムさんそう言うけどね、スライムで軍隊つくってもねえ。

 スラオウ以外の仲間スライムは城の調査と雑用のために城に残している。

 どんな感じでやっているのだろうか。

 回復の泉に行くついでにちょっと覘いてみるか。

 

 城に戻ったら雰囲気が違った。

 なにかおかしい。

 空気が違うというか、わかりやすく例えるなら、BGMが不吉なもの変わっているような感じだ。

 胸騒ぎがする。早くみんなの無事を確かめたい。

 ……その願いは、回復の泉へ向かう途中で裏切られた。

「スラキン!」

 昨日仲間にしたばかりの新入りスライムだ。

 暗黒面に落ちそうな名前だと言ったら、困った顔をしていたスラキン。

 そのスラキンが真っ二つになって死んでいた。

 

「今さらスライムなんて戦うつもりはなかったんだけどね。襲ってくるから」

 スラキンを斬ったであろう相手が俺に声をかけてくる。

「今度は君かい? いいよ。さあ、戦おう!」

 剣を俺に向けているのはビキニの少女だった。

 額には青い半球が埋め込まれたサークレットを装備し、短めの黒髪を逆立てた美少女。

 ……え? それって……。

 

「勇者様!」

 サリジェが驚きの声をあげる。

「あれ? サリジェ?」

「はい。勇者様! お久しぶりです」

 やっぱり勇者なのか?

 サリジェの勇者様って、女勇者だったのか。サリジェは勇者に惚れているって思っていたんだけどなあ……。

 

「うん。元気だった? あ、それって魔法のビキニ? それってアレフガルドの海のキングマーマンが出すやつだよね? サリジェもアレフガルドにきたの?」

 そういえば魔法のビキニって、ドロップ品でしか手に入らなくてキングマーマンが乱獲されるんだっけ。

「はい、元気です。勇者さまも御壮健なようで何よりです。この水着は、アッサラームでベリーダンスの座長さんから入手しました」

「へえ。あっちでも手に入るものだったんだ」

 ……リメイク版だとアッサラームでも手に入ったっけ。なんかイベント内容が違う気もするけど。

 

「勇者様のそれは?」

「神秘のビキニ。歩いているだけでHPが回復するんだよ!」

 白い羽が意匠された水着系の最強品。まさか勇者がそんな装備でうろついているなんて。ビキニで剣と盾を持っている女勇者。凄い露出度だ。

 もしかして勇者パーティの他のメンバーもこんな装備なんだろうか?

 見てみたいな。

「よくお似合いです」

「そう? へへ」

 照れて笑う勇者ちゃんは可愛い。

 そのあまりの可愛さに、スラキンを殺した相手だというのに俺は見惚れてしまっていた。

 ちらりとサリジェちゃんを見たら、彼女もうっとりと眺めていた。

 

「でもなんでサリジェがこんなとこに? ……そうか、捕まったんだね! 待ってて。今助け出すから!」

 げっ。

 勇者ちゃんは、俺が降参するよりも早く斬りかかってきて……俺を一刀の元に斬り捨てた。

 改造でゴールデンスライム成分注入の骨格による高守備力も全く意味がなかったようだ。

 

 

 ……まあこれでスラキンが殺さる前の今朝のセーブからやり直せるけどさあ。

 勇者が人の話を聞かずにいきなり殺人なんかしちゃっていいの?

 なんか納得いかない。

 数日ぶりに嫁さんたちに会えるというのにすっきりしない俺だった。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。