ふくろウィンドウを確認していたら、リストに入れた覚えのないアイテムが増えていた。
なんだろう、これ?
>こういちからのてがみ
はじめまして、コーイチ。
俺はたぶん君と同じか、非常に近い存在だと思う。
そう、異世界の君。名は皇一。
俺もデスタムーアに選ばれたのか、生まれたのとは別の世界へ送られ、そこで暮らしている。
冒険の書も使えるし、死んだら道場へ行っている。
俺は最終審査にはもれたみたいだけど、君にシンクロしてるらしくてコーイチの改造手術時には苦しんだし、今は若返ってしまった。
そして、コーイチの状況を夢で知った。
俺も『ふくろリング』が体内で発生してしまい、手術により取り出したので使える。
幸いといっていいかわからないが、この袋指輪で使える異次元倉庫は、コーイチが使う異次元倉庫と共用しているっぽい。
なので、食料と調理済みの食事を倉庫に入れておいた。受け取ってくれ。
同じ自分なんだし遠慮はいらない。俺も行き倒れで何度か死んでいるので辛さはよく知っている。
俺の嫁さんも、君といっしょにいる女の子たちを心配している。食べさせてやってくれ。
それじゃ、がんばってくれ、異世界の俺。
追伸。
ムスコは思うだけで簡単にもう一本生えてきてしまった。出し入れも自由のようだ。
これが本当に第二形態なのかタムさんに確認してほしい。
紙と筆記具も入れておいたので返事がもらえると嬉しい。
倉庫から出して読んでみたら思わず泣きそうになった。
フォズちゃん、リッカちゃんといっしょに異次元倉庫から取り出した熱々の肉まんを頬張ったら、本当に泣いてしまった。
人の情けが身にしみる。
……まあ、異世界の自分らしいけど。
行き倒れて何度も死ぬって、ハードな世界に暮らしているらしい。不思議なダンジョンだろうか?
第二形態のことをタムさんに聞いたら、違うらしい。
「変化がそれだけなわけがないじゃろ!」
確認のためにこっそりとトイレへ向かう。
試している最中をフォズちゃんやリッカちゃんに見られてしまったら、朝のセーブからやり直すしかないだろうから。
このトイレも昨日タムさんに案内してもらった。タムさんや大型モンスターにも対応しているのか無駄に広い。
水洗どころではなく、排泄物は異次元に消えているようでなんだか怖い。大事なものを落とさないように注意しないと。
……本当に生えてきた。そして、仕舞えた。
まあ、前よりは便利になったと割り切るしかないか。
しばらく使えそうにないし……。
早く嫁さんに会いたい。
異次元倉庫には排泄物は増えてなかったので一安心。
肉まんだけじゃなく、ラーメンやチャーハン、シュウマイ等の中華料理が収納されていた。
どうやら収納された時の状態が保たれているらしく、どれも温かくて、ラーメンは伸びていない。
保存がきくようならと全部は食べずに仕舞いなおす。
手紙の通り、食事だけじゃなく食材も収納されていた。
米、麦、野菜、豆、肉、魚、それに塩、酢等の調味料。これもありがたい。
「この城の食料庫ってどこ?」
俺が城から離れている時でも二人が使えるように、保存のききそうな物は異次元倉庫から出しておこうと思う。
「厨房のそばじゃ。誰か氷結魔法は使えるかの?」
タムさんが教えてくれた。
フォズちゃんはヒャダルコが使えたはず。
「ならば、こちらの倉庫を凍らせるがよい」
分厚い扉の倉庫に案内された。ああ、魔法で冷蔵庫ができるのか。
フォズちゃんの魔法で空っぽの倉庫が冷やされていく。
加減してヒャダルコを使ってるのか、床から生えてきた氷柱は壁を破壊せずに覆っていく。
「すごいな」
「うむ。この部屋は保温性が高い。これならしばらく冷え続けるじゃろ」
巨大な冷蔵庫と化した倉庫に、瓶や箱に入った米や麦などを並べていく。かなりの量があるな。異次元倉庫って本当に無限倉庫なのかもしれない。
「それじゃ、俺、城の外見てくるから」
「みんなで行った方がよくありませんか?」
二人の美少女が心配してくれる。
「平気だってば。フォズちゃんのおかげで、こっちでもパラディンになれたし」
そう。食事の後、フォズちゃんに転職を試してもらった。
すると、前の世界でパラディンをやってたせいか、僧侶も武闘家もマスターしていないのに上級職であるパラディンが選べてしまった。戦士やるよりもステータスがよかったので、パラディンになってみた。
「二人は城の調査と掃除とかお願い。タムさんも二人を案内してあげて」
「わしも置いていくじゃと?」
「うん。だいぶ変わっちゃってるかもしれないけど、はざまの世界の知識もちょっとはあるんだ、俺」
たしか、はざまの世界にある町は三つ。
絶望の町、欲望の町、牢獄の町。あと、町じゃないけど嘆きの牢獄ってのもあったっけ。
ここから一番近いのは嘆きの牢獄だったはず。まあ、そこまで行くかは微妙だけど。
「ちょっと外見てくるだけだから大丈夫。冒険の書もあるし」
というか、冒険の書を使うために一人で出かけたいのだ。
何人で移動しようと俺が死ねば道場へ行くことになるんだけど、俺一人の方が道場行きになる可能性が高い。
だからといって、道場に行くために自殺するわけにもいかない。そんなことをすれば、道場主に殴られまくるだろう。
……この世界の道場主はあいつとは違うのかな? モンスターのタイガークローあたりになってる可能性もあるか。
城を出てすぐにセーブ。これでもし死んでもここから再開できる。
さて、冒険を始めますか。
城を出てすぐに嘆きの牢獄が見えてきた。結構近いな。あそこにあった現実世界への大穴、まだ開いているんだろうか?
「っと。さっそくおでましか」
牢獄確認するのは次かな、と思ったら出てきたモンスターはスライム1匹だった。
レベル1になってしまった俺としてはありがたいんだけど、ラスボスがいたこの辺にそんな雑魚モンスターが出てくるなんて。
後でタムさんに、現在のはざまの世界のモンスター分布も聞いてみないといけないな。
「楽勝!」
いくらレベル1でもスライムに遅れを取るわけもなく、余裕で勝ってしまった。
手に入る経験値とゴールド。
残念ながら仲間にはなってくれなかった。
タムさんの話では俺は『まものつかい』にならなくても、強さを見せつければ魔物は配下になってくれるらしい。
……ますます俺のモンスター扱いが進むようだけど、仲間はほしい。城の掃除とか大変そうだし。
でも、魔物使いよりも先にパラディンをマスターしたいので、代わりに眼鏡を外している。
タムさんの魔改造により、格好良さがカンストしてた俺だが、愛用の眼鏡をかけるとその数値が100を下回っていた。
どうやら能力がマイナスになるアイテムだったらしい。呪われてはいないのに。
異次元倉庫にしまったら『ていばんのじみメガネ』って名前になっていた。定番で地味か。妙に納得。
タムさんいわく、格好良さが高い方がモンスターも配下になりやすいそうだ。そんなステータスだったかは思い出せないが、9だと魅力って名前に変わってたし、カリスマ扱いなのかな?
少しでも仲間になる可能性があるなら、と仕方なく眼鏡をつけないでいる。
落ち着かないなあ……また敵か。
今度はスライムが8匹。合体するやつらだったら、キングスライムになるまで待てば、道場行けるかな?
なんて思ってたら、殺されました。
……普通のスライムに。
ショック!
いくら1レベルとはいえ、スライムに殺されるなんて……。
闘ってて気づいたのは、戦闘もやっぱりドラクエのシステムの影響を受けてるっぽい。
ターン制なのか一方的に何度も攻撃できないし、それはむこうも同じ。
そしてどれだけ『しゅびりょく』が高くても、敵が攻撃をミスらなければ最低1ダメージは受けてしまう。
硬いんだから0ダメージでいいと思うのだが、そうではなかった。
まあ、敵が攻撃ミスすることが多かったので、高い『みのまもり』からくる高守備力も無駄じゃなかったみたいなんだけど。
多勢に無勢。数の暴力で、1ダメージずつちくちく削られて俺はスライムに殺されてしまった。あと1匹だったのになあ。
早くブーメランがほしい……。
目論見通りというには悲しすぎる敗北だったが、とにかく道場にきた俺。
愛する妻たちとの感動の再会!
「キミ、誰?」
待っていたのは暖かい言葉でも抱擁でもなく、胡乱気な視線でした。
「俺俺、俺だってば」
「きゃはっ、これってばコーイチに聞いたおれおれ詐欺?」
長い桃色の髪をツインテールにした少女、リンスちゃんが笑う。俺、そんなこと教えたっけ?
歌が好きで、歌うたいを仕事としていた彼女には、俺の大好きなアニソンならたくさん教えたんだけど。
「あれ? コーイチどこ?」
キョロキョロと俺を探すのは、黒髪を二本のおさげにし、褐色の肌と頬のペイントでインディアンのような見た目の少女、クウちゃん。
難しい言葉は苦手だが、超幸運の持ち主。
「コーイチト同ジニオイシテル。……チョット違ウ?」
俺に鼻を寄せて匂いを嗅いでいる小柄な金髪ケモっ娘はライオンの獣人、ファローラ。
尻尾はライオンだけど、耳はライオンというより猫っぽい。
「同じにおい……もしかして!」
ショートカットのロリっ娘はティロルちゃん。
サーカスでライオン使いとして育った孤児だが、ライオンの死亡により女郎屋に売られそうになったので、サーカスから脱走したというハードな人生を歩んでいる少女。
「わかってくれたかい、ティロルちゃん」
「コーイチの弟!」
なんでやねん!
「だから俺は弟じゃなくて……」
「まさか……そんな……」
驚いているのは長い黒髪で、名前そのままの衣装を着る少女ミコちゃん。
だが残念なことに巫女さんではない。不思議だ。
「コーイチさんの……息子?」
俺の顔を覗き込む緑の長髪の少女はシグルーン。
傭兵なのに、真面目な委員長タイプだ。
「違うって!」
なんで……いや、現在俺は若返ってるから今の俺ぐらいの子がいてもおかしくは……。
計算が合わないだろ!
「いくら俺がおっさんだからって、こんな大きな子がいるワケないでしょっ!」
自分で怒鳴っておいてなんだけど、言ってることが変だな。
あとさ、そういえば俺って改造されて若返ってしまったことを思い出した。
それで俺のことをわかってくれないのかな。
「じゃあさ、キミがコーイチだって言うの?」
金髪を大きな一本のおさげにした少女はジーマ。
うん。さすがに知性派のジーマはわかってくれるよね。
ランスクエストの脳筋な方のジーマとは違うよね。
「証明できる?」
え?
「キミがコーイチだって証明してみせて」
そんな。
俺がわからないの?
会いたかった嫁さんたちに疑われて俺はパニック状態。考えがまったくまとまらない。
七人の美少女たちは俺の嫁さん。DALKの世界の少女たち。
いっしょに恋愛神の痴話喧嘩を解決し、世界の調和を取り戻した仲間でもある。
俺は気づいた時にはトラム山の麓の小さな街、ショートラムにいた。
異世界だってのはすぐにわかった。外国っぽいのに言葉も通じるし、魔法や不思議なアイテムもあった。モンスターさえも生息していた。
そこはDALKの世界。アリスソフトのかなり昔のゲームの世界。
それに気づいたのは、セイルという修行僧に会ってからだった。
「マーティス様のために共に闘って下さい!」
街の男たちは恋愛神の危機を訴える彼の話を聞かない。
この世界のお金もなく、職にもつけなくて困っていた俺は、その話を聞いてみることにした。
それで、DALKの世界だとわかった。
DALKはトラム山にできた迷宮をクリアしていくゲームだ。
俺はセイルと共に戦うことにした。
宿に泊まれるようになるのが大きかったし、お給金も出たし。
DALKもそれなりにやり込んでいたし。
セイルが授かった恋愛男神マーティスの神器には、女性には異様に慕われ、男性には異様に嫌われるといった副作用がある。
それで、セイルと俺以外のパーティのメンバーは全員女性だった。もちろん、美女、美少女ばかりだ。
俺は異世界の人間だからか、あまり神器の影響はなかったようだ。
女性メンバーは十四人。
ダンジョンへの水力エレベーターに乗れる人数は八人。
俺とセイルはそれぞれ七人ずつの女性と組んで、二つのチームに分かれてダンジョン攻略に挑んだ。
セイルたちのバックアップのため、俺のチームは女の子たちのクラスを調整してシナリオクリアよりもアイテム集めにがんばった。
DALKで仲間を回復できるのはセイルしかいない。
回復役がいない俺たちのチームは無理をせずに、戦いやすいフロアで稼いだのだ。
セイルたちのがんばりと俺たちのサポートによって、無事にマーティスの封印を解くことができた。
その途中で俺とパーティの七人の少女たちは深い仲になった。クリア後は結婚して恋愛神の祝福も受けた。
……もしかして俺みたいなおっさんが七人もの美少女たちと結婚できたのは、セイルに協力してるご褒美としてマーティスが少女たちの心を操ってくれた、なんて疑ったこともあったけどさ。
愛する嫁たちが俺をわかってくれない。
「いったいどう説明すれば……」
頭を抱える俺。
「そんなこともわからんのか!」
道場を震わせるほどの大きな声とともに出てきたのは虎覆面の男。
「タイガージョー!」
ライオン○の方ではなく、アリスソフトのキャラクターの方である。
そして、このタイガー道JOEの主。
「貴様は姿形が多少変わったぐらいで、自分を証明できないというのか!」
「そうは言うけどさ」
元魔王に改造されました、なんてどう説明すればいいか……。
って、しまった! やっちまった。このパターンは!!
「未熟者!」
タイガージョーに殴られる俺。この人にはこれがあったのを忘れていた。
たぶん手加減はされてるんだろうけど、今の俺はレベル1。ものすごく痛い。道場じゃなきゃでは死んでいるってば。
「なぜ自分の妻を信じない。素直に状況を説明すればわかってくれよう」
ここでもし、変に口答えしたらもう一発殴られるね。今度は逆の頬を。
そして、「言葉でわかりあえぬのならば、拳で語りあうしかあるまい!」とかきっと言い出すんで、正座して黙って聞くだけの俺。
タムさんの言う死者ってのは信じられないなあ。元気すぎる。
DALK外伝の格闘神扱いなのかも。
タイガージョーが道場主なおかげで、俺は道場のシステムなどをあんまり質問できなかった。
だって質問すると殴られるからね。
死ぬほど痛いからね。
……嫁さんたちがマーティスに恋愛感情を操作されたと疑った時も、タイガージョーに殴られたっけ。あの時が一番痛かったかもしれない。
「その殴られっぷりは間違いなくコーイチさん!」
シグルーン、そんなので俺を判別しないで。
「本当にコーイチなの?」
だからそう言ってるでしょ!
痛む頬を擦りながら立ち上がる。
「少しは反省した?」
「?」
「ぼく達を置いて、ずっとどこに行ってたのさ。しかも、こんなことになっちゃてるし」
「もしかして……俺だってわかってたの?」
ぼくっ娘に確認する。『ボク』ではなく、『ぼく』なのがジーマだ。
「うん。だって、この道場にこれる男はコーイチかジョーさんだけだよ」
くっ。そういえばそうだった。
……泣くもんか。
「ジーマさんは不安だったんです。コーイチさんが元の世界に帰ってしまったんじゃないかって。もちろん、わたしたちも。みんなでショートラムの街やダンジョンを探し続けました」
「それでも見つからなくて、さっきまで暗い雰囲気になっていたんです」
ミコちゃんとシグルーンが教えてくれた。
そうか。心配かけちゃっていたんだ。
……俺は昨日一日だけ行方不明になっていたつもりだったけれど、そうではなかったらしい。もしかしたら改造手術に何日もかかっていたのかもしれない。
「ごめん」
みんなに頭を下げる。
「改造された?」
俺の現状を説明したら、みんなが驚いた顔になる。
「うん。だから若くなっちゃったし、レベルも下がっちゃった」
ついでに人間も止めちゃったみたいなんだけど、これはまだ言うことができなかった。そんなことぐらいで俺を嫌わないでいてくれるとは思うのだが、やっぱり怖い。
「別の異世界かあ。しかも帰り方もわからない……」
「うん。けど、絶対そっちに帰るから! だからセイルと浮気なんかしないでね」
セイルも主人公だけあっていい男だ。
恋愛神の祝福を受けているし、なにより性行によって、女性から経験値を得ることができる。
人妻に手を出すような性格じゃないとは知っていても、少し不安だ。
「はい。コーイチさんが早く帰ってくる日をお待ちします……」
泣き虫のリンスちゃんだけでなく、ミコちゃんまでもが泣きそうになってしまった。
嫁さん泣かさないためにも、がんばって早く帰ろう。
そう誓って、名残惜しいけど嫁さんみんなにキスしてからロードした。
オリ主が以前いた世界はDALKの世界でした。
DALKはアリスソフトのアダルトゲームです。
オリジナル版は20年以上前に発売だとか。
アリスソフトの配布フリー宣言対象なので、18歳以上なら探せば無料でプレイすることができます。
古いゲームなので操作性が悪く、テキストも淡白ですが。
本編クリア後の地下100階のダンジョンが、ある意味本編です。
オリジナル版は地下1000階だそうで……。