「起きなさい!」
華琳ちゃんに起こされて目が覚める。
変な夢を見たけど、愛しい超絶美少女の声で目が覚めたのだからいい朝だ。今日もきっといい日に違いない。
新婚さんなんだから、頬にキスして起こすとか駄目かな? そしたらさらに最高の一日が過ごせる気がする。今度頼んでみよう。
そんなことを考えていたら。
「お前は誰?」
いきなりそんなことを聞かれました。
俺まだ寝ぼけているのかな?
「誰って……俺は華琳ちゃんの愛しい夫だよ」
夫、でいいんだよね? もう結婚式挙げたんだし。
でもなんか自分でそう言うのは照れるなあ。
「ほう」
あれ?
なんか反応がおかしい。
素敵な初夜も済ませて、愛を確認しあったばかりの相手を見る目じゃないよね、それ。
殺気こもってるし。
それでもやっぱり可愛いけどさ。
……もしかして華琳ちゃんの記憶が引継がれていない外史に来ちゃったとか?
そんな馬鹿な。
「本物の皇一はどこ?」
あ、俺のことは知ってるのね。よかった。
「本物って言われても……俺は俺だし」
どういうわけか、華琳ちゃんは俺を偽者だと思っているようだ。
俺の証明って……確実なのは道場行きか?
それとも……ジュニアの方か。これなら、そう何人もいないでしょう。
そう考えて、股間を確認。おや?
「え?」
起きたばかりだし、目の前の華琳ちゃんが裸なせいもあって、マイサンはフルパワーでスタンバっていたんだけど。
「双子が一人っ子に戻っている?」
そう。俺をずっと悩ませていたダブルスが解散してシングルに戻っていた。
これで、色んな不便から解消される!
……けど。
「もしかして、これのせいで怒っているの?」
ジェミニなジュニアは、華琳ちゃんをはじめとした一部の嫁さんに妙に気に入られていたもんなあ。華琳ちゃんの許可もなしに元に戻ったなんてのだったら、そりゃ怒るかもしれない。
……そういえば、さっきの夢でも元に戻っていたな。もしかしてあれの影響?
「……あくまでお前が皇一だと言い張るわけね」
「俺が華琳ちゃんの最愛の夫だってば!」
「そう。なら、試させてもらうわ」
どこからともなく大鎌を取り出す華琳ちゃん。
やっぱり、そっちで確認ですか。
でも……全裸美少女に武器もいいなあ。魔改造したフィギュアみたいだ。
「ぐあっ!」
見とれてたら、華琳ちゃんに斬られた。
いつも通り、これで道場に直行か……。
「ぐっ……」
あれ?
すっごい痛い。
華琳ちゃんの腕なら、いつもみたいにあまり苦しませずに殺してくれるはずなのに。
「なんて硬い……何者?」
ますます怖い目になる華琳ちゃん。
うん。引継ぎに気づかない頃の華琳ちゃんの顔だ。何度も連続で俺が華琳ちゃんを襲っていた頃に向けられた表情。なんか懐かしいな。
「皇一なら、今ので首を刎ねているはず」
え? 華琳ちゃん斬りそこなったの?
確かに俺は首を斬られたけど、まだ繋がっている。
華琳ちゃんはいつも一撃で俺の首を斬り飛ばしていた。それがなんで?
……そうか。華琳ちゃんの身体が初めてに戻っていたのに、俺がちょっと激しくしちゃったからまだ辛かったのかもしれない。
「まさか本当に、皇一はあの夢のように消えてしまったの?」
華琳ちゃんの呟き。
なんですかその魏ルートエンド一刀君みたいな扱いは。
夢で見るなんて、なにかのフラグ?
夢? そいうえば……俺はさっきの夢を思い出す。
……ああ、一応首は繋がっているけど出血が多いんで意識が朦朧としてきた。
華琳ちゃんにもう一度斬られて、俺は今度こそ死んだ。
「華琳さま!」
無事に道場に辿り着いたようだ。
あの死に方で無事といっていいのかはわからないけど。
華琳ちゃんのまわりに魏の嫁さんたちが集まってる。
「どうなされたのです? こんな朝から道場行きなど」
「あれでしょ。新婚初夜が素晴らしかったから、もう一回やりたいって。それとも、失敗しちゃったからやり直したかったのかしら?」
華琳ちゃんをからかうのは、以前この道場の主だった雪蓮。
もちろん、俺の嫁さんの一人である。
「そんなつまらない理由ではないわ」
「じゃあなんで?」
華琳ちゃんが俺の眼鏡を奪う。
道場の視線が俺に集中した。
「皇一?」
「なんで疑問系?」
「だって……あんたまた若返っているじゃない!」
驚愕の表情を浮かべる雪蓮。見回すと、他の嫁さんたちも驚いていた。
「若返っている?」
「ええ。十代後半といったところかしら」
俺が若返っている?
また?
以前に俺は、ちょっちヘマをやらかして十年、肉体年齢では八年ほど若返っている。元が三十路だったから、それでも二十代なんだけど。それがさらに十代後半?
「……夢と同じか」
「夢?」
「うん。この道場の正体とかを教えてくれた夢」
あれは正夢とか予知夢だったんだろうか。
俺は夢の内容をみんなに話し始めた。
「その大魔王ってのが皇一を改造しちゃったのね」
「兄さんを魔改造とか、さすが大真桜だな」
宝譿め。誰がうまいことを言えと。
「特典を解除したわけでも、切ったわけでもないのね?」
「そっ、そんな痛そうなこと勘弁して下さい」
華琳ちゃんの確認に半泣きになる俺。
……あっ、俺のがなくなったってことは、大喬ちゃんの方は大丈夫なのか?
「大喬ちゃん」
「はい?」
「ちょっといい?」
服の上から大喬ちゃんの股間をぱんぱん。
よかった。生えてないみたいだ。
「いきなりお姉ちゃんになんてことするのよ!」
小喬ちゃんに蹴られる俺。
ねねが俺の義妹なおかげか、ちんきゅーキックはまだくらっていないが、その代わりにしょーきょーキックは結構もらっている。
でも、手加減してくれたのか、あまり痛くないな。
「嘘……」
驚いた顔で俺を見ている小喬ちゃん。
「ええ。皇一は前より打たれ強くなっているようね」
ああ、だからさっき華琳ちゃんが俺を殺すのに手間取っちゃったのか。
「どれぐらい強くなった後で試してみましょう」
「た、試すってもしかして……」
ふふ、と楽しそうに微笑んでいる華琳ちゃん。
嫌だなあ。痛いことされまくるのかなあ。
「そんなことより問題は、ご主人様の双頭竜の方だよっ!」
俺の強度がそんなこと扱いですか桃香さん。君にとっての優先度はそっちが高いのね。
「そうよっ。今すぐ接続器を元に戻しなさいっ!」
桂花まで。
元って言うけど、今のこの状態の方が本来の元の状態なんだってば!
「たしか、第二段階で元に戻るって言ってたのね。その、大魔王が」
大魔王のところに力がこもってるな。
もしかして覇王の次は大魔王狙ってる?
「うん。でも第二段階なんてどうすればいいか……」
化物になりそうだし。
髪が金髪になって逆立つとか、金色に光るとかだったらいいけどさ。
「ならばそちらも試してみましょう。ろおどしたら、すぐにでも」
「え?」
「今朝の記録は済んだのかしら?」
あ、起こされて直後に殺されたから、日課の朝一セーブはできてない。
「ならば、初夜直前の記録からでしょう?」
さすが華琳ちゃん。俺のパターンはもう読まれまくっている。
「えー、なんかそれずるい!」
初夜の順番待ち中の嫁さんたちからの抗議の声。
そう言われても、ロードしたら華琳ちゃんは初夜まだなわけだし。
この時のために初めてとっといてくれたんだし……俺の感動ポイントまできっちり抑えているなあ。さすがすぎる。愛されちゃってるよね! 俺。
「そうね。季衣もいっしょになら、いいでしょう?」
「ボクも?」
「ええ。あなたも一緒なら、皇一も張り切るでしょう」
「華琳さまっ、それならばわたしがっ!」
春蘭が名乗り出るも、華琳ちゃんは首を横に振る。
「結婚式で髪を下ろした季衣を見ていたら我慢できなくなったのよ」
「姉者、季衣ならばきっと皇一を甦らせてくれよう」
甦らせるって死人みたいじゃないか秋蘭。……実際死んでるけどさ。
むう。華琳ちゃんの次は季衣ちゃんだったのか。
たしかに華琳ちゃんの次に処女をもらった回数は多い。
季衣ちゃん可愛いし。結婚式で髪を下ろした季衣ちゃん見て驚いている嫁さん、結構いたもんなあ。
さっきの夢風にいったら、髪を下ろすと『格好良さ』が20ぐらい上がるんじゃないだろうか?
「季衣ならば仕方あるまい。ご主人様を頼むぞ」
愛紗が季衣ちゃんの頭を撫でた途端。
「そうだね。季衣ちゃんならしょうがないよね」
「季衣なら」
と次々にみんなが納得して季衣ちゃんの頭を撫でていく。
「こないだの借りはこれでチャラなのだ!」
そう、鈴々ちゃんまでもが。
これが季衣ちゃんの人徳か。
「うんっ! がんばって兄ちゃんのもう一本引っ張り出すよ!!」
季衣ちゃん力んでいるなあ。
……引っ張り出すって、なんか今ある一本まで引き抜かれそうで怖い。
びくびくと怯えながらロードした。
セーブ2はウェディングドレスの華琳ちゃんと二人きりの閨だったので、季衣ちゃんが閨にやってくるのを待っていた。
その華琳ちゃんが左手の長い手袋を外した。
「どうしたの華琳ちゃん、指輪をじっくり見て?」
「皇一の指輪も変わっているわよ」
「え?」
変わっている?
華琳ちゃんに言われて左手薬指の指輪を確認したら、いつのまにか色が変わっていた。
白色だった指輪が金色になっている。
「ろおどした時から、この色になっていたようね」
そうなの? 気がつかなかった。
「皇一のが変わっていたから、私のも確かめたのだけど」
だから、手袋を外したのか。
華琳ちゃんと俺の結婚指輪は、俺の体内から取り出された異物。俺の骨でできているらしい。他の嫁さんのは、それを元につくられた複製品だけどね。
ということはもしかして。
……夢で見たあの指輪?
「えっと、『ふくろ』をイメージするんだっけ……できた」
うわ、本当にふくろウィンドウが出てきてしまった。
試しに手近にあった枕をつかんで、ふくろ空間に入れてみた。
俺の右手が肘の辺りまで消えてしまう。まるで、別の空間へと潜り込んだように。
「皇一!」
華琳ちゃんが驚いて叫ぶ。
安心させるために慌てて手をふくろ空間から出してみる。
うん、異常はないな。枕もちゃんと収納できたみたい。
「……妖術なの?」
「そんなとこかな? この指輪で異次元の倉庫と道具の出し入れができるっぽい……あれ?」
ふくろウィンドウで中身を確認していたら、おかしなことに気づいた。
「どうしたの?」
「ほら」
再び消えて、今度はふくろからアイテムを取り出して現われる俺の右手。
「……お鍋のふた?」
「うん。盾代わりにも使われるんだけど、これが入ってた」
今度はしまった枕をふくろ空間から取り出して、華琳ちゃんに渡した。
「華琳ちゃんの指輪ならできるかもしれないから、やってみて」
華琳ちゃんの結婚指輪も俺の身体でつくられた骨の指輪だし、色も変化している。むこうの俺の骨の色、ゴールデンスライム色にね。だから、できる可能性があるはずだ。
「大きな、なんでもいくらでもしまえる袋をイメージ……無限の大きさを持つ袋を思い浮かべてみて」
「それこそ仙人の道具ね」
青い狸の収納袋かも。
「うん。思い浮かべたら、その枕をしまおうとしてみて」
「……こう?」
枕を持った華琳ちゃんの手が消えて、次に現われた時には枕がなくなっていた。
「ふむ。……右手で試した方がよさそうね。指輪を袋に落としたら困りそうだもの」
「やっぱりそっちの指輪でもできるんだね。中になにが入ってるかわかる?」
「……? ……空中に文字が出てきたわ。読めない字ばかりみたいだけれど」
おお、華琳ちゃんでもふくろウィンドウが呼び出せたみたいだ。
華琳ちゃんの方のウィンドウは漢字仕様とかにはなってないか。残念。
アイテム名、平仮名とカタカナだもんなあ。漢字だったら華琳ちゃんも読めるだろうに。
「そこら辺は融通が利かないか。ちょっと待ってね」
俺の方の指輪を起動させる。
「やっぱり」
袋……異次元倉庫の中身を確認して、確信する。
俺が枕を取り出すのを見て、華琳ちゃんが理解してくれた。
「なるほど。この指輪が使える袋は共有しているのね」
「うん。それで、この『おなべのフタ』は夢の中で俺が仕舞ったもの。夢の中のコーイチが」
「コーイチ?」
「たぶん別世界の俺。大魔王に選ばれた方の俺」
俺は夢でそいつに共鳴してしまったんだと思う。
元々同じ存在なのだから周波数も近かったんだろう。
「そう。そのコーイチに同調したから、あなたが体内で指輪を作ったり、若返ったりしたというのね」
「そう考えると、説明できると思う」
華琳ちゃんは本当に理解が早くて助かる。
「それでね、あっちの俺も苦労しているっぽい。特に食料がないみたいだから援助したいんだけど」
「異世界のあなたはともかく、可愛い女の子がひもじい思いをしているのは見過ごせないわね」
さっきの道場で、いっしょにいた女の子が可愛いことまで説明したっけ?
……した気がする。
「ありがとう。いっしょに手紙を書いて入れてみるよ」
「……この指輪を使って、そちらの世界へは行けないの? 全身を袋に入れて」
「むこうの俺が試したけれど、袋に入るのは駄目っぽい」
「そう」
残念そうな華琳ちゃん。行きたかったのかな?
リッカちゃんとフォズちゃんをお持ち帰りしたいのかもしれない。
「異世界のコーイチはどんな男なの?」
「なんかパラディンだったって」
「パラディン?」
「聖騎士」
であってるよね。
聖戦士だとロボット乗っちゃうし。
「……皇一が?」
「まあ、あのゲームだと重騎士っていうか重戦士っぽかったけどね」
夢の中での俺、コーイチの記憶を頼りに説明する。
「ふむ。重装の戦士か」
「あ、そうだ。武器と盾はあったみたいだけど他はなかったから、俺のと同じフラグクラッシャーな兜も真桜に用意してもらおうかな」
魔王子(笑)には似合いそうなデザインだしね。
魔王子か。こっちだとステータスウィンドウは開けないんだけど、もし見れたら俺の肩書き、なにになってるか知りたい気がする。
……いや、やっぱり知らない方がいいかも。
ドラクエ世界のアイテム、こっちにもいくつかくれないかな?
危ない水着とか、エッチな下着とか。
季衣ちゃんが来たところで、厨房へ向かった。
来るのが遅かったのは、お風呂に入ってきたから。
ちゃんとロードする前に華琳ちゃんに断っていた。
「にゃ?」
厨房に向かいながら、さっきのを簡単に説明する。俺とコーイチの繋がりを。
「双子の神秘のすごいやつ、みたいな感じで」
「兄ちゃん、双子だったの?」
……どう言えばいいんだろう?
食材や調味料を季衣ちゃんと適当に選んで異次元倉庫に収納する。
気づけば、華琳ちゃんが調理を始めていた。
「食材だけ、というわけにもいかないでしょう?」
そうか。一応むこうの厨房は使えそうだったけど、すぐに食べれる物も入れておいた方が親切か。
華琳ちゃんの腕なら、ウェディングドレスを汚すこともあるまい。
花嫁が厨房に立つこのギャップもいいなあ。
「たしか、異次元倉庫だとお湯も冷めなかったしね」
夢だとそうだったから、料理も冷めないかもしれない。
「そう? ならばラーメンも試してみましょうか」
ラーメンがのびなかったら、便利だよなあ。
華琳ちゃんが調理している間に、俺は手紙を書くことにした。
そんなに長い文章にすることもないか。相手は俺なんだし。
食材や厨房の使用を流琉ちゃんや城の料理人さんたちに断りにいった季衣ちゃんが戻ってくる頃、華琳ちゃんの調理は終わった。 早いなあ。
「皇一、季衣、あなたたちも食べるでしょ?」
「いいんですか?」
季衣ちゃんが目を輝かせて喜ぶ。
「皇一にはこれもね」
華琳ちゃんがくれたのは、どう見ても精がつきそうな料理でした。
がんばらなきゃね。
で、閨に戻って。
二本目のサルベージがどうなるか怖かったんだけどさ。
ウェディングドレスの華琳ちゃんが俺の耳元で囁くんだよ。
「私と季衣の初めてを、同時に奪いたいでしょう?」
って。
季衣ちゃんもまだだったよね。
鈴々ちゃんもお嫁さんにって季衣ちゃんが連れてきた時はさ、鈴々ちゃんが意地はっちゃって一人で双子両方相手にしたからね。
あのちっちゃい身体で無理させちゃって泣かせちゃった。やっぱり愛紗に協力お願いすればよかったって、繋がりながら後悔したっけ。
「兄ちゃんは、華琳さまとボクとしたくないの?」
華琳ちゃんの指示でウェディングドレスを着なおしてくれた季衣ちゃんも誘惑してくるしさ。俺も興奮しちゃって、なんとかしたいと思ったんだ。
……そうしたらさ。
「皇一の股間が怪しく蠢いた」
「にゃ? なんで自分で説明してるの?」
いや、なんとなくこの解説は必要かと思って。
「生えてきたわね」
うん。ダブルスが再結成されてました。
もう一本は体内に収納されてたなんて……。
「これが第二段階?」
自分の頭や背中を確認してみるも、あんまり変わった様子はない。
「他にどっか変わった? 角とか翼とか生えてない?」
「ううん、変わってないよ」
「そうね。それが増えただけね」
「……そう」
いや、化物になりたかったわけじゃないけどさ、変わったのがここ限定だったのがちょっとなあ。
「あ、仕舞えた」
俺の意思でちゃんと収納もできるみたいだな。
これは有難いかもしれない。二本もあると不便なことも多かったし。
「ふむ。元に戻るなら、問題はないわね。それにこれなら、今まではできなかった体位も可能になるということね」
華琳ちゃんぶっちゃけすぎ。
「あともう一本生えてきたりしないの?」
季衣ちゃんの疑問。さらに三つ子とか勘弁して下さい。
「どうだろ? 第三段階はないといいなあ」
大魔王デスタムーアにはあったはず。
……触手が生えてくるとかじゃないといいけど。
皇一とコーイチは別人です。