戦友セイルの信仰する恋愛神ではみんなを元の世界に返すことも、俺と日光さんの身体を元に戻すこともできなかった。
それどころか、俺のジェミニになってしまったジュニアの片方の正体は恋愛神マーティスの伏字神器であることが判明。
……だから玉は増えなかったんだろうか?
嫁さんたちと結婚できたのは、女性に慕われるというその神器の効果かもしれないというのは考えないことにしよう。男に異様に嫌われてもいないし、嫁さんたちと一線を越えたのは神器が俺の身体にくる前だったし!
「これからどうしようか?」
宿に戻ってきたのでみんなと相談する。
「俺としては、できるだけ早くフォズちゃんや日光さんたちを元の世界に帰してあげて、俺の身体を元に戻して、後はセイルたちを手伝ったりしながらのんびり暮らしたいんだけど」
できればショートラムに家でも買ってさ。
「タムさんのお願いはいいの?」
「無理無理。大魔王に楽勝な魔神なんて倒せる気がしない」
戦うだけなら、リッカちゃんの世界でできる可能性が高そうだけどさ。
「魔神?」
「破壊と殺戮の神ダークドレアム。タムさんの仇。その復讐のために俺や他の後継者候補が異世界に浚われた。俺はこのショートラムにね。まあ、そのおかげで俺は嫁さんたちと会うことができたんだけどさ」
なんだろう、ロッテちゃんの目が輝いている気がする。
……興味持ったの、俺と嫁さんたちの馴れ初めっぽくないいなあ。
もしかしてロッテちゃんてマニアとかジャンキーなバトル野郎?
「強いの?」
「もう無茶苦茶。大魔王が雑魚扱い」
クリア後の隠しダンジョンのボスだもん。
「そうなんだ!」
わくわくすんぞ、って言わんばかりの表情。
面倒なことにならなきゃいいけど。
「……もう疲れたし、今日はもう寝よう」
続きはまた明日ということにした。
「おはよう」
「……」
「どうしたの?」
珍しく朝の挨拶に返事もせず、赤い顔でこちらを凝視しているリムリア。
なんだろう? 熱でもあるのかな?
こんな時、嫁さんなら額に触って体温確認するんだけどなあ。セイルの恋人にそんなことできないし……。
「……ゆ」
やっと口を開いてくれた。
「ゆ、ゆ……」
なにか言いにくいことなのかな?
ゆ?
勇者ちゃんがなにかしたとか?
「ゆうべはお楽しみでしたね!」
は?
い、今のもしかしてリムリアが言ったの?
DALKキャラ人気TOP3に入るであろうリムリアが?
助けを求めるように辺りを見回したら、リッカちゃんがリムリアにむかっていい笑顔でサムズアップしてた。
「見事ですリムリアさん!」
「ほ、本当にこれが一流の宿屋のサービスなの?」
「はい。後は楽しんでもらえてなによりですと、うちはそういう宿屋じゃありません、の時の使い分けができればバッチリです」
「……奥が深いんですね」
リムリア、騙されてない?
いや、リッカちゃんのことだし本気でそう思ってるのかも……。
「羨ましいです。私のいた小さな村ではこんなお客さんもおらず、使う機会がなかったんです」
「そうなの?」
ドラクエ9じゃそんなイベントなかったしなあ。あったら、リッカちゃんも言ってくれたのか。
「それにしても一晩に四人とはやりますわね」
うん。二人同時を二組やった。
皇一からの手紙で俺のツインは女性二人を同時に相手にした時にこそ真の実力を発揮すると知り、初めて三人でしたんだけど凄かった。
女の子たちも驚いていたし、まさかあんな効果があったとは。
一度にできる人数も増えたし、今後は一人ずつじゃない方がいいかもしれない。
今日は今後の予定を早いところ決めて、早いとこ残りの三人ともしたい。
手紙の情報通り、魔改造により精力も増大してるっぽいし。
「待たせた分を取り戻さないとね……ってなんで知ってるんですかっ!?」
「満足している娘たちの顔を見ればわかりますわ」
さすがマーティスがセイルの筆おろしの相手にと選ぶだけのことはある。チョルラ姐さんおそるべし。
朝食後、フォズちゃんに転職を試してもらう。被験者は俺。
すると、選べる転職先が変わっていた。
「一般人、吟遊詩人、シーフ、ファイター、アーチャー、拳法使い、マジックユーザー、ナイト、パラディンか」
むこうとは違うクラスにドラクエ娘たちが驚いているな。
「いや、こっちでは普通の戦闘職だよ。パラディンだけはナイトの上級職。俺もナイトからパラディンに転職したんだ」
その前はみんな一般人だったけどね。傭兵やってるシグルーンとルー、歌うたいやってたリンスちゃんも一般人スタートだった。
セイルだけは修行僧だったか。
「どうなってるの?」
「たぶん、世界によってフォズちゃんが転職させられる職業が違うんだと思う」
それなら、フォズちゃんの転職が7仕様じゃなくて、6仕様になっているのが説明できると思う。
「あまりお役に立てなくてごめんなさい」
「ううん。助かるよ。マーティスの転職だと、一般人から転職しちゃったらやり直し効かないから」
そう。DALKの転職で選べるのは一回きり。一度転職してしまったら、他の職業を選ぶことも、元の職業を選ぶこともできない。条件を満たして対応する上級職へ転職できるだけだ。
「ですから、コーイチさんのアドバイスが非常に助かりました。みなさん、ちゃんと自分に合ったクラスになることができましたから」
セイルの言う通り、俺はクラスチェンジに関しては決定権をもらった。自分のチームだけでなくセイルのチームにも口を出させてもらった。
各キャラ毎にステータスが違うので、これをミスると苦労するのだ。
「ありがとう……まあ、自分自身の転職には失敗したっぽいけど」
ナイトは盾職。防御力に劣る味方を守るためにACが高い。そのかわりに移動力が低い。
普通は元々移動力が高いティロルやファローラになってもらってデメリットを相殺するのだが、俺はそうじゃなかったので足手まとい気味だった。やっぱりどっちにするか迷ったアーチャーにしておけばよかったと後悔しまくったもんなあ。
「だからフォズちゃんはとってもありがたいんだよ」
とても使えると思うんだ、これ。
「転職先は変わっているけど、この世界にきても現在の職業は変わっていないでしょ」
「ほんとだ。ボクは遊び人のままだ」
「それは職業なんですか?」
元勇者の発言にシグルーンが驚いている。
後で説明してあげよう。
「世界による転職の違いを上手く使うことができれば、もっと強くなることができると思うよ」
特技や多種多様な魔法を覚える分、ドラクエ世界での転職が有利だろう。でもたぶん、こっちでの転職もなにかメリットがある気がする。
「魔神と戦うつもりないって言いながら、もっと強くとか」
エリスンが呆れている。
やっぱり男は強さに憧れるもんなの。
「もっと強くか。いいね!」
……女の子でも強さに憧れるのはいるらしい。
「魔神はおいとくとしてセイル、しばらくぼくたちダンジョン攻略から離れちゃっていい?」
ジーマが切り出す。
「セイルさんたちのチームはバランスがいいですから大丈夫だと思うのですがどうでしょう?」
シグルーンの指摘通り、セイルたちのチームは攻略のためのバランス型。俺たちのチームはそのサポートのためにやや偏ったクラスに転職してもらっている。
女神ミラの呪いを解くだけなら、セイルチームでもなんとかなるだろう。
それ以降もダンジョン攻略を続けるのなら、俺たちが武具や、それの強化に使うディップと呼ばれる宝玉を集める必要があるはず。
……ディップによる強化ってドラクエ世界の道具にも使えるんだろうか?
試してみる必要があるな。
「できれば協力してもらいたいのですが、仕方ありませんね」
「すまん。セイルたちが無事にミラの呪いを解くことを祈るよ」
俺とセイルはがっちり握手。
嫁たちも友人たちとハグしたりした後、出発することとなった。
「ただいま」
無事にキメラの翼で城に戻ってきた俺たち。ちゃんと嫁さんたちも全員連れてくることができた。
パーティの扱いは戦闘メンバーとキメラの翼で違うようだ。いっしょに戦っても経験値が入らないとかかもしれない。後で試してみよう。
「すっごーい、絵本みたいなお城なの」
物珍しそうにきょろきょろとしている嫁さんたち。
「本当に大きいから慣れるまで一人ではうろつかない方がいいかも。迷子になるよ」
「後で現在地がわかる案内図を作りましょう」
「防衛上問題があるってタムさんには怒られそうだけど必要だよね」
俺もいまだに把握できてない場所があるかもしれないし。
「おかえりなさいだ!」
スライムたちとタムさんが出迎える。
「これがスライム? ぷりょに似てるけど喋れるんだ」
「オラ、スラオウだ」
「私はシグルーン。これからよろしくお願いしますね」
みんなの自己紹介の間に、留守中のことをタムさんに尋ねる。
「異常はなかった?」
「問題ない」
スラキンをテーブル代わりにしてちっちゃい腕を組みながら答える元大魔王。……どこでそれおぼえたんだろう?
「じゃあ一通り城を見てきてもらえる?」
「わかった。不足してるものもまとめておくね」
お城の探検だとはしゃいでいたティロルちゃんが俺を向く。
「コーイチはどうするの?」
「手紙がきてるみたいだから、それの確認。荷物も届いているみたいだしね」
食料その他がコーミズ村やショートラムから入手できるようになったとはいえ、皇一からの手紙や物資は疎かにはできない。
キメラの翼が使えたかも気になるし。
驚いたことに皇一がキメラの翼で現代日本へ行けたようだ。
ただし、自分の生まれた世界ではなく、ゲームの世界の現代日本らしいが。
主人公キャラの出身世界か。俺がセイルの故郷に行くようなものだろうか?
でも、異世界間の移動はタムさんの力とか親族関係が必要なはず。どうなってるんだ?
手紙の他に入っていたのは現代日本で手に入れたというアイテム。
皇一のところの分との識別用に付箋が貼ってあった。
ふくろウィンドウでの表示はアイテム名の前に『コ:』というのが付いていた。皇一用のは『こ:』となっているようだ。間違えないように注意しよう。
まず、ガム多数。
ずっと切れていただけに嬉しい。
ちゃんとミントきつめのやつが多い。好みも同じようだ。
アイスは倉庫だと溶けないから無理に出すことはないか。後でみんなと食べよう。
いっしょに貰ったのだろう薄っぺらいスプーンが懐かしい。
ドラクエシリーズの攻略本が多数。
これは助かるかもしれない。
古本屋で購入したのか、値札シールが張られているものも多かったが発売されたのが昔のなら仕方がない。
問題はドラクエ娘たちにこれを見せてもいいのかということ。
君たちの出ているゲームの攻略本って言っても混乱するだろうなあ。
魔王を倒した勇者たちの話を元にゲームにした、とか説明した方がいいか。
DALKのはないだろうと思ったら、ウインドウズ版にリメイクされた旧作が多数収録されたバラエティソフト版のオフィシャルガイドブックが入っていた。
日光さんのためだろう鬼畜王ランスや戦国ランスのまで入っていた。
この辺はドラクエ攻略本以上に彼女たちに見せにくい。
だって18禁だから。
あ、それ以前に日本語読めるようにならないと読めないかな?
ドラクエ攻略本見てもらって確認しよう。
他には服や下着、靴。
女の子ではなく、自分用だ。やはりサイズも俺と同じらしい。
懐中電灯。
照明設備がまだ生きているのか、城の中明るいんですぐには使わないけど。
レミーラの魔法や松明って1にしかなかったからそのせいかな?
湿布薬、絆創膏、包帯。
手紙によく筋肉痛で苦しんだって書いているもんなあ。
歯磨き、石鹸、剃刀、シャンプー……。
お風呂セットか。ドラッグストアだろうな、これは。
味噌、醤油、マヨネーズ、ケチャップ、ソース。
これもドラッグストアかな?
日光さんも喜ぶかもしれない。
リッカちゃんなら上手く使ってくれることだろう。
ティッシュペーパーとトイレットペーパー。
いや、使うけどさ、この量なに?
オイルショックん時の映像で買いだめしてるオバちゃんたち思い出すけど。
もしかして、自分基準?
嫁さん多いから夜の生活で大量消費してしまうとか?
キメラの翼を渡した翌日にこれだけの量とか、よく現金足りたなとは思う。
犯罪とかしてないだろうな? ……異次元倉庫には盗品入れられないっぽいから大丈夫か。
手紙をよく見たら万馬券とか書いてあった。
そうか、俺たちが現代日本にいけることがあったらクウちゃんの超幸運をあてにするといいかもしれないのか。
「お風呂、すごかった!」
大興奮のティロルちゃんたち。
「足りないのはかなりあるけど、まずは食料と人手だね」
ジーマとシグルーンの分析。
「いや、ここに住まなくてもいいんじゃない?」
土地付き一戸建て……島付きの大城だけど、不便すぎる。
近くにコンビニないし。いや、こっちにもないけどさ。
「スライムさんたちはどうするのですか?」
うっ、いつのまにかミコちゃんの膝の上にスライムがいて撫でられている。あの顔はスラウンだな。
もうそこまで懐いたのか。さすがミコちゃんだ。
動物好きなミコちゃんにとってはもうお友達なんだろうな。
「リムリアの宿に連れて行くわけにもいかないよ」
駄目かな、やっぱり。
「リンスちゃんお城で暮らしてみたいの」
「かなり不便かと」
「水もお風呂もあるし、明かりもついてるのに?」
やっぱりあの豪華大浴場の評判がいいんだろうか?
「大きいから掃除も大変なんだけど」
「それならメイドさんを従魔にして。今のコーイチは魔物使いみたいなもんだもん」
メイドさん……職業じゃなくて、女の子モンスターの方だろうなあ。
たしか、メイドさんが一人いればその迷宮は綺麗に保たれる、だったかな。
トラム山のダンジョンじゃ女の子モンスターは出てこなかった気もするけど、あっちの世界でもショートラム以外のとこならいるのか。
「モンスターでも人手が増えると食料が必要だと思うんだけど」
「城下町を作ろう」
ジーマ、何言ってるの?
「サリジェとも相談したんだけど、畑や牧場を作って世話をする人たちを集めよう」
「町づくりは経験があります」
あ、そういえばそうだった。サリジェちゃんは商人の町をつくった実績があるんだ。
「最初は食料や資金の援助が必要でしょうが、当分争いに巻き込まれそうにないこの場所なら人は集まると思います。この近辺に出てくるモンスターもスライムばかりで危険も少ないですし」
「城に住んでもらうんじゃ駄目なの? まだ何人も住めそうだけど」
「スライムばかりとはいえ、モンスターといっしょに暮らしてくれる人は少ないかと」
むう。それもそうか。
「でも人を集めるって……もしかして直接連れてくるってこと?」
「はい。絶望して狭間の世界にくるのは条件があるようですので」
移民の町ってドラクエ4だったな。それをこの世界に持ってくるということか。ただ、あれは説明すれば勝手に町に行ってくれたけど、俺が連れてくる必要があると。
「別にコーイチじゃなくても、ぼくたちなら世界の移動に制限を受けないんだよね?」
「そうか。それも後で試してみよう」
俺の嫁さんたちなら、魔法や道具で世界の移動ができるはず。
彼女たちが連れてきてくれてもいいんだ。
「ティルは、ジェイたちを連れてきたい!」
「ジェイって、ティロルちゃんがいたっていうサーカスのコック長だよね?」
「うん。ここならピッタリだよ」
ティロルちゃんは、コック長とその家族の脱走を手伝って、お金を貯めていっしょに料理屋をやりたいとか言ってたっけ。
ティロルちゃんを女郎屋に売ろうとしたり親方は問題ありそうな人物だから、抜けるのも大変なんだろう。
ここならその親方も手出しできないだろうし、移動魔法かキメラの翼を使えば脱走もしやすいか。
「ボクたちもコーイチのお嫁さんになれば、元の世界に行けるようになるんだよね?」
「うむ」
現遊び人の元勇者の質問に、現小目玉の元大魔王が頷く。
「ロッテモ、コーイチノコト、好キナノカ」
ファローラの一言で、サリジェちゃんが俺を睨む。
「うーん、男の人を結婚したいほど好きっていうのはよくわかんないや。ボク、ずっと男の子として育てられてたから」
旅の間も、近づく男をサリジェちゃんが排除していたに違いない。サリジェちゃんがパーティから離れた後でもこの様子からすると、ビッチ賢者もそうしていたのかも。……かわりに自分が相手をするとかで。
「勇者様……」
「今のボクは遊び人だってば」
「でも、勇者様は世界を救った勇者です」
「サリジェ、ボクの名前呼ぶの、嫌なの?」
「い、いえ! ……ロ、ロッテ様」
うわ、サリジェちゃん真っ赤になっちゃったよ。
狙ってやってるの? ……いや、ロッテちゃんは鈍感天然系だ。
もしかしたら、こういうの積み重ねてサリジェちゃんおとしたのかな?
「ええと、みんな、ここで暮らすってことでいいの?」
嫁さんたちや他の女の子を見回す。
「うん。ショートラムにもすぐ戻れるみたいだしね」
「クウはコーイチがいればどこでもいいの」
嬉しいこと言ってくれるね、クウちゃん。
「そうだね。ずっと会えなくて寂しかったんだもん」
「リンスちゃん、みんな。待たせちゃってごめん」
やばい。なんか泣きそう。……俺が。
それを察してシグルーンが話を進めてくれる。
「それでは、この城に住むことにしましょう。となると、まずは人手を集めるために移動呪文の習得でしょうか?」
「フォズちゃんに魔法使いに転職させてもらって、熟練度稼ぎと食料その他を集めるための資金集めも兼ねて、モンスターとの戦闘か」
みんな魔法使いだとバランス悪そうだけど、モンスター弱いとこならなんとかなるだろう。
「何組かに別れて戦ったり、人手を集めたりした方が早いでしょう」
「うん。馬車がないと四人までしか戦闘パーティは組めないっぽい」
馬車の購入も視野に入れないといけない。どこで売っているんだろう? たしか4だとイベントで貰ってた。
馬で儲けたという皇一に頼んでも、幌馬車は無理っぽいよなあ。
「この世界に誘う人はまず、土木建築関係の人、農業に詳しい人が望ましいです」
なんかごつい人たちばかりきそうだけど、大丈夫なんだろうか?
仲間モンスター
スラオウ:スライムベス(雌)
スラキン:スライム
スラウン:スライム
スララ:スライム