USOくえ   作:生甘蕉

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10話   神器

 異世界の俺から受け取ったドリルで嘆きの牢獄の地下に開けた穴。

 突入して落ちた先は草原だった。

「まずは、村か町を探そう」

「待って。町を探す前に……駄目か」

 ロッテちゃんがなにやら試したみたいだ。隊列の先頭にいた俺は振り返って確認する。

 防御力はともかく、HPで大幅に二人に劣っている俺が戦闘時に敵から狙われやすい先頭にいるのは、盾職だったDALKのパラディンを引きずっているのと、男の意地。

 落下時に上を向けば二人をローアングルで見れるのに気づいたのはほんのちょっと前。

 ロッテちゃんとサリジェちゃんはマジカルスカートを装備中だからね。ここに落ちてきた時にロッテちゃんの足を堪能させてもらいました。……水着の時には見えていた部分だけど。

 チラリズムというものだろうか? 隠されているものが見えるというのもまたよかったなあ。

 

「ルーラ試したんだけど行き先が出なかった。サリジェも試してみて」

 実験結果を教えてくれながら、袋からキメラの翼を取り出してサリジェちゃんに渡すロッテちゃん。

 そうか。ルーラが駄目だったか。

「……ごめんなさい。私も無理です」

 謝りながらキメラの翼を返すサリジェちゃん。

「やっぱりここは、君たちの世界じゃないみたいだね。狭間の世界は行き先に出なかった?」

「うん。駄目みたい」

 むう。狭間の世界からじゃなきゃ、たとえ世界が違ったとしても別の世界へルーラできるかもしれないと思ったんだけど。シリーズが違う世界間の移動は駄目なのか?

 

「そう。俺も試していい?」

 今度は俺がキメラの翼を受け取り、使おうとしてみる。

 ……使えるみたい。狭間の世界の魔王子城、嘆きの牢獄。そして嫁さんたちのいるショートラムももちろん行き先として表示された。

 放り投げずに使用をキャンセルしてキメラの翼をロッテちゃんに返す。

「俺は使えるみたい」

「そうなの? じゃあそれは君が持ってて」

「ありがとう」

 くれるようなので所持品として持っていることにした。いざという時はすぐに使えるように異次元倉庫にはしまわない。

 

「タムさんの力で移動が制限されているんじゃなくて、世界間の移動にはタムさんの力が必要なのかもしれない」

「……やっぱりキミのお嫁さんになれってこと?」

「他の方法を探しましょう」

 タムさんいわく、タムさんの一族になれば世界間の移動もできるようになるらしい。タムさんの息子扱いの俺の嫁になればいいと。

 だけど、それってあの狭間の世界からの話じゃないの? 他の世界からの移動でも有効なの?

 後で確認した方がよさそうだ。

 

「まずはこの世界を調べよう」

 キメラの翼と食料とか補充したい。

「そうだね。この世界についてはなにか知ってるの?」

「わからない。町に出れば少しは確認できると思うけど……」

 6の世界だと思うんだけど、タムさん倒されてからもだいぶ経っているようだしなあ。

 町に行ければ名前とか町なみで少しはわかるかもしれない。

 

「やはり町を探しましょう」

「うん。じゃあ、行き先は先頭のコーイチに任せるよ」

「俺?」

 むう。こんなことなら盗賊にクラスチェンジして鷹の目習得しておくんだったか。

 ……盗賊に転職すると俺の長所である身の守りがダウンするのが問題なんだよな。

 

「迷ったらごめんね」

 キメラの翼もあるか。そう腹をくくって適当に歩き出した。

 五分くらい歩くとモンスターに遭遇した。

 スライムベスのパーティだった。でもなんかオレンジ色っぽくてスラオウの方が赤い気がする。個体差かな?

 よかった。そんなにモンスターが強い地域じゃないのかもしれない。と戦闘中にもかかわらず一安心。

「真空ゥ……波ァ!」

 武器の関係で単体攻撃だったロッテちゃんとサリジェちゃんが倒さなかった残りのスライムベスを、俺の放った真空の刃が竜巻となって襲う。

 スライムベスたちが見えない鋭利な刃物で切り刻まれていく。

 全体攻撃でしかもダメージがでかい特技だ。なんといってもMPを消費しないのがいい。あっという間に全滅させてしまった。

 強い! 強いぞ俺!!

 そう勘違いしたくなる程の技だ。実際、スライムだらけのむこうでは一人で無双できると思う。

 ……勇者様に一撃で殺されたんで、俺が弱いのはよくわかっているんだけどさ。

 

「面白い技を使うんだね」

「そう? ……ああ!」

「ど、どうしたの?」

 突然叫んだ俺に驚くロッテちゃん。

「ロッテちゃんに転職してもらうの忘れてた」

 仲間になってもらってすぐに嘆きの牢獄に行ったからなあ。

「あはは。勇者は転職できないんだよ」

「いや、フォズちゃんならできるかもしれないんだ。最低でも勇者にはなれると思うよ」

「ん? ボクは勇者だよ」

 美少女勇者がきょとんとしている。

 

「フォズちゃんはダーマの大神官でね、転職させてくれるんだ。すごいんだよ、転職すると呪文だけじゃなくて特技もたくさん覚えるんだ」

「特技?」

「今使った真空波はパラディンの特技。勇者だと呪文以外では、瞑想とかギガスラッシュだったかな。勇者に転職するのには上級職をいくつかマスターする必要だあるんだけど、たぶんロッテちゃんならいきなり勇者になれるはず」

 俺でさえ武闘家と僧侶をマスターするという条件を無視して、いきなりパラディンになれたんだし。

「私も一度、商人に転職しなおして特技を増やしました。今は魔法使いになっています」

「サリジェも?」

「はい。まさか勇者様が転職できるとは気づきませんでした。ごめんなさい」

 頭を下げるロリ商人。いや、ロリ魔法使いか。……もしかして今のサリジェちゃんて魔法少女?

 やばい、触手系のモンスターが出てきたら期待してしまうかも。触手属性無かったのになあ。

 

「いいよ。お城に戻ったら試してみよう。……うふふ」

 なんだかサリジェちゃん嬉しそうだな。

「そっかあ。ついにボクも転職できるのかあ! どうしよう、普通の女の子とかないかな?」

 いや、そんな職種はないと思うけど。ドラクエ3では勇者だけが転職できなかったから嬉しいのかもしれないな。

「君たちのとこのダーマの神殿とは違って、サリジェちゃんを見てもらえばわかるように外見は変わらないから」

「そうなんだ。楽しみだな♪」

 浮かれてるなあ。ちゃんと聞いてる?

 

 その後、やはりスライムベスの集団に遭遇。グリンガムの鞭に持ち替えていたロッテちゃんによって瞬殺された。

 浮かれてても、適切な装備にすぐ換える程度の判断力は残っているようだ。

 サリジェちゃんには炎のブーメランを渡していた。せめてもっと魔法少女らしい武器を渡してあげてほしい。算盤の方がよっぽど魔法少女のワンドとかロッドっぽく見えていたのに。

 戦闘後にパラディンの熟練度が上がり、俺は『アイアンナイト』になった。……けど、特技も呪文も覚えなかった。勇者に殺される前の熟練度に戻っただけだもんね。

 

 

 一時間くらい歩いて小さな村に辿り着いた。

 村の名前はコーミズ。

 うん。途中で、ももんじゃとの戦闘になってもしかしたらと思っていたけどやっぱりドラクエ4の世界っぽい。ももんじゃは4にしか登場しないモンスターだ。外伝ではよく出てくるけどさ。

 可能性はあるって思ってたけど4か。

 ドラクエ4から6までは天空シリーズと呼ばれている。

 時系列は6、4、5の順。4は6の数百年後の世界らしい。

 ……町や村、城など国家だけでなく、たった数百年で大陸や島など世界規模で地形が変わっていて、6の時とは全然違っているはず。

 4か。今どの辺りなんだろう? もうデスピサロは倒されたんだろうか?

 

「うん。場所はだいたいわかった。後はとりあえず、キメラの翼を買おう」

 色々調べたい気はするけど、なによりもまず嫁さんたちに会いたい!

 たしかこの村にも道具屋はあった記憶がある。キメラの翼を購入するぐらいのゴールドは貯まっているし。

「その予定だったし、キメラの翼が買えたらいったん戻ろう」

 転職を試したいのか、ロッテちゃんも乗り気だった。

 

「こんなもんかな?」

 キメラの翼を大量購入した俺。結構所持金がなくなったけどこの辺のモンスターはスライムよりはゴールドを持ってるから、レベル上げのついでに稼げばなんとかなるだろう。

「牛も欲しいとこだけど……今度でいいか」

 肉用じゃなくて、牛乳用。飼育できる設備整えて、牛や鶏を飼いたい。

 名残惜しげに入り口付近で農作業を手伝っている牛を眺めながら、買ったばかりのキメラの翼を取り出す。

「うん。ちゃんと登録されている」

 コーミズの名が行き先に表示されているのを確認してから、行き先を魔王子城に決定。キメラの翼を放り投げた。途端に俺たちの身体が空中に浮かび上がった。

 

 気づくと、魔王子城の前に着地した。牢獄の穴に落ちた時同様に、足に衝撃はそんなに感じなかったからあまり高い所から落下した気はしない。こんなものなのかな?

 美少女たちもちゃんとついてきている。

 嫁にしてなくても移動呪文や道具を使うのが俺なら、仲間もいっしょに世界の壁を越えられるようだ。

「ただいまー!」

 機嫌よく城に入っていく。

 

 

「本当に転職できるの?」

「は、はい」

 ロッテちゃんのテンションに若干引き気味のフォズちゃん。

「や……ったあ!!」

 一度しゃがんで溜めをつくってからのガッツポーズ。そんなに嬉しかったのか。

「嬉しいのはわかったけど、まずは勇者に転職しなおした方がいいと思う」

「えー」

「たぶん一度戦闘すれば勇者の特技とか全部覚えるからさ。他の職業になるのはその後で」

「……うん」

 渋々納得してくれたロッテちゃんは勇者に転職しなおしてくれた。ステータスを確認したらやっぱり星×8のマスターレベル勇者『うちゅうヒーロー』だった。俺なんてやっとアイアンナイトだってのに……。

 

「さっそく戦闘に行こうよ!」

「まだみんなに状況を説明してないんだけど」

「じゃあ、ボクだけで戦ってくるからその間に説明しといて」

 そんなに焦らんでも。

 人数で経験値が減ったりしないんだから、ぼっちで戦うのはもったいないのに。

「……はあ。スライム3匹連れてって戦ってきていいよ」

「わかった」

 それを聞いて、スラキンたちを連れてロッテちゃんは城を出て行く。たぶんすぐに戻ってくるんだろう。

 

 

「そうですか。別世界には行けたんですね」

「うん。どんな世界かもだいたいだけどわかっているつもりだよ。後はいつ頃かがわかれば……」

「たっだいまー!」

 本当にすぐに戻ってきた。

「急いだんでルーラで戻ってきちゃった」

 笑いながらのロッテちゃん。

 きっと城からそんなに離れてない場所で戦闘したはず……。

 

「ボクは遊び人になりたい!」

 その発言に、本人以外のその場にいた全員が、えっ? という表情でロッテちゃんを見た。

「ん?」

「遊び人ですか?」

「うん! 遊び人になったらペッシュ姐みたいに色っぽくなれるよね?」

 ああ、今は賢者になってるというパーティメンバーさんか。

 俺のこともその人の話のせいでなかなか信じてくれなかったし、ロッテちゃんに大きな影響を与えているみたいだな。

 

「外見は変わらないって、言ったよね?」

「嘘?」

「嘘じゃないってば。サリジェちゃんだって変わってないでしょ」

「じゃ、じゃあ、おっぱいおっきくなったりは……」

「しません」

 がっくりと膝と両腕を床につく勇者様。

 やっぱり俺の話、聞いてなかったのね。

 

「……そ、それでも色気は内面からもくるってペッシュ姐が言ってた! 遊び人にして!」

「は、はい」

 もう立ち直ったの? ポジティブだなあ。なんでこの狭間の世界にきちゃったんだろ?

「どう?」

「うん。ちゃんと遊び人になってるよ。見た目は変わってないけど。……肩書きは勇者のままだね」

 ステータスなら自分で確認すればいいのに。

 

 戦力アップのつもりが戦力ダウンという予想外の事態。

 まあ、コーミズのあたりはモンスターも弱そうだから大丈夫かな?

 それに、今はそんなことよりもすぐにしたいことがある。

「この狭間の世界からさっきのコーミズ村のある世界とは別の異世界に行けるか、試そうと思う」

「それって」

「うん。俺の嫁さんたちがいる世界。だからモンスター以外のみんなはついてきて」

 みんなを紹介したいからね。

「オラも駄目だか?」

「あっちにもモンスターはいるけど、こっちとは全然違うし魔物使いもいなかったはずだから」

 目に見えて落ち込むスラオウ。慰めようと抱き上げ膝の上に載せてなでなで。

「う、ううぅぅ」

 なんか唸ってるけど嫌がってないから平気かな。

「モンスターたちには食事を用意してから行くけど無くなっちゃったら、城の外で調達してね」

 元々はそうしてたんだし大丈夫だと思う。

「タムさんのことも頼むね」

「わしもか。仕方がないのう」

 もしかしたら俺の身体を元に戻してくれるかもしれないとこにも行くから、タムさん邪魔なんだよね。

 

 

「準備はいい?」

 頷くフォズちゃんたち。人数が4人以上だけど戦闘しに行くわけじゃないから大丈夫だと思う。そもそもルーラやキメラの翼って馬車や船、その他の移動手段も一緒に移動してたしね。まあ、置いてかれたら面倒だからってゲーム上の理由なんろうけどさ。

 行き先にショートラムを選んでキメラの翼を放り投げた。……俺を隊列の最後にするの忘れてた。落下時はずっと上を向いてようと思う。……中学生か、俺。

 

 空から美少女たちが落下してくるという光景はよかったなあ。忘れないようにしたい。……じゃなくて、俺の使用だったらみんなもちゃんとDALK世界にこれるらしい。

「けっこう大きな山の側なんだね」

「あれはトラム山。この街がショートラムだよ」

 みんなを連れて宿屋へと向かう。俺の嫁さんたちが泊まっている宿屋にしてダンジョン攻略の拠点へと。

 

「おかえりなさい、コーイチさん」

 俺をむかえてくれたのは、緑の長髪の少女アリーヌ。世界を救った仲間の一人で、セイルのチームメンバーだ。

 のんびりした性格ながら死んだ両親のかわりに弟妹を養っている頑張り屋さん。

「ただいま。みんないる?」

「ええ。……あ!」

 久しぶりに眼鏡を装着している俺の顔を眺めて呆けた後、慌てて中に駆け込んでいった。俺の帰還を報告しにいったのだろう。

 俺たちは食堂へと向かった。

 

「コーイチ!」

 ティロルちゃん、ファローラ、クウちゃん、リンスちゃんのタックルじみた抱擁を受ける俺。よかった、みんな元気そうだ。

「ただいま。遅くなっちゃってごめんね」

「ちゃんと帰ってくるのがわかってたもん」

 そのワリには泣いてるよね。心配かけちゃってごめんね。

「おかえりなさい」

「ただいま」

 抱きつきに参加してないジーマ、シグルーン、ミコちゃんたちにも挨拶。

 うん。俺も嬉し泣きしそう。

 

「本当に7人ものお嫁さん……」

「みんな可愛いでしょ」

 驚いているドラクエ娘と日光さんたちに俺の嫁さんたちや仲間を紹介する。

 

「この7人が俺のお嫁さん。で、残りがセイルと、そのチームメンバー」

 修行僧から恋愛神の神官となったセイル。

 褐色隻眼の傭兵ルー。

 眼鏡の考古学者シルヴィア。

 読書中毒の眼鏡っ娘エリスン。

 酒好きの踊り子チョルラ。

 ヨルガの修行僧アルピナ。

 料理上手の街の少女アリーヌ。

 この宿屋の娘で父親の再婚に悩んでいたリムリア。

 やはり美少女、美女揃いだ。

「セイルとはまだ結婚はしてないけど、みんなセイルの恋人」

「こ、コーイチさん!」

 セイルが慌てた声を出す。

「あれ? もう結婚しちゃったの?」

「そ、それは」

「セイルはミラ様が元の姿に戻るまでは、って逃げてるんだよ」

 逃げてる、と評しているのはジーマ。セイルの恋人の中に仲の良いアリーヌがいるので心配しているのかもしれない。

 

「やっぱりまだ、なのか」

 女神ミラの呪いを解くアイテムは入手できてないようだ。

「ごめん、俺がこんなことになってなければ、もう少し攻略が進んでたかもしれないのに」

「ふっ。お前がいてもそんなに変わらないだろ」

 ルーが笑う。まったくもう、男前なんだから。

「それもそうか。じゃあ、今度は異世界で俺が世話になった娘たちを紹介するね」

 

 

 各人の紹介が終わると、情報交換が始まる。

「その若さで大神官様だなんて尊敬します」

「いえ、セイルさんこそ立派にお勤めを働いているとコーイチさんに伺っています」

 崇める神は違うが、セイルは大神官なフォズちゃんに、神官としての心構えとかを聞いている。

 

「いるよね、そういうお客さん」

「本当に困るわ」

 宿屋の娘どうし、リッカちゃんとリムリアは話が合うようだ。

 

「商人だっけ?」

「今は魔法使い」

 街のギルドの親分の一人娘であるジーマは商人だと説明したサリジェちゃんに興味を持ったようだ。

 ……ジーマの親父さんに挨拶に行った時は怖かったなあ。早くセイルも嫁の親に挨拶っていう難関を経験すればいいのに。

 

「すごーい」

「えへへ」

 クウちゃんの願いでバック転をしてみせるロッテちゃん。

 クウちゃんはバック転ができる男の子が理想だったっけ。でも、ロッテちゃんは女の子だよ。スカート履いてるからわかるでしょ?

 俺も練習した方がいいのかな。若返ったし改造されたし、できるようにならないかな?

 あ、スーパースターに転職して特技でムーンサルト覚えたら、できるようになるかもしれない。

 

「JAPANの出身ではないのですか」

「はい」

 一見、同郷に思えてしまうミコちゃんに日光さんが聞いている。ミコちゃんて衣装も名前も髪型も巫女さんに見えるもんなあ。

 日光さんは落胆したのか刀に戻ってしまい、皆を驚かせた。でも、すぐに慣れたのはさすが同じメーカーの世界だからだろうか。

 

 俺が若返っていたのは嫁さんたちが説明していてくれたせいか、あまり驚かれなかった。眼鏡をとったらシルヴィアに残念そうな顔をされたけどさ。

 彼女、妻子持ちのおじさまと不倫してたぐらいだもんなあ。好みのタイプがおじさまって言ってたし、二十五歳の彼女からしたら俺、もう対象外なのかな?

 不倫はするつもりはないけど、おじさまって呼んでくれなくなったら寂しいなあ。

 

 みんなリムリアの宿に泊まることになり、俺は自分が使用していた部屋へ行った。

 俺がいなくなっても、部屋はそのままにしておいてくれたらしい。

 少ない荷物と、俺が狭間の世界に浚われた時には脱いでいた鎧が残っていた。

 異次元倉庫に入れてみると鉄の鎧だった。これからはこれを使うことにしよう。

 袋ウィンドウを開いたついでに紙と筆記具を取り出して、皇一に手紙を書く。余計に買ったキメラの翼も少し、皇一に譲っておこう。

 俺だと駄目だったけれど、皇一なら元の世界に帰れるかもしれないし。

 

 

 夜。

 嫁たちとイチャイチャしたいけどそれよりも先にすることがあった。

 セイル、狭間の世界から連れてきた娘たち、ジーマ、シグルーンとともにトラム山頂上の神殿へと向かう。

「みんなで行きたいけどこのエレベーター、八人までなんだよなあ」

「そうなんだ。でもこんな夜に行くの?」

「神殿への門は夜しか開かないんです」

 そのせいでダンジョン攻略も夜だったなあ。中は真っ暗じゃなかったからなんとかなったけど。

 

「久しぶりですね、コーイチ」

 夜だというのに明るい神殿で俺たちと迎えてくれたのは巨大な人影が二つ。

 恋愛神マーティスと多体神ミラだ。

「ええと、敵じゃないから安心してね」

「あんなに神々しい方たちを敵などとは思いません」

 ああ、フォズちゃんはすぐにわかったか。女神ミラは現在呪いでその姿がメデューサになってるからちょっと心配しちゃった。事前に説明しといたけどさ。

 

「おや、可愛らしい大神官さんですね」

「ダーマ神に仕えるフォズと申します」

「ふむ。異世界の転職神DAMAですか。私は恋愛神マーティス。よろしく」

 異世界の神の神官でもそんなに気にしないらしい。女の子には優しい神様だもんなあ。

「あたしは恋愛女神ミラ。……このような姿でごめんなさい」

 本当はもっと美しい女神様なんだよ。性格は軽いけど。

 

「ボクはロッテ」

「サリジェです」

「リ、リッカ、です」

 残りの三人も名乗った。リッカちゃんは震えているのかな。大丈夫、怖くないから。

 

「可愛らしい娘さんたちですねえ。コーイチ、しばらく見ないかと思ったらもうお嫁さんの追加ですか?」

「違うから」

「じゃあ、セイルの? リムリアちゃんたち、怒らないかしら?」

「違います!」

 相変わらず、人を、特にセイルをからかうのが好きな神様たちだ。

「俺が行方不明中に世話になった娘たちですよ。あと……日光さん」

「……日光です」

 刀のまま挨拶をする日光さん。自分の願いを歪めて叶えた神という存在には思うところがあるようだ。

 だが、マーティスたちには人間時の姿も見えるらしい。

「ふふ、美しいお嬢さんですね」

 

 

「なるほど。異世界の大魔王によって集められた娘たちですか」

「なんとか元の世界に返してあげる事ができませんか?」

 元大魔王で駄目なら、神様に頼めばいい。他力本願だけど、俺の嫁にしてってのよりはましだと思う。

「うーん、ちょっと無理そうですねえ」

「日光さんも? 彼女はたぶんこの世界に近い世界から浚われたはずなんだけど」

「ごめんね、駄目みたい」

 済まなそうなミラ。巨大な上にマーティスが光り輝いているんで表情はよく見えないけど。

 

「そ、それじゃ、俺と日光さんを元の身体に戻すことは?」

「できないようです。私たちは恋愛神ですからねえ。基本的に男女の心を操ることが仕事ですから」

 そういえばそうだった。マーティスが女性の、ミラが男性の心を担当してたんだっけ。

「それにコーイチの体内のゴッド○イヴは完全に同一化しているようですし」

「……はい?」

「マーティス様、今、ゴッドバ○ヴと仰いました?」

 セイルも慌てている。マーティスの封印を解くためにセイルが授かった神器の名だからだ。……いくらアダルトゲームだからって、伏字が必要な神器ってどうなの?

 マーティスの封印を解いた後は、その神器をセイルはマーティスに返却したはず。

「あれが、俺の体内に?」

「ええ。気づいているでしょ? 貴方のもう一本のムスコさんですよ」

「やっぱりか!!」

 皇一の手紙を読んでもしかしたら、とか、まさか、とか思っていたけれど伏字神器が俺のジュニアになっているとは……。

 大魔王の魔改造だけじゃなくて、神器内蔵とか勘弁してほしい。

 もしかしてこのせいで、タムさんに後継者として選ばれたんだろうか?

 せめて他の神器だったらなあ……。

 

 


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