USOくえ   作:生甘蕉

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恋姫†有双の蛇足二とほぼ同じです。
むこうがプロトタイプです。


1話    魔王子

「幼女を大きくさせない能力がいい!」

「そんな能力でだいじょうぶか?」

「大丈夫だ。問題ない」

 

 

 

 ……随分変な夢を見た気がする。

 相手は誰だったかわからなかったが、どんな能力が欲しいって聞かれたから答えた。

 自分があんな要求をしたことに苦笑する。

 なんでもいいなら、もっと他にもあるじゃん、ねえ。

 不老不死とか魔法とか。

 

 ……可愛い幼女が巨乳のビッチにならない能力ってのは悪くないか。

 うん。

 

 

 ……で、ここどこ?

 俺が眠りについたはずの宿屋じゃない。

 知らない天井というか、知らない部屋。

 起き上がって周囲を確認したら、自分が寝ていたのはベッドじゃなくて作業台のような物。

 それが乗っている床には魔方陣らしき模様がたくさん。

 気味が悪い生物のレリーフだらけの壁。

 

 そして、目の前には、巨大な爺さん。

 作り物じゃなさそうだけど、もちろん人間でもないっぽい。

 言った方がいいのかな?

 ……怖いけど。

「おまえのようなジジイがいるか!!」

 

「おお、目覚めたか、我が息子よ!」

 でかいけど、かすれてる変な声。元気ないのかな?

「?」

 息子? まさか俺のことじゃないよね?

 辺りを見回すが、俺とでか爺さんの他には誰もいない。

 

「お、俺の親父は普通の人間だけど。あんた誰?」

 ビビリながらも立ち上がり、なんとか聞いてみた。

「我が名はタムーア。この世界の主」

「この世界?」

「はざまの世界じゃ」

 どっかで聞いた世界だな。

 

「苦心の末、やっと手に入れた特異点に我が力を注ぎ込んで生まれたのがお前じゃ。我が息子よ」

 特異点? 力を注ぎ込んだ?

「息子よ! お前は我が仇を討つために生まれたのだ」

「生まれたってのか、改造されたみたいなんですが」

 ショッカーの怪人は大首領の息子ですか?

 

「残り少ない力もほとんど全てお前に注ぎ込んだ」

 俺の話、聞いてます?

 ……これってあれか?

 神様転生?

 なんか能力くれるって夢見た気がするし……。

 神様にはまったく見えないけどさ。

 

「我が一族として、奴を倒すのだ!」

「やつ?」

「魔神ダークドレアム」

「だ……ダークドレアム?」

 聞いた覚えがある。

 戦った覚えもある。ただし、ゲームでだけど。

 たしかドラクエ6の隠しボスだったはず。

 破壊と殺戮の化身とか、物騒な名乗りをしていた。

 

「な、なんでそんな魔神と戦わなきゃいけないんだ?」

「戦う、ではない。倒すのだ!」

 そんな無茶言われても。だって6のラスボスをボッコボコに……。

「タムーア? ……まさかデスタムーア、さん?」

 目の前の爺さんの姿はたしかにデスタムーアの第一形態に似ている気がする。ただし、こっちの方が服も身体もボロボロだけど。

 がっくりと大きく肩を落として爺さんが頷く、

「奴に倒された時のわしがあまりにも……大魔王の地位と誇りを失ったわしはデスの称号を捨て、ただのタムーアとなった」

 ああ、たしかにダークドレアム戦じゃラスボスがギャグキャラと化してたっけ。

 オリ主に蹂躙される踏み台転生者みたいだった。

 

 

「なんで俺が? 本当の息子とかいないの?」

「お前を探すために、様々な世界を渡った」

 俺の質問はスルーですか。

「わしは見込みのある者を鍛えるために道場を作った」

「タムさんが道場を?」

「うむ。霊界ともリンクしている小さな世界だ。わしが選んだ者たちは、例え死んでもそこからやり直せる。そう、あの忌まわしき勇者たちのように」

 俺がつけてあげた愛称もスルーですか。……6って主人公、勇者だったっけ?

 たしか勇者になりやすいってだけで、生まれながらの勇者じゃなかったはずだ。

 

「わしには使えぬが、お前は冒険の書を使うことができるはずだ。それを使えば失敗してもやり直すことができよう」

「これか」

 もう何度も見ているウィンドウを呼び出す。

 マジで冒険の書だったとはね。

 だからセーブスロット三つしかなかったのか。

 

「道場主ってのは?」

「その世界に詳しい死者だ。説明もなしでは息子候補も苦労するだろう」

 はい。全然説明してくれなかったから、苦労しました。ずいぶん殴られたし。

 死者だったのか、あの人。……なんか違う気がするけど。

「クリアボーナスってのは?」

「その世界から得られる祝福だ。だが、元とはいえ大魔王であったわしに祝福など望めまい。関係者も同じであろう」

 ……それであんな嫌がらせだったのか。

 

「……なんで俺が選ばれた?」

「わしが選んだ世界は、滅びの世界。やがて消え去る世界。世界の滅びをおさえつける者こそ、奴を倒す力を持っていよう」

 たしかに破滅は回避できたつもりだった。これから嫁さんたちとのハッピーライフって思っていたらこっちに来ちゃったわけだけど。

「元の世界に帰してくれ」

「奴を倒せたら、自分で帰れるぐらいの力は持っているはずだ。我が力を受け継いだのだからそれぐらいはできよう」

 倒すの前提で話を進めるの、止めてくれません?

 ダークドレアムって無茶苦茶強いじゃないか!

 

「俺、すっごく弱いんだけど」

 みんなの足手まといだったしなあ。

「心配するな。わしが残りの力のほとんどを注いだのだ」

 不安になって自分の身体を確認する。

「鏡どこ? ……あまり変わってないようだけど……おおっ!」

 ずっと悩みの種だった双子が一人息子に戻っていた。

「安心するがいい。第二形態で元の数に戻る」

 ぶっ!

「元の数ってなんだ! 第二形態って!」

「わしの息子だ、当然であろう。そして、わしからだけではない! 骨格にはゴールデンスライムから抽出した成分を注入した!」

「どこのクズリ?」

 握り拳に力を入れてみるけど、爪は生えてこなかった。残念。

「やっぱアダマン○ウムじゃないから駄目なのか」

 というか、デスタムーアの息子で、ゴールデンスライムの改造人間?

 斬られても不定形になって大丈夫なバイオなライダーっぽい。

 ……キリキリバッタとかメダパニバッタの改造人間とどっちがよかったんだろう。

 

「さらにとっておきの、対象の老化を防ぐ能力。これで強くても寿命の短いモンスターも長持ちさせることができる」

「い、今なんて……」

「対象の老化を」

「しまったぁ!」

 さっき見た夢はこれだったのか!

 ……俺はなんてミスをしてしまったんだ!

 

「なんじゃ?」

「幼女を大きくさせない、じゃなくて、対象を幼女にする、な能力にすれば良かった! 俺はなんて愚かなんだ!」

 それなら熟女も幼女にすることができる。いや、もしかしたらモンスターも幼女にできたかもしれないのに!

「……って、対象をってことは幼女以外にも使えるの?」

「無論だ。……ふむ。妖女か。さすが我が息子」

 なにに感心してるんだろう。タムさんもロリコンなのかな?

 まあ長生きしてそうな爺さんだから女性はみんなロリ扱いになるのかもしれないけど。

 

「このはざまの世界にも何百年かぶりに人間を堕とした」

「もしかして俺の知り合い?」

 そうだったら嬉しいけど、そうであってほしくない俺がいる。

 堕とした、ってことは多分、このはざまの世界に絶望してやってきたってことだろうから。

「わからん。この城には他にあと二人の人間がいる。できればお前のようにわが子として生まれ変わらせたかったが、わしにはもうそんな力は残っておらん」

 だからボロボロなのかタムさん。

 

「力試しに殺すもよし、道具として使うもよし。好きにするがよい」

「いや、それはちょっと」

 物騒な。やっぱり大魔王ってことか。……元だけど。

「幸い二人ともメスだ。お前の能力も使えよう」

 メスって。って、能力って女性限定なの?

「わしは最後の力でお前が憎きダークドレアムを倒すのをこの目で見るまで生き延びる! わしが死ぬ前に怨敵を打ち倒してくれ……」

 

 眠ってしまったタムさんを手術部屋(?)に残して、俺は二人の女性を探しに行く。

 ……どうやらここは城らしい。家具とかタムさんサイズのもあったりする。

 元とはいえ、大魔王の城なのにモンスターの姿がない。遭遇したら逃げようと思っているのだが。

 途中で巨大な鏡を発見。

 覗いて見て違和感を感じたので、眼鏡を外してもう一度確認。

「嘘だろ……」

 思わず呟きながら自分の頬に触れてみる。当然、鏡の俺も自分の頬を触っていた。

 

 俺は若返っていた。この鏡が本当の姿以外を映し出す魔法の鏡でなければ、だけど。

 十代後半……十八歳は超えているはずだ、きっと。

 俺は三十路だ。それもついこの前まで魔法使いだった。クラスじゃなくて称号的な意味で。

 だとすれば、タムさんの改造手術のせいか。後で確認しないと。

 元の世界に戻れても大変だな、これは。

 せっかく若返れたのに、あんまり嬉しくない。嫁さんたちは俺のことをわかってくれるだろうか?

 

 玉座の間とおぼしき場所に二人はいた。玉座デカすぎ。

 二人を見て、俺はすぐに誰だかわかった。ともにドラクエシリーズのメジャーキャラだったからだ。

「えっと、フォズちゃんとリッカちゃん?」

「はい」

「え、ええ」

 ナイスだタムさん。今ならあんたを親父と呼んでもいい!

 俺の知り合いではなかったが、宿屋の娘とロリ大神官。能力のあるロリ娘。最高だ。

 

「私たちが絶望したから、ここへ堕ちてしまったの?」

 たしか、はざまの世界ってそんな設定だったはず。

「うん。さらに俺は改造されて、その上難題を押し付けられた」

「そんな……」

「元のとこへ返してあげたいけど、タムさんもうそんな力もなさそうだったしなぁ。探せば元の世界へ戻れる旅の扉……って、二人とも違う世界から来たっぽいなあ」

「え?」

 フォズちゃんは7の、リッカちゃんは9の世界だよね?

 

「……いいです。今、元の世界へ戻ってもすぐにまたここへ戻りそうだし」

「……わたしも」

「そんなに深い絶望なのか?」

 二人ともまだ主人公に会ってないのかな。

 なんとかしてあげたいけど、俺の方ももなんとかしてほしい。

 

「ありがとう。ここに一人ぼっちなんて泣きそうだったんだ」

 たぶん三日ぐらい泣き続けたんじゃないだろうか。

「でも、私なんかいたところで役にたてませんよ」

「そんなことはない! 美少女がいればそれだけで俺は嬉しくなれる!」

 これがむさいオッサンが二人だったら地獄でしかないだろう。

「え?」

「それにたぶん、君達はすごい役に立ってくれると思う。フォズちゃん、リッカちゃん、なにか得意なことは?」

 知ってるけどね。

 自分を見直して、少しでも自信を取り戻して欲しい。

 

「わ、私は宿屋を」

「わたしは……転職を」

「うん。すっごい助かるじゃないか! ……一番役立たずはやっぱり俺か。あ、でも改造されたからちょっとは強くなってるのかな」

 呪文とか使えるのだろうか?

 タムさん伝説の武器防具とか用意してくれてないかな?

 ……俺は勇者じゃないから装備できないか。

 

「さて、どうしたものかな?」

 美少女二人と相談する。

「まずは現場の確認、かな? はざまの世界って言ってたけど、どんなとこなのかよく調べないと」

「食べられるもの、あるでしょうか?」

 探索することになった。万が一の場合に備えて、三人でいっしょに。

 モンスターいないといいなあ。

 あ、食料なかったらモンスター食べなきゃいけないのかな?

 

 

「とりあえず水は大丈夫そうか」

 現在地はやはり城だった。魔王城でいいのかな?

 大きな城なので、半日調べてもまだ全部回りきることはできなかったが、タムさんの他は城の内部に住むものはいないようだった。

 ところどころ壊れていて、早めの復旧が必要そうだが厨房はそれなりにしっかりしていた。

 けれど、肝心の食料は見つからず。水だけがなんとか確保できた。

 普通のサイズの調理器具や食器も見つかったが、水だけではどうにもならない。

 一応念のため、水を沸かして飲んだ。火をおこすのに苦労していたらリッカちゃんがメラでつけてくれた。

 たしか魔法使いレベル1だったっけ。魔法が使えるのは羨ましい。

 

 それにしても、この大きな城でタムさんがたった一人で生活してたんだろうか? ……なんか悲しくなってきた。

「大魔王としての立場と誇りを失ったって、嘆いてた。もしかしたら配下のモンスターに見限られてたのかも」

「この大きなお城に一人で……」

 泣けてきたので、水を差し入れに行った。バケツのようなでかいコップで。

 ……台車とかないかな。

 

「あれ……」

 手術室(?)にタムさんの姿はなかった。

「どこ行っちゃったんだろう?」

「ここじゃ!」

「?」

 足元から声がする。

 タムさんの声に似ているけど、もっと小さい。

「どこ? って!」

 目の前の床に小さな小さなモンスターがいた。

 

「これがタムさん?」

 フォズちゃんとリッカちゃんがテーブルの上のタムさんを興味深そうに眺める。

 頭のほとんどを占める大きな一つ目を持ったモンスター、『おおめだま』を小型化したようなその姿はまさしく某親父。サイズもあんな感じである。

 眼球以外の体色は大目玉の青ではなく、薄い水色。

「こめだま、ってところか。なんで目玉なんてアレっぽい姿に」

「ダークドレアムを倒す瞬間をこの目で見届けるためじゃ! 力もほとんど失ってしまったがこの姿ならお前と共にいけよう」

 じゃって口調までアレっぽくせんでも。

「この消費の少ない身体ならあと数百年くらいは持つじゃろ。わしが生きてる内に絶対にダークドレアムを倒すのじゃぞ」

「数百年って……」

「それぐらい鍛えれば勝てるはずじゃ!」

 ……そんなに鍛えなきゃ勝てないんですか?

 そりゃ俺、弱いけどさ。隠しボスなんかに勝てるようになるとは思えないけどさ。

「その前に俺が寿命で死んじゃうでしょ」

「なにを言っておる。わしの力を受け継いだお前がそんな短命なはずなかろう」

 マジですか?

 若返っただけじゃなくて長生きとは……そんなに人間離れしなくてもいいのに。

 俺は、石仮面もなしに人間をやめていた。

 

 

 タムさんの話ではこの城にはやっぱりモンスターはいないらしい。

 無様な負け方をしたタムさんを見限って出て行ってしまったそうだ。中にはタムさんを倒して自分が城の主になろうとしたモンスターもいたらしいが、悉く返り討ちにしたようだ。

「それで、わしの跡を継げる者がおらんと気づき、世界を渡りまくって後継者の準備をしたのじゃ」

「で、その間に城がこんなになっちゃった、と」

「情けないのう……」

 

 小目玉タムさんの案内もあって城の構造をだいたい把握した。

 ただ、この姿になる時に記憶もかなり失っているみたいで、そんなに役には立たなかった。

 次は外の調査、か。

 けど、はざまの世界ってモンスター強いんじゃなかったっけ?

 早くレベル上げて移動呪文のルーラ覚えて、元の世界に帰れるか試したいんだけどなあ。

 ……俺が戻りたい世界ってどっちだろう?

 生まれた世界か、それとも終末が回避できたはずの嫁さんがいる世界か。

 ルーラでどっちにも行けるようになるといいな。

 こっから出るのに天馬がいるとかじゃないことを祈ろう。

 

「ここが武器庫か」

「うむ。……じゃが」

 見つかったましな装備は『はがねのつるぎ』と『てつのたて』。それが、城で見つかった一番いい装備だった。とても元大魔王の城とは思えない。

「他の品は配下がわしの下から去る際に持ち出してしまったんじゃろう」

 なんて迷惑な。

 あと、みつかった鎧は重い上に呪われている『まじんのよろい』しかなかった。

「わしの息子なのじゃから、呪いぐらいは余裕で無効じゃぞ」

 そう言われても呪われたら外せなくなるので、試す気にはならない。

「俺が元から持っていた武具は?」

「そんなものはなかった」

 ……俺が寝ている時にこっちに連れてきたからか。鎧つけて寝てればよかったんだろうか。

 

「おっとそうじゃ、大事なものを忘れておった!」

 タムさんにせかされて、手術室(?)に戻る。正式名称は儀式室らしいが、正直どうでもいい。

「これじゃ」

 小さなタムさんが両腕で抱えているそれは、指輪だった。

「よかった。なくしたかと思っていた」

 俺の大事な大事な結婚指輪。

 だが、受け取って確認してみると、どこか違う?

 色が白っぽくなっている気がするし、形は同じはずなのに雰囲気が違う。

 

「ふくろリングじゃ!」

「髑髏リング?」

「ドクロではない。ふくろじゃ。勇者の使う『ふくろ』を再現した指輪『ふくろリング』じゃ! わしの力を注ぎ込みながらお前の身体で生成したのじゃぞ」

 ふくろ? 俺の身体で生成?

「ふくろって、あのふくろ?」

「うむ。いくらでもアイテムが収納できる魔法の袋。わしはそれを再現するために、倉庫用の異世界を創り、指輪と繋げたのじゃ!」

 胸をはるタムさん。

 頭、というか目玉の方が大きいので、バランスが崩れてこけてしまった。つまんで起こしてあげる。

 

「と、とにかくそれを使えば『ふくろ』と同じ様にアイテムをいくらでも収納できるのじゃ」

 むう。アイテムボックスとかインベントリとか王の財宝とかいうやつか。

 最後のはちょっと違うかもしれないけど、たしかに無限倉庫ってのは異世界チートの基本だよなあ。

 それが、この指輪に?

「大事な結婚指輪なんだけどな」

 見た目がちょっと変わったぐらいでそれが手に入るんだったらいいかもしれないけど。

 前の世界では所持できるアイテム数が少なくて苦労したし。

 

「その指輪はゴールデンスライム成分で金色に輝いてはおるが、お前の骨でできておる。それならば、第二形態以降で姿が変わってもつけたままで壊れることはないのじゃ」

「なるほど。まあ、第二形態ってのにはなることはないけどね。負けフラグっぽいし」

 俺の身体の一部扱いってことか。……俺の骨って今こんな色なのか。

「でもなんで指輪に?」

「最初は胃袋を材料に『ふくろ』を作ろうとしたんじゃが、お前さんが死にそうになったので急遽変更したのじゃ。そのせいで、指輪の大きさが精一杯じゃった」

 ……よかった。自分の胃袋が材料の袋を使う羽目にならなくて。

 

「試してみるがよい」

「う、うん」

 ごくり、と思わず喉が鳴ってしまう。

 本当にこんな指輪で無限倉庫が?

 

「『ふくろ』をイメージすれば倉庫を使えるはずじゃ」

 タムさんの言う通りに、いつものメニューウィンドウを呼び出す要領で倉庫を呼び出す。

「できた……」

 目の前にはふくろと表示されたウィンドウが。

 試しに鋼鉄の剣をしまって見る。

「おお!」

 鋼鉄の剣を持った俺の右手が、消えた。手首から先当たりを別の空間に突っ込んでいる感じだ。

 鋼鉄の剣を放すと、ふくろウィンドウに『はがねのけん』が表示された。

 一回手をふくろ空間から出す。握ったり開いたり、裏返したりしてみたが異常はない。

 

「出してみる」

 出そうと思いながら、右手を動かすと上手くふくろ空間に繋がったみたいで、手首から先が消えた。鋼鉄の剣らしき物を掴んで手を引き抜くと、ちゃんと取り出せた。

「凄い!」

 本当に凄い。これがあるだけで、これから先がかなり楽になる気がしてきた。

 ……収納すべきアイテムが全然ない現状でもさ。

 

 ふくろリングを色々試していたら、夜になってしまった。

 今から城の外の探索は危険だろう。明日にしよう。

 お湯しか口にしてなくて空腹だけど、食事は諦めて今日はもう寝ることにする。

 

 

「落ちたら危険かも」

 タムさんの案内で寝室に向かったがベッドは一つだけ。

 巨大なまさしくキングなサイズのベッド。旧タムさんってガタイでかかったもんなぁ。

 枕もあったが大きすぎて首が痛くなりそうだ。

 

「せめてシーツぐらい換えようか」

 三人がかりでシーツと布団カバーを交換。

 かなりの重労働だった。

 

 その日は安全優先ということで寝室で三人で寝た。

 とはいっても、俺は二人から離れてだけど。

 タムさんは俺のそばにいた。やっぱり寂しかったのだろうか?

 

 

 翌朝、日課の朝一セーブのついでにステータスを確認する。

 昨日はふくろリングに夢中になって忘れていた。

「やっぱり、むこうと表記が違うのか」

 見慣れたはずのステータスウィンドウの表示が変わっていた。あくまで、ドラクエ準拠ということらしい。

「名前までもか」

 俺の名前は、カタカナ表示になっていた。

「魔王子……」

 それが、今の俺の肩書き。

 うわあ、すごい厨二っぽい。なんて恥ずかしい肩書きなんだ。

 元大魔王の息子扱いなのに、魔王子。

 中身おっさんなのに、魔王子。

 誰かに見られるわけじゃないんだろうけど……書き換える手段ないかな?

 

「レベルも1になってるし……」

 経験値もなくなっている。これも改造手術の影響か。

 

「なにこれ?」

 能力値に目をやると『ちから』も『すばやさ』も一桁。『かしこさ』がようやく二桁なのに、『みのまもり』が三桁。

 ゴールデンスライムの改造人間は伊達じゃないってことか。

 そして、『かっこよさ』が500だった。

「そこがカンストって……タムさん、いったいどんな魔改造したんだよ……」

 

 




 スーファミ版だと城の名前が「ムーアの城」なのでデス抜きの名前はムーアかもしれませんが、タムーアの方が微妙な名前な気がするのでこっちで。
 ステータスは今のところドラクエ6準拠です。眼鏡は外したままです。

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