魔法少女まどか?ナノカ   作:唐揚ちきん

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番外編 一方その頃 黄色と赤の魔法少女

~マミ視点~

 

寂れた廃ビル。

人気のないこの場所で赤い髪をした女の子が壁に寄りかかり、私の方を見てにやりと笑った。

 

「よう。本当に逃げずに一人で来たんだな」

 

私、巴マミに声をかけたのは私の元から去った魔法少女、佐倉杏子さんだった。

 

「学校で会った時はびっくりしたわ、佐倉さん。またこの町に戻ってきたのね」

 

彼女と私は昔、と言ってもそれほど前ではないけれど、魔法少女の師弟のような間柄だった。その頃は姉妹のように仲が良かったと思っていた、……少なくても私の方は。

 

「今は魅月杏子って名乗ってんだ。覚えといてくれよ、『マミ』」

 

「随分と出世したのね、『佐倉』さん。昔は私の事をさん付けで呼んでくれたのに」

 

売り言葉に買い言葉。呼び捨てにされたせいでちょっと意地悪な事を言ってしまった。

ぴりぴりと剣呑(けんのん)な雰囲気が周りに漂う。

 

「……お高くとまってんじゃねーよ。子分が二人もできたから調子に乗ってんのか!」

 

佐倉さん改め、魅月さんは今にも飛び掛ってきそうな目付きで私を睨みつけた。

 

「二人?ひょっとして暁美さんと美樹さんの事?もしそうなら訂正してもらえないかしら。彼女たちは私の友達よ」

 

私の大事な友達を子分なんて呼び方で呼んでほしくない。まして、私を裏切った魅月さんなんかにはそんな事を言われる筋合いはない。

私も負けじと魅月さんを睨み返す。

 

一触即発の空気。

それを最初に破ったのは意外にも魅月さんの方だった。

 

「……やめよう。今日はアンタと喧嘩するために呼んだわけじゃないし」

 

「じゃあ、私と仲直りでもしに来てくれたの?」

 

それだったら嬉しい。結局、喧嘩別れみたいになってしまったけれど、私は魅月さんの事を嫌っているわけじゃない。むしろ、本当の妹のように思っていたくらいだ。

 

けれど、魅月さんの口から出た言葉は和解の言葉とは程遠かった。

 

「マミ。この狩場をアタシに譲れ」

 

……がっかりした。

期待していた分だけ、裏切られた。

もうどう転んでも楽しいお喋りにはなりそうにないけれど、一応魅月さんに問い返す。

 

「……もし仮にあなたに見滝原を譲ったら、使い魔もちゃんと倒してくれるの?」

 

「グリーフシードに余裕があれば……使い魔も倒してやるよ」

 

途中、魅月さんは葛藤(かっとう)するように黙り込んだがそう答えてくれた。

その答えは、魅月さんからしたら妥協した結果なのかもしれない。でも、到底私が納得できるものではなかった。

 

『グリーフシードに余裕があれば使い魔も倒す』ということは、つまり裏を返せば『グリーフシードに余裕がなければ絶対に倒さない』ということだ。

魅月さんにここを譲れば、確実に使い魔に襲われて命を落とす人が増える。そんな事は絶対に許されない。

 

「話にならないわね。昔より丸くなったかと思えば、あなたは少しも変わっていないわ」

 

「そう言うアンタも、相変わらず頭のお堅い正義馬鹿のままだな」

 

吐き捨てるように魅月さんはそう言うと、指輪をソウルジェムに変えて自分の前に(かか)げた。

彼女の濁り一つない赤いソウルジェムが薄暗いビルの中で煌々(こうこう)と輝く。

 

「ソウルジェムを出しなよ、マミ。やっぱりアタシたちは『コレ』で白黒決着つけなきゃダメみたいだね」

 

「そのようね」

 

私も彼女と同じように指輪をソウルジェムへと変化させる。魅月さんと違い多少濁りが目立つ。

ここ最近、使い魔ばかりと戦っていたせいでグリーフシードが一つも手に入らなかったからだ。この状況では私の方が魔力をフルに使えない分、不利だ。

それでも、関係ない。

私は魔法少女。魔女や使い魔から人の命を救う事が使命なのだから。

 

 

 

 

~杏子視点~

 

結局戦う事になっちまったか……。

アタシは内心頭を抱えていた。

そもそもマミを呼び出したのは、マミに魔法少女なんて危ない事から手を引いてもらいたかったからだ。

 

昔と違って今のマミには心を許せる友達がいる。『魔女退治』なんかにすべてを捧げる必要なんてない。

マミはアタシよりもずっと『魔女退治』を恐れていた。それでも戦っていたのはマミにそれしか生き方がなかったからだ。

 

そして、そんなマミの元から去ったアタシが今更そんな事を言う権利はない事も知ってる。

アタシ自身もショウと出会うまで、そんな風に誰かの事を気遣うなんてしなかったと思う。でも、アタシはショウのおかげで一度は諦めた幸せを手に入れられた。

 

魔法は徹頭徹尾、昔自分のために使うなんて言ってた手前、『マミのため』なんて台詞は吐けない。だから、あんな喧嘩腰の言い方になっちまった。

 

はあ。自分で言うのも何だけど、アタシってホント素直じゃない。ショウが近くにいれば、どうしたらいいか一緒に考えてくれるのに。

馬鹿だと思うけれど、自分の性格はそんなに簡単には変えられない。

 

アタシはマミのソウルジェムを見る。ほら見ろ、やっぱり『(けが)れ』が目立ってる。

そんなんじゃ、いざという時に魔力が全然使えずに、魔女にやられちまう。

 

「どうしたんだ?ソウルジェムに『(けが)れ』が溜まってるみたいだけどそんなんでアタシと戦えるのか?」

 

「関係ないわ。むしろハンデとしてちょうどいいくらいよ」

 

心配して言ったアタシの言葉に言葉にマミは一切耳を貸さない。

ああ、そうかよ。だったら、力ずくで認めさるだけだ。

 

アタシとマミの身体がほとんど同時にソウルジェムの光に包まれる。

向こうは黄色。こっちは赤。

光が霧散した時にはマミもアタシも魔法少女の姿に変わっていた。

 

「来なさい」

 

マミが挑発するように両手に二丁のマスケット銃を出して言う。

 

「上等だ!」

 

アタシも槍を出してマミへと走る。

向かってくる弾丸を床にキスするぐらい腰を(かが)めてかわした。魔力が足りてないせいか、弾丸のスピードは鈍く、思ったほど避けるのには苦労しなかった。

 

「ちぃッ!」

 

マミは弾の切れたマスケット銃をアタシに向かって投げつけてきた。

 

「はッ、甘いよ!」

 

マスケット銃を槍で(はじ)いて、後方へと飛ばす。

だが、その一瞬の隙にマミはベレー帽から新しいマスケット銃を取り出していた。流石はマミ。伊達に長年魔法少女をやってるわけじゃないな。

 

だけど。

 

「せりゃあ!!」

 

この距離なら、アタシの槍の方が速い。

いくら、マミでも銃を構えて撃つよりも、アタシが振り下ろした槍がマミを吹き飛ばす方が絶対に速いはずだ。

 

しかし、マミはアタシのそんな想像を軽々と越えた。

(はさみ)のように交差させた二丁のマスケット銃でアタシの槍を受けると、左へ受け流した。

全力を込めて振り下ろした分、勢いがついて横によろけそうになる。

 

マズい。ここで床に倒れたら負ける。

何とか持ちこたえようと、両足で踏ん張る。

 

「がぁ……!」

 

意識が足に向いた(わず)かな間に、マミの蹴りがアタシの脇腹に決まった。

予想すらしていなかったその一撃に受身なんて取れるはずもない。アタシは五メートルほど床を転がった。

 

「銃だけに気を取られていたあなたの負けね」

 

起き上がると顔のすぐ前にマスケット銃の銃口が見えた。

マミは勝利を確信した表情でアタシを見下ろしている。

 

正直に言って、アタシは油断をしていた。

いくらマミとは言え、まさか魔法もそう使えないほどソウルジェムが濁っている相手に負けるとは思ってもみなかった。

 

だけど、一つ。

一つだけ、マミは失態を犯した。

 

「……なあ、マミ。アンタ、昔アタシに教えてくれたよね」

 

銃口を突きつけられたまま、アタシはマミに話しかける。

素直なマミは、相変わらず馬鹿正直にアタシに問い返してくれた。

 

「昔教えた事?」

 

「勝利を確信した時こそ、油断してはいけないってね!!」

 

アタシは寝転がったままの体勢で槍を操り、多関節武器に変え、マスケット銃を突きつけるマミの首に巻きつかせる。

蛇のように巻きつく多関節の槍に首を絞められ、マミは注意はアタシから()れる。

その隙にアタシはマミを蹴り倒して起き上がり、体勢を立て直す。

 

だが、流石はマミだ。

体勢を起こした瞬間、マミはとっさにマスケット銃でアタシが握っている槍の柄を撃った。

 

「ッ!」

 

腕に直撃はしなかったものの衝撃で槍を手放してしまった。

結果として、マミは首に巻きつく槍から解放された。

だが、マミもマスケット銃を撃ってしまったために、武器はない。

 

マミのソウルジェムの濁りから言って、おいそれと魔法は使えないはずだ。

アタシはもちろんグリーフシードのストックがあるから、魔法は好きなだけ使える。

けど、アタシは何もマミを殺したいわけじゃない。ここは一旦引いておこう。

そう決断すると、首が絞まっていたせいで咳き込んでいるマミを尻目に窓から、廃ビルの外へと逃げた。

 

 




戦闘描写は苦手です。

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