魔法少女まどか?ナノカ   作:唐揚ちきん

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第二十三話 楽しいクラスメイト

「おはよ!まどか、仁美、政夫!……それと転校生」

 

「何か空耳が聞こえるけど、無視して学校行こうか、みんな」

 

平日の朝、いつもの待ち合わせの場所で僕は鹿目さん、志筑さん、暁美の三人に笑顔でそう言った。

 

(みんな)の返事も聞かずに、『誰もいない場所』と僕とを見比べて困った顔をしている鹿目さんと志筑さんの手を引いて歩き出す。暁美も僕らに続いて足を動かす。

 

「ちょ、ちょっと政夫!無視しないで」

 

「まーた空耳が聞こえるよ。困ったな~。耳鼻科に行かないといけないかもしれないね」

 

鹿目さん達に話しかける。

『空耳』なんかに絶対に耳を貸してやらない。

僕が手を引いている二人はまた『誰もいない場所』をちらちら振り返りながら、何かを言いたそうな表情を浮かべているが気にしない。

一体どうしたというのだろう?暁美のように平然といつも通り歩けばいいのに。

 

「……ひょっとして怒ってる?政夫、めちゃくちゃ怒ってるよね?」

 

いい加減うざったい。

だけど、『空耳』なのだから仕方がないね。まったく困ったものだよ。

 

「ごめん!本当にあの事は悪いと思ってるよ。……政夫がやった事を無駄にしちゃったようなもんだしね」

 

道を(はば)むように、僕らの行く手に『何か』が現れて、頭を思い切り下げた。

しかし、僕らは『何か』を避けるように迂回(うかい)して歩き出す。

 

「お願いしますッ!無視しないでぇ!!」

 

がしっと腰に『何か』が組み付いてきた。

それでも、僕は平然と前だけに視線を向けて進む。

ああ、ただでさえ、筋肉痛で身体のあちこちが痛いのに!

 

ちッ。仕方ない。

何が何でも無視し続けるつもりだったが、予定変更だ。

 

「……おい」

 

「政夫!許してくれたのぉ?ありが・・・」

 

「邪魔だ、青。退()け」

 

冷めた目で、僕の腰に手を回している青い奴を見下す。

本当はもう視界にも入れたくはなかったが、これじゃ前に進めないので我慢しよう。

 

「そんなぁ……」

 

「去れ。もうここにお前の居場所はない」

 

青い奴は涙目になるが、そんなことは知らない。

人の好意を無碍(むげ)にする奴など、どうなろうと構わない。

 

「ま、政夫君。もうさやかちゃんを許してあげてよ……」

 

「そうですわ。何があったのか知りませんけど、これはあんまりです」

 

優しい鹿目さんと志筑さんは、愚かにもこの俗物を許せという。

だが、駄目だ。それはできない相談だ。

この青い奴は、どうしようもない奴なのだ。許せば、また同じようなことを仕出(しで)かすだろう。

 

しかも、こいつが魔法少女になったせいで、鹿目さんが支那モンに()け込まれるチャンスを与えてしまったことになる。

厄病神って、青髪なんだな。初めて知ったよ。

 

「政夫ぉ~、許してぇ~」

 

「美樹さやか。いつまで政夫にくっ付いているつもりなの?いい加減、離れなさい!」

 

僕にしがみ付いている青い奴を、なぜか暁美が引き離そうとしている。

まあ、何でもいいか。

暁美頑張れ!そいつ、魔法少女になったせいで筋力が上がったらしく、僕の力じゃ引き離せないんだ。

 

 

 

 

 

最終的に僕は青い奴に敗北した。

暁美の力でも引き離せなかったので、仕方なく『形だけ』許すことにした。

こんな馬鹿なことをして、遅刻などしたくはない。

 

教室に入ると中沢君を除くクラスの男子達が僕に詰め寄ってきた。

その内の一人、(ほし)凛太郎(りんたろう)君が一歩前に出てきた。

 

「夕田~。お前は毎回毎回、かわいい女の子(はべ)らしやがってぇ……。モテ男気取りか、今畜生!特に暁美さんと仲良くしやがって許さねー!!」

 

「星君、どうしたの?急にそんなこと言い出したりして」

 

「星じゃねー!スターリンと呼べ!!このタラシニコフが!!」

 

ス、スターリン?

ああ、なるほど。星凛太郎だから、スターリンか。でも、それってあんまり名誉な名前ではないんじゃないか?

そして、タラシニコフって何だよ……。

 

星君、改めスターリン君は胸を張って宣言し出した。

 

「ここに集まった男子はすべて暁美さんに好意を抱いている者達、すなわち『ほむほむファンクラブ』の者達だ!」

 

「ほ、ほむほむファンクラブ?」

 

それは暁美本人にちゃんと許可を取っては……いないな。確実に。

 

「俺達はほむほむが大好きだ!あの(さげす)んだ目で見下されるのが好きだ!冷たくあしらわれるのが好きだ!あのストッキングで包まれた足で踏まれたいと妄想するのが大好きだ!!」

 

『オウ!オウ!オウ!』

 

周りの男子達はスターリン君のトチ狂った言葉に賛同するように呼応する。

どうやら、このクラスにはまともな思考をもった男子はごく(わず)かしか存在していないらしい。

 

「で……結局のところ、僕に何が言いたいの?」

 

「むむむ。今ので伝わらなかったのか?」

 

君らの頭がおかしいことは嫌というほど伝わったよ。

 

「ほむほむと限度をもって接しろ!()()れしくするな!もしよかったら、俺にほむほむとの交流の場を提供してください!!」

 

最後のは、僕へのお願いになっていた。

 

「スターリン、貴様抜け駆けする気か!」

「ほむほむファンクラブの鉄の(おきて)を忘れたのか!」

謀反(むほん)じゃー!皆の者ー、スターリンが謀反を(たくら)みおったぞー!」

「殺せぇ!奴を血祭りにしろ!裏切り者を粛清(しゅくせい)するんだ!」

 

スターリン君はクラスの男子達に捕縛されると、どこかに連行されて行く。

ずるずると引きずられながら、こちらを向くその顔は何とも情けなかった。

 

クラスの女子たちは、それを完全に無視して化粧品や洋服のことを楽しそうに話していた。

いいなぁ、そのスキル。僕も欲しい。

 

「は、放せー!俺は想いのままを言葉にしただけだー!俺は無罪だー!!弁護士を呼べぇ!法廷で!法廷で話し合おう、な!」

 

教室がガラス張りなので、廊下に出た後も彼の醜態(しゅうたい)が丸見えだった。

廊下にいた人たちは、驚いたようすでその光景を見送っている。

アホばっかだな。転校して来た日は、皆普通の連中だったのに……。

 

「夕田君」

 

「あ、中沢君……」

 

僕の肩をこのクラス唯一のまとも男子である中沢君が軽く(たた)いた。

 

「楽に考えるんだ。『どっちでもいいや』ってね」

 

「そうだね。そうするよ」

 

僕は世界の真理の一つに触れた気がした。

 




政夫は結構根に持つ男です。
男キャラが寂しかったので、灰汁の強いクラスメイトを書いてみました。

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